「若年性アルツハイマーの寿命が短い理由」はご存知ですか?医師が解説!

若年性アルツハイマーの寿命が短い理由とは?Medical DOC監修医が若年性アルツハイマーの寿命が短い理由・症状・末期症状・原因・なりやすい人の特徴・治療法などを解説します。

監修医師:
前田 佳宏(医師)
目次 -INDEX-
「若年性アルツハイマー」とは?
認知症は一般的に高齢者に多くみられる病気ですが、65歳未満で発症する場合は「若年性認知症」と呼ばれます。日本における若年性認知症の主な原因は、脳血管障害による血管性認知症が最も多く、次いでアルツハイマー病が続きます。
若年性認知症のうち、約3割は50代未満で発症し、中には20代以下の若い方が発症するケースも報告されています。
本記事では、若年性アルツハイマー病の寿命が短い理由や症状などについて詳しく解説します。
若年性アルツハイマーの寿命
若年性アルツハイマー病の寿命に関しては、現在も研究中です。
若年性認知症の生存期間や平均余命を調査したオランダの研究があります。その研究では、若年性アルツハイマー病の場合、診断後の平均寿命は111ヶ月(約9年)、生存期間の中央値は103ヶ月(約9年)でした。血管性認知症の患者と比較して、症状発症後および診断後の生存期間が統計学的に有意に短いことも示されました。
実際にアメリカにおいては、若年性のアルツハイマー病は40〜64歳の成人の早期死亡の多くを占めているという報告もあります。
若年性アルツハイマー病に限らず、アルツハイマー病は現在のところ完治が難しいとされています。進行を遅らせるために、薬物治療や認知行動療法などが活用されています。
若年性アルツハイマーの寿命が短い理由
若年性アルツハイマーの寿命が短い理由について解説しましょう。
若年性アルツハイマー病は、一般的なアルツハイマー病に比べて進行が速く、脳の神経細胞がより早い段階でダメージを受けやすい傾向があります。さらに、発症のタイミングが仕事や家事に追われる年代と重なることが多いことも問題です。肉体的・精神的な負担が大きく、それが症状の進行に影響を及ぼすこともあります。
その他の認知症の平均寿命
若年性認知症の原因疾患としては、血管性認知症やアルツハイマー病が多いです。その他頭部外傷後遺症、前頭側頭葉変性症、アルコール性認知症、レビー小体型認知症などがあります。ここでは、アルツハイマー型認知症以外の認知症の平均寿命について解説します。
血管性認知症
日本において、若年性認知症の中で最も多い原因が血管性認知症です。
オランダでの研究によると、血管性認知症と診断された後の生存期間の平均値と中央値は、それぞれ142ヶ月(約12年)・179ヶ月(約15年)でした。
前頭側頭型認知症
日本においては、若年性認知症の中で前頭側頭型認知症も多い原因です。
オランダでの研究によると、前頭側頭型認知症の診断後の生存期間の平均値と中央値は、それぞれ120ヶ月(約10年)135ヶ月(約11年)でした。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳内にα-シヌクレインという異常な蛋白が沈着する病気です。
この病気は幻視やパーキンソン症状、睡眠時の異常行動などがみられることが特徴です。
レビー小体型認知症の場合、診断から死亡までの平均期間は5〜8年とされていますが、個人差があります。
パーキンソン病
パーキンソン病は50歳以上で起こることが多く、中脳にある黒質ドパミン細胞が減少することで起こる病気です。40歳以下で発症する場合を若年性パーキンソン病と呼びます。
パーキンソン病の特徴は、安静時の振戦(ふるえ)、筋固縮、運動緩慢・無動の3つです。
また、意欲の低下や認知機能障害、幻覚、妄想など多彩な症状もみられます。
治療はL-dopaやドパミンアゴニストなどの薬物治療が中心となります。
治療法の進歩により、平均寿命は病気でない方とほぼ変わらないと考えられています。
若年性アルツハイマーの代表的な症状
若年性アルツハイマー病は、高齢者に多い一般的なアルツハイマー病とは異なり、比較的若い年齢で発症するため、日常生活や仕事に大きな影響を与えます。ここでは、その代表的な症状について解説します。
