【闘病】人工肛門、1日20回のトイレ… 20年検診を避けた末の『直腸がん』ステージ3

50代で直腸がんを経験した遠藤さん。直腸がんは日本人に多いがんの一つで、年齢が上がるにつれて患者数が増える傾向があります。遠藤さんは手術を受け、数カ月間の人工肛門の生活を経て、現在は通常の日常生活を送れるほどに回復しつつあるそうです。がんと診断されるまでの経緯やそのとき感じたこと、人工肛門との向き合い方、そして現在の想いなどについて、率直な体験を語ってもらいました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2025年8月取材。

体験者プロフィール:
遠藤卓
1965年生まれ 神奈川県在住 2024年に直腸がんと診断される。公務員、会社員を経て整体院、整体学校を経営。しかし、がんを患ったことを機に事業をスタッフに継承し、自身は療養に専念する。現在はがんが発覚してから結婚した妻と二人暮らし。趣味はドライブや旅行、映画鑑賞。
「まさか自分ががんになるなんて!」

編集部
最初に不調や違和感に気づいたのはいつ、どういった状況だったのでしょうか?
遠藤さん
令和5年の秋頃、血便が出たり便秘になったりするようになりました。少し気になったので、当時テレビCMでもやっていた「尿でがんのリスクがわかる検査」を申し込んでやってみました。結果は「現時点においてがんのリスクは低い」というものだったので安心しましたが、血便や便秘は相変わらずでした。
編集部
受診から、診断に至るまでの経緯を教えてください。
遠藤さん
令和6年5月、大腸内視鏡検査を受けようと思い、検査当日の早朝に下剤を飲みました。しかし下剤を飲み始めて1時間経っても便意がなく、それでも下剤を飲み続けていたら急にお腹が張ってきて、やがて嘔吐し、立っていることも困難な腹痛に襲われました。あまりの苦しさに救急車を呼び、搬送された病院で内視鏡検査をしたところ、「直腸がん」という結果がでたのです。直腸がんで便の通り道が狭くなったところに、下剤を飲んだために、お腹が張って苦しくなったと説明を受けました。実際にがん(腫瘍)の向こうには便が詰まっていたようです。さらにCTなどの検査でリンパ節への転移も見られ、「ステージ3」と診断されました。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
遠藤さん
まずは手術で直腸を切除し、残った部分の上と下をつなげます。しばらくは肛門を使えないので人工肛門を増設し、そこから排泄します。その後は様子をみながら数カ月くらいで元の肛門を使えるようにするということでした。さらに、リンパの転移があるので、術後は抗がん剤治療もおこなっていくと伝えられました。
編集部
告知はどのような形でしたか? また、そのときどのように感じましたか?
遠藤さん
妻とともに画像を見せてもらい、医師から説明を受けました。「まさか自分ががんになるなんて」というのが正直な気持ちでした。ショックでもなく、落ち込むわけでもなく、「コロナにもかかっていないし、インフルエンザもかかったことがないのに、がんにはなるんだ……」くらいのあっけらかんとした感じで説明を聞きました。人工肛門が一番抵抗がありました。しかし、がんを切除しないわけにはいきません。これが最良の方法だ、私の生きる道だと、自分に言い聞かせました。妻も「これで治るっていうんだからよかったじゃない」と言葉をかけてくれて、とても気が楽になりました。
編集部
生活やお仕事にも影響がありますよね。
遠藤さん
少し時間をおいてベッドに一人横になっているときに、これまでの整体院や整体スクールの経営の仕事を楽しんではいたものの、体には無理をかけてきたことに気づき、それらの仕事をすべて辞める決意をしました。これまで「仕事が楽しい」と思ってやってきたけれど、じつは体は悲鳴を上げていたのだと思います。そして、これまで以上に体を大切にしようと意識が高まりました。無理は禁物ということですね。
「人工肛門」と抗がん剤治療の苦労

