「呼吸機能検査」で何がわかるかご存知ですか?前日・当日の注意点も医師が解説!
呼吸機能検査とは?Medical DOC監修医が発見できる病気や健康診断や呼吸器科診察での結果の見方と所見等を詳しく解説します。
監修医師:
木下 康平(医師)
防衛医科大学校卒業
聖マリアンナ医科大学病院呼吸器内科にて専門研修
自衛隊病院にて呼吸器内科・一般内科診療に従事
資格:内科認定医、呼吸器内科専門医
目次 -INDEX-
呼吸機能検査(COPD・スパイログラム)とは?
呼吸機能検査という言葉を聞いたことがあるでしょうか?その名の通り、呼吸機能をチェックする検査ですが、血液検査やレントゲン検査などの受け身の検査と異なり、患者さんにやっていただくことがいろいろとあるのが特徴です。今回は呼吸機能検査のやり方や検査結果の見方について詳しく解説していきます
肺機能の呼吸機能検査とはどんな検査?
呼吸機能検査(スパイロメトリー)は、肺の容量や空気の流れを測定することで、肺の健康状態を評価します。スパイロメトリーはスパイロメーターという機器を使って検査を行います。検査で得られたデータを入力しグラフ(図表)にしたものはスパイログラムと呼ばれ、このグラフを見ることでさまざまなことがわかります。
スパイロメトリーのやり方について呼吸機能検査ガイドラインの方法をご紹介します。まずスパイロメーターのチューブに取り付けたマウスピースをくわえます。そして、鼻から空気が漏れないように、鼻クリップなどで鼻の穴を塞ぎます。
最初の数回は普通に呼吸をし、続いて、肺に溜まっている空気を全て吐き出します。その後、すばやく息を吸います。この時精一杯息を吸ってもらって、これ以上吸えなくなったら、今度は思い切り「フーッ!」と息を吐きます。もう息が出なくなるところまで「フー…」と息を吐き、検査終了です。検査の精度を高めるため、この過程を2~4回繰り返して、最も良い結果を検査結果として採用します。
肺活量や気道を調べる呼吸機能検査で体の何がわかる?
呼吸機能検査でわかることは肺活量や気道の状態についてです。たくさん空気が吸えない(肺活量が少ない)ようなら、肺組織が硬くなる病気、例えば肺線維症などの病気が疑われます。逆に息が素早く吐ききれないようなら、気道が狭くなる病気、例えば喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの病気の可能性があります。
呼吸機能検査の費用は?
呼吸機能検査の診療報酬は330点です。1点10円なので、この検査の金額は3,300円ですが、実際の費用は自己負担割合に応じて変わります。自己負担が1割なら330円、3割なら990円です。人間ドックの場合は全額自費になります。
呼吸機能検査前日や当日の注意点
呼吸機能検査には前日に注意しなくてはいけないことがありません。ただし、息を大きく吸ったり吐いたりする検査であるため、全力で臨めるように、胃もたれするような食事や寝不足は避けましょう。また、吸入薬を使っている場合は、検査前に中止する必要があるか主治医に確認するようにしましょう。
前述の通り、呼吸機能検査は大きく息を吸う必要のある検査なので、検査当日は上半身を締め付けない服装で検査に向かってください。もしネクタイやベルトをしている場合は検査時に緩めて呼吸の妨げにならないようにしましょう。また、検査直前に食事を摂ってしまうと、深呼吸がしづらくなるため、検査前の食事は避けてください。
検査当日にぜんそく発作や風邪などで咳をしてしまったり、呼吸がしづらかったりするときは検査で正確な結果が出せないだけでなく、ご本人の体調もさらに悪化してしまう可能性があるため、検査をできるかどうか担当の方と相談しましょう。
呼吸機能検査ができない人はどんな人?
