「髄膜炎」を発症すると現れる「症状」はご存知ですか?原因についても医師が解説!

髄膜炎の症状とは?メディカルドック監修医が髄膜炎の症状・原因・検査・治療法なども解説します。

監修医師:
神宮 隆臣(医師)
目次 -INDEX-
「髄膜炎」とは?
脳や脊髄を包む膜の一種である髄膜に炎症が起こった病態を指します。
髄膜炎の多くは、ウイルスや細菌の感染によって引き起こされます。なかでも、細菌性髄膜炎は稀ですが、無治療で放置すると重症化し、後遺症が残ってしまう場合もあります。
今回の記事では、髄膜炎による症状や原因について詳しく解説します。
髄膜炎の代表的な症状
細菌性髄膜炎の場合には、症状が急速に進み、かつ重篤になってしまうケースがあることが知られています。
脳脊髄液で満たされた髄腔という部分では、一般に免疫による防御機能が働きません。そのため、血流に乗った、あるいは頭部の怪我などで直接、髄腔内部に達した細菌は急速に増えます。その結果、脳圧の上昇・浮腫といった重篤な状態を引き起こすことがあります。さらに、動脈の壁に炎症細胞が及ぶことなどによって血管炎が起こります。血栓が生じ、脳梗塞に至る場合もあります。
ここでは、特に細菌性髄膜炎の場合について重点的に解説しましょう。
発熱
しばしば、髄膜炎になる前には風邪のような上気道感染が起こっています。そのため、発熱は髄膜炎でよくみられる症状です。
細菌性髄膜炎の場合に、約8〜9割の方で発熱が認められたと言う海外での報告もあります。後述する項部硬直(こうぶこうちょく)、意識障害と合わせて古典的三徴と呼ばれます。さらに頭痛を合わせたものを四徴といいます。しかし、成人の方で三徴全てを満たす方は必ずしも多くはないことには注意が必要です。
首が前に曲がりにくくなる
医学的には項部硬直と呼ばれる状態です。髄膜炎のほか、くも膜下出血でもみられる髄膜刺激症状の一つとされています。
髄膜に炎症などが起こると、髄膜や首のあたりの神経などがむくみ、後頭部やうなじの筋肉が持続的に収縮します。こういった状態の方の首を、他人が前に曲げようとすると、髄膜などが緊張し痛みを感じます。この痛みを軽くするため、反射的に首に後頭部やうなじの筋肉が緊張し、抵抗がみられるようになります。 首を横に振る動作では髄膜などの緊張が誘発されにくく抵抗は感じません。
意識障害
脳のむくみが生じ、頭蓋内圧が高まった結果、意識障害が引き起こされる場合があります。細菌性髄膜炎では、急速に意識障害が出現することもあり、危険な合併症の一つです。そのほか、頭蓋内圧が高まることで、吐き気や嘔吐なども現れます。
頭痛
いかなる原因の髄膜炎においても頭痛は早期の段階で現れ、頻度も高いことが知られています。髄膜炎による頭痛は、体を動かしたときに強くなります。頭痛はさまざまな病気で出現しますが、発熱などの三徴を伴うときは髄膜炎の可能性があります。髄膜炎による頭痛は治療によって改善していきます。
けいれん
約1〜2割弱の細菌性髄膜炎でみられる症状です。けいれんが起こった方では、副鼻腔炎や脳の浮腫、脳炎、膿瘍(うみがたまること)など、CTやMRIで明らかになったとも報告されています。
【子ども】髄膜炎の代表的な症状
子どもの髄膜炎の症状は、成人や高齢者と比べると多彩なものとなります。年齢が低いほど、症状は軽く、髄膜炎に特徴的な症状が現れにくいため、診断が困難なケースもあります。
発熱
小児の場合、最も頻度が高い症状で、約9割の方に認められます。ただし、発熱がないからといって髄膜炎を否定することはできません。逆に、発熱だけが症状だったというケースもみられます。
意識状態の変化
活発さがなくなる、うとうとする、よく寝ているなどの意識状態の変化がみられることも多いです。
けいれん
細菌性髄膜炎の10〜30%の方で、入院前から入院後2日以内にけいれんが起こることが知られています。特に細菌性髄膜炎の場合には、発熱していることも多いため、小児の場合には熱性けいれんかどうかの判断が難しいケースもあります。
頭痛や嘔吐
髄膜が炎症を起こすことで、神経が刺激され頭痛が起こります。乳幼児の場合には頭痛を訴えることができない一方、嘔吐は約5〜7割の方でみられます。
