目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. 三大疾病
  4. 脳疾患
  5. 「多発性脳梗塞」の症状・原因・なりやすい人の特徴はご存知ですか?医師が解説!

「多発性脳梗塞」の症状・原因・なりやすい人の特徴はご存知ですか?医師が解説!

 更新日:2025/12/17

多発性脳梗塞とは?Medical DOC監修医が多発性脳梗塞の症状・原因・発症しやすい人の特徴・検査法・治療法・予防法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

村上 友太

監修医師
村上 友太(東京予防クリニック)

プロフィールをもっと見る
医師、医学博士。
2011年福島県立医科大学医学部卒業。2013年福島県立医科大学脳神経外科学入局。星総合病院脳卒中センター長、福島県立医科大学脳神経外科学講座助教、青森新都市病院脳神経外科医長を歴任。2022年より東京予防クリニック院長として内科疾患や脳神経疾患、予防医療を中心に診療している。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、抗加齢医学専門医、健康経営エキスパートアドバイザー。

「多発性脳梗塞」とは?

多発性脳梗塞とは、脳のあちこちに脳梗塞が起きている状態のことです。同時に複数の場所にできた脳梗塞だけでなく、健康診断の「脳ドック」などで、過去に起きていたと思われる小さな脳梗塞が複数見つかる場合も、この「多発性脳梗塞」という言葉が使われます。

「多発性脳梗塞」と「脳梗塞」の違いは?

脳梗塞とは、脳の細胞に血液を送るための血管(動脈)が、血の塊(血栓)などで詰まったり、血管の壁が厚くなって通り道が狭くなったりして、脳細胞に十分な血液が届かなくなり、細胞が傷ついたり死んでしまったりする病気です。多発性脳梗塞は、この脳梗塞が脳の複数の場所に起きている状態を指す言葉で、つまり脳梗塞の一種と言えます。

多発性脳梗塞の代表的な症状や特徴

脳は、場所によって異なる働きを持っています。例えば、前頭葉は体を動かしたり、物事を計画したりする働きを、側頭葉は言葉を理解したり聞いたり、記憶したりする働きを、後頭葉は物を見る働きを担っています。脳梗塞では、どの部分にできたかによって症状が変わります。多発性脳梗塞でも同じように、脳梗塞ができた場所によって症状は異なります。多発性脳梗塞の場合、一つひとつの脳梗塞は比較的小さいことが多いため、発症しても症状に気づかないこともあります。ここでは、多発性脳梗塞で現れる可能性のある代表的な症状についてご紹介します。

認知機能低下・意欲低下・失行

多発性脳梗塞では、それぞれの脳梗塞の症状がはっきりしないことが多く(これを「無症候性梗塞」と言います)、脳ドックや、物忘れなどの認知機能低下を調べるときに撮影するMRI検査などで、古い脳梗塞が複数見つかることがよくあります。このような場合、記憶力が悪くなったり、やる気が起きなくなったり、以前はできていたことができなくなったりするなどの症状が見られることがあります。

顔面や手足の麻痺

顔や手足の麻痺は、多発性脳梗塞で比較的気づきやすい症状の一つです。小さな脳梗塞でも、体の半分に重い麻痺が起こることがあるので注意が必要です。もし、「いつから」と言えるくらい急に麻痺が出た場合は、脳梗塞や脳出血といった脳卒中の可能性がありますので、すぐに医療機関を受診しましょう。

ふらつき・失調

歩いているときにふらついたり、物を掴もうとしたときに位置がずれてしまったりする場合も、脳梗塞の可能性があります。急にこのような症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。

失語

失語は多発性脳梗塞に多いわけではありませんが、脳梗塞の代表的な症状の一つです。失語とは、人の話している言葉が理解できなくなったり、自分が思っていることを言葉や文章として話せなくなったりする症状です。このような症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。

多発性脳梗塞の主な原因

多発性脳梗塞は、同時にたくさんの脳梗塞が起きる場合と、様々な場所に脳梗塞を繰り返している場合があります。それぞれで原因も異なります。ここでは、多発性脳梗塞で考えられる主な原因についてご紹介します。