呼吸機能検査は指示に従える人でないと検査を受けることができません。したがって、小児は小学生(7~8歳)くらいの年齢にならないと検査が難しいことが多いです。また、認知症が進行している方も最後まで指示に従えず、検査適応外となることがあります。
この検査では呼吸努力に伴い一時的に血圧が上がり、心臓や肺に負荷がかかります。そのため、急性心筋梗塞や不安定狭心症、冠攣縮性狭心症、大動脈解離、脳血管障害、気胸などの病気になっている場合は検査を受けることができません。
呼吸機能検査の結果の見方と再検査が必要な診断結果・所見
ここまでは呼吸機能検査について基本的なことを紹介しました。
再検査・精密検査を受診した方が良い結果がいくつかあります。
以下のような診断結果の場合にはすぐに病院に受診しましょう。
呼吸機能検査の結果の見方・分類と主な所見(%fvc/1秒量)
スパイロメトリーで得られるデータの種類はたくさんありますが、特に重要な検査項目が肺活量と一秒率です。
肺活量(VC)は最大に息を吸い込んだ状態から、可能な限り息を吐き出した時の息の量のことです。肺の容量(大きさ)を表すもので、 基準値は成人男性で3,500ml、成人女性で2,500ml程度です。ただし、年齢、性別、身長 などによって基準値は異なります。
%肺活量(%VC)は、年齢や身長から予想される平均的な肺活量に対して被験者の肺活量がどの程度なのか相対的に表す数値です。正常値は80%~100%で、80%以下の場合は異常です。%VCが80%以下の状態を拘束性換気障害と呼びます。拘束性換気障害とは肺が広がりにくい状態を指し、間質性肺炎やじん肺などの病気が疑われます。
1秒率(FEV1.0%)とは、思い切り吸った息を勢いよく吐いた時、吐いた息全体の何%を最初の1秒で吐き出したかの割合です。70%以上が正常です。70%以下の場合は閉塞性換気障害と呼ばれ、気道が炎症や喀痰などで狭くなってしまい、息が吐きにくくなっている病気が考えられます。具体的には喘息やCOPDが挙げられます。
%VCが80%以下かつFEV1.0%が70%以下の場合は、肺が広がりにくく息も吐き出しにくい混合性換気障害と判断されます。間質性肺炎やCOPDなどが悪化するとこのような状態になることがあります。
呼吸機能検査の結果で精密検査が必要な基準と内容
前述の通り、%VCが80%以下もしくはFEV1.0%が70%以下の場合は精密検査が必要です。精密検査では胸部CTや血液検査などが行われ、肺のどの部分が悪いのか、何が原因で肺が悪くなっているのか調べます。
「呼吸機能検査」で発見できる病気・疾患
ここではMedical DOC監修医が、「呼吸機能検査」に関する症状が特徴の病気を紹介します。
どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。
肺線維症
肺線維症は、間質性肺炎の一種です。間質性肺炎は、肺胞の壁(間質)に炎症や損傷が起こり、線維化を起こす病気です。炎症が治る過程などで繊維化が進み、肺が固くなってしまった状態を「肺線維症」と言います。繊維化が進むと肺での酸素の交換が困難になり、運動時の息切れや持続する乾いた咳などの症状が現れます。
肺線維症の約半数は原因不明であり、特発性肺線維症(IPF)と呼ばれ、国の難病に指定されています。50歳以上で発症し健康診断などで偶発的に見つかることが多く、風邪に似た症状から始まることが多いです。IPFは完全に治ることが難しい病気といわれています。そのため、病気の進行を抑えることを目標にして治療を行います。具体的にはステロイドや免疫抑制剤を使用した薬物療法、在宅酸素療法、運動療法(呼吸リハビリテーション)が行われます。
喘息
喘息は、気道の慢性的な炎症によって起こる病気です。炎症によって気道が敏感になり、刺激に反応して気道が狭くなるのが特徴です。運動、冷たい空気、感染症、ストレス、タバコの煙などさまざまな刺激が原因となります。喘息の主な症状には、咳、痰、息苦しさ、喘鳴(呼吸時にゼーゼー、ヒューヒューという音がする)などがあり、これらの症状は特に夜間や早朝、季節の変わり目に起こりやすいです。
治療は、発作の治療と長期管理の2つの側面から行います。発作時は気管支拡張薬を吸入して気道を広げます。気管支拡張薬だけでは発作が改善しない場合、酸素投与をしながらステロイドなどの薬を点滴したり、アドレナリンを皮下注射したりと追加の処置を行います。長期管理は吸入ステロイド剤・長時間作用性β2刺激薬(LABA)などの吸入薬を定期的に使用して発作の予防に努めます。喘息は完治する病気ではありませんが、適切な治療と管理により、多くの患者さんが通常の生活を送ることができます。また、症状のトリガーとなる要因を避けることも、喘息の管理には重要です。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
かつて慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれていた病気をまとめて、慢性閉塞性肺疾患(COPD)と呼びます。この病気は肺の気道が炎症を起こし、徐々に狭くなっていくことが特徴です。症状としては、慢性的な咳、痰、そして運動時の呼吸困難があります。これらの症状は徐々に進行し、時間と共に悪化しますが、元に戻ることはありません。
COPDの主な原因は長期間の喫煙です。この病気はなってしまったら元に戻らないため、禁煙による予防が非常に重要です。COPDと診断された後も禁煙することで症状の悪化を防ぐことができます。加えて、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを定期的に接種することも推奨されています。これはCOPD患者にとって深刻な合併症となり得る感染症を予防することを目的としています。また、長時間作用型の吸入薬を定期的に使用することで病気の進行を遅らせ、急性増悪の頻度も減少させることができます。重症の場合には、在宅酸素療法も利用されます。
「呼吸機能検査」で引っかかる理由は?
