更年期は人生の“更新”期。閉経前後の「SOS」を見逃さないために、今知っておくべき3つの健康リスク
「最近、理由もなくイライラする」「急に体が熱くなって汗が止まらない……」 。40代後半から50代にかけて、多くの女性が直面する心身の変化。それは単なる「年齢のせい」ではなく、閉経に伴うホルモンバランスの劇的な変化が引き起こす体からのSOSサインかもしれません。閉経は決してネガティブな終わりではなく、人生100年時代における「第2の人生」へのアップデート期間です。しかし、その変化を正しく理解し、適切な対策を講じなければ、将来的に骨折や心筋梗塞、糖尿病といった命に関わるリスクを抱える可能性もあります。今回は、数多くの患者さんに寄り添ってきた舛森先生に、閉経前後に起こる「超意外な体の変化」とその対策について、医学的なメカニズムから具体的な生活習慣まで詳しく伺いました。
※○○年〇月取材。

監修医師:
舛森 悠(YouTube医療大学)
脳内は「怒れる上司」? 更年期症状が起こる驚きのメカニズム
編集部
更年期や閉経と聞くと、どうしても「体が辛そう」「もう若くないんだな」とネガティブに捉えてしまう女性が多いように感じます。
舛森先生
そうですね、世間一般では「更年期」という言葉にマイナスなイメージがあるかもしれません。しかし、私はこの時期を人生の 「 更新期 」 「 変更期 」 だと考えています。50歳は人生の折り返し地点。その先の人生をよりアクティブに過ごすための、大切なメンテナンス期間な のです 。
編集部
「人生の更新期」と聞くと、少し前向きになれますね。ただ、実際にホットフラッシュや不眠、イライラに悩まされている方にとっては、 「 なぜ自分の体にこんな異変が起きるのか 」 不安だと思うのですが、医学的にはどのような仕組みなのでしょうか?
舛森先生
キーワードは、女性ホルモンである「エストロゲン」の低下です。女性の体には卵巣という臓器がありますが、加齢とともにその機能が低下し、エストロゲンの分泌量が減っていきます。すると、面白いことに脳がその低下を敏感に察知するんです。
編集部
「 脳が察知する 」 とは具体的にどういうことでしょうか?
舛森先生
例えるなら、 「脳が上司」で「卵巣が部下」 という関係性です。部下である卵巣が、加齢で以前のように仕事(ホルモン分泌)ができなくなると、上司である脳はびっくりして「おい、もっと仕事しろ!」「エストロゲンを出せ!」と激しい指令を出し続けるようになります。
編集部
上司がパニックになって、現場(体)に怒号を飛ばしているような状態ですね。
舛森先生
まさにその通りです。脳からの指令が過剰になり、「脳内の不協和音」が鳴り響くことで自律神経が乱れてしまいます。その結果、血管の収縮・拡張がコントロールできなくなって「ホットフラッシュ(滝のような汗)」が起きたり、気分の落ち込み、めまい、頭痛、関節の痛みといった多種多様な症状が現れ たりす るのです。これを「更年期障害」と呼び、日本では社会的・経済的にも大きな損失を生んでいると言われるほど深刻な問題です。
編集部
我慢すべきことではないのですね。もし症状が辛い場合は、どうすれば良いでしょうか ?
舛森先生
まずは婦人科を受診してください。ホルモン補充療法(HRT)や漢方薬、プラセンタ注射など、その方に合った治療法が必ずあります。「これくらいで病院に行くのは……」と躊躇せず、かかりつけの内科でも良いので、まずは相談することが「第2の人生」を健やかに過ごす第一歩になります。
閉経後に急増する「骨」と「血管」の危機。70代で男性に追いつくリスクとは

