「脳腫瘍」を発症するとどんな「後遺症」が残るかご存知ですか?【医師解説】

脳腫瘍の後遺症とは?メディカルドック監修医が脳腫瘍の後遺症・治療法・リハビリ方法などを解説します。

監修医師:
佐々木 弘光(医師)
目次 -INDEX-
「脳腫瘍」とは?
脳腫瘍とは脳内にできる、いわばできもののことです。大まかには良性や悪性、また原発性といって脳の中にある細胞が腫瘍化するものと、他臓器の悪性細胞が脳内に定着して出現する転移性(続発性)脳腫瘍などに大別されます。さらに原発性脳腫瘍は、脳内のどこの組織からできているかによって、細かく分類されています。ここでは脳腫瘍の症状、後遺症などについて解説していきます。
原発性脳腫瘍の種類と症状
原発性脳腫瘍とは、脳内に存在する細胞が増殖し、できもの(腫瘍)となったものです。脳内のどの細胞が腫瘍になるかによって細かく分類されていますが、ここでは代表的なもので解説します。
神経膠腫
脳の中のグリア細胞という細胞が腫瘍になったものです。グリオーマともいい、細かな種類の違いは多岐にわたります。悪性度(どれくらい顔つきの悪い腫瘍なのか)の高いものが多く、最も悪性度の高い膠芽腫(膠芽腫)と呼ばれるタイプのものは、数か月から数週間単位で急激に進行することもあります。特に成人では大脳半球にできるものが大半で、大脳半球の中のどの部位に腫瘍ができたかによって様々な症状が出現します。例えば手足を動かすような運動野と呼ばれる場所の近くにできた場合は、腫瘍と反対側の手足の麻痺や呂律困難が出現したり、感覚野と呼ばれる場所の近くの場合は反対側の身体のしびれなどを自覚したりする場合があります。また前頭葉や側頭葉にある言語野と呼ばれる場所の近くでは言葉の出にくさや理解のしにくさといった症状が出現したり、後頭葉や側頭葉といった場所では視野に影響したりします。また場所によっては性格変化や高次脳機能障害といって、空間認識の欠如(身体の片方ばかりぶつけるなど)や、急に認知症が進んだかのような症状、簡単な計算や日常生活の行動ができにくくなる症状など、はっきりとはわかりにくい症状を認める場合もあります。また共通して言えるのは、脳腫瘍が大きかったり、周囲の正常な脳を圧迫して浮腫(むくみ)をきたしたりするような場合は、脳の中の圧力が高まり(頭蓋内圧亢進 ずがいないあつこうしん といいます)、頭痛や吐き気・嘔吐、痙攣といった症状をきたします。そのためこれらの症状がきっかけで脳腫瘍が発見されることもあります。また重度の場合は傾眠(うとうとして反応が悪くなる)や昏睡といった、意識障害を生じる場合もあります。
脳原発悪性リンパ腫
脳の中にあるリンパ系と呼ばれる細胞が腫瘍になったものです。中高年以降での発症が多く、神経膠腫と同じく、脳の中のどこでも発症する可能性があります。従って、症状も発生した場所によって様々です。名前の通り、悪性の腫瘍であり、放置すると進行は速いです。基本的に診断がつけば、腫瘍を小さくするための化学療法が非常に重要かつ有効です。この腫瘍も頭痛や嘔吐、痙攣といった症状がきっかけで発見されることもあります。
髄膜腫
脳全体の外側を包む髄膜(主に硬膜)と呼ばれる膜が腫瘍となったものです。基本的に良性(顔つきのいいもの)とされ、大きくなるのにも年単位で、ゆっくりと進行することが多いです。また脳の周りの膜が腫瘍になったものなので、ある程度腫瘍が大きくなって、外側から脳を押さえて圧迫するようになって初めて症状が出現することも多いです。しかし時々、悪性に近い性質を持つこともあり、その場合は、大きくなる速度が速かったり、周りの正常な脳の細胞にへばりついたり、しみこんだりして大きくなることもあります。この髄膜腫も圧迫する脳の場所によって出現する症状は様々であり、その他、頭痛や吐き気・嘔吐、痙攣といった症状で発見される場合もあります。
下垂体腫瘍