ラクナ梗塞

脳ドックなどでたまたま見つかる多発性脳梗塞の多くは、ラクナ梗塞と呼ばれるタイプの脳梗塞です。ラクナ梗塞は、高血圧などによって、主幹動脈と呼ばれる太い血管から枝のように直接分かれる細い血管(穿通枝)が、血管の壁が厚くなるなどで詰まってしまうことで発症する脳梗塞です。予防には高血圧の予防や治療が特に重要とされていますが、糖尿病や高脂血症の予防・治療、禁煙なども効果的です。

心房細動、心臓弁膜症

心房細動や心臓弁膜症など、心臓に異常があることで起きる脳梗塞では、脳の様々な場所に脳梗塞が起こることがあります。大きな血栓が詰まって一つの大きな脳梗塞になることもありますが、血栓が細かく砕けて複数回にわたって飛んでいったり、血栓がさらに砕けてたくさんの血管を詰まらせたりすることで、多発性脳梗塞になります。

動脈硬化/不安定プラーク

生活習慣病などが原因で、脳に血液を送る血管(動脈)にプラークというこぶのようなものができること(動脈硬化)で脳梗塞が起こることがあります。コレステロールを多く含み、もろい不安定プラークでは、プラークがちぎれて血管を詰まらせたり、プラークの周りに血栓ができたりすることで、多発性脳梗塞の原因となることがあります。

悪性腫瘍

進行したがん(悪性腫瘍)がある場合、血液が固まりやすくなり、多発性脳梗塞が起きることがあります。この悪性腫瘍による脳梗塞はトルソー症候群とも呼ばれます。血管の分布とは関係なく脳梗塞が起きるという特徴があり、脳梗塞をきっかけにがんが見つかることもあります。

血液凝固異常、遺伝性疾患

抗リン脂質抗体症候群やプロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症など、体質的に血液が固まりやすい方は、多発性脳梗塞を発症することがあります。また、Fabry病やCADASILなど、脳梗塞が起きやすい遺伝子の異常を持つ方も、多発性脳梗塞を発症することがあります。

多発性脳梗塞になりやすい人の特徴

多発性脳梗塞の原因として考えられるものについては前項で説明しました。ここでは前項の内容を踏まえ、多発性脳梗塞になりやすい人の特徴について説明します。

塩分の多い食習慣の人

生活習慣病になるリスクが高い生活を送っている人は、多発性脳梗塞の発症リスクが高くなります。特に高血圧はラクナ梗塞と大きく関係していると考えられており、多発性脳梗塞の予防には高血圧にならないこと、そして高血圧になった場合は適切な治療を受けることが重要です。日本人では、塩分を摂ることで血圧が上がりやすい体質の人(食塩感受性高血圧)が多いことが知られているので、塩分の摂りすぎには注意しましょう。

暴飲暴食の人、運動をしない人、喫煙者

高血圧以外にも、糖尿病や高コレステロール血症といった生活習慣病、喫煙、過度な飲酒も脳梗塞の発症リスクを高めます。バランスの取れた食事、適度な運動を心がけ、禁煙や飲酒の量を減らすことを意識しましょう。

病院嫌いな人

高血圧や高コレステロール血症などの生活習慣病になった場合でも、治療を受けることで脳梗塞のリスクは下げることができます。また、定期的に健康診断やがん検診を受けて、病気を早く見つけ、早く治療することで、動脈硬化を防いだり、適切ながんの治療を受けたりすることができます。定期的に病院に通わない人や健康診断を受けない人は、早期の診断や治療が不十分になりやすく、多発性脳梗塞の発症リスクが高くなるため、より注意が必要です。

血が固まりやすい体質の人

抗リン脂質抗体症候群やプロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症など、血液が固まりやすい体質の方は、多発性脳梗塞になりやすいため注意が必要です。流産を繰り返した経験がある方や、血栓症(血管に血栓ができて詰まる病気)を繰り返して起こしたことがある方は、血液が固まりやすい異常がないか調べてもらうと良いでしょう。

多発性脳梗塞の検査法

多発性脳梗塞の原因を調べるには、血液検査、心電図検査、超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査などを行います。ここでは、多発性脳梗塞の原因を調べるためのそれぞれの検査について解説します。

