「女性でHDLコレステロールだけ高くなる原因」はご存知ですか?医師が徹底解説!

女性でHDLコレステロールだけ高くなる原因とは?Medical DOC監修医が女性のHDLコレステロールの基準値・高い際に考えられる病気・HDLコレステロールを下げる食べ物・予防法などを解説します。

監修医師:
木村 香菜(医師)
目次 -INDEX-
コレステロールとは?(悪玉LDL/善玉HDL)
コレステロールは、体内の細胞膜やホルモンの生成に必要な脂質です。ただし、その種類によって健康への影響が異なります。
善玉コレステロール(HDLコレステロール)
HDLコレステロールは、血管内の余分なコレステロールを肝臓に運び、排出を促します。また、脂質が溜まり動脈硬化を起こした血管からもコレステロールを引き抜くことができます。そのため、心血管疾患のリスクを下げる効果があります。ゆえに、「善玉」コレステロールと呼ばれることがあります。
悪玉コレステロール(LDLコレステロール)
LDLコレステロールは、過剰になると血管壁に蓄積し、動脈硬化や心筋梗塞のリスクを高めます。そのため、「悪玉」コレステロールと呼ばれることがあります。
女性でHDLコレステロールだけ高くなる原因
女性は、エストロゲンというホルモンの働きによって男性よりもHDLコレステロール値が高いことが知られています。ここでは、女性特有のホルモンバランスや、他の生活習慣などがHDLコレステロールの上昇に与える影響について解説します。
エストロゲンの影響
エストロゲンはHDLコレステロールを高める作用があります。そのため、性成熟期の女性では男性よりもHDLコレステロール値が高い傾向にあります。特に、排卵期にはエストロゲンのレベルが上昇し、HDLコレステロールの値も上がることが報告されています。
閉経後は、逆にエストロゲンが低下するため、HDLコレステロール値も下がっていきます。
CETP欠損症
日本で1980年代に発見された、遺伝性の脂質代謝異常症です。
コレステリルエステル転送蛋白(CETP)が生まれつき欠損していることで、血中のHDLコレステロールが増加します。CETP欠損症については現在も研究が進められているところです。家族の方でHDLコレステロールが異常に高く、健康診断などでご自身も異常を指摘された場合には、一度内分泌内科または内科を受診すると良いでしょう。
大量飲酒
慢性的に大量にお酒を飲むと、先述したCETP蛋白活性を低下することが知られています。すると、HDLコレステロール値が高くなる場合があります。
厚生労働省からは、お酒の1日の目安として、ビールなら中瓶1本、清酒なら1合(180ml)、ワインなら一杯120ml程度としています。女性はより少ない方が良い、ともいわれています。飲酒をするのであれば、適量を守り、週に1ないし2日の休肝日を設けましょう。
特定の薬剤の影響
更年期障害に対するホルモン補充療法(HRT)などで、エストロゲン製剤が用いられることがあります。このエストロゲン製剤の働きによって、HDLコレステロール値の上昇が見られる場合があります。
原発性胆汁性胆管炎
原発性胆汁性胆管炎(Primary biliary cholangitis:PBC)という病気は、病因が未だ解明されていない慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患です。中年以降の女性に多いとされています。
胆道系酵素が増えたり、抗ミトコンドリア抗体が高くなったりすることが多いです。血中のコレステロール値、特にHDLコレステロールの上昇もみられます。
無症状である場合もありますので、健康診断などで肝機能障害を指摘された場合には、消化器内科を受診しましょう。
女性のHDLコレステロールの基準値
ここでは、女性のHDLコレステロールの基準値を解説します。
男女別・HDLコレステロールの基準値
2019年、日本臨床検査標準協議会 基準範囲共用化委員会によって男女のHDLコレステロールの値は以下のように定められました。
項目名称 | 項目 | 単位 | 性別 | 下限 | 上限 |
---|---|---|---|---|---|
HDLコレステロール | HDL-C | mg/dL | 男 | 38 | 90 |
女 | 48 | 103 |
このように、男女で多少の違いがあります。
しかし、現状では健康診断の基準値としては男女同じものを採用している医療機関が多いと考えられます。実際に、人間ドック学会・予防医療学会による判定区分では以下のようになっています。これは男女共通です。
- ・40mg /dL以上:正常
- ・30−39mg /dL:要経過観察
- ・29mg /dL以下:要精密検査
なお、特定保健指導では、体格指数に加えて血圧や血糖値、脂質のいずれかのリスクを評価します。この際の脂質においては中性脂肪150mg /dL以上、またはHDLコレステロール40mg /dL未満とされています。
女性の年齢別・HDLコレステロールの基準値
年齢別にHDLコレステロールの基準値として定まったものは現時点ではありません。
令和元年国民健康・栄養調査報告の結果をご紹介しましょう。
- ・20歳以上で脂質を下げる薬を内服していない場合、全年齢層の女性の血中のHDLコレステロールは男性のそれより高かった(男性/女性:58.5/68.4)。
- ・女性の血中HDLコレステロールの平均値は、年齢とともに次第に高くなり、50−59歳の年齢層が最も高く、その後は、徐々に低くなった。
女性が健康診断・血液検査で「HDLコレステロールが高い」と診断された場合に気をつけたい病気・疾患
ここではMedical DOC監修医が、「女性のHDLコレステロールが高い」に関する病気を紹介します。
どのような病気や症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。
潜在性甲状腺機能低下症
潜在性甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンが正常範囲内であるものの、その分泌を刺激するホルモン(TSH)が上昇している状態です。主に自己免疫疾患やヨウ素の過不足が原因となります。
