ノボ ノルディスク 「肥満症」中心に2030年までに患者へのリーチ3倍へ―小谷啓輔社長が表明

ノボ ノルディスク ファーマは2026年3月19日、小谷啓輔代表取締役社長らによる年次記者会見を開催。2026年は2桁成長を目指すとともに、肥満症を中心に2030年までに現状の3倍の患者さんに同社の治療を届けるとする戦略を提示しました。同社のグローバルでの業績は、2025年は売上が10%成長し、日本円で7兆5000億円を超える規模と、全世界のトップ15に入る企業となりました。利益面でも一時的なコストを除き13%と2桁成長を達成。4500万人以上の患者さんに治療を届けました。本記事では会見から、同社の最新動向と肥満症治療が直面する課題などについてまとめました。
肥満症領域、前年比10倍のプラス成長
2026年1月1日に代表取締役社長に就任した小谷啓輔氏は、同社の2025年の業績と2026年の戦略やビジョンなどについて説明しました。
日本法人は、2025年の日本の医療用医薬品市場全体が2%弱の成長に留まる中、売上高前年比5.4%増を達成し、約115万人の患者さんに治療を提供したとしています。領域別では、糖尿病領域がプラス0.3%、成長ホルモンや血液凝固を扱う希少疾患領域がプラス23.5%の成長となりました。さらに、肥満症領域は前年比プラス1088%と10倍以上の成長を記録しました。
日本の「肥満症」患者、治療率は1%
とはいえ、日本では「病気としての肥満症」が十分に治療されていないという現状があります。日本には肥満の範疇(BMI25以上)にある人が2660万人存在し、その中で承認済みの肥満症治療薬の適応内(BMI27以上かつ2つ以上の関連健康障害がある、またはBMI35以上)に含まれる「肥満症」患者さんは600万人以上いると推測されます。ところが、実際に治療を受けている患者さんは約1万4000人にすぎず、治療率は1%以下です。
この背景には、肥満を「生活習慣が乱れている」「自己責任」とする社会的な偏見(スティグマ)があり、仕事や教育での差別に悩まされるほか、患者さんが医療従事者に相談できないという負のサイクルが存在している、と小谷氏は説明します。
小谷氏は、2030年までに製品を届ける患者数を現在の3倍以上に拡大する目標を示しました。そのためには、肥満症が生命を脅かす深刻な疾患であるという正確な啓発を行い、美容目的の不適切な自費診療ではなく、適応内の保険診療や適切な自費診療を含む治療選択肢の環境構築に貢献していくとの方針を示しました。
肥満症がもたらす社会・経済負担
同社の医療政策・渉外本部長の加藤亮氏は、肥満症がもたらす社会的・経済的な負担の大きさと、その課題に対する解決策を提示しました。
肥満症は単なる体重の問題ではありません。2型糖尿病や心血管疾患といった代表的な病気のほかにも女性の乳がんや子宮内膜(子宮体)がん、男性の前立腺がん、日中の労働生産性に大きな影響を与える睡眠時無呼吸症候群、外に出て活発な活動ができなくなりQOL(生活の質)に影響を及ぼす変形性膝関節症など、肥満は200以上の健康障害の元凶とされています。
さらに、社会経済的にも大きな影響を及ぼしています。肥満および過体重による財政損失と医療費は、日本国内で年間約2兆円と見積もられます。「肥満・過体重の有病率を1%減少できれば、年間約900億円の財政負担削減が可能との試算もあり、肥満の予防・早期治療は財政にも大きなメリットになると考えられる」と加藤氏は肥満症治療の経済的利点を紹介。また、肥満症は個人の健康行動の問題だけにとどまらず、教育、食品へのアクセス、都市計画、政策・制度など多層的な問題でもあると指摘しました。
官民学連携で社会課題への対処目指す
複雑な社会課題に対処するため、同社は行政、企業・地域、学術機関が連携する「官民学連携」を推進しています。日本肥満学会との包括的連携協定をはじめ、北海道から沖縄県に至るまで、地域の特性に合わせた自治体連携を進めています。特に千葉市でのプロジェクトでは、成人に対しては国保データを分析・利活用した受診勧奨や医療アクセス整備を行う一方、小児に対しては3歳児健診や6〜12歳の0次予防を実施し、ライフコースを通じたシームレスな予防・治療活動を展開します。こうした実証的な取り組みを積み重ね、最終的には国の政策へ反映させることで持続可能な社会への貢献を目指すといいます。
適切な使用推進に幅広く情報提供
肥満症治療薬として承認を得ているGLP-1受容体作動薬セマグルチドは、「真に必要とする患者に適切に提供する」ために、PMDA(医薬品医療機器総合機構)、日本肥満学会などの協力のもと「最適使用推進ガイドライン」が策定されました。同ガイドラインでは投与の要否判断にあたり、患者さんがすべての条件を満たす肥満症であることを確認するよう求めています。ところが、自由診療の美容クリニックなどでは、条件を満たさず「治療が必要な肥満症ではない」人に対し、美容痩身目的で、肥満症治療薬や、体重減少効果がある2型糖尿病治療薬を投与しているケースが見受けられます。
こうした状況について小谷氏は、「流通を制限することはできないので、さまざまな施設に流通していることは理解しています。不適切な使用を把握した場合は当局への報告やモニタリングを続けることで不適切使用を減少させるとともに、適切な使用を推進するために幅広く情報提供活動をしていきます」と、対策を説明しました。
肥満症は、治療によってより重篤な病気のリスクを低減させられる可能性があります。ところが、ほとんどの患者さんは医療へのアプローチに至っていません。「疾患そのものが理解されていないことによって治療のアクセスが妨げられています。そこで第一に、社会の偏見やスティグマをなくしていくために、しっかりとした啓発をしていきます。そして次に、医師と患者さんの意思決定プロセスを尊重し、適応内の自費診療を保険診療の補完的な選択肢とする環境構築に貢献していきます」――。小谷氏はこの2点を、肥満症領域における2026年の最優先事項として掲げました。
*本稿には特定の医薬品、治療法についての記述がありますが、情報提供のみを目的としたものであり、医療上の助言や販売促進などを目的とするものではありません。