脳の下部にホルモンを分泌している脳下垂体とよばれる場所があり、その周辺の細胞が腫瘍になったものをいいます。代表的なのは下垂体腺腫といって、ホルモンを分泌する下垂体の細胞が腫瘍になったものです。基本的に良性腫瘍とされ、ホルモンを分泌する腫瘍としない腫瘍があります。ホルモンを分泌する場合は、分泌過多、つまりホルモンが体内に多くなりすぎた結果、様々な症状を来たします。例えば、プロラクチンというホルモンを分泌する腫瘍なら、女性の場合は生理不順や無月経、乳汁分泌といった症状があります。成長ホルモンの場合は手足の先や舌が大きくなったり、顔面の見た目がかわったりするなどの症状があります。しかしホルモンを分泌しない腫瘍の場合も多くあります。また下垂体の近くには、視神経といって視覚に関わる神経があり、腫瘍が大きくなってこの視神経が圧迫されはじめると、両目の外側が見えにくくなる(両耳側半盲:りょうじそくはんもう、といいます)特徴的な症状を認めます。そのため目の見えにくさで眼科に行ったら、たまたまこの腫瘍が見つかったという場合もあります。
神経鞘腫
脳の中にある神経を覆う膜が腫瘍になったものです。特に代表的なものとしては聴神経鞘腫というものがあります。聴神経とは、聴覚や身体のバランス感覚を担う、脳の中を走る神経です。これが腫瘍になることで、耳が聞こえにくくなる聴力低下の症状が出現します。その他、聴神経の近くには顔面神経という顔を動かす神経や身体の姿勢等を保つ小脳などがあるため、腫瘍が大きくなって顔面神経や小脳を圧迫しはじめると、顔が動かしづらくなる顔面麻痺の症状やバランスがうまく取れずにふらつくなどの症状が出現する場合もあります。基本的に良性腫瘍で、この聴神経鞘腫以外にも様々な神経があるため、腫瘍になった神経の種類によって症状は異なります。
転移性(続発性)脳腫瘍の種類と症状
転移性脳腫瘍とは、脳以外の他の臓器に存在する腫瘍が脳内にやってきて定着し、脳の中で腫瘍となったものです。そして他の臓器からやってくるということは、基本的に他の臓器に癌(悪性腫瘍)が存在している、ということになります。別の言い方をすれば、他の臓器でできた癌(これを原発巣といいます)が、その場所にとどまらず、全身をめぐっているということにもなり、その癌は「遠隔転移をしている。」ということでもあります。そして遠隔転移をしているような癌の進行度は、ステージ4(末期)であるとも表現されます。
転移性脳腫瘍
基本的にどんな癌でも脳に転移する可能性はありますが、特に多いのは肺癌や乳癌とされています。症状は神経膠腫と同様で、脳の中のできた部位によって様々です。頭蓋骨や脳を覆う硬膜と呼ばれる膜に転移する場合もあります。また腫瘍によって脳浮腫(むくみ)を伴っている場合や脳の表面を覆う薄い髄軟膜と呼ばれる場所に薄く広がって転移している場合は、頭痛や痙攣、認知機能低下などの症状を認めます。
脳腫瘍の後遺症とその原因
運動麻痺や呂律困難、感覚障害、視野障害など
特に神経膠腫や転移性脳腫瘍のような脳の細胞の中に直接入り込んで広がっていくような腫瘍では、腫瘍が正常な脳細胞を壊してしまっている可能性があるので、すでに出現している運動麻痺や呂律困難、感覚障害、視野障害といった様々な症状は後遺症となることがあります。また脳浮腫(むくみ)や脳への直接的な圧迫で症状が出ているような場合、特に髄膜腫などの良性腫瘍では、手術による摘出などで圧迫が取れれば症状が改善することもあります。
性格変化、言語障害、高次脳機能障害
脳の中でも特に、性格や言葉の理解に関わる部分や複数の情報を統合・処理する部分が障害されると、性格変化や言語障害、高次脳機能障害という後遺症がでることもあります。例えば空間認識や言語理解ができず、例えば片側の空間のみを無視してしまう、言葉がうまく理解できない・話せない、書字や計算がうまくできない、といった症状があります。また精神症状や認知症につながっていく場合もあります。
痙攣
特に悪性の脳腫瘍の場合、脳の中に入り込んで広がるため、手術などで摘出をしても痙攣発作(症候性てんかんといいます)が残ることが多いです。そもそも頭痛や嘔吐、痙攣といった症状がきっかけとなって脳腫瘍が発覚することも多く、その時点から抗てんかん薬と呼ばれる内服をして、痙攣の発作を抑える必要があります。
顔面麻痺、聴力障害