何となく元気がない
何となく元気がない、何となくおかしいといった症状も重要です。乳幼児の場合には、哺乳力が低下する、食欲がなくなる、元気がなくなることが唯一の症状になる場合もあります。
髄膜炎を発症する原因
髄膜炎は以下のような原因によって起こります。細菌やウイルス、結核菌、真菌(カビ)などの感染、がんや自己免疫性疾患など非感染性の原因に大きく分けられます。
細菌
髄膜炎の原因となる細菌にはさまざまなものがあります。年齢層によって異なり、6〜49歳までの場合には約6〜7割は肺炎球菌、残り約1割はインフルエンザ菌とされています。
4ヶ月から5歳までの子どもは免疫力が最も未熟な段階なので、細菌性髄膜炎になるリスクが高い状態です。肺炎球菌やインフルエンザ菌が原因となることが多いですが、ワクチンの普及によってその数は減少しています。
新生児から3ヶ月くらいの方では、B群レンサ球菌や大腸菌などによる場合が多いです。
その他、クラブシエラやエンテロバクターなどの腸内細菌、リステリア菌などもまれに見られます。マイコプラズマも原因となりえます。
ウイルス
ウイルスによる髄膜炎は、比較的よく見られる髄膜炎の一種です。ウイルス性髄膜炎は細菌性髄膜炎よりも症状が軽く、自然に治ることが多いです。原因となるウイルスとしては、エコーウイルスやコクサッキーウイルスなどのエンテロウイルス属の多くのウイルス、ムンプスウイルスなどが挙げられます。
特効薬は通常ありませんが、ヘルペスウイルスが髄膜炎の原因になる場合は抗ウイルス薬を使用することもあります。
結核菌
結核菌も細菌の仲間ですが、その性質からは臨床的には分けて考えられます。体内で免疫により一時的に抑えられた後、数ヶ月〜数年を経て再活性化し発症 することがある点などがその違いとなります。また治療には長い期間を要する点も通常の細菌への対応とは異なります。
結核性髄膜炎は先進国では比較的まれな病気です。しかし、発展途上国では依然として重要な公衆衛生上の課題とされています。特に、子どもが初めて結核に感染した場合や、高齢者、栄養状態が悪い方、HIV感染者、がん患者などの免疫不全状態では発症リスクが高まります。その他、アルコール依存症や糖尿病、ステロイド使用中などの方でも結核性髄膜炎の発症の危険度が高まります。
がん
がんも、髄膜炎の原因となる場合があります。がん細胞がくも膜下腔へ及んだ状態を、髄膜癌腫症と呼びます。がん性髄膜炎とも呼称されます。
血液を通じて、あるいは脳や硬膜という脳脊髄を覆う膜に転移した部分から直接、くも膜下腔へ浸潤するといったメカニズムが考えられています。あるいは、神経を通じて侵入することもあるのではと推察されています。乳がんや肺がん、悪性黒色腫などによるものが多いと報告されています。
真菌
真菌つまりカビも髄膜炎の原因になることがあります。
特に、極低出生体重児や、がんや移植手術後、HIV感染などの免疫抑制状態の方、抗菌薬・ステロイド治療中などの場合にはリスクが高まります。その他、神経系の外科手術や血管内留置カテーテルなどもリスク要因となります。
真菌の中でも重要なものは、カンジダ属です。カンジダは腸内や口腔、皮膚などに常在していることが多く、通常は問題を起こさない常在菌ですが、免疫力が低下した状態では血流に乗って髄膜に感染を起こす可能性があります。
また、クリプトコッカス属(特にCryptococcus neoformans)は、鳩の糞などに含まれることがあり、空気感染により肺を経由して中枢神経系へ到達することで髄膜炎を引き起こすとされています。HIV感染者などの免疫不全者に多く見られます。
髄膜炎の検査法
髄膜炎かどうかを調べるため、以下のような検査が行われます。
身体診察
医師が、患者さんの様子を確認し、可能な場合には脳神経学的な異常がないかどうかを診察します。特に項部硬直などの髄膜刺激症状を確認します。成人の細菌性髄膜炎の方の約10〜30%で言葉がうまく出ない、手足の麻痺などの症状が現れることがあります。特に、結核性髄膜炎は目や顔の筋肉が動かしづらくなるなどの神経症状が出ることがあるといわれています。
髄液検査
