「聴力検査の正常値」はご存知ですか?異常値から見つかる病気も医師が解説!

聴力検査の正常値はご存知ですか?メディカルドック監修医が主な原因や考えられる病気・何科へ受診すべきか・対処法などを解説します。気になる症状は迷わず病院を受診してください。

監修医師:
木村 香菜(医師)
目次 -INDEX-
聴力検査とは?
健康診断でおなじみの「1kHz・4kHzの聴力テスト」だけでなく、病院で行う本格的な聴力検査ではさらに詳しいデータが得られます。気になる症状があれば、迷わず耳鼻咽喉科を受診してください。
聴力検査ではどうやって耳の聞こえ方を測る?
聴力検査は、耳がどの程度音を感じ取り、どこに障害があるのかを調べるために行われます。最も一般的なのが「純音聴力検査」と呼ばれる方法で、専用のヘッドホンを装着し、さまざまな高さや大きさの音を聞いていく検査です。被検者は、聞こえたタイミングでボタンを押したり手を挙げたりして反応します。この反応から「どの高さの音がどれくらいの大きさで聞こえるのか」を測定し、耳の感度を調べることができます。
また、より詳細な聞こえの状態を知るために、言葉がどれくらい聞き取れるかを確認する語音聴力検査や、鼓膜や中耳が適切に動いているかをみるティンパノメトリーなどが行われることもあります。症状や目的に合わせ、これらの検査を組み合わせることで、外耳から内耳、さらに聴神経までのどこに問題があるのかを判断することができます。
なお、耳鼻咽喉科で行う標準的な聴力検査は保険適用となり、自己負担額は数百円〜1,000円前後と考えられます。健康診断では簡易的な聴力検査が採用されることが多く、より精密な評価が必要な場合は耳鼻科での純音聴力検査が推奨されます。
健康診断で行う聴力検査の特徴とは?
健康診断で行われる聴力検査は、より簡易的なスクリーニングを目的としたものです。主に1,000Hzと4,000Hzという2種類の音の高さについて、ある程度の音量まで聞こえるかどうかを調べます。これは日常会話で重要な音や、加齢とともに低下しやすい高音域を中心にチェックするためのものです。より細かな結果が必要な場合は、耳鼻咽喉科での精密検査が推奨されます。
聴力検査の正常値とは?
健康診断と耳鼻咽喉科などでのチェックでは、少々基準が異なります。
健康診断における聴力検査の正常値
健康診断では、1kHzと4kHzの音が25〜30dB程度までに聞こえれば「正常」と判定されます。30dBを超えると、軽度の聞き取りにくさがあると判断され、再検査の対象になることがあります。特に4kHzで40dBを超える場合、高音域の聞こえが低下している可能性があり、加齢性難聴や騒音による影響が疑われます。
耳鼻咽喉科における聴力検査の正常値
耳鼻科で行う純音聴力検査では、より詳細に複数の周波数を調べます。
0〜20dB以内が正常の範囲であり、20〜25dBになると軽度の低下が疑われます。健康診断と異なり、気導と骨導を区別して測定するため、中耳に原因があるのか、内耳や神経に原因があるのかを判断できるのが特徴です。急に片耳だけ40dB以上の低下が見られる場合は突発性難聴の可能性があり、早急な受診が必要です。
年齢別の聴力の目安(dB)
日本人の方を対象にした聴力閾値に関するデータによると、以下のような結果が得られています。加齢により聴力はゆっくり低下していきます。その進み方には個人差がありますが、目安にしてみると良いでしょう。
【10代(若年期)】聴力の目安
調査によると、10代の聴力の平均閾値は、1,000Hzで男性は6.5dB、女性は6.4dBでした。
4,000Hzで男性は4.5dB、女性は4.6dBでした。良好な結果といえますが、近年はイヤホンによる大音量の音楽が原因で高音域が低下するケースが増えているため、若い世代でも注意が必要です。
【30代(働き盛り)】聴力の目安
調査によると、30代の聴力の平均閾値は、1,000Hzで男性は8.3dB、女性は5.9dBでした。
4,000Hzで男性は6.7dB、女性は4.5dBでした。30代では、多くの人が10〜20dBの範囲に収まり、日常生活に支障が出ることはほとんどありません。しかし、高音域の聞こえがわずかに低下し始める人もおり、人混みのなかで相手の声が聞き取りにくくなるなど、環境によって不便を感じることがあります。
【50代(加齢変化が出やすい年代)】聴力の目安
調査によると、50代の聴力の平均閾値は、1,000Hzで男性は10.3、女性は8.7dBでした。
