「働きながらうつ病の治療はできる」のかご存じですか? 注意点や負担の少ない働き方を解説

うつ病と診断されたとき、仕事を休むべきか、それとも続けるべきか迷う方は少なくありません。うつ病は誰にでも起こりうる病であり、治療は個々の症状や環境によって異なります。職場の理解や業務の調整ができれば、働きながら回復を目指すことも可能であると専門家は言います。今回は、うつ病治療と仕事の両立について、メリットや注意点、再発を防ぐ働き方などについて、精神科専門医の種市摂子先生に詳しく解説していただきました。
目次 -INDEX-

監修医師:
種市 摂子(Dr.Ridente株式会社 代表取締役)
働きながら、うつ病の治療はできる?

編集部
うつ病の診断を受けた後、仕事を続けることはできますか?
種市先生
うつ病の診断を受けても、症状の程度によっては働き続けることは可能です。適切な対応により、職場の理解や業務の調整が可能であれば、症状の悪化を防ぎながら働くことができます。そのためには、無理をせず、自分の状態を客観的に把握することが重要です。
編集部
一般的なうつ病の治療には、どのような方法があるのでしょう?
種市先生
薬物療法と心理療法、休養が挙げられます。うつ病治療において抗うつ薬の効果には個人差があり、軽症から中等症の場合はプラセボ(偽薬)との比較において、効果の差が小さいという研究もあります。一方、睡眠障害が主な症状として現れることも多く、抗うつ薬よりも睡眠薬や抗不安薬などを用いて睡眠の質を改善する方が、早期回復に効果的な場合があります。科学的には、睡眠の質が回復することで考え方の柔軟性や感情調整機能の回復を促すとされており、抗うつ薬に固執せず、症状に応じた柔軟な薬物療法が合理的と考えられています。
編集部
うつ病と診断された後、誰かに相談するべきですか?
種市先生
軽症の場合は、読書や休養により回復することもありますが、症状が長引く場合は、一人で抱え込まず、信頼できる誰かに相談することが大切です。社会的支援は、ストレスの軽減や感情の安定に効果的で、治療効果を高める要因の一つになります。家族や友人、同僚、または専門家に話すことで孤立感が和らぎ、問題解決の糸口も得られやすくなる可能性があります。特にうつ病は思考が悲観的になりやすいため、客観的な視点を持つ他者の存在が、回復への大切な支えになります。
仕事とうつ病の治療を両立するメリット・デメリット

編集部
仕事を続けながら、うつ病の治療をするメリットはありますか?
種市先生
仕事を続けながらうつ病の治療をおこなうことは、科学的にもいくつかのメリットが報告されています。まず、生活リズムを維持することで体内時計や自律神経の安定に役立ちます。また、仕事を通じた社会的つながりや達成感は、自己肯定感の維持につながりやすく、うつ病の回復を促進します。ただし、無理は禁物であり業務の負荷調整や職場の理解が不可欠です。働き方を見直すことで、治療と就労の両立は十分可能です。
編集部
反対に、仕事を続けながらうつ病の治療をするデメリットがあれば教えてください。
種市先生
仕事を続けながらうつ病の治療をおこなう場合、症状によっては集中力や意欲の低下が続き、業務のパフォーマンス低下やミスの増加につながる可能性があります。これが自己評価の低下やさらなるストレスを招き、症状の悪化を引き起こすリスクもあります。また、休養や通院・治療の時間が確保しにくく、十分な治療効果が得られにくくなる可能性もあります。そのため、状態に応じては一時的な休職を含め、柔軟な対応が必要です。
編集部
仕事を続けず、うつ病の治療に専念すべきタイミングや状態の目安はありますか?
種市先生
うつ病の治療に専念すべきタイミングは、日常生活や仕事に大きな支障が出ている場合が目安となります。例えば、極度の疲労感や集中力の著しい低下、出勤困難、自殺念慮などがある場合は、治療と休養を優先することが推奨されます。これらの状態では、仕事を無理に続けることで症状が悪化し、回復が遅れるリスクがあります。医師と相談しながら、適切な休職と治療計画を立てることが、中長期的な回復につながります。
うつ病の再発を予防するための働き方

編集部
うつ病を再発しないようにするためには、どのような働き方が勧められますか?
種市先生
うつ病の再発予防には、ストレスの少ない働き方と生活習慣の維持が重要です。過重労働や長時間労働を避け、適度な休憩と十分な睡眠を確保することが、脳と自律神経の機能回復に役立ちます。また、業務量や責任のバランスを調整し、自分の限界を把握しながら働くことが再発予防にも有効です。職場でのコミュニケーションや相談体制を整え、心理的安全性を確保することも重要です。さらに、定期的な医療専門家によるフォローも継続することが重要です。
編集部
仕事に対して悩みを抱えている時に、精神科を受診することは再発予防に有効なのでしょうか?
種市先生
早期に専門家と相談することで、ストレスの蓄積や症状の悪化を未然に防ぐことができます。精神科では、気分や睡眠の状態、考え方の傾向を客観的に評価し、必要に応じてカウンセリングや生活改善のアドバイスを受けることが可能です。無理に我慢せず、早めに受診することで心の安定を保つことが、再発リスクの軽減につながります。
編集部
うつ病の再発を予防するために、日常生活でできることを教えてください。
種市先生
うつ病の再発を防ぐには、規則正しい生活習慣の維持が有効です。特に毎日の睡眠リズムを整えることは、脳の機能回復に重要です。また、適度な運動はセロトニン分泌を促し、気分の安定に役立ちます。さらに、バランスの取れた食事や過度な飲酒・カフェインの制限も有効です。ストレスを溜めすぎないよう、気軽に相談できる人間関係を持つことや、マインドフルネスや趣味の時間を取り入れることも再発予防に役立ちます。
編集部まとめ
うつ病の治療において、「休む」「働く」のどちらか一方を選ばなければならないわけではありません。大切なことは、自分の状態を見極め、必要に応じて柔軟に働き方を見直すことであると学びました。社会的なつながりを保つことも、うつ病の回復や再発予防に役立つ要素の一つです。症状が長引くときや不安を感じたときには、一人で抱え込まず、早めに誰かに相談することも重要です。本稿が皆様にとって、心の健康と働き方を見つめ直すきっかけとなりましたら幸いです。





