硝子体手術の費用目安は?入院した場合や高額療養費制度を利用する場合・手術の流れも解説
硝子体とは眼球内に含まれる無色透明の部位で、カメラでいうところのレンズの役割を持ちます。
黒い点や虫のようなものが見えたり、モノが歪んで見えたりするときはこの硝子体に問題があることが多いです。
そのような場合、硝子体の手術を受けることで視力を回復できますが、費用が気になる方も多いと思います。
そこで今回は、硝子体の手術にかかる費用についてご説明します。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
目次 -INDEX-
硝子体手術の費用目安
硝子体手術の費用目安について解説します。医療費の自己負担金額である1〜3割負担により金額が変わってくるため、それぞれ確認しておくことが大切です。
1割負担の場合
1割負担の対象者は75歳以上の一般所得者です。一般所得者とは、課税所得が28万円以上・145万円未満の方を指します。
硝子体手術においては40,000円前後で手術が可能です。複雑な硝子体手術の場合は50,000〜60,000円程度になります。
2割負担の場合
2割負担の対象者は小学校入学前のお子様や、70歳以上75歳未満の一般所得者です。
硝子体手術においては80,000円前後で手術が可能です。複雑な硝子体手術の場合は100,000〜120,000円程度になります。
3割負担の場合
3割負担が適用される方は、下記の方です。
- 小学校入学後から70歳未満までの方
- 70歳以上で現役並みの所得を得ている方
現役並みの所得とは、課税所得が145万円以上の方を指します。
硝子体手術においては120,000円前後で手術が可能です。複雑な硝子体手術の場合は150,000〜160,000円程度になります。
医療機関によって手術費用は多少の誤差があるため、心配な方は事前に問い合わせておくと安心して手術を受けられます。
白内障手術を同時に行う場合
白内障手術を同時に行う際、硝子体手術の費用に追加で必要な金額を記載します。
- 1割負担:6,000円
- 2割負担:13,000円
- 3割負担:20,000円程度
上記費用が追加で必要です。
また、白内障手術後には薬が処方されることがあり、こちらは別途5,000円から10,000円程度の費用が発生します。
入院した場合の硝子体手術の費用目安
硝子体手術では、内科と連携が必要な場合は入院が必要となることがあります。入院期間は5日から2週間程度で、下記のような費用が別途必要です。
- 1割:60,000円程度
- 2割:70,000円程度
- 3割:150,000〜160,000円程度
しかし、近年の硝子体手術は技術の発展により、日帰りで治療が終了することが多くなっています。
高額療養費制度を利用する場合の硝子体手術の費用目安
高額療養費制度とは医療費の自己負担金額が一定額を超えた際に、超えた金額について請求すれば後から返金を受けることができる制度です。
具体的には1日から末日までの医療費が上限金額を超えた場合において、超えた金額が支給されます。
自己負担限度額は所得に応じて上限金額が定められています。硝子体の手術においても高額療養費制度を利用することで上限を超えた金額は後から請求が可能です。
例えば標準報酬月額28〜50万円の所得区分の場合は、80,100円+(総医療費−267,00円)×1%が計算式になり、計算した範囲内が医療費の上限額になります。
このように上限金額が決められるため、手術などの大きな出費があっても安心して治療を受けられます。
ただし高額療養費制度は自動で適応されるわけではないため、加入している健康保険の窓口に問い合わせが必要です。
硝子体手術の対象となる疾患
硝子体手術の対象となる疾患はさまざまです。こちらでは、硝子体手術の対象となる疾患をご紹介します。
硝子体出血
硝子体出血とは、眼底にできた血管などから出血し、血が眼球内に溜まった状態です。
硝子体のなかに血液が溜まると光が網膜まで届かず、視界が濁って見えてしまうため視力低下などさまざまな症状が現れます。
出血量が多量の場合、網膜剥離など重篤な症状を発症することがあります。硝子体出血が起きる原因として、糖尿病網膜症や網膜静脈閉鎖症などによって血管がダメージを受けることです。
網膜に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなると、人体は新しい血管を作り、酸素や栄養を送ろうとします。この時に作られる血管は新生血管と呼ばれており、通常の血管よりももろくて破れやすい性質を持つものです。
そのため、衝撃や外傷、不純物などの混入などによって硝子体出血が引き起こされる可能性があります。
網膜剥離
