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医療を自分ごとにする「患者参画」とデジタル化の最前線

 公開日:2026/02/16
医療を自分ごとにする「患者参画」とデジタル化の最前線

患者は医療の「受け手」から「共創者」へー。高額療養費制度の審議会に患者委員が参加し、難病対策委員会で当事者の声が制度設計に反映される時代が到来しています。2025年10月に開催された『EFPIA Patient Forum 2025』の患者・市民参画(PPI)がもたらす具体的な変化、医療DXと医療情報の二次利用をめぐる議論、そして登壇者たちが掲げた「アクション宣言」をお伝えします。「医療の民主化」に向けた道筋が、ここにあります。

内山 博之(うちやま ひろゆき)

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内閣府 健康医療戦略推進事務局 事務局長。
1991年に旧厚生省に入省(現・厚生労働省)以来、主に年金・福祉分野などに携わり要職を歴任し、2023年7月に厚生労働省大臣官房医薬産業振興・医療情報審議官に就任。医薬品の安定供給や、創薬力の強化、医療DXに取り組んだ。また、医療データに利活用について政府全体で取り組む課題と強調したほか、AIが電子カルテに入力する情報をフォーマット化して共通化するような手法への期待感を示した。2025年(令和7年)7月1日、内閣府健康・医療戦略推進事務局長に就任。

桜井 なおみ(さくらい なおみ)

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一般社団法人 全国がん患者団体連合会 副理事長。2004年に30代で乳がんと診断され、その後、自身のがんの経験や社会経験を活かし、小児がんを含む患者や家族の支援活動を開始。現在、一般社団法人CSRプロジェクトの代表理事、キャンサー・ソリューションズ株式会社の代表取締役社長、NPO法人HOPE★プロジェクトの理事長。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラーの資格を保有。

中山 和弘(なかやま かずひろ)

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学校法人聖路加国際大学 大学院看護学研究科 看護情報学分野 教授。1985年に東京大医学部保健学科を卒業し、90年に同大大学院医学系研究科保健学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、愛知県立看護大助教授などを経て、2004年から聖路加国際大大学院看護学研究科看護情報学分野教授。適切な情報に基づく意思決定や行動をケアする看護情報学、保健医療社会学が専門。ヘルスリテラシー、意思決定支援、ヘルスコミュニケーションやそのサポートネットワークなどについて研究している。ウェブサイト「健康を決める力」(http://www.healthliteracy.jp/)を運営。

池崎 悠(いけざき はるか)

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一般社団法人 ピーペック。1992年生まれ。15歳でCIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)を発症。その経験を基に、福岡県で難病の人の就労問題に取り組む「難病NET.RDing福岡」を立ち上げ、勉強会やカフェ交流などを開催。ピーペックでは慢性疾患当事者のエンパワメント支援を行う。

大黒 宏司(おおぐろ ひろし)

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一般社団法人 日本難病・疾病団体協議会 代表理事。33歳で膠原病(混合性結合組織病)を発症。理学療法士としてクリニックで勤務をしながら、自身の経験や、理学療法士・社会福祉士としての知識を活かして患者会の活動や難病相談支援に取り組む。現在、一般社団法人全国膠原病友の会(JPA加盟)常務理事、NPO法人大阪難病連(JPA加盟)常務理事、大阪難病相談支援センター センター長を務める。理学療法士、社会福祉士の資格も保有。

眞島 喜幸(まじま よしゆき)

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特定非営利活動法人 パンキャンジャパン 理事長。1948年東京生まれ。オタワ大学、カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)を卒業後、同大学の博士号課程に進み、Rand Corporationにて健康政策分析プロジェクトに参画。医療・教育ソフトウェアの企業で医療関係者を対象とするソフトウェア事業を進めたのち、出版 社の新規事業開発を支援。2006年4月に実妹をすい臓がんで失くし、この年、PanCAN Japanを設立した。2012年に膵腫瘍がみつかり、膵全摘手術を受けた。膵臓がん・膵NETサバイバーとして主に難治性がん、希少がんのドラッグラグ問題解消、研究者支援に向けた活動をすすめている。

岩屋 孝彦(いわや たかひこ)

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一般社団法人 欧州製薬団体連合会 (EFPIA Japan) 会長 / サノフィ株式会社 代表取締役社長。1990年旧厚生省入省。14年間の国家公務員としての期間、旧大蔵省主税局や日本貿易振興会、医政局経済課、健康局総務課等に携わり、 2004年から製薬会社に勤務。ジョンソン・エンド・ジョンソン、ヤンセンファーマにてさまざまな要職を務める。2019年9月にサノフィ株式会社スペシャルティケア部門の日本の事業部長として入社、2020年1月に代表取締役社長に就任。同年8月には欧州製薬団体連合会(EFPIA)Japan副会長に就任し 、2021年9月から会長として従事。

医療制度設計への患者参画-PPIがもたらす変化

PPI(Patient and Public Involvement:患者・市民参画)が医療制度設計に与える効果について、具体的な事例が示されました。厚生労働省社会保険審議会の「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」に患者が委員として参加することで、患者の実生活に即した制度構築につながっているといいます。上限引き上げによる保険のセーフティネット機能の低下や受診抑制への懸念といった「生の声」を伝えることができるのです。