血液検査

血液検査では、脳梗塞のリスクとなるような、高コレステロール血症や糖尿病の状態、血液の固まりやすさ、心臓への負担、血液の濃さなどを調べることができます。また、保険適用外の検査となりますが、遺伝子検査などを行うこともあります。

心電図検査

多発性脳梗塞の原因の一つに、心房細動という不整脈があります。不整脈の検査は心電図検査で行いますが、不整脈が出ている間に検査をしないと診断できないという問題点があります。心房細動には、常に不整脈が続いている「持続性心房細動」と、発作的に一時的な不整脈が出る「発作性心房細動」があります。発作性心房細動では、短い時間の心電図検査では異常が見られないことも多いため、長時間心電図を記録する検査が必要です。一般的には24時間心電図を装着するホルター心電図が行われますが、さらに長期間装着したり(イベント心電図)、心電図を記録する機械を皮膚の下に埋め込み、数年間記録を続けたりすること(植込型心電計)もあります。近年では、Apple Watchなどのスマートウォッチによる心電図記録も有効であると報告されています。

エコー検査

エコー検査は、超音波を使って行う、体への負担が少ない検査です。脳梗塞の原因を調べるときには、脳に血液を送っている首の血管(頸動脈や椎骨動脈)の状態や、心臓の動きや形などを調べます。

CT検査・MRI検査

CT検査は放射線を使って、MRIは磁力を使って、体の内部の状態を画像として映し出す検査です。脳梗塞を見つけるにはMRIが優れており、特に発症して間もない脳梗塞を評価するには非常に重要な検査です。MRI検査は、ペースメーカーなどの精密機器が体内に埋め込まれている場合や、金属が体内にある場合(入れ墨、一部のインプラントなど)は撮影できないことがあるので注意が必要です。CT検査は放射線への被ばくはありますが、短時間で体の内部の状態を映し出すことができます。また、造影剤を使うことで、動脈硬化の程度や血液の流れを評価することもできるため、多発性脳梗塞の原因を調べるのに役立ちます。

多発性脳梗塞の主な治療法

多発性脳梗塞の治療は、発症から数時間以内の「超急性期」の治療、発症して間もない「急性期」の治療、そして発症から時間が経った「慢性期」の治療に分けられます。超急性期の治療では、血栓を溶かす薬などを使って詰まった血管をできるだけ早く開通させ、血液が足りなくなっている脳を助けることを目指します。急性期や慢性期では、脳梗塞の再発を防ぐために、血液を固まりにくくする薬(抗血栓療法)などを行います。

血栓溶解療法・血栓回収療法

脳梗塞の多くは、血の塊(血栓)が血管を詰まらせることが原因で起こります。血栓溶解療法は、t-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)という薬を使って、体内の血栓を溶かし、詰まった血管を再び開通させることを目指す治療です。血栓回収療法は、ある程度太い血管が詰まっている場合に、カテーテル(血管の中を通す細い管)を使って、動脈から直接血栓を回収し、詰まった血管を再び開通させることを目指す治療です。
これらの治療は、後遺症を減らすために非常に効果的ですが、出血などのリスクも伴うため、ある程度以上の脳梗塞の症状があり、発症から数時間以内に治療を開始できる場合に行われることがあります。

抗血栓療法

抗血栓療法は、血液を固まりにくくする治療で、脳梗塞の治療の中心的な役割を担います。脳梗塞は発症した直後に再発しやすい傾向があるため、脳梗梗塞が起きた直後はより強力な抗血栓療法を行い、慢性期には脳梗塞の原因に応じて適切な抗血栓療法を行います。抗血栓療法で使う薬は、大きく抗血小板薬と抗凝固薬に分けられます。抗血小板薬は、血液の流れが比較的速い場所でできる血栓の予防に有効で、抗凝固薬は、血液の流れが滞るような状況でできる血栓の予防に有効と、薬の働きが大きく異なります。そのため、脳梗塞の原因をはっきりさせ、原因に応じて使い分ける必要があります。

生活習慣病の治療

慢性期の脳梗塞の再発予防には、高血圧や糖尿病、高コレステロール血症などの生活習慣病の治療も非常に重要です。特に脳ドックなどで偶然見つかった多発性脳梗塞は、高血圧と関係が深いタイプの脳梗塞であることが多いため、食事療法や運動療法、禁煙、適切な薬物治療といった生活習慣病の治療が重要になります。

