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「便潜血検査で陽性」が出たら放置NG!無症状でも進行する大腸がんのリスクとは

 更新日:2025/10/23
「便潜血検査で陽性」が出たら放置NG!無症状でも進行する大腸がんのリスクとは

便潜血検査の結果、「陽性」と言われたけれど、症状もないし放っておいても大丈夫と思っている方は少なくないのではないでしょうか。便潜血検査は、大腸がんやポリープなどを早期に発見するための重要な入り口です。目に見えない微細な出血も見逃さないこの検査で陽性が出た場合、放置せずに精密検査を受けることが、未来の健康を守る第一歩となります。今回は、大腸内視鏡検査の意義や最新の検査事情、「無症状でも要注意」とされる理由について、池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック東京豊島院 院長の柏木宏幸先生に詳しく解説していただきました。

柏木 宏幸

監修医師
柏木 宏幸(池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック 東京豊島院)

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2010年埼玉医科大学卒業後、沖縄にて初期臨床研修をおこない、東京女子医科大学病院消化器病センター内科へ入局。女子医科大学病院消化器内科助教となり複数の出向病院で勤務し、2023年4月に池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック開業。日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医、一般社団法人日本病院総合診療医学会認定病院総合診療医、難病指定医。

便潜血検査陽性の意味とその後の心構え

便潜血検査陽性の意味とその後の心構え

編集部編集部

便潜血検査で陽性が出ると、どういう状態を意味するのでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

「便潜血検査陽性」とは、便の検査で便の中に血液が含まれていることが判明した状態を指します。目に見える血液が混ざっていれば当然陽性となりますが、たとえ目に見えないほど微量であっても、血液が検出されれば陽性となります。

編集部編集部

便潜血検査はどのような目的でおこなわれるのですか?

柏木 宏幸先生柏木先生

この検査は大腸がんやポリープなど、消化管からの出血の有無を調べることを目的としており、病気の早期発見につながる重要な検査です。実際に、大腸がんによる死亡率の低下にも寄与することが明らかになっています。また、簡易的に一度に多くの方が受けることができ、身体への負担がほとんどない安全な検査であるため、大腸がん検診に活用されています。

編集部編集部

便潜血検査で陽性という結果が出た場合の受け止め方を教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

便潜血検査陽性は病気の確定ではありません。この結果だけで、大腸がんと診断されるわけではないのです。医師として懸念しているのは、「症状がないからといって検査を受けずに放置してしまうこと」です。

編集部編集部

詳しく教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

実際、便潜血検査を受けた人のうち、陽性となる確率は約5%です。この5%の方が精密検査を受けると、約40%に何らかの異常(大腸ポリープや大腸がんなど)が見つかると言われています。大腸がんに限れば、2~3%の方が診断されているという報告もあります。つまり、大腸がんである可能性はそれほど高くはないものの、検査によって前がん病変である大腸ポリープが発見されることは多く、がんの予防にもつながるのです。実際に検査を受けられた患者さんたちからは、「異常があっても早く見つかってよかった」「何もなくて安心した」など、前向きな声が多く聞かれます。「検査を受けることで安心できる」という心構えが大切です。

受診までの流れと最新の内視鏡検査

受診までの流れと最新の内視鏡検査

編集部編集部

便潜血検査で陽性が出た場合、受診すべき検査や診療科はどこでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

まず重要なのは、消化管からの出血の原因を特定するための「大腸内視鏡検査(下部消化管内視鏡検査)」、いわゆる大腸カメラを受けることです。検査を受ける際は、大腸内視鏡検査の設備のある消化器内科や胃腸内科などを受診してください。クリニックでは内視鏡専門医として経験を積んだ医師が院長を務めていることも多く、通いやすい場所、医療機関のホームページなどを参考にして選ぶと安心です。なお、大腸内視鏡検査以外にも「大腸CT検査」や「注腸検査」といった精密検査があります。それぞれにメリットはあるものの、最終的に異常が確認された場合は大腸内視鏡検査での精査が必要となるため、特別な理由がなければ、最初から大腸内視鏡検査を受けていただくことがおすすめです。

編集部編集部

大腸カメラ(内視鏡検査)は実際にどのような流れで検査がおこなわれるのでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

施設によって細かな違いはありますが、検査の基本的な流れは概ね共通しています。大腸カメラは、先端に小型カメラがついたスコープを肛門から挿入し、盲腸まで到達させて大腸全体を観察する検査です。正確に観察するためには、大腸内がきれいに空の状態であることが必要です。大腸カメラは事前の食事制限に加え、検査当日に下剤(腸管洗浄剤)を服用する必要があります。

編集部編集部

どのような食事制限が必要なのでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

食事制限の内容や期間は施設によって異なりますが、少なくとも検査前日には繊維質の多い食材(野菜・海藻・キノコなど)や脂っこい食事を避け、消化のよいものを摂るよう指示されます。多くの施設では腸内をより効率的にきれいにするための専用検査食が案内されます。また、抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)などを薬を服用中の方は、事前に医師に申告し、休薬が必要かどうか確認してください。施設によっては、当日来院して下剤を服用し、そのまま検査が受けられる「当日検査」に対応していますが、多くの場合は事前に外来受診が必要になります。

編集部編集部

検査当日の具体的な流れについて教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

検査当日は朝から絶食となり、検査開始数時間前に腸管洗浄剤(下剤)を服用していただきます。院内または自宅で2~3時間かけて下剤を服用し、排便が5~10回以上あると検査可能な状態となります。鎮静剤を希望する場合は、点滴から静脈投与(内視鏡検査室で実施)されます。内視鏡検査時間は10〜20分程度、検査後はリカバリー室で休息し、状態回復後に結果説明または帰宅となります。