網膜剥離とは、眼球の内側にある網膜がはがれて、視力が低下する症状です。また、網膜の中心部である黄斑部分がはがれてしまうと、急激に視力が低下し、失明に至る可能性があります。
網膜は目のなかに入ってきた光を刺激として受け取り、脳にその刺激を伝達する役割を持つものです。その刺激を受け取った脳は過去の情報などから、その光がどのようなものなのかを判断します。
網膜はカメラでいうところのフィルムの役割を持つ部位だといえるものです。網膜剥離は痛みを伴わない症状のため、なかなか気づくことはできません。
しかし、前兆として眼球の動きについてくるように虫や黒い点のようなものが付いてくる「飛蚊症」が見られます。そのため、飛蚊症の症状が見られた際は眼下に相談することをおすすめします。
黄斑円孔
黄斑円孔とは、眼球の奥にある網膜の中心部で、ものを見るために必要な黄斑に穴が生じる症状です。ものが歪んで見えたり、中心が見えにくくなったりといった症状が見受けられるようになります。
黄斑円孔は手術によって治療ができて、穴をふさぐことで症状の改善が可能です。黄斑円孔が生じる原因は硝子体と網膜が強くくっついているときに、黄斑が引っ張られることだと考えられています。
また、黄斑円孔には下記の3種類が含まれていることから、専門家による診療が必要です。
- 特発性黄斑円孔:加齢に伴う硝子体の収縮が要因のもの
- 近視性黄斑円孔:強度近視が要因であるもの
- 外傷性黄斑円孔:眼球を強く打撲するなど外部要因によるもの
黄斑円孔は眼底検査や網膜の断層像などを用いて診断し、手術が必要なのかを検討します。術後は黄斑が安定することを待つため、数日間うつ伏せになる必要があるなど、時間を要します。
黄斑前膜
黄斑前膜は網膜の中央に黄斑が張り付いてしまう病気で、ものが歪んで見えたり、大きく見えたりする症状が現れます。
黄斑が網膜に張り付くと網膜にシワが発生し、表面に薄い膜が形成されて軽度な症状が現れ始めますが、進行具合によっては自覚症状がない場合があります。
また黄斑前膜は単発で発症することがありますが、ほかの病気に伴って発症することもあるため注意が必要です。
発症する可能性が高くなる年齢は中高年で、加齢に伴うことが原因です。黄斑前膜の検査時には網膜に存在するしわの程度や、視力に影響する黄斑の変形具合などを確認します。
点眼や内服薬で治療することはできず、自覚症状が軽度な場合は経過観察を行いますが、時間経過とともに症状が悪化した際は網膜の表面に存在する膜をピンセットで除去する硝子体手術が必要です。
黄斑浮腫
黄斑浮腫は黄斑に液状の成分が固まり、むくみが生じることによってぼやけや歪んで見えるといった症状が現れる病気です。
単体でも発症することがありますが、糖尿病網膜症・網膜静脈閉塞症に伴う眼底出血・ぶどう膜炎などと併発することがあります。
最初は軽度な症状でも、時間経過とともにむくみが続くと、網膜の神経が傷んでしまい、機能が戻らなくなってしまう可能性がある疾患です。
黄斑浮腫の治療にはステロイド剤やテノン嚢下の注射があります。ステロイドには局所のむくみを取る働きがあり、黄斑浮腫には長期間効果が持続するケナコルトというステロイド剤が主な治療薬です。
テノン嚢下もステロイド剤に含まれるもので、長期間作用することから黄斑浮腫の治療に用いられることがあります。
しかし、これらの治療薬には眼圧を上げてしまう可能性があるため、術後1週間後に眼圧測定のために来院が必要です。それでも治療ができなかった場合、硝子体手術が必要となります。
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症とは、糖尿病が原因で網膜が障害を受け、視力が低下する病気です。糖尿病腎症、糖尿病神経症と並んで、糖尿病の三大合併症といわれており、定期的な健診と早期治療で病気の進行を抑えられます。
眼中に小さな出血が見られる、視界がかすむ、飛蚊症が発生するといった症状から糖尿病網膜症を自覚するようになります。糖尿病網膜症とは、糖尿病が原因で網膜が障害を受け、視力が低下する病気です。
糖尿病腎症・糖尿病神経症と並んで糖尿病の三大合併症といわれており、定期的な健診と早期治療で病気の進行を抑制することが可能です。
眼中に小さな出血が見られる・視界がかすむ・飛蚊症が発生するといった症状から糖尿病網膜症を自覚するようになります。
糖尿病網膜症の治療にはレーザー治療が用いられ、通常は通院で治療が可能です。レーザーを眼球内に照射することで、網膜の酸素不足を解消し、不要な新生血管の発生を防げます。
注意点として、こちらの治療は症状を改善するものではなく、これ以上悪化しないことを目的としたものであることです。そのため、糖尿病網膜症は早期に治療することが重要だといえます。
