海外から患者が集まる脊椎手術「MIST(最小侵襲脊椎治療)」はどんな治療なのか?【医師監修】

腰や首の痛み、手足のしびれなどの症状がみられる背骨や脊髄の病気は、加齢とともに誰にでも起こりうる身近な健康問題です。しかし、近年「MIST(最小侵襲脊椎治療)」という体への負担を大きく抑えた新しい治療法が注目を集めています。わずか1〜2cmの切開で神経の圧迫を取り除き、早期回復を実現するこの治療法は、高齢者や持病のある方にも適応しやすいのが特徴です。今回は、背骨や脊髄の病気の基礎知識から最新の治療法、そして治療後の生活のポイントまで、New Spine クリニック東京総院長の石井賢先生に詳しく解説していただきました。

監修医師:
石井 賢(New Spineクリニック東京)
背骨の病気とは? 痛みやしびれを引き起こす原因を知る

編集部
はじめに、背骨や脊髄の病気にはどのような種類があるのか教えてください。
石井先生
背骨や脊髄の病気には、加齢による椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、すべり症、圧迫骨折、指定難病の後縦靭帯骨化症や黄色靭帯骨化症、首下がり症候群など様々なものがあります。これらは骨や関節の変形、神経の圧迫によって起こる病気で、加齢や姿勢の乱れ、筋力低下などが関係しています。軽い痛みやしびれでも、放置すると慢性化し歩行障害につながることがあるため、長く続く症状は我慢せず、早めに専門医を受診することが大切です。
編集部
背骨や脊髄の病気では、どのような症状が出るのでしょうか?
石井先生
腰や首の痛み、手足のしびれ、力が入りにくいといった症状が代表的です。神経の圧迫が強くなると、歩いている途中で足が重くなり、休むと回復する間欠性跛行が起こることもあります。進行すると排尿や排便に影響することもあるため、痛みやしびれが長引く場合は早めの受診が必要です。日常の小さな違和感にも注意を向けましょう。
編集部
背骨や脊髄の病気は、どのようなことが原因で発症しますか?
石井先生
主な原因は加齢に伴う椎間板や関節の老化です。長時間のデスクワークやスマートフォンの使用など、前かがみの姿勢を続けることもリスクを高めます。運動不足や体幹の筋力低下、肥満、骨粗しょう症なども要因となります。姿勢を整え、適度な運動やストレッチを習慣にすることで、将来的な発症リスクを抑えることが可能です。
MIST(最小侵襲脊椎治療)とは? 負担を抑えた新しい治療法

編集部
背骨や脊髄の病気に対する一般的な治療法について教えてください。
石井先生
多くの場合、まずは手術以外の保存療法から始めます。痛み止めの薬や神経ブロック注射で炎症や痛みを抑え、リハビリテーションで筋力や姿勢を整えます。生活習慣を見直すことで症状が改善することもありますが、強い痛みやしびれ、歩行障害などがある場合には手術も検討します。最近では、より体に負担の少ない治療法も選択できるようになっています。
編集部
負担の少ない治療法とは、どのような治療ですか?
石井先生
「最小侵襲脊椎治療(MIST)」といい、できるだけ体へのダメージを減らした脊椎治療です。手術では内視鏡や顕微鏡を使って、わずか1〜2cmの切開から神経の圧迫を取り除きます。筋肉や靱帯をできるだけ切らずにおこなうため、出血量や痛みが少なく、入院期間も短くなります。体への負担を抑えながら、安全性と確実性を両立できる治療として注目されています。
編集部
従来の脊椎手術と比べて、どのような点で負担が少ないのでしょうか?
石井先生
従来の手術では、10cm以上切開して筋肉を大きく剥がす必要がありました。MISTでは小さな切開で筋肉を温存できるため、出血量が少なく痛みも軽減されます。術後の回復が早く、早期に歩行や仕事へ復帰できる点が大きな特徴です。高齢の方や持病を持つ方にも適応しやすく、入院期間が短いことも大きなメリットです。
編集部
海外の方が治療を希望されることもあると聞きますが、現状を教えてください。
石井先生
海外の方にとっては、自国の医療費の高さや日本の医療に対する信頼の高さがあるようで、連日、複数のお問い合わせを欧米やアジア各国の方々からいただきます。まずオンラインで1時間ほど診察した上で、実際に来日される場合は、2〜4週間の滞在でMISTをおこなうことが可能です。また、日本の医療ツーリズムは、Medical Excellence Japan (MEJ)が日本政府の「医療・健康分野の国際展開」戦略の下、官公庁・医療界・産業界を横断する中核的な組織として活動しています。世界中の方々は日本の医療水準の高さを認識されているため、今後の更なる発展を期待しています。
治療後のリハビリテーションと生活のポイント

編集部
最小侵襲脊椎治療のメリットとデメリットを教えてください。
石井先生
MISTのメリットは、体への負担が少なく回復が早いことです。傷口が小さく感染のリスクが低いため、高齢者や体力に不安のある方にも実施しやすい方法です。反面、すべての病気に対応できるわけではなく、変形が大きい場合や複数の箇所に問題がある場合は適さないこともあります。医師と十分に相談し、症状や生活に合わせて治療法を選ぶことが重要です。
編集部
最小侵襲脊椎治療が適応になる人とならない人の違いについて教えてください。
石井先生
神経の圧迫が限られている方や、背骨の変形が軽度な方はMISTの対象になります。一方で、背骨全体の変形が強い方や骨がもろい方、多椎間にわたる病変がある場合は適応外となることがあります。MRIやCTなどの精密検査で状態を確認し、体力や持病の有無を含めて慎重に判断します。安全に効果を得るためには、経験豊富な医師による適切な見極めが欠かせません。
編集部
治療後のリハビリテーションや日常生活で注意すべきことはありますか?
石井先生
術後は無理をせず、医師や理学療法士の指導に従ってリハビリテーションをおこなうことが大切です。背骨を支える筋肉を鍛え、姿勢を整えることで再発を防ぎます。長時間同じ姿勢を取らないよう心がけ、こまめに体を動かすことも重要です。退院後もストレッチやウォーキングを継続し、適度な運動を生活の一部に取り入れることが回復を早めるカギになります。
編集部まとめ
体への負担を抑えつつ、確実な治療を実現する医療技術の進歩について伺いました。わずか1〜2cmの傷で手術が可能となり、入院期間も大幅に短縮されています。特に高齢化が進む日本では、体力に不安のある方でも安全に治療を受けられる選択肢が増えたことは大きな希望といえるでしょう。痛みやしびれを「年だから仕方ない」と諦めず、適切な治療とリハビリテーションで生活の質を改善できる時代です。本稿が読者の皆様にとって、脊椎・脊髄治療の選択肢を広げる一助となりましたら幸いです。
医院情報

| 所在地 | 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-6-3 都道府県会館地下1F |
| アクセス | 東京メトロ有楽町線・半蔵門線・南北線「永田町」駅直結 東京メトロ丸の内線・銀座線「赤坂見附」駅より徒歩5分 |
| 診療科目 | 整形外科 |




