【漫画付き】80歳男性の9割が発症している!? 頻尿や残尿感の原因は前立腺肥大症にあるってホント?
男性の場合、「排尿障害の悩み」のほとんどは、前立腺肥大症によるものと考えていいでしょう。「かしわ腎泌尿器クリニック」の岸本先生によると、男性の誰しもが発症する可能性の大きい病気ということです。であれば、発症を前提とした対策に注力すべきでしょう。成人用おむつに頼らないコツを取材しました。
監修医師:
岸本 幸一(かしわ腎泌尿器クリニック 院長)
東京慈恵会医科大学卒業。国立西埼玉中央病院勤務をはじめ、東京慈恵会医科大学および同大系列病院の泌尿器科教授、泌尿器科部長、副院長などを歴任。2018年には、千葉県柏市内に「かしわ腎泌尿器クリニック」を開院。人の思いに共感し、ともに歩む、「融和」をモットーとしている。医学博士。日本泌尿器科学会、日本低温医学会の各会員。
尿の出かたに「?」を感じたら
編集部
「前立腺」は、男性だけにある器官なのですよね?
岸本先生
そのとおりです。尿道を取り囲む位置にあり、その大きさから、よく「クリの実」に例えられます。前立腺からは前立腺液が分泌され、精液の一部となったり、精子に栄養を与えたりしています。
編集部
「前立腺肥大症」は、文字どおり前立腺が大きくなった病気ということですか?
岸本先生
はい。前立腺の肥大により尿道が圧迫されると、頻尿や残尿感といった症状をもたらします。なお、前立腺は二重構造になっていて、外側の外腺は「前立腺がん」、内側の内腺は「前立腺肥大症」に関わっているとされています。病気の部位が異なることを覚えておいてください。
編集部
発症頻度はどれくらいなのでしょう?
岸本先生
前立腺肥大症の発症頻度は年齢とともに高くなり、50歳からが顕著です。一般に、50歳で30%、60歳で60%、70歳で80%、80歳で90%の発症率とされています。ただし、発症しても、残尿感などの自覚症状を感じない方がいらっしゃいます。
編集部
どうして前立腺が肥大するのですか?
岸本先生
加齢が関係していると考えられているものの、明確な原因はわかっていません。通常なら加齢によって萎縮が起きるはずなのに、逆ですからね。
編集部
前立腺肥大症の症状についてもお願いします。
岸本先生
ざっくりまとめると「排尿障害」です。具体的には、尿の勢いが弱い、尿が細く分割する、出始めるまでの時間が長い、出し切った感じがしないなどです。また、前立腺肥大症の患者さんの半数以上が過活動膀胱(かかつどうぼうこう)を合併し、頻尿を起こすこともあります。
編集部
「正常な排尿」の目安はありますか?
岸本先生
1回の排尿量 | 200〜400ml |
1回あたりの排尿時間 | 10〜30秒 |
1日の排尿量 | 1〜1.5リットル |
1日の排尿回数 | 5〜7回、夜間は0〜1回 |
排尿間隔 | 3〜4時間に1回 |
治療の必要性は「本人の気持ち」次第
編集部
前立腺肥大症は、いわゆる「QOL(生活の質)」の問題なのでしょうか?
岸本先生
そう思います。重篤な病気のひとつに「前立腺がん」が挙げられるものの、前述のように、「前立腺がん」の発症部位は“外腺”です。対する前立腺肥大症は“内腺”で起こりますから、「オシッコのキレ」の問題だと切り分けることができるでしょう。
編集部
つまり、本人が「つらくなければ」治療の必要はないと?
岸本先生
そういうことになりますね。ただし、「年のせい」と片付けてしまう方もいらっしゃいますので、何かしらの不都合を覚えたら、遠慮なくご相談ください。内容により、解決できるかもしれません。
編集部
発症の原因は何なのですか?
岸本先生
おそらくは、食事内容の欧米化でしょう。乳製品や肉類が関係していると考えられています。逆に抑制効果があるのは「イソフラボノイド」で、もともと日本人が多く摂取してきた大豆などに含まれています。
編集部
予防はできるのでしょうか?
岸本先生
メタボ対策が、そのまま前立腺肥大症対策に直結します。「80歳で90%」という発症率を考えると、いかに日ごろの積み重ねが大切かということですね。食事内容と適度な運動に留意してください。お酒ののみすぎも控えましょう。
投薬でも十分にコントロールが可能
編集部
仮に自覚があって受診した場合、医院ではどのように診断を付けるのでしょう?
岸本先生
腹部の上から調べるエコー検査で、肥大度や尿のたまり具合がわかります。これに加え、問診票や内圧尿流検査などから、総合的に判断していきます。かつての「経直腸超音波検査」は、お尻の穴から検査機器を挿入する“痛い”検査でした。しかし今では、腹部の上からでも十二分に診断できます。痛みはほとんどありません。
編集部
そのうち、前立腺肥大症と診断される割合は?
岸本先生
自覚の有無が問われますから、何とも言えないですね。肥大が起きていても、自覚症状がなければ、前立腺肥大症とはいえません。
編集部
治療方法についても教えてください。
岸本先生
内服薬を処方します。ただし、排尿の状態は季節によっても違ってくるはずです。ですから、お薬をずっとのみ続ける必要はなく、「つらいときにだけ服用」すればいいでしょう。また、若い方の場合、勃起障害の有無とあわせて、お薬の種類を検討していきます。
編集部
手術を用いるケースもあるのですよね?
岸本先生
もちろんです。前立腺肥大症には「3段階」のステージがあり、その度合いやお薬の効き目などによって、手術を検討します。残尿感に加えて失禁も続き、ご本人が強く手術を希望されているようなケースもありますしね。
編集部
手術の場合の費用や時間はどうなのでしょう?
岸本先生
手術には保険の適用が可能で、3割負担だとすると、入院費込みで約12万円になります。ちなみに手術といっても大きな切開はせず、尿道から内視鏡を通しておこないます。とはいえ入院が必要で、日帰り手術は推奨しません。
編集部
市販薬の効果についてはいかがでしょう?
岸本先生
ダメとは言いません。効き目があるようなら、サプリメントやお茶なども含め、服用を続けてみてください。排尿障害にはナーバスな部分があるので、あまり医師側から「決めつけ」をしたくないですね。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
岸本先生
前立腺肥大症の検査は、ほとんど痛くありません。かつては尿道から造影剤を注入するなどの「痛い検査」でしたが、もう、その必要はなくなりました。安心して受診を検討してみてください。
編集部まとめ
前立腺肥大症は、尿道のホースが物理的に狭められた状態といえるでしょうか。そのため、さまざまな「排尿障害」を伴うようです。ただし、前立腺肥大症といえるかどうかは、本人の悩み度合いによります。仮に自覚があったとしたら、アンチエイジングのような感覚で治療を受けてみてはいかがでしょう。ホースを全開した感覚が取り戻せるかもしれません。
医院情報
所在地 | 〒277-0005 千葉県柏市柏4-4-17 東ビル4階 |
アクセス | 各線 柏駅 徒歩3分 |
診療科目 | 泌尿器科、内科、腎臓内科 |