軽症の場合、経過観察を行いますが、症状が進行した場合には甲状腺ホルモン補充療法を行います。
疲れやすさ、寒がり、皮膚の乾燥などの症状がある場合、内分泌科を受診しましょう。
原発性胆汁性胆管炎
原発性胆汁性胆管炎は、胆管が慢性的に破壊される自己免疫疾患です。初期には無症状ですが、進行すると黄疸やかゆみが現れます。
治療にはウルソデオキシコール酸(UDCA)などの薬物療法が用いられます。
黄疸(白目や手足の皮膚が黄色くなる)や慢性的なだるさを感じた場合、消化器内科の受診をおすすめします。
慢性閉塞性肺疾患
慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)は喫煙や大気汚染が主な原因で、気道が狭まり呼吸困難を引き起こします。一部の患者ではHDLコレステロール値が上昇することが報告されています。
禁煙や吸入薬を用いた治療、リハビリテーションが推奨されます。
慢性的な咳や息切れが続く場合、呼吸器内科を受診してください。
CETP欠損症
CETP欠損症は、コレステリルエステル転送蛋白(CETP)の欠損によりHDLコレステロールが異常に高くなる遺伝性疾患です。日本など特定の地域に多いことが知られています。
現在のところ、根本的な治療法はありませんが、適切な食事指導やリスク因子の管理が重要です。
HDLコレステロールが極端に高い場合、脂質異常症を専門とする内科医に相談しましょう。
その他の家族性高HDL血症
遺伝性の要因によりHDLコレステロールが高くなる家族性高HDL血症が知られています。この状態は、他の脂質異常症と異なり必ずしも健康リスクを伴わない場合もあります。
それぞれに対して、詳細な診断と必要に応じた管理がすすめられます。
家族内で同様の脂質異常症がある場合、内科で相談してください。
HDLコレステロールを下げる可能性の高い食べ物・食生活
HDLコレステロールが高すぎて問題になるということは少ないと考えられます。ここでは、HDLコレステロールを適切なレベルにするためのヒントについて解説しましょう。
大量飲酒を控える
長期間大量に飲酒をすると、CETP(コレステロールエステル転送蛋白)というタンパク質の働きが低下してしまうとされています。その結果、高HDLコレステロール血症につながる場合があります。お酒はほどほどにしておきましょう。
食物繊維を多く摂る
食物繊維は脂質代謝を改善し、HDLコレステロール値を適切な範囲に保つ効果が期待されます。
オート麦、全粒粉パン、野菜、果物などがあります。
オメガ3脂肪酸を含む食品を摂る
オメガ3脂肪酸は血液中の脂質バランスを整え、健康なコレステロール値を維持します。
青魚(サバ、イワシ、サンマ)、亜麻仁油、チアシードなどがあります。
過剰な飽和脂肪酸を控える
飽和脂肪酸の過剰摂取は、コレステロール全体のバランスを崩す可能性があります。
脂肪分の多い肉、バター、加工食品の摂取を減らすことが大切です。
適量のナッツ類を摂取
ナッツ類に含まれる不飽和脂肪酸は、コレステロール値に良い影響を与えます。
アーモンド、クルミ、カシューナッツなどがあります。
HDLコレステロールの上昇を抑えるための予防法
HDLコレステロールを適切に保つためには、日々の生活習慣の改善が重要です
適度な運動を取り入れる
有酸素運動は脂質代謝を改善し、コレステロール値のバランスを整える効果があります。
食事・生活習慣で気をつけるポイントとして、1日30分程度のウォーキングやジョギングを継続することがあります。
飲酒量を適切に保つ
大量飲酒は、CETPの活性を抑え、HDLコレステロール値を上昇させる可能性があります。お酒はほどほどにしておきましょう。
ストレス管理を心がける
慢性的なストレスは脂質代謝に悪影響を及ぼします。リラックスすることでHDLコレステロール値を安定させます。趣味やリラクゼーション法を、日常生活に取り入れる様にすると良いでしょう。
適切な体重を維持する
肥満は脂質異常症のリスクを高めるので、適正体重の維持が重要です。バランスの良い食事と運動を組み合わせましょう。
定期的に健康診断を受ける
脂質異常症は、自覚症状がほとんどないこともあります。早期発見と適切な対応のため、年に1回以上の健康診断を受けるようにしましょう。
「女性でHDLコレステロールだけ高くなる原因」についてよくある質問
ここまで女性でHDLコレステロールだけ高くなる原因について紹介しました。ここでは「女性でHDLコレステロールだけ高くなる原因」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
HDLコレステロールが高いまま放置するとどうなりますか?
木村 香菜 医師
一般的にHDLコレステロールが高いことは健康的とされていますが、極端に高い場合は特定の疾患や異常の可能性があります。医師に相談し、適切な検査を受けることをおすすめします。
HDLコレステロールが80以上だと体にどんな影響がありますか?
木村 香菜 医師
HDLコレステロールが80以上でも、特に疾患がない限り問題になることは少ないです。しかし、過剰飲酒や遺伝的要因が関与していることもあります。健康診断で異常値が出た場合は内科を受診しましょう。
編集部まとめ HDLコレステロールがとても高い場合には内科で相談
女性でHDLコレステロールが高い原因には、生活習慣やホルモンバランスの他、病気が隠れている場合もあります。心配な場合は、早めに医療機関を受診し、適切な対策を取ることが重要です。
「HDLコレステロール」の異常で考えられる病気
「HDLコレステロール」から医師が考えられる病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
循環器科の病気
- 動脈硬化症
- 冠動脈疾患
肝臓・胆管科の病気
- 原発性胆汁性胆管炎
- 脂肪肝
内分泌内科の病気
- 潜在性甲状腺機能低下症
- 家族性高HDL血症
HDLコレステロールが高い場合でも、病気が潜んでいる可能性があるため、定期的な健康診断が重要です。