編集部
先生は冒頭で、閉経後の体の変化を放っておくと将来的に大きな病気のリスクがあると仰っていました。具体的に、どのような変化に気をつけるべきでしょうか?
舛森先生
特に注意が必要な変化の1つ目は、 「骨が脆くなる( 骨粗しょう症 )」 ことです。実は60代女性の5人に1人、70代になると3人に1人が 骨粗しょう症 と い われています。男性と比較しても2〜3倍も多い数値です。
編集部
想像以上に多いですね。なぜ閉経が骨に影響するのですか?
舛森先生
先ほどお話ししたエストロゲンには、実は骨を壊す細胞の働きを抑え、骨を守る役割があります。閉経によってこの「守り神」がいなくなるため、一気に骨密度が低下してしまうのです。 また、エストロゲンが守っているのは骨だけではありません。 私が担当した70代の女性患者さんは、転んで脚の骨(大腿骨)を骨折し入院されましたが、検査をすると心臓の血管も詰まりかけている「狭心症」の状態でした。
編集部
骨折だけでなく、心臓の病気まで……。それが2つ目のリスク「心筋梗塞や脳梗塞」に関わってくるのですね。
舛森先生
その通りです。意外に思われるかもしれませんが、40〜50代までは圧倒的に男性に多い心筋梗塞や脳梗塞のリスクが、閉経後には女性も急上昇し、 70歳を迎える頃には男性とほぼ同等になります。 これは、エストロゲンが本来持っていた「LDL(悪玉)コレステロールを処理する力」が失われるためです。
編集部
ホルモンの減少が、血管の詰まりに直結するのですね。数値的な基準はありますか?
舛森先生
データによると、総コレステロール値が160〜180mg/dLの人に比べ、200〜240mg/dLの方は心臓病のリスクが1.5倍、260mg/dLを超えるとリスクは4倍近くまで跳ね上が るといわれています。
編集部
4倍は恐ろしいですね……。私たちはどのように対策すれば い いのでしょうか ?
舛森先生
骨に関しては、 「骨への刺激」と「ビタミンD」 が不可欠です。料理やテレビを見ながらでもできる「かかとを上げてストンと落とす運動(かかと落とし)」やスクワットは非常に有効です。また、ビタミンDはカルシウムの吸収を助けるため、鮭や卵、キノコ類を積極的に食べ、適度に日光を浴びて体内での活性化を促してください。
編集部
血管(コレステロール)対策についてはいかがですか?
舛森先生
有酸素運動が理想です。「少し息が切れるけれど友達と話せる」程度の強度で、週3〜4回、1回30分程度が推奨されます。食生活では、 お肉中心のメニューをサバやイワシなどの「青魚」に変えて、良質な油(DHA/EPA)を積極的に摂るようにしたり、 間食をナッツ類に変え たりする だけでも効果が期待できますよ。魚の油は冷たい海でも固まらない「サラサラした油」なので、血管の健康を助けてくれます。
知られざる「糖尿病」のリスク。血管を傷つける“ザラメ”の正体

編集部
3つ目の意外な変化として「糖尿病」も挙げられていましたね。閉経と血糖値、一見関係が薄そうに感じてしまいます。
舛森先生
これを解説しているメディアは少ないのですが、実は非常に重要です。エストロゲンには、血糖値を下げる唯一のホルモンである「インスリン」の効きを良くする働きがあります。閉経でエストロゲンが減ると、インスリンの効きが悪くなり、それまで正常だった血糖値が上がりやすくなってしまうのです。
編集部
「エストロゲンの減少」と「体型の変化」にも関係があるのでしょうか? 。
舛森先生
はい。エストロゲンが減ると、女性は「内臓脂肪」が溜まりやすくなります。お腹周りがパンパンに張ってくるタイプですね。この内臓脂肪からは、インスリンの働きを邪魔する物質が出るため、さらに糖尿病のリスクを高めるという「負の連鎖」が起きてしまいます。
編集部
糖尿病になると、血管にはどのような悪影響があるのでしょうか?
舛森先生
非常に分かりやすいイメージでお話ししますね。血糖値が高い状態というのは、血液の中にブドウ糖(お砂糖)が溢れている状態です。このブドウ糖が血管の壁にぶつかって酸化させ、傷つけていきます。まるで 「血管の中にザラメ(大きな砂糖の粒)が流れていて、内側の壁をガリガリと削っている」 ような状態を想像してください。
編集部
血管の中が傷だらけになっていく……。それは恐ろしいですね。
舛森先生
恐ろしいのは、糖尿病は「自覚症状がほとんどない」まま進行することです。血液検査の数値でいうと、ヘモグロビンA1c(HbA1c)が6.5%を超えると糖尿病と診断されますが、実は6.0%を超えたあたりから血管が詰まるリスクは約2倍にな るといわれています 。
編集部
診断基準に達する前から、すでにリスクは始まっているのですね。早期発見のためにできることはありますか?
舛森先生
喉が渇く、トイレが近いといった症状が出る頃にはかなり進行しています。ですから、40代を過ぎたら必ず定期的な健康診断や血液検査を受けてください。これは普通の内科で簡単に調べられます。閉経というタイミングを、自分の体を数値で把握する「絶好のチャンス」だと捉えてほしいですね。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
舛森先生
閉経前後の変化に不安を感じるのは、あなたが自分の体と向き合おうとしている証拠です。大丈夫。今のうちからリスクを知り、適切な運動や食事、そして医師への相談をおこなうことで、発症は防げます。病気になる前の『未病』の段階で正しい知識を学び、生き生きとした第2の人生を歩んでいきましょう
編集部まとめ
今回の舛森先生のお話を通じて、閉経は単なる「終わりの合図」ではなく、これからの数十年を元気に生き抜くための「体からのサイン」なのだと強く感じました。
脳と卵巣の「上司と部下」の関係や、血管を傷つける「ザラメ」の比喩など、自分の体の中で何が起きているのかをイメージできた方も多いのではないでしょうか。




