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「小脳出血」の症状・原因・なりやすい人の特徴はご存知ですか?医師が徹底解説!

 公開日:2025/11/06
「小脳出血」の症状・原因・なりやすい人の特徴はご存知ですか?医師が徹底解説!

小脳出血とは?Medical DOC監修医が小脳出血の症状・原因・なりやすい人の特徴・治療法・リハビリなども解説します。

村上 友太

監修医師
村上 友太(東京予防クリニック)

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医師、医学博士。
2011年福島県立医科大学医学部卒業。2013年福島県立医科大学脳神経外科学入局。星総合病院脳卒中センター長、福島県立医科大学脳神経外科学講座助教、青森新都市病院脳神経外科医長を歴任。2022年より東京予防クリニック院長として内科疾患や脳神経疾患、予防医療を中心に診療している。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、抗加齢医学専門医、健康経営エキスパートアドバイザー。

「小脳出血」とは?

小脳出血とは、脳の後ろ側の下の方にある「小脳(しょうのう)」という部分で出血が起こる病気です。脳全体の出血(脳出血)のうち、およそ1割を占めます。小脳は、私たちがバランスをとったり、動きをなめらかに調整したりする大切な役割を持っています。そのため、ここに出血が起こると、激しいめまいや吐き気、ふらつきなど、特徴的な症状が現れます。
最も多い原因は、高血圧によって細い血管が破れてしまうことです。その他にも、脳腫瘍や脳動静脈奇形(血管の異常)、血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬)を飲んでいることによる出血しやすい状態、頭をぶつけるなどの外傷なども原因となります。
出血した血液の塊(血腫)が大きくなると、小脳が、生命維持に重要な「脳幹」や脳の部屋(第四脳室)を強く圧迫することがあります。こうなると、意識障害(意識がなくなること)や呼吸の乱れといった命にかかわる危険な状態を引き起こします。突然の激しいめまいや吐き気・嘔吐があった場合は、すぐに救急車を呼ぶことが、命を守る鍵となります。

小脳出血の代表的な症状

小脳出血は、一刻を争う病気です。以下に小脳出血の代表的な症状を紹介します。これらの症状が突然起きた場合は、脳神経外科または脳卒中の専門治療ができる救急病院(脳卒中センター)をすぐに受診してください。
病院を受診する際には、どのような症状がいつから出たかと、持病(高血圧など)や飲んでいる薬(血液をサラサラにする薬など)を伝えると、早期の治療につながります。救急外来では、CT検査などで出血の有無や大きさをすぐに確認し、重い症状がある場合は迅速に手術が必要となります。

めまい・ふらつき・歩行障害

小脳は体のバランス感覚や運動の協調(連携)の役割があるため、出血すると、突然の激しい回転性のめまいや、まっすぐ歩けない(ふらつき)、酔っぱらったような歩き方が現れます。また、片側の手足がうまく連携して動かせなくなり、字を書いたり、服のボタンを留めたりするような細かい動作が難しくなります。
めまいが強い時は、無理に歩かず安静にし、頭を少し高くして横になりましょう。吐いてしまうときは、吐いたものが喉に詰まる(窒息)のを防ぐため、必ず横向きに寝かせます。家庭で治せる病気ではありませんので、すぐに救急車を呼んでください。

悪心・嘔吐・頭痛

小脳出血では、出血によって脳の中の圧力(脳圧)が高まるため、激しい吐き気や繰り返す嘔吐が多く見られます。また、後頭部に強い頭痛を訴える人も多いです。出血が進むと、意識がぼんやりしたり、強い眠気が襲ってきたりします。
吐き気があるときは、無理に食べ物を摂ったり、水分補給を控えたりします。市販の頭痛薬は効果がなく、脳圧を下げる処置は病院で行う必要があります。激しい嘔吐や意識障害がある場合は、迷わず救急車を呼んでください。

