「認知症治療薬」の種類や副作用となる症状はご存知ですか?医師が徹底解説!

Medical DOC監修医が認知症治療薬の種類・副作用・飲まない方がいいのか・その他の治療法などを解説します。

監修医師:
村上 友太(東京予防クリニック)
2011年福島県立医科大学医学部卒業。2013年福島県立医科大学脳神経外科学入局。星総合病院脳卒中センター長、福島県立医科大学脳神経外科学講座助教、青森新都市病院脳神経外科医長を歴任。2022年より東京予防クリニック院長として内科疾患や脳神経疾患、予防医療を中心に診療している。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、抗加齢医学専門医、健康経営エキスパートアドバイザー。
目次 -INDEX-
「認知症」とは?
認知症とは、脳の病気や脳の血管のトラブルにより「認知機能」が低下し、6ヶ月以上続いて日常生活に支障が出ている状態です。
認知機能の障害には、物忘れ(記銘力障害)だけでなく、料理や洗濯などの手順が分からなくなる(遂行機能障害)、うまく会話ができない(言語障害)、常識的な行動ができない(社会的認知障害)など様々です。認知症の種類によっては、物忘れよりお金の管理ができない、非常識な行動が目立つ場合もあります。
また、認知症では、これらの「認知機能の障害(中核症状)」に加えて、「行動・心理症状(BPSD)」と呼ばれる症状が見られます。これには、怒りっぽくなる、幻覚や妄想が見られる、やる気や意欲が低下するといった症状が含まれます。
治療は、薬物療法と非薬物療法を組み合わせて行われます。目標は、症状を和らげ、日常生活を送れるようにし、症状の進行を遅らせることです。ここでは、特に認知機能障害に対する薬物治療と非薬物療法について解説します。
認知症治療薬の種類
認知症は、認知機能が低下した状態を指す病気の総称で、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症など複数の病気を含みます。厚生労働省の統計では、最も多いのがアルツハイマー病(43.1%)で、次に脳梗塞や脳出血などの脳血管障害(30.1%)が多いと報告されています。
ここでは、最も多いアルツハイマー型認知症の治療薬を中心に解説します。
コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)
アセチルコリンは、脳や脊髄などの中枢神経系で働く代表的な神経伝達物質(神経間で信号を伝える化学物質)です。
1970年代に、アルツハイマー型認知症では脳のアセチルコリンを産生する神経の機能が低下していることがわかりました。また、アセチルコリンの働きが弱まると記憶力が悪くなり、逆に強めると記憶力が改善することも発見されました。
コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解する「コリンエステラーゼ」という酵素の働きを抑え、脳内のアセチルコリンの量を増やし、認知機能を改善させる薬です。日本では、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症に保険適用されています。内服薬だけではなく、飲み込みが難しい方には体の貼りやすい部分に貼る薬(貼付剤)もあります。他の認知症でも効果が期待されており、広く使われています。
NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)
脳の中枢神経系には、アセチルコリンの他にグルタミン酸という神経伝達物質があります。神経と神経のつなぎ目(シナプス)では、グルタミン酸が刺激する「NMDA受容体」が神経細胞の働きに関わっています。シナプスでのNMDA受容体への刺激が不十分だと神経細胞は減りますが、過剰すぎると神経細胞がダメージを受けることがわかっています。
NMDA受容体はシナプス以外の場所にも存在し、その過剰な興奮がアルツハイマー型認知症の認知機能障害に関わっている可能性が考えられています。
メマンチンは、主にシナプス以外のNMDA受容体の働きを抑え、神経細胞がダメージを受けるのを和らげ、認知機能を改善させる薬です。
抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)
アミロイドβ(ベータ)は、脳で作られるタンパク質です。通常はすぐに分解されますが、アルツハイマー型認知症では、アミロイドβの分解・排出に異常が起こり、脳内に固まって神経細胞を傷つけると考えられています。
抗アミロイドβ抗体薬は、このアミロイドβを狙って攻撃する「抗体」という薬です。アミロイドβを取り除くことで、アルツハイマー型認知症による認知機能低下の進行を遅らせることを目的とします。これまでの薬とは異なり、すでに出てしまった認知機能を改善させる効果はありませんが、アルツハイマー型認知症の病気そのものを治療しうる薬として注目されています。
アミロイドβは、認知機能低下を自覚する10年以上前から脳に蓄積し始めるため、抗アミロイドβ抗体薬は、アルツハイマー型認知症と診断された患者さんにはより早期に使用することが推奨されています。