呼吸機能検査で引っかかる原因として、まず呼吸器疾患が挙げられます。間質性肺炎やCOPD、喘息などの場合には検査結果が異常値となります。その他、小さいお子さんや認知症のある高齢者の場合は、検査方法が複雑で指示に従うことができずに正しい計測ができないケースがあります。また、全力で深呼吸をする必要があるため、検査前に食事を摂ってしまっていたり、風邪など体調不良があったりすると、実力が出しきれずに検査で引っかかってしまうかもしれません。
「呼吸機能検査」についてよくある質問
ここまで検査でわかる可能性のある病気や診断結果の見方などを紹介しました。ここでは「呼吸機能検査」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
呼吸機能検査は何を調べていますか?
木下 康平 医師
呼吸機能検査は、肺の機能を測定して、肺の容量や空気の流れの状態を評価するための検査です。この検査により、肺活量(肺に入る空気の量)、一秒量(1秒間に吐き出せる空気の量)などが測定されます。
呼吸機能検査の基準値はいくつですか?
木下 康平 医師
呼吸機能検査の基準値は、年齢、性別、身長などによって異なります。一般的に、成人男性の肺活量は約3,500ml、成人女性は約2,500mlとされています。一秒率は、正常であれば70%以上が目安です。
呼吸機能検査で%肺活量や1秒率が低いとどんな病気の可能性がありますか?
木下 康平 医師
%肺活量(%VC)や1秒率(FEV1.0%)が低い場合、さまざまな呼吸器疾患が考えられます。例えば、%VCが低い場合は肺が十分に膨らまない状態を示し、肺線維症やじん肺などの拘束性換気障害が疑われます。一方、1秒率が低い場合は気道が狭窄している状態を指し、喘息やCOPDなどの閉塞性換気障害が考えられます。
呼吸機能検査はどんな人が受けるべきですか?
木下 康平 医師
慢性的な咳、運動時の息切れなどの症状がある人、喘息やCOPDである可能性があります。これらの病気の診断や治療経過のモニタリング、手術前のリスク評価が必要な人は呼吸機能検査を受けるべきです。また、喫煙者や石綿(アスベスト)を扱う仕事をされている方も、定期的に検査を受けることが推奨されます。
肺機能検査・スパイロメトリーは何歳から受けるべきですか?
木下 康平 医師
肺機能検査・スパイロメトリーは、通常、学童期(約7~8歳)から実施可能です。小さいお子さんの場合は、検査を正確に行うのが難しいことが多いです。成人では、検査手順を理解できる方であれば年齢制限はありません。
まとめ 「呼吸機能検査」でCOPDを早期発見!
呼吸機能検査は、肺の健康を評価する非常に重要なツールです。特に、喘息やCOPD、間質性肺炎などの呼吸器疾患の早期発見に役立ちます。喘息やCOPDのリスクがある方、喫煙歴のある方、または呼吸に何らかの問題を感じている方は、呼吸機能検査を受けることをお勧めします。快適な生活を送るために、この検査の重要性をぜひ理解し、ご活用ください。
「呼吸機能検査」の異常で考えられる病気
「呼吸機能検査」の検索結果から医師が考えられる病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
呼吸機能検査では肺の広がりやすさや気道の狭さを調べることができ、得られた結果から、上記の呼吸器疾患の診断や状態評価ができます。
参考文献