呂律が回らない(構音障害)・眼球の動きの異常など

出血により、舌や口の周りの筋肉をうまく動かせなくなり、ろれつが回らなくなる(構音障害)ことがあります。また、眼の動きを調整する神経にも影響が出ると、眼が細かく揺れる(眼振)や、物が二重に見える、焦点が合わないといった症状が出ることがあります。重症化すると、意識が低下し、呼吸が乱れる場合もあります。
言葉が出にくい場合は、筆談や指差しでコミュニケーションを取り、食べ物や飲み物が誤って気管に入る(誤嚥)のを防ぐため、無理に飲食させないようにします。呼吸が乱れている場合は、救急車を呼び、胸部を締め付けない楽な姿勢にしてあげましょう。

小脳出血を発症する原因

高血圧と動脈硬化

長期間にわたる高血圧によって、脳の中の細い動脈(細動脈)の壁が硬く、もろくなる(動脈硬化)ことが、小脳出血の最大の原因です。血圧が高い状態が続くと、小脳に栄養を送る特に細い血管が傷つき、破れやすくなります。
日本の研究では、血圧が140/90mmHg以上の人は、正常な血圧の人に比べて、脳出血を起こす危険が約2倍高いと報告されています。高血圧による出血は突然起こり、激しいめまい・嘔吐・意識の低下が短時間で進むことが特徴です。

脳血管奇形(脳の血管の異常)・腫瘍・外傷

比較的若い人の小脳出血では、脳動静脈奇形や海綿状血管腫といった脳の血管の生まれつきの異常が原因となることがあります。また、小脳にできた腫瘍が、一部壊れたり出血したりすることもあります。交通事故や転倒などによる頭部の外傷で、小脳に出血が生じることもあります。
血管の異常による出血は、比較的若い年代で発症し、頭痛や意識障害が繰り返し起こる場合があります。外傷性の出血では、けがの直後に意識障害やバランス感覚の低下が見られます。

血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)や血液の病気

血液を固まりにくくする薬(ワルファリンやDOACと呼ばれる直接経口抗凝固薬、抗血小板薬など)を服用していると、出血しやすい状態になり、出血のリスクが高まります。研究でも、薬が原因で血液が固まりにくくなっている状態が、小脳出血の治療後の経過を悪くする要因(予後不良因子)と報告されています。また、血小板が少ない病気や血友病などの血液の病気でも、出血が起こりやすくなります。
これらの薬を服用している人が、軽く頭をぶつけた後にふらつきや頭痛、嘔吐などがあれば、すぐに病院で出血を疑って検査をします。血液の病気がある方は特に注意が必要です。

小脳出血を発症しやすい人の特徴

中高年以上の男性、肥満で血圧高めの人

日本の大規模な研究では、小脳を含む脳の深い部分の出血は、女性よりも男性でリスクが高いと報告されています(男性は女性の約1.85倍)。発症年齢は50〜70代が多く、高齢になるほどリスクが高まります。ただし、アミロイドという物質が血管にたまることによる出血は、高齢者に多く、男女差は少ないとされています。
肥満そのものは、小脳出血に直接的な関係はないかもしれませんが、肥満は高血圧や糖尿病などを引き起こし、結果的に脳出血のリスクを高めます。BMIが25以上の肥満傾向で、血圧が高い人は特に注意が必要です。

継続的に大量の飲酒をする人

継続的に大量の飲酒をする習慣は、脳出血を含む脳の深い部分の出血と強く関連しています。血圧をしっかり管理することが予防の基本です。
週に150〜300g以上のエタノール(アルコール)を摂取している人(日本酒に換算して1日に2〜3合を毎日飲む程度)は、小脳出血のリスクが約3倍に高まると報告されています。お酒は血圧を上げるだけでなく、血液を固める血小板の働きも弱めてしまうため、適量(週に100g程度以下)に抑えましょう。
喫煙や糖尿病は、小脳出血との明確な関係は示されていませんが、動脈硬化の進行を防ぐためにも、禁煙や血糖値の管理は大切です。血液をサラサラにする薬を飲んでいる方は、定期的な血液検査を受け、出血の症状に特に注意してください。