認知症治療薬の副作用
認知症治療薬は薬の種類によって作用が異なるため、注意すべき副作用も異なります。ここでは代表的な副作用を解説します。
嘔気・嘔吐・下痢
コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬では、吐き気・嘔吐や下痢などの消化器症状が出ることがあります。吐き気止めや整腸剤で和らぐこともありますが、症状が強い場合は、薬の服用を中止し、処方した医師に相談してください。
易怒性・錯乱
コリンエステラーゼ阻害薬では、怒りっぽくなったり、攻撃的になったりする副作用が報告されています。また、抗アミロイドβ抗体薬では、脳出血や脳浮腫によって性格が変わったり、意識が混乱したりする(錯乱)ことがあります。
怒りっぽくなる症状は、薬を始める前から精神症状がある方で出やすく、コリンエステラーゼ阻害薬を飲み始めて2週間以内に出やすい傾向があります。もし、薬を始めてから落ち着かなくなった、怒りっぽくなったと感じる場合は、薬の服用を中止して処方した医師に相談してください。
徐脈・不整脈
コリンエステラーゼ阻害薬では、アセチルコリンの作用で迷走神経が刺激され、脈が遅くなる「徐脈」や、脈が乱れる「不整脈」が出ることがあります。頻度は多くありませんが、時に失神を繰り返すこともあるため、薬を飲み始めてから頭がボーっとしたり、失神したりすることが増えた場合は、薬の服用を中止して処方した医師に相談してください。
頭痛
認知症治療薬では、副作用として頭痛が出ることがあります。抗アミロイドβ抗体薬を始めてから突然強い頭痛が出現した場合は、脳出血などを発症している可能性もあるため、注意が必要です。
認知症治療薬を飲み始めてから強い頭痛が出現した場合は、薬の服用を中止して処方した医師に相談してください。
認知症治療薬は飲まない方がいいの?
認知症治療薬には副作用があります。副作用が問題となる場合には、飲まない方がいいという判断になることもあります。特に抗アミロイドβ抗体薬では、脳のむくみや脳出血を合併し、時にけいれんやてんかん発作が連続する「てんかん重積」といった重篤な症状が見られることあるため、定期的なMRI検査が必要です。
一方で、認知症は介護や支援が必要となる原因の第一位であり、妄想や怒りっぽさなどの行動・心理症状(BPSD)のために介護の負担も大きい病気です。そのため、認知機能の低下を予防し、治療することは非常に重要です。
認知症治療薬はアルツハイマー型認知症に対して開発が進められ、一部の薬剤(抗アミロイドβ抗体薬やドネペジル)では、認知機能低下の進行を遅らせる効果も報告されています。このことから、アルツハイマー型認知症と診断された場合には、治療薬をより早い段階から使用していくことが望ましいと考えられます。アルツハイマー型認知症以外の認知症に関しては、効果が限定的であったり、まだ十分な証明がされていなかったりします。そのため、治療薬を開始するか、続けるかについては、主治医とよく相談して決めると良いでしょう。
認知症の主な治療法
認知症の治療法には、薬物療法と非薬物療法があります。認知機能の低下が進むと、日常生活だけでなく、薬の管理や受診も難しくなるため、薬物療法だけでなく、非薬物療法も非常に重要です。ここでは非薬物療法を中心に解説します。
薬物療法
認知症の「中核症状」と呼ばれる認知機能低下に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体拮抗薬、抗アミロイドβ抗体薬を使って治療を行います。また、認知症の「周辺症状」と呼ばれる行動・心理症状に対しては、精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬、漢方薬などが使われます。行動・心理症状に対しては、患者さんごとの生活環境によって望ましい状態が異なるため、生活状況や困っている症状を具体的に伝え、主治医とよく相談して治療を受けるようにしましょう。
認知症の診断や治療は脳神経内科で始まることが多いですが、行動・心理症状が目立つ場合は精神科で治療が必要となることもあります。介護者への暴力や徘徊などで介護が困難な場合は、精神科への受診も検討しましょう。
非薬物療法
認知症の治療では、認知機能の維持や改善を目指した非薬物療法も重要です。その目的は、認知機能の維持や改善だけでなく、精神症状や問題行動の緩和、生活の質(QOL)や患者さんの生きがいの維持のためでもあります。専門知識を必要としないものも多く、デイサービスや有料老人ホームなどの医療・介護施設で一般的に取り入れられています。
認知症の非薬物療法では、介護者もケアの対象です。介護者に対して、認知症の知識、患者さんとのコミュニケーションスキル、行動マネジメントの指導などを合わせて行うこともあります。
非薬物療法の代表的なものとしては、以下のようなものがあります。
・認知機能訓練:一人ひとりの認知機能のレベルに合わせた課題を、紙やコンピューターを使って行う訓練です。クロスワードやナンプレなどがこれにあたります。