硝子体手術の流れ
硝子体手術となる疾患をご理解いただいた方のなかには、該当する疾患をお持ちの方がいらっしゃると思います。
実際に手術を受ける際は、どのような手順で進められるかについて、硝子体手術の流れをご説明します。
局所麻酔
硝子体手術は全身麻酔ではなく、手術をする目だけに聞かせる局所麻酔が採用されます。眼球に薬を滴下する点眼麻酔を行ったあと、白目の表面を覆う薄皮にステロイド剤を入れ、眼球全体に麻酔をなじませます。
一般的な手術で行われる注射は使われないため、麻酔による痛みをほとんど感じないことが特徴です。
手術機器の挿入
硝子体手術の際に使用する医療機器は、液体を入れる注入針や眼内照明、カッターなどが挙げられます。1ヶ所に還流液を注入する注入針を刺し、残り2ヶ所に眼内を明るくする眼内照明やカッターを挿入します。
これらは非常に細く小さな医療機器であるため、術後でもほとんど手術痕が残りません。
硝子体切除
硝子体切除は眼球内に挿入したカッターを挿入して、出血などで混濁した硝子体の切除や網膜の治療です。
硝子体を切除した後、レーザー治療や止血操作など、切除箇所に応じた処置を施します。なお、一般的な硝子体手術は1〜2時間程度で完了し、無縫合で行われます。
ガス注入
網膜剥離の場合、はがれている網膜を固定するために眼球内に空気を注入してもとに戻します。また、必要に応じてガスやシリコンオイルなど、さまざまなものが使われることがあります。
術後は体内にガスを吸収させるためにうつ伏せ・横向きの状態で過ごす必要があり、空気なら1週間、特殊ガスが体内に吸収される期間は6週間程度です。
硝子体手術にかかる時間
先述の通り、日帰りの硝子体手術は個人差にもよりますが、1~2時間程度で完了します。かつては1~2時間ほど要していましたが、手術器具や技術の発展により日帰りの手術が増えてきました。
また、以前よりも手術痕が小さくなったため、目立ちにくくなった点も異なります。しかし、手術の直後は硝子体のなかに空気やガスを入れることが多いため、一時的に視力が低下することが考えられます。
術後、黒い輪が見える・細かい点が見える・視界が揺れるといった症状は術後の影響である可能性が高いです。この症状は6ヶ月から12ヶ月程度見られることがあるため、長期間を要する手術だといえます。
硝子体手術を受けるときの注意点
硝子体手術を受けたあとは、下記の点に注意しましょう。
- 目をこすらない・押さえない・ものにぶつからない
- 1~2時間安静にしたあと、胃に優しい食事を摂る
- 手術後の眼帯は後日の来院まで取り外さない
- 内服薬は当日より指示通り服用する
- アルコールは医師の許可が出るまで控える
- 仕事を控えなければならないことがある
硝子体手術は眼球内にさまざまな異物を挿入し、切除やレーザー治療などを行う手術です。そのため、人によっては不安や恐怖を抱いてしまうことがあるでしょう。
緊張している状態だと手術中に急に体を動かしてしまう可能性が高いため、非常に危険です。手術を行う医師はベテランであることが多く、手術前に緊張をほぐすようなコミュニケーションを取ってくれます。
患者さんは医師を信頼し、安心して手術を受けましょう。
まとめ
今回は硝子体の手術にかかる費用についてご説明しました。硝子体の手術費用は高度医療制度を申請した場合、下記のようになります。
- 1割:35,000円から60,000円程度
- 2割:70,000円から120,000円程度
- 3割:100,000円から180,000円程度
手術対象となる疾患には硝子体出血や黄斑円孔、黄斑前膜といった症状が挙げられます。局所麻酔から始まり手術器具の挿入、硝子体切除、ガス注入が行われる硝子体手術は、1~2時間程度で完了します。
視界が悪い、ぼやけて見えるといった症状が現れた方は、病院にて検査を受けてみましょう。
参考文献
- 医療費が高額になりそうなとき|全国健康保険協会
- 手術費用の案内|医療法人 社団同潤会 眼科杉田病院
- 硝子体出血|東京医科大学茨城医療センター 眼科
- 黄斑円孔|近畿大学医学部 眼科学教室
- 黄斑上膜(黄斑前膜)|公益財団法人 日本眼科学会
- 網膜静脈閉塞症|近畿大学医学部 眼科学教室
- 糖尿病網膜症|公益財団法人 日本眼科学会
- 硝子体手術|医療法人社団 豊栄会 中島眼科
- 硝子体手術|公益財団法人 日本眼科学会
- 網膜硝子体手術|東京医科大学茨城医療センター 眼科
- 黄斑下出血に対する硝子体ガス注入|東京医科大学茨城医療センター 眼科
- 主な手術|東邦大学医療センター 大森病院 眼科
- 網膜剥離|東邦大学医療センター 佐倉病院 眼科
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