小脳出血の治療法

救急対応と内科的治療

救急外来では、頭部CTやMRIで、出血がどこにあり、どのくらいの大きさかを素早く確認します。血圧が非常に高い場合は、血圧を下げる薬を点滴で使い、必要に応じて脳の腫れ(脳浮腫)を抑える薬も使用します。血液をサラサラにする薬を飲んでいた患者さんには、薬の効き目を弱める処置(拮抗薬や凝固因子製剤による逆転療法)をすぐに行います。
出血が軽度で小さい場合は、集中治療室などで血圧の管理と神経症状(めまいやふらつきなど)の観察を厳重に行います。症状が安定すれば、約1〜2週間で一般病棟に移り、約3〜4週間で退院できることもあります。
退院後も、高血圧の治療や再発を防ぐため、定期的な通院が必要です。血液をサラサラにする薬の服用を再開するかどうかは、必ず医師の指示に従ってください。

外科的治療(手術)

出血の塊(血腫)が大きい場合は、手術で血腫を取り除き、脳幹の圧迫や水頭症(すいとうしょう:脳の中に水がたまる状態)を改善させます。日本の脳卒中治療のガイドラインでは、血腫の大きさが最も長い部分で3cm以上で、神経の症状が悪化している場合や、脳幹の圧迫・水頭症を伴う場合に、開頭手術が勧められています。近年は、内視鏡を使った体への負担が少ない手術も選択肢の一つとなっています。
手術を行った場合は、数日間は集中治療室での管理が必要で、その後一般病棟に移り、約3〜4週間ほどリハビリテーションを行います。水頭症を合併している場合は、脳室ドレナージ(水を外に出す処置)やシャント手術(水の流れ道を作る手術)を追加することもあります。
退院後も、手術した傷口の経過観察や再出血を防ぐために、定期的に通院し、CT検査や血圧の管理を行います。

術後管理と予後改善

手術後は、引き続き血圧の管理と脳の腫れへの対応を続け、尿量や血液検査で体の中の水分バランスを評価します。再び出血したり、感染症を起こしたり、水を外に出す管(ドレナージ)が詰まったりするといった合併症に注意します。神経の症状が落ち着いたら、できるだけ早くリハビリを始めます。
術後の経過が順調であれば、1〜2か月で退院し、その後はリハビリの通院や自宅でのリハビリが続きます。再び出血しないための生活習慣の改善も非常に重要です。

小脳出血のリハビリ方法

急性期から回復期のリハビリ

リハビリテーションは、脳神経外科やリハビリ科で、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がチームを組んで行います。
急性期(発症直後)は、ベッド上での寝返りや体位変換、関節を動かす運動から始め、徐々に座る練習や立ち上がる練習へと進みます。回復期(症状が安定した後)には、バランスボードや歩行器を使った歩行訓練、筋力や体力の向上のための運動を行います。
血腫の大きさや、生命維持に重要な脳幹の損傷の有無によって回復には個人差がありますが、数か月〜1年以上リハビリを続けることが多いです。早期に開始し、継続するほど、歩行や日常生活動作の回復が期待できます。
リハビリの初期はめまいやふらつきが強いため、転んでしまうのを防ぐためにスタッフが必ず側につきます。疲れやすいので無理をせず、体調に合わせて休憩を取りながら行います。
ご家族は、患者さんの気持ちを支え、焦らずリハビリに取り組めるよう励ますことが大切です。食事や入浴などの日常生活を安全に行えるよう、手すりの設置や段差の解消など、自宅の環境を整える支援もしましょう。

言語療法・作業療法

ろれつが回らない(構音障害)や食べ物・飲み込みがうまくいかない(嚥下障害)がある場合は、言語聴覚士による訓練を行い、発声練習や口の周りの筋肉のトレーニング、飲み込みの練習などを実施します。
手足の動きの連携がうまくいかない(協調運動障害)には、作業療法士が指導し、手芸やゲームなどを通じた細かい手の動作の訓練、日常生活で必要な動作の練習を行います。
発音や飲み込みの改善には数か月〜1年程度かかることが多く、退院後も外来や訪問リハビリで継続します。
食事中は、誤嚥を防ぐため、ゆっくりと食べ、姿勢や食べ物の形(刻み食など)に注意します。ご家族も飲み込みの指導を受けて見守りを行い、会話の機会を増やすなど、コミュニケーションをサポートしましょう。