4,000Hzで男性は12.3dB、女性は8.0dBでした。50代に入ると、高音域を中心に20〜35dB程度まで閾値が上昇する人が増え、加齢性の変化が現れやすくなります。会話で聞き返しが増えたり、電話で相手の声がこもって聞こえたりするといった症状が出始めることがあります。ただし、急に片耳だけ悪化した場合は加齢だけでは説明がつかず、病気が隠れている可能性があります。
聴力検査結果の見方
検査を受けても、よく見方がわからないという方もいるかもしれません。以下を参考にしてみるとよいでしょう。
聴力検査のオージオグラムのグラフの見方(聴力レベル)
オージオグラムは、周波数(音の高さ)と聴力レベル(音の大きさの閾値)を示すグラフで、耳鼻科での検査後に作成されます。横軸には125〜8,000Hzまでの音の高さ、縦軸には0〜120dBの音の大きさが表示され、下へ行くほど聞こえにくいことを表します。右は赤、左は青で示され、左右差の有無を確認できます。高音域が下がっていれば加齢や騒音が、高音より低音が下がっていればメニエール病や中耳炎が疑われます。
聴力検査の4分法・3分法・6分法とは
純音聴力検査において、平均聴力レベルの算出方法にはいくつかのものがあります。
周波数 500、1,000、2,000Hz のそれぞれの聴力レベルをa,b,c (dB) としたとき、以下のような計算が用いられます。
・3分法
(a+b+c)/3 という式で算出された数値(dB)
・4分法
(a+2b+c)/4という式で算出された数値(dB)
日本では、(a+2b+c)/4 が用いられることが多いですが、明記することが望ましいとされています。
気導聴力・骨導聴力の違い
気導聴力はヘッドホンからの音を使い、骨導聴力は骨に直接振動を与えて内耳に音を届けるという違いがあります。気導が悪くても骨導が保たれているときは中耳の問題(伝音難聴)が疑われますが、両方が悪い場合は内耳や神経の問題(感音難聴)が考えられます。
聴力検査結果の左右の確認ポイント
オージオグラムでは左と右での差を見ることが重要です。左右の差が10dB以上ある場合は注意が必要で、特に片耳だけ急に悪くなっている場合は突発性難聴や聴神経腫瘍などの可能性があり、精密検査を検討する必要があります。
健康診断における聴力検査の異常値・再検査基準と内容
健康診断で30dB以上の聞こえにくさが確認された場合や、左右で大きな差がある場合には再検査が推奨されます。再検査では標準純音聴力検査を行い、必要に応じてティンパノメトリーや耳鏡検査を追加して、中耳の炎症や耳垢の影響などを調べます。費用は保険適用内で収まり、数百円〜1,000円前後で受けられます。明らかな聴力低下や急な症状がある場合は、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診することが重要です。
「聴力検査」の異常で気をつけたい病気・疾患
ここではメディカルドック監修医が、「聴力検査」に関する症状が特徴の病気を紹介します。
どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。
突発性難聴
突発性難聴は、理由もなく突然起こる感音難聴で、朝起たら片耳が聞こえない、耳鳴りが急に始まるなどの症状が特徴です。治療はステロイド薬を中心に行われ、発症から1週間以内の治療開始が予後を大きく左右します。そのため、少しでも異変を感じたらすぐに耳鼻科を受診することが大切です。
メニエール病
メニエール病は、ぐるぐる回るような強いめまいと耳鳴り、難聴を繰り返す病気で、内耳にリンパ液が溜まる「内リンパ水腫」が原因とされています。治療は利尿薬やめまい止め、生活改善が中心です。症状を繰り返すことで聴力が徐々に低下することもあり、早めの受診が重要です。
中耳炎
中耳炎は子どもに多い病気ですが、大人でも発症します。耳の痛みや発熱、耳だれなどがあり、鼓膜の奥に炎症が起こると聞こえ方が悪くなることがあります。抗菌薬治療や鼓膜切開が必要となる場合もあります。
聴神経腫瘍
聴神経腫瘍は聴神経にできる良性腫瘍で、ゆっくりと進行するため気づきにくいことがあります。片耳の聞き取りにくさや耳鳴り、ふらつきなどが続く場合は精密検査が必要です。診断にはMRIが用いられます。
騒音性難聴
大きな音に長時間さらされることで内耳の細胞がダメージを受け、聞こえにくさが生じるのが騒音性難聴です。工場やライブ会場などの騒音だけでなく、イヤホンの大音量も原因となります。高音域から低下するのが特徴で、耳栓の使用や音量の調整が予防につながります。
「聴力検査」は定期的に受けた方が良い?