編集部編集部

「痛そう」などのイメージを持っている人が多いと思います。最近の工夫やサポートについて教えてください。

柏木 宏幸先生柏木先生

かつては鎮静剤を使わずに大腸内視鏡検査をおこなうことが多かったため、痛みや不快感から検査に対してネガティブな印象を持つ方が今も少なくありません。しかし、現在では内視鏡機器の性能が向上し、鎮静剤を用いた検査が一般的になったことで、より快適に受けられるようになっています。また、痛みの感じ方には、医師の技術力も大きく関係します。「どこで検査を受けるか」ということがとても重要なポイントです。加えて、女性医師による対応が可能なクリニックもありますので、女性の患者さんも安心して検査が受けられる環境が整っています。

編集部編集部

「下剤がつらい」と感じる場合もあると思いますが、苦痛を和らげるためにどのような工夫がおこなわれていますか?

柏木 宏幸先生柏木先生

近年では、下剤の種類が増加し、梅風味やスポーツドリンク風味、オレンジ風味、グレープフルーツ風味など、メーカーごとに味の工夫が施されています。服用方法にもバリエーションがあり、下剤のみを飲むタイプや下剤と飲料水を交互に飲むタイプなどがあり、水分を合わせると合計で2L程度の服用が必要です。飲みにくいと感じる方には、ストローで飲む、冷やして飲む、お茶などで味を変えるといった工夫も可能です。さらに、液体が苦手な方のために錠剤タイプの下剤も用意されている場合があります。また、検査当日の腸内の状態によって必要な下剤の量が変わるため、事前に緩下剤を使用する、検査食を利用するなどの工夫で、当日の下剤の負担を軽減することができます。

「症状がないから大丈夫」は危険。未来を守るための一歩とは

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編集部編集部

無症状でも、がんやポリープが見つかるケースはあるのでしょうか?

柏木 宏幸先生柏木先生

人間ドックや精密検査で無症状の方で、ポリープや早期の大腸がんが発見されるケースは非常に多くあります。そもそも、大腸ポリープや早期がんは初期段階ではほとんど症状が出ないことが特徴です。血便や腹痛などが現れるのは、病気が進行してからということが多くあります。また、もともと便秘や下痢があった方が大腸内視鏡検査を受けて、偶然に病気が発見されるケースもあります。つまり、「症状がない=病気がない」ではないということです。むしろ、症状が出る前に見つけることこそが予防医療の本質です。便潜血検査で陽性の結果が出た方や年齢的なリスクが高くなってきた方は、ぜひ大腸内視鏡検査を前向きに検討してみてください。

編集部編集部

がんが早期発見された場合、その後の治療や生活にどのようなメリットが生まれますか?

柏木 宏幸先生柏木先生

早期発見のメリットは、大きく下記の5つがあります。
1 治療期間が短くて済む:大腸ポリープや早期の大腸がんは、内視鏡によるポリープ切除のみで完治することもあります。早期であれば外来で治療が完結することが多く、進行するほど入院や手術が必要となり、治療期間も長くなってしまいます。
2 身体への負担が少ない:治療がシンプルであるほど、身体へのダメージも少なく済みます。進行がんでは手術や抗がん剤など、より侵襲的な治療が必要となり、体への負担も増します。
3 生活の質(QOL)を維持しやすい:早期治療であれば、食事制限や排泄機能への影響が少なく、普段通りの生活を続けやすくなります。手術に至ると人工肛門の造設や長期入院が必要となることもあり、体力の低下や生活への影響が生じることもあります。
4 治療費の負担が軽減される:外来で完結する治療であれば、入院や手術を回避できるため、医療費の負担も抑えられます。
5 精神的な安心感を得られる:「早く見つかってよかった」という気持ちを持って治療に臨めることで、前向きな気持ちが保たれます。

編集部編集部

忙しさや怖さで検査を後回しにしている人に、医師として最も伝えたいことは何ですか?

柏木 宏幸先生柏木先生

検査を後回しにしてしまう気持ちは私たち医療者にも痛いほどよくわかります。ですが、ぜひ知っておいていただきたいのは、「検査を受けることで得られる安心感は、何にも代えがたい価値がある」ということです。すでにお伝えしたように、早期発見・早期治療によって、将来的な身体的・精神的・経済的な負担は大きく異なります。それでも、日常の忙しさに追われて、健康のことを後回しにしてしまう方が多いのが現実です。しかし病気は、症状が出ないまま静かに進行することもあり、気づいたときにはすでに治療が困難になっているケースもあります。「もっと早く来ていただけていれば……」。そんな悔しい思いを、私たちは何度も経験してきました。だからこそ、そのようなことにならないように、私たち内視鏡医は検査の必要性を伝える責務があると考えています。早い段階で受ければ、ポリープが見つかった場合でも日帰りで切除できる可能性があります。忙しい方ほど、少しの空き時間で検査を受けておくことが、将来、治療にかかる時間を削減する最善の方法なのです。「症状がないから大丈夫」ではなく、「症状がない今こそ、早期発見の最大のチャンス」だということです。安心できる未来のために、ぜひ前向きに検査について考えてみてください。

編集部まとめ

便潜血検査で陽性が出ても、必ずしも「がん」の確定ではありません。しかし、異常のサインであることは間違いなく、早期に検査を受けることで将来的なリスクを大きく減らすことができます。何もなければ安心でき、何か見つかっても早く対処できるという点が便潜血検査の本質です。

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