在宅リハビリと社会復帰

退院後は、訪問リハビリやデイケア(通所リハビリ)でリハビリを継続します。自宅では、段差の昇り降りや椅子からの立ち上がり、庭や公園での歩行練習などを行い、体力とバランス感覚を維持します。
家庭でのリハビリは退院後も長期間にわたり、体調や生活環境に合わせて段階的に負荷を上げていきます。
自宅は病院より安全対策が少ないため、床の滑り止めや手すりの設置など、転倒予防策を徹底しましょう。仕事への復帰や運転の再開は、医師と相談し、必要に応じて職場環境の調整を行います。
励ましや適切な手助け、通院の付き添いは、患者さんのリハビリへの意欲を高めます。リハビリの進み具合を共有し、達成したことを一緒に喜ぶことで、長期的な取り組みを支えましょう。

「小脳出血」についてよくある質問

ここまで小脳出血を紹介しました。ここでは「小脳出血」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

小脳出血の生存率について教えてください。

村上 友太(むらかみ ゆうた)医師村上 友太(むらかみ ゆうた)医師

小脳出血は、脳出血の中でも命にかかわる危険性が高い(致死率が高い)病気です。研究によって差はありますが、全体の死亡率はおよそ25〜57%と報告されています。出血の塊が大きい場合や、水頭症を伴う場合は、残念ながら予後(病気の経過・回復の見込み)が悪化します。
しかし、早期に発見し、手術で出血の塊を取り除くことができれば、救命率は上がり、後遺症も軽減される可能性があります。そのため、症状が出たら一刻も早く治療を始めることが非常に重要です。

小脳出血を発症すると歩けなくなるのでしょうか?

村上 友太(むらかみ ゆうた)医師村上 友太(むらかみ ゆうた)医師

小脳は体のバランスと運動の調整を担っているため、出血後はめまいや歩行障害が強く、一時的に自力で歩くことが難しくなることが多いです。
しかし、理学療法や作業療法でバランス訓練や筋力強化を続けることで、多くの患者さんが数か月~1年で歩行能力を取り戻しています。出血の塊が非常に大きく、脳幹にまで損傷が及んだ場合や合併症がある場合には、歩行障害が長期に残ることもあります。それでも、早期から継続的なリハビリを行うことで、生活の質(QOL)を向上させることは可能です。

編集部まとめ

小脳出血は突然発症し、激しいめまいや吐き気・嘔吐、歩行障害などの症状が現れる重篤な脳卒中です。最も多い原因は高血圧であり、適切な血圧の管理と、お酒の飲み過ぎに注意する(節酒)・禁煙、適切な体重の維持が予防に重要です。
出血が疑われる症状があれば、すぐに救急車を呼び、脳神経外科のある病院でCT検査を受けましょう。出血の塊が3cm以上ある、または水頭症を伴う場合は手術が推奨されます。早期に治療を始めることで、死亡率を下げ、後遺症を軽減できる可能性があります。
退院後は、理学療法、作業療法、言語療法を継続し、ご家族が支えることで、歩行や日常生活動作の回復が期待できます。生活習慣の改善と継続的なリハビリが、再発予防と社会復帰の鍵となります。

「小脳出血」と関連する病気

「小脳出血」と関連する病気は4個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

内科の病気

  • 高血圧症

脳神経外科の病気

  • 脳動静脈奇形
  • 脳アミロイドアンギオパチー

脳出血を起こす最大の原因である高血圧は予防できる病気の代表格です。検診などで指摘された際には、血圧管理を気をつけるように心がけるようにしましょう。発症してから後悔しているケースが多く見受けられます。

「小脳出血」と関連する症状

「小脳出血」と関連している、似ている症状は10個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 激しいめまい
  • まっすぐ歩けない
  • 嘔気
  • 構音障害(ろれつ困難)
  • 頭痛(特に後頭部や首の痛み)
  • 眼球が勝手に動く(眼振)
  • ろれつが回らない
  • 手足が震える

症状の程度によりますが、上記の一つだけで小脳出血を強く疑うとまでは言えない可能性もあります。例えば、めまいやふらつきの症状に加えて、繰り返す吐き気・嘔吐の症状も加わっている場合には、小脳出血が原因である可能性が高まると言えます。

この記事の監修医師