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「至適血圧」の値はご存じですか?低血圧との違いや予防できるリスクも医師が解説!

 公開日:2025/12/18
「至適血圧」の値はご存じですか?低血圧との違いや予防できるリスクも医師が解説!

至適血圧をご存知ですか?メディカルドック監修医が定義や維持することのメリットなどを解説します。

伊藤 陽子

監修医師
伊藤 陽子(医師)

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浜松医科大学医学部卒業。腎臓・高血圧内科を専門とし、病院勤務を経て2019年中央林間さくら内科開業。相談しやすいクリニックを目指し、生活習慣病、腎臓病を中心に診療を行っている。医学博士、産業医、日本内科学会総合内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本医師会認定産業医、公認心理師。

至適血圧(してきけつあつ)とは?

「至適血圧」という言葉を聞いたことはありますか?至適血圧とは何か、高血圧や低血圧、正常血圧との違いなど、詳しく解説します。

至適血圧の定義

高血圧治療ガイドライン2014[陽伊1] において、診察室で測定したときの収縮期血圧(最高血圧)が120mmHg未満かつ拡張期血圧(最低血圧)が80mmHg未満を至適血圧と定義し、130/85mmHg未満の血圧を正常血圧、140/90mmHg未満を正常高値血圧としていました。しかし、120/80mmHg未満での心血管病の発症率が最も低く、これより上昇することで心血管疾患の発症率が高まる事より、120/80mmHg以上の血圧を正常血圧とすることは適当ではないと考えられ、高血圧ガイドライン2019以降では120/80mmHg未満を正常血圧と定義しています。このため、至適血圧と正常血圧は同じと考えてよいでしょう。

血圧正常値と至適血圧の違い

前述の様に高血圧治療ガイドライン2019以降では、診察室で測定したときの収縮期血圧が120mmHg未満かつ拡張期血圧が80mmHg未満(以下、120/80mmHg未満と表記)を正常血圧と分類しており、これが血圧正常値となります。また家庭で測定した場合は、115/75mmHg未満が血圧正常値です。つまり、以前至適血圧と呼ばれていた血圧が、現在の血圧正常値なのです。

低血圧と至適血圧の違い

至適血圧と呼ばれていた診察室血圧120/80mmHg未満は、脳心血管病の発症リスクが低いとされる理想的な血圧の値です。
一方、低血圧は血圧が低めの状態を示します。一般的に成人の場合で収縮期血圧100mmHg未満が低血圧といわれますが、明確な診断基準はありません。
低血圧であっても身体が正常に機能していれば、とくに問題ないでしょう。ところが、立ちくらみやめまいなどの症状がある場合や、ほかの病気や薬の影響で低血圧を引き起こしている場合には、医師の診察を受けることがすすめられます。

至適血圧を保つことのメリットは?

至適血圧を保つことは、心血管疾患や脳卒中、腎疾患の予防につながります。血圧の高い状態が続くと、血管が厚く硬くなり、しなやかさを失ってしまいます。そうすると血管がもろくなり、心血管疾患や脳卒中を引き起こしやすくなるのです。

心血管疾患のリスク低下

至適血圧を保てば、心血管疾患の発症や死亡のリスクを下げられます。
血圧の高い状態が続くと血液を送り出す心臓に負担がかかり、心臓が肥大し、心不全を引き起こすこともあります。また心臓の周りにある冠動脈がしなやかさを失うと、冠動脈が一時的に閉塞する狭心症や完全に閉塞する心筋梗塞を引き起こしやすくなるのです。

脳卒中・腎疾患予防

至適血圧を保つことは、脳卒中や腎疾患の予防にもつながります。
実際、診察室血圧が120/80mmHgを超えて血圧が高くなると、脳卒中などの脳血管病や慢性腎臓病などの腎疾患に罹患しやすくなるとわかっています。血圧の高い状態が続くと、脳内の血管が詰まったり破れたりしやすくなるため、脳卒中の発症リスクが高まるのです。
また腎臓の内部には細い血管があります。血圧が高い状態が続くと腎臓内部の細い血管が詰まりやすくなるため、腎臓の機能が低下します。

血圧の測定方法と注意点

血圧は時間や場所、精神状態、測定時の姿勢など、ささいなことでも変動します。そのため、ご家庭で測定する際も正しい方法で行うことが大切です。

家庭血圧と診察室血圧の違いについて

自宅で測定する血圧を家庭血圧、病院やクリニックの診察室で測定するものを診察室血圧といいます。血圧はさまざまな要因によって変動するため、家庭血圧と診察室血圧が一致するとは限りません。
なお、高血圧を診断する際に家庭血圧と診察室血圧で診断が異なった場合は、家庭血圧の診断を優先することとなっています。