多発性脳梗塞を予防する方法

減塩・適切な量のバランスのとれた食事

多発性脳梗塞では、高血圧が大きなリスクの一つです。アジア人では特に、塩分を摂ることで血圧が上がる人(食塩感受性高血圧)が多いと言われており、高血圧の予防・治療としては、1日6〜8gを目標とした減塩が効果的です。糖尿病、高コレステロール血症などの生活習慣病も多発性脳梗塞のリスクであり、適切な量のバランスの取れた食事をすることは、多発性脳梗塞の予防に重要です。魚を中心とし、オリーブオイルなどを使った地中海食やDASH食と呼ばれる食事は、生活習慣病や認知症の予防にも有効と言われており、日々の食事に取り入れると良いでしょう。

適度な運動

適度な運動は、肥満や糖尿病などの生活習慣病の予防になるだけでなく、多発性脳梗塞の予防にも効果的です。激しい運動である必要はないので、1日30分程度のウォーキングなどの有酸素運動を毎日続けるようにしましょう。

禁煙

喫煙は、肺の病気やがんのリスクを増やすだけでなく、動脈硬化や多発性脳梗塞のリスクにもなります。1日に吸うタバコの本数が多いほど、喫煙している期間が長いほど脳梗塞のリスクは上がることが知られているので、喫煙している場合はできるだけ早く禁煙を目指しましょう。

「多発性脳梗塞」についてよくある質問

ここまで多発性脳梗塞などを紹介しました。ここでは「多発性脳梗塞」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

多発性脳梗塞とラクナ梗塞の違いについて教えてください。

村上 友太(むらかみ ゆうた)医師村上 友太(むらかみ ゆうた)医師

多発性脳梗塞は、脳の複数の場所に脳梗塞ができている状態を指す言葉です。一方、ラクナ梗塞は、太い血管から枝分かれする「穿通枝」と呼ばれる細い血管が詰まることで起きる脳梗塞のことで、脳梗塞の原因や病気のタイプを示す言葉です。多発性脳梗塞は「複数の場所に脳梗塞がある状態」であり、ラクナ梗塞は「脳梗塞の種類」なので、意味合いは大きく異なります。
脳ドックで見つかる多発性脳梗塞では、原因となる脳梗塞のタイプとしてはラクナ梗塞が最も多いですが、多発性脳梗塞では、他にも「心原性脳塞栓症」(心臓にできた血栓が脳に飛んで詰まるタイプ)や、血液が固まりやすい病気による脳梗塞などが原因となっていることもあります。

編集部まとめ

多発性脳梗塞は、同時にたくさんの脳梗塞が起きている、または脳梗塞を何回も繰り返している状態を指す言葉です。多発性脳梗塞が見つかった場合、体質的に脳梗塞が起きやすい状態になっていると言えます。一つひとつの脳梗塞はほとんど症状がない場合でも、脳梗塞を繰り返していくうちに、物忘れなどの認知機能低下や、物事を考えたり情報を処理したりする能力の低下が進んでしまいます。そのため、多発性脳梗塞を予防することと同時に、多発性脳梗塞と診断された場合は、その原因を調べ、今後脳梗塞が増えないように対策を立てることが必要です。
多発性脳梗塞では特に予防が重要となりますので、適度な運動やバランスの取れた食事などによる生活習慣病の予防、定期的な健康診断、そして異常が見つかった際には適切に医療機関を受診し、必要に応じて治療を受けることを心がけましょう。

「多発性脳梗塞」と関連する病気

「多発性脳梗塞」と関連する病気は8個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する病気

脳梗塞の原因の多くは、生活習慣病や不整脈であるため、日々の生活習慣の改善や定期的な健康診断の受診を継続するようにしましょう。

「多発性脳梗塞」と関連する症状

「多発性脳梗塞」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • うまく話せない/話しにくい
  • 手や足に力が入らない
  • 歩きにくい
  • 体が傾く
  • 集中力低下

一つひとつの脳梗塞はほとんど症状がない場合でも、脳梗塞を繰り返していくうちに、脳機能全体が低下することがあり、物忘れや集中力の低下、日常生活動作がうまくいかないなどの症状が徐々に進むこともあります。

この記事の監修医師