記憶障害
最も特徴的なのが「記憶障害」です。新しい情報を覚えにくくなり、最近の出来事や予定を頻繁に忘れることが増えます。
症状が続く場合は、脳神経内科や認知症外来を受診するとよいでしょう。受診時には具体的な症状の記録を持参すると診断がスムーズになります。緊急性は高くありませんが、早期の受診が生活の質の維持につながります。
視覚と距離感の認識障害
物の距離感や空間の認識が難しくなり、階段の上り下りや車の運転が困難になります。
対策として、家の中に手すりを設置する、滑りにくい床材にする、明るい照明を確保するなどの環境調整が役立ちます。また、安全のために運転は控えることが望ましいです。
生活に支障が出ている場合は、脳神経内科や精神科での診察を検討しましょう。転倒などのリスクを避けるため、早めの受診をおすすめします。
実行機能の低下
物事の段取りを考えるのが難しくなり、判断力や問題解決力が低下します。例えば、料理の手順を間違えたり、買い物で必要なものを忘れたりすることが増えます。
対策として、作業を細かく分けてリスト化する、一度に一つの作業に集中するなどの工夫が効果的です。
この症状が日常生活に影響を与えている場合は、脳神経内科や認知症外来で相談することをおすすめします。早期の受診が進行を遅らせるために役立ちます。
若年性アルツハイマーの末期症状
若年性アルツハイマー病が進行し、末期の状態になると、以下のような症状が現れます。
セルフケアや言語の理解・発語ができなくなる
症状が進むにつれて、自分自身の身なりを整えたり食事をしたり、トイレにいったりするなどの基本的なこともできなくなります。また、言葉の理解や発語もできなくなります。
立つ、座る、歩くなどの基本的なことができなくなる
末期には、基本的な運動能力も失われます。立つ、座る、歩くなどができなくなります。
寝たきりになる
最終的には、寝たきりの状態となります。そして、末期には低栄養状態や脱水になり、また飲み込みの力も失われ、誤嚥性肺炎などの合併症が元で死亡します。
若年性アルツハイマーの主な原因
若年性アルツハイマー病の主な原因として考えられている要因について解説します。
βアミロイド蛋白の脳への蓄積
若年性アルツハイマー病の原因としては、βアミロイド蛋白の断片の脳への蓄積であるプラークがまず考えられています。このプラークが脳の記憶を司る部位を障害し、さまざまな症状が現れます。
高齢で発症するアルツハイマー病と比較すると、後部大脳新皮質という部分に不均一で局所的なアミロイド蛋白の蓄積がみられるとされています。
神経原線維変化
前述のアミロイド蛋白が増加し、代謝が低下することにより形成されたアミロイドの蓄積によって、シナプスが障害を受けます。すると、神経が変性し神経原線維変化と神経細胞死が起こります。そして、認知機能障害が引き起こされるというメカニズムが考えられています。
遺伝的な原因
若年性アルツハイマー病の方のうち、一部の方は家族も同様にアルツハイマー病である場合があります。その際には、遺伝的な要因が関連している可能性があります。一般的なアルツハイマー病よりも、若い年代で病気の症状が起こり始めます。
家族に若くしてアルツハイマー病になった方が多くみられる場合には、遺伝的なカウンセリングを受けることも考慮しましょう。
若年性アルツハイマーになりやすい人の特徴
現在、若年性アルツハイマー病の危険因子として知られているものは家族歴です。その他にも、若年性アルツハイマー病のリスクをあげるかもしれない特徴について紹介します。
家族の中に若年性アルツハイマーの方がいる
アルツハイマー病の方が家族にいることは、若年性アルツハイマー病のリスク因子として知られています。しかし、原因となる遺伝子を持っていても必ずしもアルツハイマー病になるとは限りません。
アルコールの多飲
アルコールの乱用によって、アルツハイマー病を含む若年性認知症のリスクが高まるという報告があります。慢性的なアルコール摂取は脳損傷や神経機能の低下を引き起こし、認知症の発症を早める可能性があります。
糖尿病
