「過活動膀胱を発症しやすい人」の特徴とは どのように予防すればいいのか医師が解説

「最近、トイレが近くなった」「我慢できないほどの尿意を急に感じる」。これらの症状に心当たりのある方は、「過活動膀胱」かもしれません。我慢できないほどの尿意切迫感、頻繁なトイレ、時には尿漏れを起こすこともある過活動膀胱。今回、過活動膀胱の症状や原因、日常生活でできる対策、そして治療法などについて、JCHOうつのみや病院の原先生に詳しく伺いました。
目次 -INDEX-
監修医師:
原 暢助(JCHOうつのみや病院)
過活動膀胱とはどのような病気?

編集部
はじめに、過活動膀胱とはどのような疾患か教えてください。
原先生
急に我慢できないほどの強い尿意(尿意切迫感)を催し、昼間や夜間にトイレが近くなったり(頻尿)トイレに間に合わないでお漏らししてしまったりする(切迫性尿失禁)などの症状が現れる状態です。膀胱が過敏になり、尿があまりたまっていなくても、膀胱が収縮し強い尿意をきたしてしまうのです。
編集部
過活動膀胱はどのように診断されるのでしょうか?
原先生
診断には過活動膀胱症状スコア(OABSS)という問診でおこないます。尿意切迫感を必須としますが、定義上必ずしも尿失禁は必須ではありません。診断には膀胱炎や膀胱がん、膀胱結石などの膀胱の異常を除外する必要があります。また、原因となる疾患を見極めるためには尿検査やそのほかの問診が重要になります。
編集部
過活動膀胱症状スコア(OABSS)とはどのようなものでしょうか?
原先生

編集部
どのようなことが原因で過活動膀胱になるのでしょうか?
原先生
大きく分けて、「神経障害」「骨盤底筋のトラブル」「前立腺肥大症」の3つがあります。神経障害とは、脳血管障害(脳梗塞や脳出血など)やパーキンソン病、脳腫瘍などの脳疾患、脊髄損傷、脊柱管狭窄症、後縦靭帯骨化症などの脊髄の障害などを指します。これらの疾患により、膀胱に尿をためることや膀胱の収縮を抑制することができなくなり、膀胱が勝手に収縮してしまい、強い尿意が引き起こされます。
編集部
なぜ神経障害が起こると、膀胱に影響があるのですか?
原先生
脳や脊髄の疾患などにより、脳と膀胱を結ぶ神経の伝達に障害が起こるため、脳と膀胱の連携がうまく働かなくなるからです。膀胱に尿をためる、収縮を抑制するということが正常に働かなくなり、その結果膀胱に尿が少ししかたまっていなくても尿意を強く感じてしまいます。
編集部
骨盤底筋のトラブルについても教えてください。
原先生
女性の場合、加齢や出産によって、膀胱・子宮・尿道などを支えている骨盤底筋が弱くなったり傷ついたりすることがあります。そのため、排尿のメカニズムがうまく働かなくなり、過活動膀胱が起こることがあります。
編集部
前立腺肥大症についてはどうでしょう?
原先生
男性の場合、前立腺が肥大して尿が出にくい状態が続くと、排尿のたびに、尿をなんとか出そうと膀胱に負担がかかることになります。これが繰り返された結果、膀胱の筋肉が異常をきたし、少しの刺激にも過敏な反応をするようになり、過活動膀胱が起こることがあります。
編集部
これらの疾患がない場合は、基本的に過活動膀胱は起こらないのでしょうか?
原先生
いいえ、明らかな原因がないことも多く、多くは加齢に伴うものと考えられています。しかし、上記のような脳血管障害など神経系の疾患をお持ちの人、前立腺肥大症の人などは過活動膀胱のリスクが高いと言われています。
過活動膀胱になりやすい人とリスク

編集部
過活動膀胱の症状を放置するリスクについて教えてください。
原先生
尿意が頻回に生じることから、何回もトイレに行かなくてはならなくなります。その結果、高齢者などは転倒のリスクが高まり、骨折のリスクも高まると言われています。高齢者が転倒し、大腿骨頸部骨折や脊椎圧迫骨折などを起こせば寝たきりになる可能性も高まり、著しいQOLの低下が起こります。また、夜間頻尿であれば睡眠不足になり、昼間の眠気や作業効率の低下などが起こりえます。
編集部
過活動膀胱を発症しやすい人にはどのような特徴がありますか?
原先生
まずは加齢があげられます。高齢になるにつれて膀胱や尿道などの機能低下が生じることで正常に尿が貯められなくなり、頻尿や尿意切迫感などの症状が出現しやすくなります。また、肥満やストレス、便秘なども原因になる可能性があります。特に排尿に神経質になっている方は注意が必要でしょう。
編集部
生活習慣でリスクを高めるものがあれば教えてください。
原先生
生活習慣病(メタボリックシンドローム)と過活動膀胱には関係があると言われています。高血圧や肥満、便秘などの改善が必要です。塩分の取りすぎは高血圧の原因にもなり、飲水も多くなって尿量が多くなり頻尿になりやすくなります。カフェインやアルコール、たばこも過活動膀胱のリスクを高めると言われており、控えるようにしてください。
編集部
運動についてはいかがでしょうか?
原先生
経産婦を対象にした研究では、運動量が多い群は少ない群に比べて尿失禁の発症率は低かったとの報告があります。運動不足は生活習慣病になる可能性が高まりますし、適度の運動は推奨されます。また、「過度に排尿にこだわるあまり尿意を感じなくてもトイレに行っておく」という習慣はそれが長く続くと膀胱容量が小さくなり、頻尿を引き起こす原因になります。
過活動膀胱の治療法 病院を受診するタイミングは?