・認知刺激:認知機能や社会機能全体を高めることを目的とした活動や話し合いなど、様々な関わりを指します。老人会への参加やボランティア活動などがこれにあたります。
・認知リハビリテーション:個人ごとに目標を設定し、セラピスト(専門職)が個別に計画的に介入する方法です。日常生活動作(トイレ動作など)の改善に重点が置かれ、障害された機能を補う方法の確立を目指します。
・運動療法:有酸素運動や筋力強化、バランス感覚を養う訓練などを組み合わせて、週に数回、1日20~75分程度の運動を行う方法です。1日30分程度のウォーキングなどを日常生活に取り入れるなど、運動を習慣にすることが重要です。
・音楽療法:音楽を聴く、歌う、演奏する、リズム運動をするなど、音楽を使った活動を行うことで、認知機能の維持や生きがいの維持に役立つとされています。発声訓練は嚥下機能の維持にも有用なため、カラオケなども積極的に取り入れられています。
・回想法:過去の人生の歴史に焦点を当て、患者さんの話を優しく、共感的に聞くことで、信頼関係を築き、心を支えることに役立ちます。認知症の方との関係改善やうつ症状などの予防につながります。
「認知症の薬」についてよくある質問
ここまで認知症の薬について紹介しました。ここでは「認知症の薬」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
認知症治療薬で認知症は完治するのでしょうか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
ビタミン欠乏やホルモン異常など、治療で改善が見込める要因を除き、基本的に進行してしまった認知機能の低下を完全に元に戻すことは難しいです。認知機能の低下は、加齢や慢性的な脳の血流不足など様々な要因で進むため、完全に認知症を予防することも困難です。
アルツハイマー型認知症に関しては、抗アミロイドβ抗体薬が病気の根本原因に働きかけ、早期に使用することで認知機能低下の進行を遅らせられると報告されています。しかし、すでに進行した認知機能の低下を改善させる効果はなく、認知症の完治とは言い難いです。現在も病気のメカニズムや治療薬の研究・開発が続けられており、今後の治療法の発展に期待されます。
認知症の進行を遅らせる治療薬について教えてください。
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
抗アミロイドβ抗体薬は、アルツハイマー型認知症の原因と考えられているアミロイドβを取り除く薬剤であり、アルツハイマー型認知症において認知症の進行を遅らせることが報告されています。また、コリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジルも、早期に飲み始めたグループで認知機能が維持されていたことから、認知症の進行を遅らせる効果もあると考えられています。
編集部まとめ
今回は、認知症の認知機能低下(中核症状)に対する治療薬や治療法についてご説明しました。
認知症は、加齢とともに増加する病気であり、介護や支援が必要となる一番の原因です。超高齢社会となっている日本では、認知症の予防や治療は喫緊の課題であり、高齢者の認知機能を維持することで、介護負担の軽減が期待できます。また、認知症の方の介護は、体を動かせない方の介護とは異なる苦労があり、時には大きな負担となります。そのため、認知症の予防や治療の知識は、患者さんやご家族、介護に携わる方々にとって必要な知識であると思われます。
認知症は、早期に治療を始めることで、認知機能低下の進行を遅らせられるようになりつつあります。もし認知症が疑われる場合は、かかりつけ医に相談する、もの忘れ検診を受ける、脳神経内科を受診するなどの対応を検討してみてください。
「認知症」と関連する病気
「認知症」と関連する病気は13個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経内科・脳神経外科の病気
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
- 大脳基底核変性症
- 嗜銀顆粒性認知症
- 脳血管性認知症
- Wernicke脳症
- プリオン病
- 正常圧水頭症
- 慢性硬膜下血腫
認知症状を示す疾患はたくさんありますが、加齢とともに進行する病気がある一方で、治療で改善する認知症状もあります。診断することがとても重要です。
「認知症」と関連する症状
「認知症」と関連している、似ている症状は8個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 物忘れが増えた
- 新しいことが覚えられない
- 道に迷うことが増えた
- 幻覚がみえる(幻視)
- 非常識な行動をとるようになった
- お金の管理ができなくなった
- 家事などが順序だててできなくなった
- 行動計画を立てられなくなった
認知症は、早期に診断・治療を行うことで認知機能低下の進行を遅らせられるようになりつつあります。気になる症状がある場合には、早めに医療機関で相談することをお勧めします。