加齢に伴う聴力低下は誰にでも起こり、自覚がないまま進行することがあります。健康診断の簡易聴力検査だけでは見逃される場合もあり、特に40歳以降は1〜2年に一度、耳鼻科での精密な聴力検査を受けておくと安心です。
「聴力検査の正常値」についてよくある質問
ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「聴力検査の正常値」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
聴力検査の正常値は何dB未満なのでしょうか?
木村 香菜 医師
正常聴力は、日常生活で聴覚的な支障が生じない聴力の範囲とされ、平均聴力レベル25dB未満で、最高語音明瞭度80%以上と定められています。
一般的な健康診断や人間ドックでは、1,000、4,000Hzともに30dB以下が基準とされています。ただし、年齢とともに高音域である4,000Hzの聴力は低下するため、高齢者の場合は40dBほど聞こえれば異常なしと判定されることもあります。
耳が良いと言われるのは何dBなのでしょうか?
木村 香菜 医師
0〜10dB程度の聞こえであればとても良好な聴力といえます。若い世代にはこの範囲の方が多い傾向があります。
標準純音聴力検査とはどんな検査ですか?健康診断で受けられますか?
木村 香菜 医師
純音聴力検査は音の大きさの閾値を調べる検査で、耳鼻科ではより多くの周波数を用いて詳細に評価します。健康診断で行われるものは簡易版で、詳しい結果が必要な場合は耳鼻科での検査が必要です。
聴力検査は難聴の自覚症状がなくても定期的に受けるべきですか?
木村 香菜 医師
はい。加齢性の難聴や騒音性難聴は自覚なしに進行することが多いため、定期的なチェックを受けたほうがよいでしょう。
編集部まとめ
健康診断の聴力検査は、日常生活では気づきにくい聴力の変化を早期に察知するための貴重な機会です。25〜30dBを超えると注意が必要で、耳鼻科の精密検査を受けることで原因が明らかになることがあります。加齢や騒音による聴力低下は少しずつ進行しますが、突発性難聴など急に症状が出る病気もあるため、少しでも気になる変化があれば早めに耳鼻咽喉科を受診してください。
「聴力」の異常で考えられる病気
「聴力」から医師が考えられる病気は22個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
脳神経内科系
- 脳腫瘍(小脳橋角部腫瘍など)
- 脳梗塞(特に脳幹部)
- 多発性硬化症
- 神経変性疾患
循環器内科系
- 動脈硬化
- 血流障害による内耳虚血
- 高血圧による内耳血流低下
内科系
- 糖尿病(血流障害による内耳障害)
- 甲状腺疾患
- 自己免疫疾患(AIED:自己免疫性内耳疾患)
- ストレス・自律神経失調
- 薬剤性難聴(抗がん剤・抗菌薬など)
これらの疾患は、聴力検査での異常だけでは診断が確定しないため、耳鼻咽喉科での精密検査やCT/MRIなどの追加検査が必要になることがあります。
「聴力」の異常で考えられる症状
「聴力」から医師が考えられる症状は14個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 耳が詰まった感じがする
- 耳鳴りがする(高音・低音・持続性など)
- 片方だけ音が響く、こもって聞こえる
- めまい・ふらつきがある
- 音が歪んで聞こえる
- 人の声が聞き取りにくい
- 会話の聞き返しが増えた
- 耳の痛みがある
- 耳だれが出る
- 頭痛を伴う
- 集中力の低下・疲れやすさ
- 立ちくらみ
- 高音・低音どちらかだけ聞こえにくい
- 突然片側が聞こえなくなった
これらは耳の病気に限らず、脳や神経、循環器の異常が背景にあるケースもあるため、症状の組み合わせは診断の大切な手がかりになります。