糖尿病は、アルツハイマー型認知症のリスクとして知られています。血糖値が高いことで、血管の損傷が起こり、脳に悪影響を及ぼすことが危惧されています。
糖尿病を防ぐことや、糖尿病の場合には治療を受け、適切な血糖コントロールをすることが大切です。
若年性アルツハイマーの治療法
現在のところ、若年性アルツハイマー病を完全に治す治療法は確立されていません。しかし、以下のようなアプローチを取り入れることで、病気の進行を遅らせ、生活の質を維持することが期待できます。
薬物療法
若年性アルツハイマー病の治療の基本となるのが薬物療法です。脳神経内科や認知症外来で、脳内の神経伝達を助けるアセチルコリン分解酵素阻害薬(ドネペジルなど)やNMDA受容体拮抗薬(メマンチンなど)が処方されます。これらの薬は、記憶力や認知機能の低下を和らげ、日常生活の維持に役立つとされています。
治療のために入院は不要ですが、薬の効果や副作用を確認するために定期的な通院が必要です。初期段階では1〜3か月ごとに経過観察を行い、症状の進行に応じて薬の調整が行われます。
認知療法とリハビリテーション
薬物療法に加え、認知療法やリハビリテーションを取り入れることで、認知機能の維持を目指します。認知療法では、記憶力や判断力を保つためのトレーニングを行い、日常生活のスムーズな動作をサポートします。
リハビリは、専門のリハビリテーション施設、介護老人保健施設、デイサービスなどで受けることができます。パズルや記憶ゲーム、日常生活のシミュレーションを通じて、脳を活性化することが目的です。
生活習慣の改善
病気の進行を抑えるためには、健康的な生活習慣の維持も重要です。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレス管理を心がけることで、脳の健康を支えることができます。
「若年性アルツハイマーの寿命が短い理由」についてよくある質問
ここまで若年性アルツハイマーの寿命が短い理由などを紹介しました。ここでは「若年性アルツハイマーの寿命が短い理由」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
若年性アルツハイマーを発症すると何年生きられるのでしょうか?
前田 佳宏(医師)
若年性アルツハイマー病を発症してからの寿命には個人差があります。
オランダでの研究によると、その研究では、若年性アルツハイマー病の場合、診断後の平均寿命は111ヶ月(約9年)、生存期間の中央値は103ヶ月(約9年)でした。ただし、何年生きられるのかは個人差が大きいです。適切な治療や社会的支援を受けることなどで、QOL(生活の質)を保ちながら生活することも可能になるでしょう。
編集部まとめ
若年性アルツハイマー病は、高齢になってから発症するアルツマイマー病とは異なる点があります。診断されてからの生存期間は、平均で約9年程度ではないかとする報告があります。しかし、病気の進行速度や余命は個人差があります。適切な治療を受けることが大切です。おかしいなという症状がみられる場合には、早めに医療機関を受診しましょう。
「若年性アルツハイマー」と関連する病気
「若年性アルツハイマー」と関連する病気は8個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経内科・脳神経外科の病気
- 血管性認知症
- 前頭側頭葉型認知症
- レビー小体型認知症
精神科の病気
- うつ病
- 不安障害
若年性アルツハイマー病と関連する病気には、こうした病気があります。これらの病気が進行や発症に影響を及ぼす場合があり、早期のケアが大切です。
「若年性アルツハイマー」と関連する症状
「若年性アルツハイマー」と関連している、似ている症状は15個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
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これらの症状が進行すると、生活の中で困る場面が増え、周りのサポートが必要になります。