特に聴神経鞘腫と呼ばれる腫瘍においては、聴力を担う神経が直接腫瘍になっているため、発症して進行してしまうと、聴力低下の後遺症は免れ得ません。また顔面神経の近くにできる腫瘍なので、腫瘍によって顔面神経が圧迫されて顔面の麻痺が出現することがあります。これらの神経は弱いため、顔面神経が長期間圧迫されていた場合は、腫瘍を手術で摘出した後も顔面麻痺が後遺症となる可能性もあります。
脳腫瘍の治療法やその副作用・後遺症など
治療法:神経膠腫、脳悪性リンパ腫
手術による摘出と放射線治療、化学療法などを行います。これまで説明してきたように、この腫瘍は正常な脳細胞の間に直接入り込んで広がっているので、手術によって、本当の意味で脳の中から腫瘍を完全になくしてしまうことは不可能です。さらに身体を動かしたり、言葉を話させたりといった脳の重要な働きを持つ場所の近くに腫瘍がある場合は、手術でその場所を傷つけてしまうと運動麻痺や言語障害などの後遺症が残ってしまいます。従って、手術は後遺症を出さないように注意しながら、可能な限りの摘出をする必要があり、後遺症が出てしまう恐れのある場所の腫瘍はあえて残すこともあります。ここでは細かな手術方法の解説は省きますが、大学病院など大きな病院の脳神経外科で、専門的に治療を行っている場合もあります。手術後は一般的に放射線治療や抗癌剤を使った化学療法を行い、腫瘍の進行や再発を抑えていくことになります。また脳悪性リンパ腫の場合は、手術で診断さえつけることができれば、基本的には無理をして全摘出しなくても良く、その代わりに、化学療法や放射線治療が重要とされています。しかしこれらの化学療法や放射線治療によって、腎臓障害や肝臓障害といった内臓の障害や認知機能低下などの症状が出現し、後遺症となってしまう場合もあります。そして基本的に、これらの治療は脳神経外科や放射線治療科などで行います。
治療法:髄膜腫
基本的には良性のため、症状がなく、小さなうちは外来で様子をみることが大半です。しかし大きな腫瘍で、脳を圧迫して症状を出している場合や、経過観察しているうちに急激に大きくなってくるような場合は、手術による摘出を考えます。手術は脳神経外科で行います。全摘出することを目指し、手術で正常な脳を傷つけることがなければ特に後遺症は残りません。一方で、そもそも技術的・物理的に全摘出が困難な場所にできる髄膜腫もありますが、良性腫瘍が大きくなるのは年単位の時間がかかるため、たとえ手術で腫瘍が残ってしまっても再発するまでには時間がかかることが一般的です。しかしこれまたややこしい話なのですが、時々、髄膜腫の中でもたちの悪い、悪性度の比較的高いものもあります。その場合は脳の中までしみこむような腫瘍で摘出が難しかったり、手術後も短期間で何度も再発したり、ということもあります。このような悪性度の高い場合は、術後に放射線治療を行って再発を抑えることもあります。
治療法:下垂体腫瘍
良性腫瘍ですが、視神経が圧迫されて視野障害を生じている場合や、一部のホルモンを分泌する腫瘍の場合は手術による摘出を考えます。現在は経鼻内視鏡といって、内視鏡と呼ばれるカメラを使って鼻から腫瘍の摘出を行うのが一般的です。手術で視神経への圧迫が解除されると、視野障害も改善することが多いです。一方で、非常に稀ですが、手術によって下垂体が傷ついてしまうと、ホルモンの分泌低下(下垂体機能低下症)を生じて、ホルモン薬の内服が必要になるなどの後遺症になることもあります。手術は脳神経外科や耳鼻咽喉科で行いますが、その中でも特に経鼻内視鏡と呼ばれる専門を持っている場合に限られます。従って、同じ脳神経外科や耳鼻咽喉科でも、病院によってはそもそも手術が難しい場合もありますので、事前に調べておくようにしましょう。またホルモンを分泌する腫瘍の中には、内服だけでうまく縮小するタイプのものもあります。
治療法:神経鞘腫
こちらも基本的には良性腫瘍であり、小さな腫瘍でたまたま発見された場合は、外来で定期的に様子をみることがほとんどです。しかし大きな場合や、前述の聴神経鞘腫のように顔面神経や小脳への圧迫がみられる場合等は手術による摘出を行う場合があります。また腫瘍が小さかったり、摘出が難しい場所にあったりする場合、また手術後に腫瘍が残った場合などには、放射線治療を行う場合もあります。
治療法:転移性脳腫瘍
