糖尿病がある方が安心して旅行に行くためにしておきたい準備チェックリスト

「旅行に行きたいけれど、糖尿病があるから心配……」。そんなお悩みを抱えている方も少なくないと思います。旅行に行くには事前の準備がとても重要ですが、糖尿病のある方が旅行に行く際、どのような準備が必要なのでしょうか。日本糖尿病学会専門医の安德先生にお話を伺いました。
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監修医師:
安德 愛梨(医師)
糖尿病があっても旅行に行けるのか

編集部
糖尿病があっても旅行に行っていいのでしょうか?
安德先生
糖尿病だけを理由として行ってはいけない場所やできないことは基本的にありません。しかし、旅行中は血糖管理が不安定になりやすいですし、糖尿病があるからこそしておくべき準備がいくつかあります。今回は「糖尿病をお持ちの方が旅行に行く前にしておくべき準備」について海外旅行を中心に、詳しくお話しさせていただきます。
編集部
旅行に行くことを主治医に伝えておくべきでしょうか?
安德先生
はい。事前に旅行の行き先や日程を伝えるようにしてください。よほど危険がなければ止めませんから、安心して相談してくださいね。
編集部
聞いておくべきことについて教えてください。
安德先生
- 薬や消耗品の予備分を含めた処方
- 糖尿病手帳や英文カードへの最新情報の記載
- 必要に応じて、紹介状や針などの機内持ち込み証明書
- 食事が摂れない際の治療調整方法(シックデイルール)
- (海外旅行の場合)時差にあわせた治療の調整
- 持続血糖測定アラートやインスリンポンプの設定調整
編集部
薬や消耗品はどの程度もらっておけばよいですか?
安德先生
旅程や場所に関わらず、1週間分程度多めにあると安心です。
編集部
英文カードも聞いたことがありません。どういうものでしょうか?
安德先生
JADEC(日本糖尿病協会)が発行している英語のカードです。英語、フランス語、スペイン語、中国語、ハングル語で「私は糖尿病があります」と書かれており、あらゆるトラブルの際頼りになります。海外旅行に行くのならぜひもっておきましょう。かかりつけの医療機関に準備がなければ、JADECのホームページでダウンロードすることもできます。国内旅行であれば、糖尿病手帳とお薬手帳があれば十分です。
旅行に行く前に準備しておきたいポイントとは

編集部
旅行の計画をたてるにあたって、気をつけるべきことを教えてください。
安德先生
できるだけ具体的に計画を立てましょう。特に食事の計画はしっかりと。無計画のままで食事を抜いたり、食べたくもないハイカロリーなものを食べたりして血糖管理がうまくいかなくなる方もいらっしゃいます。血糖値を変動させたくないのであれば、「いつも通り」を心がけるのが一番です。普段の食事と比べて、種類や量を決められるとよいでしょう。また、機内食では事前に申し込めば糖尿病食が選べますし、宿泊施設によっては糖尿病食を準備してくれるところもあります。
編集部
食事の予定を確定するのが難しい場合はどうすればよいですか?
安德先生
ビスケットなど持ち歩けて食べやすい適量の軽食を準備しておきましょう。思い通りに食事が摂れなかった場合はそれを食べてください。なお、糖尿病食と証明できればゼリーなども、液体物の制限を超えて機内持ち込みが可能です。
編集部
どうしても普段の量を超えて食べたいとき、どうすればいいですか?
安德先生
基本的には自己責任です。ただし、予定が決まっていれば治療を強化することも検討できます。主治医に相談してみましょう。そして、旅行中は活動量が変わることも血糖変動に大きく影響します。普段よりたくさん動けば多少食べ過ぎても何とかなりますし、むしろ活動量増加に備えて事前に低血糖対策が必要なことも多いです。これも要相談ですね。
編集部
糖尿病がある方は海外旅行保険に加入できるのでしょうか?
安德先生
糖尿病があると、残念ながら一番安くて手厚い保険には入れません。それでも隠さずに、事前に糖尿病のことを申告しましょう。クレジットカードの付帯保険を使う場合も申告は必要で、しておかないと最悪保険が使えなくなります。そして多くの保険は、持病による医療費を補填してくれません。血糖異常による医療費には「疾病に関する応急治療・救援費用担保特約」が必要です。ただしこれも緊急でないときは補填してもらえないです。
編集部
緊急を要さない場合の医療費は全額自費になるのでしょうか?
安德先生
盗難やロストバゲージによる薬の紛失は補填の対象になります。対象外のものについては日本に帰ってから公的医療保険の「海外療養費制度」を使ってもよいのですが、現地の担当医療機関に署名をもらう必要があります。必要に応じて、事前に書類を準備しておきましょう。
編集部
海外旅行保険を選ぶコツはありますか?
安德先生
インターネット加入よりも空港の窓口や旅行代理店、保険代理店などで相談しながら選ぶ方が間違いないと思います。空港の窓口であれば、病気があっても、出発日でも入れます。
編集部
糖尿病があることについて、誰に伝えておけば安心できますか?
安德先生
同行者や旅行代理店に伝えておけば、緊急時や保安検査で時間がかかった際など、周囲の協力を得やすいと思います。また、航空会社に病気について伝えておけば様々な配慮を受けられます。事故などのトラブル時、スムーズに対応してくれるので、遅くとも当日チェックイン時にはスタッフに伝えておいてほしいですね。中には糖尿病関連デバイスを使っている場合絶対に証明書を求めてくる航空会社があるので、余裕を持って伝えておくことをおすすめします。医療機器情報カードを持っておけば安心です。
編集部
時差がある場合、薬やインスリンはどうしたらいいのでしょうか?
安德先生
週1回の薬はタイミングが多少ずれても問題ありません。毎食直前の内服・インスリンは、そのまま毎食直前でよいです。特別な対応が必要になるのは、1日1、2回のインスリンや一部の内服薬です。特に持効型・混合型のインスリンは細かく調整する必要があるので、必ず事前に主治医と相談してください。
糖尿病がある方のための旅行持ち物リスト