症状などから髄膜炎を疑った際には、髄膜炎の診断、そして原因を調べるために髄液検査を行います。腰の下のほうの背中から針を刺し、髄液を抜いて、髄液内の細胞の数やタンパク質、糖分濃度を調べます。さらには染色して原因となっている菌の同定などを行います。ただし、症状や頭部CTなどによって脳ヘルニアが疑われる場合などは禁忌となります。
頭部CT
意識障害や、何らかの脳神経症状、けいれん、免疫不全、60歳の場合には頭部CT検査がすすめられます。特に、けいれんや意識障害のある患者さんでは、医療スタッフや看護師による迅速な対応が求められます。また、頭痛や発熱、項部硬直のみであれば、脳圧が亢進していないか、また、ほかの病気が隠れていないかを診断するために、頭部CTを行う場合もあります。
髄膜炎の主な治療法
髄膜炎に対しては、以下のような治療が行われます。
抗菌薬の投与
髄膜炎が細菌や結核菌、真菌の場合には、それぞれ適切な抗菌薬を用いることが第一となります。
細菌性髄膜炎が疑われる成人に対しては、肺炎球菌やインフルエンザ菌を想定し、カルバペネム系やペニシリン系、第3世代セフェム系の薬などが用いられます。髄液検査で原因菌が判明したら、有効性のある薬剤に変更します。
結核性髄膜炎の場合には抗結核薬の投与が用いられます。いずれも静脈注射が基本ですが、全身状態が悪いカンジダ髄膜炎などでは、髄腔内に直接抗菌薬を投与し有効であったという報告もあります。
ステロイド投与
ステロイド投与は抗菌薬によって細菌から放出される炎症を引き起こす物質の放出を抑制します。それにより脳の浮腫を減少させ、最終的に神経障害が軽くなり、予後を改善したりする効果が期待できます。そのため、外傷や外科的な手技などで起こった髄膜炎を除いた細菌性髄膜炎や結核性髄膜炎に対して、副腎皮質ステロイド投与が推奨されています。
対症療法
ウイルス性髄膜炎の場合は特に治療しなくても自然に改善することも多いです。いずれの髄膜炎の場合にも、解熱薬や吐き気どめなどで症状に対応していきます。
「髄膜炎の症状」についてよくある質問
ここまで髄膜炎の症状を紹介しました。ここでは「髄膜炎の症状」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
髄膜炎は完治するのでしょうか?
神宮 隆臣 医師
ウイルス性髄膜炎の場合は、後遺症もなく治ることが大半です。一方、治療が遅れた細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎では神経症状などの後遺症が残ることもあります。また、がんに伴う髄膜炎などでは完治が難しい場合もあります。
髄膜炎を放置するとどうなりますか?
神宮 隆臣 医師
髄膜炎の原因によっても異なりますが、ウイルス性の場合には放置しても自然に良くなることが多いです。しかし、細菌性、結核性、真菌性髄膜炎の場合は放置しておくと症状はますます悪化し、最悪命を落とすことにもつながります。発熱や頭痛、さらに首の痛みなどがあれば、早めに医療機関を受診してください。
編集部まとめ
今回の記事では、髄膜炎の症状や原因、治療法について解説しました。小児の場合には症状をうまく伝えられないこともあるため、ご自身や家族の体調管理には日頃から気を付けていきましょう。
「髄膜炎」と関連する病気
「髄膜炎」と関連する病気は5個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
呼吸器内科の病気
- 肺結核
脳神経内科の病気
上記のような病気が髄膜炎の原因となる、あるいは髄膜炎に起因して起こることがあります。発熱に加えて頭痛や吐き気、手足の動かしにくさなどの症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
「髄膜炎」と関連する症状
「髄膜炎」と関連している、似ている症状は11個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
髄膜炎による症状は多彩です。気になることがあれば放置しないようにしましょう。