編集部
実際の治療はどのようにすすめられましたか?
遠藤さん
手術は腹腔鏡でおこなわれました。およそ6時間の手術で目を覚ましたらICUで、おへその右10cmくらいのところに見慣れないピンク色の腸の一部とそれにかぶせるようにストマ装具が装着されていました。「あぁ、こんな姿になったか」という情けない気持ちも少しありましたが、実際に便が排泄されているのを見ると、それはそれで「治療が上手くいっている」と、現代の医療に感心するとともに、主治医やほかの先生、看護師さんたちへの感謝の思いが湧いてきました。
編集部
抗がん剤治療もされたのですよね?
遠藤さん
はい。手術後の落ち着いた頃に抗がん剤治療が始まりました。「髪の毛が抜ける」というイメージがありましたが、私の場合、事前の説明で薬剤師から「髪の毛は抜けません」とはっきり言われ、少しホッとしました。抗がん剤は1日目が点滴、以降2週間は自宅で服用、1週間は休薬、の3週間1クールでおこなわれました。「もし副作用が強くなるようなら自宅での服用はお休みするように」と指示を受けたので、逆に「あまりつらい状態にはならないのだな」と思いました。
編集部
実際に受けてみた感想はなにかありますか?
遠藤さん
初日の点滴は吐き気止めから始まって3種類の点滴を3時間ほどかけておこないました。お菓子などを持ち込んで食べながら、読書もしながら、時には居眠りするほどリラックスして点滴を受けていたのですが、点滴が終わって立ちあがろうとすると、左腕だけ上がらなかったのです。帰りにカフェでアイスコーヒーを飲んだのですが、グラスを持てず、徐々に感覚も麻痺してきました。さらに数日後、口の痺れと味覚麻痺も出て、コーラを飲んでも甘味を感じず、すごく不味く感じたのを覚えています。最初はそんな副作用で苦労しましたが、休薬期間である1週間は普通に過ごすことができ、「普通であること」の幸せを感じました。大変な抗がん剤治療でしたが、定期的なCT検査では転移によって腫れたリンパ節もちゃんと小さくなっていると、画像で確認できました。効果が見えると嬉しいですし、また頑張ろうという気持ちになりましたね。
編集部
ストマ装着期間の生活について教えてください。
遠藤さん
最初は外れないか、常に不安が付きまとっていました。車の乗り降りなどは特に気を使いました。お風呂もOKなのですが、私は、お風呂はおろかシャワーさえも抵抗があったので、ストマ装具を交換するときだけシャワーを浴びることにし、それ以外の日は温めたタオルで体を拭いていました。退院して1~2カ月に1回「ストマ外来」に行き、ストマ装具の装着についての指導や、サイズ変更のアドバイスなどを受けました。
編集部
いろいろと大変なことが多かったのですね。
遠藤さん
排便だけではありません。術後、尿が一滴も出ないんです。看護師さんからその可能性を聞いてはいましたが、一滴も出ないことに少しショックを受けました。しばらくは自分でトイレに行ってはまともに排尿できずに、看護師さんに導尿してもらっていました。退院のときは尿道に管を入れっぱなしの状態で先端に蓋をつけて、トイレに行っては蓋を外して排尿することになりました。それ自体はいいのですが、その管は30cmくらいあるので下着の中に納まらず、太ももにあたるのが何とも気になっていましたし、ふとした拍子に(足を組むなど)キャップがはずれはしないかと心配になることもありました。退院して1カ月後から、1日に数回自己導尿することになりました。現在は、正常に排尿できているので自己導尿も必要なくなりました。「手術して終わり」ではなく、術後の排尿ケアもストマのケアも、しっかりやってくれるのは味方がたくさんいるみたいでとても頼もしかったですね。
とにかく早期発見が大事。先延ばしせずに検査を

編集部
受診から現在に至るまで、何か印象に残っていることなどあれば教えてください。
遠藤さん
まず、とにかく妻の支えがとても頼もしく思いました。手術室には歩いて入るのですが、そのときも直前まで手を握っていてくれました。もう一つ、自分ががんになったのをきっかけに調べてみたのですが、大腸がんは、男性では生涯におよそ10人に一人がかかると言われており、そのうち30~40%が直腸がんなのだそうです。ですから、人工肛門になってストマ装具を装着する人は世の中には決して少なくないのだと感じました。
編集部
病気の前後で変化したことを教えてください。
遠藤さん
一歩間違えれば死と直面することにもなっていたので、当時はまだ58歳、しっかり後悔のないように生きること、妻を幸せにすることを心に誓いました。妻とは私のがんが発覚してから入籍したんです。ただならぬ覚悟で私と結婚してくれたと思うので、人一倍幸せにしたいという思いが強くなりました。
編集部
今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?
遠藤さん
自営業を20年近くやってきて一度も検診を受けていませんでした。「なるべくなら病院に行きたくない」といういわゆる病院嫌いな傾向と、「自分が病気になるわけがない」という根拠のない過剰な自信がありました。早くに検査を受けて早くに診断がついていればもっと軽くて済んだかなと思います。
編集部
現在の体調や生活はどうですか?
遠藤さん
手術からおよそ8カ月で人工肛門を閉鎖し、本来の肛門を使うことになりましたが、そこからも苦労の日が続きました。当初は特に排便コントロールができない(便を我慢できない)ので、1日に20回以上トイレに行くこともあり、外出することもままならず毎日自宅にこもっていました。夜中もトイレに行くので一睡もできない日もありました。パッドを常に装着していました。2カ月が経過した今は、少しずつではありますが状態は改善しつつあります。
編集部
医療機関や医療従事者に望むことはありますか?
遠藤さん
初めて体にメスを入れた私は、直腸を切除してつないで、人工肛門を作って、といった一連の流れを6時間かけておこなうことに医療のすごさを感じました。かつては大きくお腹を切り開いていたのでしょうが、私の体には小さな傷跡がいくつかあるだけ。この小さな傷でいったいどこから直腸を引っ張りだしたのか、医師に伺ったところ、おへそのところからだと教えてもらい、改めてすごさというかむしろ感動さえ覚えました。術後のケアについても病院を挙げて取り組んでくださり、感謝に尽きます。
編集部
最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
遠藤さん
「直腸がんになる=人工肛門」という図式が頭に浮かぶ人も多いかと思います。私もそうでした。そして、そんな事実を知りたくないという思いから、大腸や肛門の検査を先延ばしにしている人も少なからずいるかと思います。しかし、年月が経つほど病気は進行します。念仏のようによく言われている「早期発見・早期治療が大事」という言葉はやはり正しいのだと思います。私のがんも早期発見できていれば、手術や人工肛門ではなく、大腸内視鏡で切除できたかもしれません。放っておいたからがんが進行してしまって、直腸を切除することになったのです。ぜひ、早期発見のための検査をおすすめします。
それと、世の中には、見た目にはわかりませんが人工肛門で生活している人が思ったよりたくさんいます。その人たちには、決して落ち込むことなく、むしろ素晴らしい医療によって命が助かったことに目を向けて、生きていきましょうと伝えたいです。
編集後記
直腸がんは誰にでも起こり得る病気です。自分の健康を守るためには、定期健診を受けることはもちろん、必要に応じて内視鏡検査などで早期に異常を確認することが重要です。日頃から体調の変化に意識を向け、少しでも異変を感じたら早めに医療機関を受診することが、早期発見・早期治療につながります。
なお、メディカルドックでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。

記事監修医師:
寺川 洋子(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。