編集部
糖尿病のある方が旅行に持っていくべきものを教えてください。
安德先生
- 内服薬や注射薬、消耗品、バッテリーなどは1週間分程度余裕をもって
- 血糖測定器や糖尿病関連デバイス
- 針捨てケース
- お薬手帳、糖尿病手帳、保険証
- シックデイルール(食事が摂れない場合の治療調整方法)
- 補食:ブドウ糖やラムネ、ジュースなど(低血糖の可能性がある場合)
- 軽食:ビスケットなど
- 靴擦れ用のばんそうこう
- 安心して飲める飲み水
- 緊急連絡先控え(現地旅行代理店、カード会社、海外旅行保険会社窓口など)
- 糖尿病協会から発行されている英文カードや英文診断書
- (CGMデバイスやインスリンポンプを使用している場合)医療機器情報カード(デバイスのホームページを確認してください)
編集部
荷造りの注意事項はありますか?
安德先生
インスリン、GLP-1受容体作動薬など注射薬は預け荷物にすると凍結して効果がなくなってしまうので、すべて機内持ち込みにしてください。そして持ち物リストに載せたものは、飲み水以外は手荷物にすることをおすすめします。海外旅行では飲み水を機内に持ち込めないので予備分は預け荷物に入れ、保安検査を通った後に機内で飲む分を購入しましょう。
編集部
手荷物に入れておくのは必要最低限で大丈夫ですか?
安德先生
ロストバゲージに備えて、できるだけ多く手荷物として持っておきましょう。理想は1週間分です。目立つトランクを使う、それぞれの荷物にAirTagをつけておくのも対策として有効です。盗難の可能性もありますから、緊急連絡先など複数準備できるものは預け荷物にも入れておき、目的地では必要な物品を分散させて持つようにしてください。
編集部
保安検査で注意すべきことは何ですか?
安德先生
注射薬はパッケージのまま持ち込んでください。中身がわかれば液体物持ち込み制限の対象外として機内持ち込みできます。もし証明を求められたら、糖尿病協会の英文カードや糖尿病手帳を示せば大丈夫です。CGMやインスリンポンプはX線の安全性が確立されていません。海外では保安検査にX線が用いられていることがあるため、検査前にデバイスがあると伝えてください。医療機器情報カードを示せば大丈夫です。医療機器情報カードがない、マイナーなデバイスを持ち込みたい場合は説明の準備をしておくことをおすすめします。
編集部まとめ
糖尿病のある方が旅行に行く前にしておくべき準備について解説していただきました。旅先で楽しく過ごすために一番重要なのは準備ですから、記事にあるポイントを押さえてしっかり準備しましょう。