正しい血圧の測定方法

家庭血圧を測定する場合は、原則として上腕式(二の腕に巻くタイプ)を使用します。上腕式の血圧測定器の場合、カフ(腕帯)を正しく巻き付けたら、ひじをテーブルに置いて測定します。静かな環境で、背もたれ付きの椅子に座り、1〜2分安静にしてから測定を開始してください。
足を組む、会話をする、測定前の喫煙、飲酒、カフェイン摂取は血圧が変動してしまうため避けましょう。また、トイレを我慢していると血圧が上がりやすいため、事前に済ませておくことも大切です。
血圧の測定は1機会に原則2回行い、平均値をその機会の血圧値とします。

「血圧」の異常で気をつけたい病気・疾患

ここではメディカルドック監修医が、「血圧」に関する病気を紹介します。
どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。

低血圧

明確な診断基準はありませんが、一般的に収縮期血圧100mmHg未満が低血圧といわれます。また、立ち上がったときに急激に血圧が低下する起立性低血圧の場合は、立位の収縮期血圧が寝ている状態より20mmHg以上低くなります。
低血圧の原因は病気や薬の影響によるもの、原因のわからない体質的なものなどさまざまです。立ちくらみやめまい、だるさなどの症状がある場合には、一度循環器内科を受診すると安心です。
また急に立たない、暴飲暴食を避ける、水分を十分に摂る、適度に運動するなど生活習慣を見直すことで症状が緩和される可能性もあります。

高血圧

高血圧の診断基準は、測定環境によって下記のように異なります。

・診察室血圧:収縮期血圧140mmHg以上かつ/または拡張期血圧90mmHg以上
・家庭血圧:収縮期血圧135mmHg以上かつ/または拡張期血圧85mmHg以上

高血圧そのものは自覚症状がないことが多く、早期発見のためには定期的な血圧測定が大切です。高血圧を長年放置すると、動脈硬化が進行し、脳卒中や心血管疾患など重篤な病気を引き起こしやすくなります。健診などで高血圧に気付いたら、症状がないからと油断せず早めに循環器内科を受診しましょう。
なお、高血圧は塩分の過剰摂取や、肥満、加齢などさまざまな要因が組み合わさって生じます。高血圧になる前から、塩分少なめの食事や適度な運動、禁煙などを心がけましょう。

脳卒中

脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりして、さまざまな症状を引き起こす病気のことです。脳卒中の典型的な症状は、片方の手足に力が入らない、顔の片側がゆがむ、言葉が出ない、他人の言うことを理解できないなどです。このような症状が見られたら、すぐに救急車を呼んでください。
血栓(血の塊)を溶かす薬を用いた経静脈的線溶療法や、カテーテルを使用した経動脈的血行再建療法などで、すぐに治療を開始すれば脳梗塞が完治する可能性は高まります。ただし、脳卒中は後遺症が残ることも少なくありません。
脳卒中を引き起こす最大の原因は高血圧ですから、食塩摂取量の見直しや野菜や果物を食べるなど高血圧予防に努めるましょう。そのほか、脳卒中の原因には不整脈の一種である心房細動、糖尿病、喫煙、肥満などがあります。

心筋梗塞

心筋梗塞は、動脈硬化や血栓により心臓の血管が完全に詰まり、心筋の一部が壊死する病気です。心筋梗塞が生じると胸に激痛が起こり、呼吸困難や脈の乱れ、吐き気、冷や汗などの症状が現れます。一般的に、痛みは20分以上続きます。
なお、心臓の血管が一瞬で詰まると突然死することもある病気です。心筋梗塞が疑われるときには、できるだけ早く救急車を呼んでください。
心筋梗塞の原因には、喫煙、脂質異常症、高血圧などが挙げられます。普段から禁煙する、暴飲暴食をしない、塩分を摂りすぎないようにするなど生活習慣を見直すことが、脳卒中の予防につながります。

健康的な至適血圧を目指す・維持するための生活習慣とは?

血圧は、毎日のちょっとした習慣によっても変化するものです。健康的な血圧を保つためには、食事や運動など基本的な生活習慣を整えることが大切です。ここでは、生活習慣を改善するヒントを紹介します。

食生活の改善

脳心血管病の発症リスクが低いとされる至適血圧を目指す・維持するには、日々の食事が大切です。
とくに血圧が高めの方は、減塩を意識した食事を心がけましょう。日本高血圧学会では、高血圧の方の減塩目標を1日6g未満と推奨しています。しかしラーメンなど麺類の汁を全て飲み干すと、それだけで6g近い塩分を摂ってしまうことになるのです。汁を全て残せば2〜3gの減塩になります。ほかにも漬物や、干物、ハムやベーコンなどの加工食品には塩分が多く含まれますので、食べる頻度や量に注意が必要です。
一方、野菜や果物に含まれるカリウムには、体内の余分な塩分を排泄しやすくする働きがあります。減塩を意識するとともに、野菜や果物の摂取を心がけてください。
低血圧の方は、1日3回規則正しく食事を摂り、健やかな身体づくりを目指しましょう。たんぱく質やビタミン、ミネラルが不足しないよう、主食、主菜、副菜のそろった食事を摂ることが理想です。また、適度な水分補給も大切です。喉が渇く前にこまめに水分を補給しましょう。