また、厚労省厚生科学審議会の「疾病対策部会難病対策委員会」でも患者委員の参加により、医療助成の手続き簡素化や、指定難病の診断基準見直しの際に既存患者への配慮がなされるなど、実態に即した制度設計が実現しています。一方で、同「指定難病検討委員会」には患者が参加していないため患者の意見なしに要件が変更され、後に難病対策委員会で再検討が必要になる事例もあるとのことでした。

桜井なおみさんは、10年前には考えられなかったことが今少しずつ進んでいると実感を述べつつ、次の10年に向けた課題も指摘しました。がん領域から始まった患者・市民参画が難病領域にも広がりを見せている一方で、日本ではエビデンス・ベースド・ポリシーメイキング(科学的根拠に基づく政策立案)がヨーロッパと比べてまだ弱く、透明性の向上が求められていると問題を提起しました。

医療DXと医療情報の二次利用-信頼を基盤に

内山博之さんからは、国の健康医療戦略の最新動向が報告されました。創薬力の向上を目指す官民協議会が設置され、患者団体も参加してドラッグラグやドラッグロスの解消に向けた議論が進められています。医療DX(デジタルトランスフォーメーション)も大きく動き出しており、全国で医療情報プラットフォームを構築した上で、救急現場での治療など医療の質向上につなげていく計画です。

医療情報の二次利用、つまり新しい薬の開発やアカデミアの研究への活用も重要なテーマです。内山さんは、この取り組みを進める上で「国民と患者の皆さんの信頼がキーワードになる」と強調しました。個人情報保護との兼ね合いや、どのような形で同意を得るかについて、国民が納得できる仕組みづくりが求められています。

桜井さんは、医療データの利活用について、行政が便利になるという発信が多い一方で「私たちの生活が良くなる」という目線が弱いと指摘しました。患者中心から「人(パーソン)中心」への転換が必要であり、各省庁と製薬企業、市民、患者団体が全員で議論できる場を設けるべきだと提言しています。

「決める力」を支える環境整備-ディシジョンエイドの活用

中山和弘さんは、患者の意思決定を支援するツールとして「ディシジョンエイド」の重要性を説きました。これは選択肢が記載されており、それぞれの長所と短所が示され、自分の価値観を確認して最も良い選択へのサポートをするツールです。世界中では約780件が無料で利用可能な一方、日本では20件程度しか作成されていないという現状があります。

ディシジョンエイドが電子化されれば、自分がどのような理由でその選択をしたのかという記録を残すことができます。匿名化して共有すれば、同じ病気の患者同士で「決め方を学び合う」ことも可能になります。イギリスでは実際に電子カルテの中にシェアード・ディシジョンメイキング(患者さんと医療者が協力して治療法を決定するプロセス)の記録が残る仕組みが導入されているそうです。

池崎悠さんは、患者会でのコミュニティの重要性を語りました。テキストだけでは「生きた情報」にはなりにくいけれども、すでに就労支援を利用している人や治験に参加している人の話を直接聞くと、情報が「活用できるもの」へと変わるといいます。「人間がメディアとして関わるコミュニティ」の存在が、ヘルスリテラシー向上の鍵となっていることを示しました。

「全員参加」でひらく医療の未来——登壇者からの宣言

フォーラムの締めくくりとして、各登壇者から「アクション宣言」が発表されました。進行を務めた眞島喜幸さんは「Make PPI Standard-患者・市民参画の常設化」を掲げ、厚生労働省や経済産業省、各種協議会や委員会に必ず患者の声が反映される仕組みの実現を訴えました。

大黒宏司さんは「知って、伝えて、浸透させる」というプロセスの重要性を強調。池崎さんは「PPIの裾野を広げる」として、患者・市民参画という言葉すら知らない当事者や、自分には難しいと感じている人にも参加の道を開くことを提唱しました。中山さんは「腑に落ちた(納得して決められた)」を普及させることで、自分らしく生きる幸せを取り戻すことを目標に掲げています。

桜井さんはシンプルに「医療の民主化」を宣言。医療の主役は自分であり、その環境を取り戻していきたいと述べました。岩屋孝彦さんは「All at the Table-みんなでテーブルについて議論を」と呼びかけ、昨年掲げた「All In(全員参加)」の精神を継続する決意を示しました。

編集部まとめ

「医療の民主化」――桜井さんが掲げたこのシンプルな言葉に、フォーラム全体のメッセージが凝縮されています。医療の主役は患者自身であり、制度設計の場にも、研究開発の現場にも、当事者の声が届く仕組みが必要です。

注目すべきは、この理念が着実に現実のものとなりつつあることです。高額療養費制度や難病対策委員会での患者参画、官民協議会への患者団体の参加など、10年前には考えられなかった変化が起きています。医療DXの進展により、ディシジョンエイドのようなツールを通じて、誰もが納得して医療を選択できる環境が整う可能性も見えてきました。

桜井さんは内閣府規制改革推進会議 健康・医療・介護 ワーキング・グループに専門委員として出席し、医療にかかわる規制緩和などについて国に意見を届けるという活動も行っています。

登壇者全員が共有していたのは、「全員がテーブルについて議論する」という姿勢です。患者団体、医療者、行政、製薬企業、そして一般市民、それぞれの立場を超えて協力することで、より良い医療の実現に近づくことができるでしょう。フォーラムで示された道筋が、日本の医療を変える一歩となることを期待します。
(本記事はEFPIA Patient Forum 2025での議論をもとに編集部が構成しました)

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