癌の転移ですので、悪性です。原因となった他の臓器の癌治療が最も重要なのですが、そもそも人間の脳は生理的に抗癌剤などの薬が通過しにくい構造になっているため、他の臓器では癌に再発がみられなくても、転移性脳腫瘍だけが見つかるということも時々あります。そして仮に手術で全摘出をしたとしても、そもそもの原因となった癌の治療をしているわけではないので、根治することにはなりません。ではどのような場合に治療を考えるのでしょうか。それは特に、転移性脳腫瘍によって症状が出現し、その人の生活力を著しく低下させているような場合で、手術による摘出や放射線による治療を考えます。従って、手術の目的は、いかに新しい後遺症を出さずに、本人の症状を軽減してあげるのか、ということになります。また原因となった癌の種類によって放射線治療の効果にも差はでますが、特に腫瘍が小さく、無症状の場合であっても、進行して大きくならないように積極的に放射線治療を行うことが多いです。
脳腫瘍のリハビリ方法
具体的なリハビリ法
脳腫瘍のリハビリといっても、麻痺や嚥下障害など、後遺症によってアプローチは様々です。また患者さんの日常生活を自立させるための総合的な評価も重要になります。例えば、運動麻痺に対するリハビリはまず、座ることができるのか、車椅子に移れるのか、そして歩行訓練の段階となっていきます。また麻痺のない側も利用することで機能を補助させることも考えます。さらに自力での歩行が困難な場合は、杖や下肢装具と呼ばれる補助具を利用した訓練を行うこともあります。顔面麻痺や嚥下障害がある場合は、水分や食べ物を飲み込む時に窒息・誤嚥(食べ物が気管に入ること)を生じる危険があります。そのため嚥下のリハビリでは、最初は食べ物を柔らかくしたり液状にしたりしてスタートし、徐々に固形のものに変化させます。重度の場合は、経鼻胃管(けいびいかん)といって鼻から胃にチューブを入れて栄養剤を注入しながら、リハビリを行う場合があります。高次脳機能障害に対するリハビリは複雑ですが、まず認知機能のテストや日常生活の自立度(ADLといって、食事や移動、排泄や着衣・入浴といった日常生活で自立するための機能があるのか)を評価します。そしてそれらに合わせて日常生活の動作や記憶力の訓練、視覚や注意を刺激するような物体を用いて作業するようなリハビリを行います。患者さんの目標とする自立度に応じて複合的なリハビリを進め、後遺症を補うやり方を工夫することで、日常生活に順応させていくことが大切です。
「脳腫瘍の後遺症」についてよくある質問
ここまで脳腫瘍の後遺症などを紹介しました。ここでは「脳腫瘍の後遺症」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
脳腫瘍を発症すると性格が変わることはありますか?
佐々木 弘光医師
腫瘍のできた場所によっては性格が変化することもあります。特に前頭葉や側頭葉と呼ばれる箇所にできた腫瘍は、感情・意欲のコントロールや言語機能、認知機能に直結する場所でもあるため、怒りっぽくなったり、ぼーっとしたりといった症状が目立つ場合があります。
編集部まとめ
脳腫瘍といってもかなり多くの種類があるため、すべてを本記事で伝えることは難しいです。ただそれぞれの腫瘍に特有の症状があります。そして怪しいなと思ったら、専門の医療機関や脳神経外科のある病院への受診を検討しましょう。
「脳腫瘍」と関連する病気
「脳腫瘍」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
脳腫瘍は頭部画像検査上である程度診断可能ですが、正確な診断は手術を行い病理検査を行った際に決定されます。脳腫瘍は細かく分けると150種類以上に分類されます。
「脳腫瘍」と関連する症状
「脳腫瘍」と関連している、似ている症状は12個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
脳腫瘍に特有の症状というものがあるわけではなく、脳卒中と同じような症状が出現します。脳腫瘍の場合には、ある程度脳腫瘍のサイズが大きくなってから症状が出現することがほとんどです。