運動の習慣をつける

運動の習慣をつけることは、至適血圧を維持する・目指すうえでも重要です。
高血圧の方が定期的に有酸素運動を行うと、収縮期血圧は3〜5mmHg、拡張期血圧は2〜3mmHg下がることが期待されています。
低血圧の方も運動を習慣にすることで、血液循環の改善や、筋肉量の増加、体力アップが見込めます。その結果、低血圧に伴う症状が軽減されることもあるでしょう。
いずれの場合も、ウォーキングなど無理のない範囲で運動を始めることが大切です。

禁煙・禁酒を心がけましょう

喫煙や飲酒も血圧に影響を与えるため、できるだけ控えることが望ましいです。
とくに喫煙の影響は大きく、紙巻きタバコを1本吸うと、15分以上血圧上昇を引き起こすことが知られています。また喫煙は高血圧だけでなく、脳心血管病の発症リスク増加にも直接関わっています。したがって、低血圧の方であっても禁煙が望ましいです。
大量の飲酒も血圧上昇につながります。そのため、高血圧を管理するうえでは、男性の場合1日あたりエタノールで20〜30ml以下、女性は1日10〜20ml以下に制限することが望ましいとされています。なおエタノール20〜30mlは、ビール中瓶1本程度です。
一方で、飲み方によっては飲酒が一時的な血圧低下につながることも知られています。それゆえ、低血圧の方が飲酒すると血圧低下に伴う症状が悪化する可能性もあります。飲酒の際は、ご自身の体調に合わせて適度に楽しみましょう。

ストレス管理を意識して

ストレスの管理は、至適血圧を目指す・維持するために大切です。最近の研究で、心理的・社会的なストレスが高血圧の発症を2倍以上高めるとの報告がありました。
また、ストレスによって自律神経のバランスが乱れ、低血圧を引き起こすことも少なくありません。ストレスは誰もが感じるものですが、自分に適した対処法を見つけられるとよいですね。

「至適血圧とは」についてよくある質問

ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「至適血圧とは」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。

至適血圧の「至適」とはどういう意味でしょうか?

伊藤 陽子医師伊藤 陽子(医師)

「至適」は、「最適な」という意味を持っています。至適血圧の場合は、脳心血管病の発症リスクが低いとされる理想的な血圧値のことを至適と表現しています。ただし、前述のとおり以前至適血圧と分類されていた血圧(120/80mmHg未満)は、現在「正常血圧」と定義されるようになりました。

至適血圧の方が正常血圧より低い数値なのでしょうか?

伊藤 陽子医師伊藤 陽子(医師)

至適血圧と正常血圧は、同じ血圧値です。診察室血圧120/80mmHg未満のことを高血圧治療ガイドライン2014では至適血圧、高血圧治療ガイドライン2019以降では正常血圧と分類しています。なお、高血圧治療ガイドライン2019では家庭血圧での分類も定められるようになり、正常血圧は115/75mmHg未満です。

血圧が低ければ低いほど、至適血圧に近づけますか?

伊藤 陽子医師伊藤 陽子(医師)

血圧は低ければ低いほどよい、といったものではありません。血圧が低いことにより立ちくらみやめまいなどの症状がある場合や、ほかの病気や薬の影響で低血圧を引き起こしている場合には、至適血圧とはいえないのです。

まとめ 「至適血圧」は理想的な血圧値!

血圧が高すぎるのはもちろん、低すぎても健康に影響を及ぼします。以前は脳心血管病の発症リスクが低いとされる理想的な血圧(診察室血圧120/80mmHg未満)が「至適血圧」と呼ばれており、現在はこの範囲を「正常血圧」と呼びます。
食事や運動、ストレス管理といった基本的な生活習慣を見直すことで、理想的な血圧が保ちやすくなるのです。ご紹介した方法も参考に、できることから実践しましょう。

「血圧」の異常で考えられる病気

「血圧」から医師が考えられる病気は7個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。

循環器系

脳神経系

内科系

血圧の異常は、さまざまな疾患の原因となります。健康診断で異常が指摘されたら、放置せずにできるだけ早く内科や循環器内科を受診しましょう。

「血圧」の異常で考えられる症状

「血圧」から医師が考えられる症状は5個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。

関連する病気

  • 頭が痛い
  • 肩がこる
  • たちくらみがする
  • めまいがする
  • 体がだるい

これらの症状はほかの病気でも起こりうるものです。また、高血圧は自覚症状がない場合もあるため、血圧に異常がある場合はすみやかに内科や循環器内科を受診なさってください。

この記事の監修医師