編集部
病院を受診すべきタイミングや目安について教えてください。
原先生
頻尿や尿失禁の感じ方は個人差がありますので、どこまでが異常で治療が必要な状態であるとは一概には言えません。ご自分の排尿症状(頻尿や尿意切迫感、尿失禁など)が気になったり不快だと感じたりした際、あるいは同居している方や介護者の人が異常と思われたら、かかりつけ医あるいは泌尿器科で相談することがよいと思われます。
編集部
過活動膀胱の治療はどのような方法でおこなわれますか?
原先生
治療には「行動療法」と「薬物療法」があります。行動療法とは生活習慣を変えたりトレーニングをしたりすることで、過活動膀胱の改善を目指す治療です。具体的には過剰な水分摂取を控える、カフェインやアルコール摂取を控える、肥満の改善などをおこないます。低脂肪食の指導を閉経後の過活動膀胱の女性におこなったところ、尿失禁が改善したという報告もありますので、肥満の改善には効果があると考えられます。また、膀胱訓練や骨盤底筋体操も効果があると言われています。
編集部
骨盤底筋体操や膀胱訓練について、詳しく教えてください。
原先生
膀胱や尿道、女性では子宮や膣を支える骨盤底筋群が加齢や出産などにより弱くなると、尿失禁などが生じやすくなります。このためにこれらを鍛えて尿失禁を改善させようとするものです。骨盤底筋訓練は、仰向けや座位、立った姿勢などで尿道や肛門、膣をぎゅっと締める訓練です。テレビを見ながらでも台所仕事中でも、車で信号待ちをしているときでも構いません。一回当たり5秒ほど締めたらスーッと力を緩めるのを10回ほど繰り返します。これを1セットとし一日数セットおこないます。
編集部
膀胱訓練についてはいかがでしょうか?
原先生
膀胱訓練は膀胱に尿がたまらない状態を改善させ、膀胱容量を増やす目的でおこないます。尿意を感じたらすぐにトイレに行くのではなく、少し我慢をする訓練です。最初は5分、10分と我慢し、だんだんとその間隔を延ばしていきます。その際時計を見ながら我慢することはなかなか難しいと思います。何かほかのことをするなど膀胱から意識を逸らしましょう。何かに熱中している際はトイレに何時間もいかない経験があると思います。これを上手に使いながら、また骨盤底体操のときのような尿道などを占めたりしながら排尿間隔を引き延ばしていく方法です。
編集部
行動療法についてよくわかりました。次は薬物療法について教えてください。
原先生
薬物治療では抗コリン薬やβ3アドレナリン受容体作動薬が主に使われます。このほか、漢方薬や抗うつ薬なども用いられることがあります。抗コリン薬は膀胱の異常な収縮を止める働きがありますが、口腔内乾燥(唾液の分泌が低下する)や便秘、認知機能の低下などがありますので服薬には注意が必要です。β3アドレナリン受容体作動薬は膀胱に尿が貯められるような状態を作る働きのある薬になります。抗コリン薬より副作用は少なく、高齢者の多い過活動膀胱には今はこちらが主に処方されます。
編集部
その他、薬を服用する必要がある場合はありますか?
原先生
前立腺肥大症がある男性に対しては肥大を改善する治療が必要です。その場合はαブロッカーや前立腺を縮小させる薬などの投与をおこないます。これらを単独で、あるいは併用しても効かない難治性の過活動膀胱に対しては、近年ボツリヌス毒素(ボトックス)を膀胱粘膜に注射する治療法が保険適用になり、効果が上がっています。さらに、仙骨神経への電気刺激や磁気を用いた治療などがおこなわれるようになっています。
編集部
日常生活で過活動膀胱を予防するためにできる工夫には、どのようなことがありますか?
原先生
先に示したように生活習慣の改善をおこないましょう。肥満の改善や塩分、アルコール、カフェインの摂取を控えるなどをおこなってください。過剰な飲水は、多尿になり頻尿を引き起こしますので、たくさんの飲水は控えるほうがいいと思われます。脱水にならないくらいの飲水量(一日1.2~1.5リットル)程度に留めるようにしましょう。適度な運動をするのもいいですね。そして、重要なのは尿に関してあまり神経質にならないことです。トイレを見たら、あるいは時計を見て何分経ったから、とそれほど行きたくなくてもいってしまうなどのことが続いていますと、膀胱に尿がたまらない状態となってしまいます。膀胱訓練をおこない、膀胱にたまる尿量を増やしていくことが重要になります。
編集部まとめ
我慢できない尿意や頻尿、尿もれといった過活動膀胱の症状、原因、診断、そして対策について、専門医の原先生に詳しく解説いただきました。神経障害や骨盤底筋のトラブル、前立腺肥大などが原因となる一方、加齢や生活習慣も深く関わっています。放置すると転倒やQOL低下のリスクがあるので、気になる症状があれば自己判断せずに泌尿器科へ相談するようにしましょう。






