「水は1日2リットル」はウソ? ホント? YouTube医療大学が教える正しい水分補給と血糖値の関係
「健康のために、毎日水を2リットル飲みましょう」。この言葉を信じて、毎日意識的に水分を摂っている方も多いのではないでしょうか。しかし、この説は万人にとっての正解ではないことをご存じでしょうか。最新の研究で分かってきた本当に大切なことは、飲む「量」ではなく、「何を飲むか」という“選び方”と、「何から食べるか」という“順番”だといいます。広く信じられている「水2リットル神話」をエビデンスに基づいて検証し、血糖値を本当にコントロールするために、今日から実践できる最も確かな方法について、「YouTube医療大学」を運営する総合診療科の医師、舛森先生に伺いました。

監修医師:
舛森 悠(YouTube医療大学)
「水2リットル神話」の真実 目指すべきは“適正な水分状態”

編集部
はじめに、「1日2リットルの水を飲むのが健康に良い」というのは本当でしょうか?
舛森先生
いえ、正確に合っているとは言い切れません。この説の元になったのは「1日8杯の水を飲む(約1.9リットル)」という古い話で、20年以上前からエビデンスが乏しいと指摘されていました。
編集部
具体的にどのようなことが問題なのでしょうか?
舛森先生
最大の誤解は、「食事から摂る水分を考慮していないこと」です。私たちはご飯や味噌汁、野菜や果物からも、1日およそ1リットルの水分を摂取しています。つまり、飲料だけで2リットルを目指すと、人によっては過剰になることもあるのです。
編集部
では、本当に必要な水分量はどのくらいなのか教えてください。
舛森先生
必要量は年齢や体重、活動量、季節などで変わります。炎天下で働く方とデスクワーク中心の方では、当然必要な水分が違いますよね。目安としては「尿の色」に注目してください。「透明すぎる場合は飲みすぎ」「濃い黄色の場合は水分不足」です。理想は「薄いレモン色」と言われており、「のどが渇いた」と感じる前にこまめに摂るのが理想です。
血糖値を下げるには「飲料の置き換え」から

編集部
適切な水分量についてわかりました。では、血糖値を安定させるために“まずやるべきこと”は何でしょうか?
舛森先生
最もシンプルで効果が高いのが、「砂糖入り飲料をやめて、水やカフェインレスのお茶に置き換えること」です。ジュースや甘い炭酸飲料、加糖コーヒー、そして意外な落とし穴であるスポーツドリンクなどは、液体の糖分が急速に吸収されて血糖値スパイクを起こします。
編集部
詳しく教えてください。
舛森先生
実際、2023年にイギリスの医学会誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(British Medical Journal)」に掲載された研究では、2型糖尿病の患者さんが砂糖入り飲料を水に置き換えるだけで、総死亡リスクや心血管疾患のリスクが有意に低下したと報告されています。つまり、新しい健康法を“足す”よりも、まずは血糖値を乱す習慣を“引く”ことが何より大切なのです。
編集部
「水を飲むタイミングを工夫すると血糖値が下がる」といった話も聞きますが、それより効果的な方法はありますか?
舛森先生
はい。私がおすすめするのは、「食べる順番」と「食前の水」という2つのテクニックです。まず「食べる順番」については、
① 野菜・きのこ類(食物繊維)
② 肉・魚(たんぱく質)
③ ご飯やパン(炭水化物)
の順に食べることで血糖値を下げる効果が期待できます。信頼性の高い複数の研究で、この「食べ順」を実践するだけで食後血糖値とインスリン分泌を大幅に抑制できると証明されています。最初に食物繊維を摂ることで、糖の吸収がゆるやかになるのです。
編集部
「食前の水」についても教えてください。
舛森先生
食事の30分前にコップ2杯(約500ml)の水を飲むと、満腹感が高まり自然と摂取量を減らすことができます。これは直接血糖値を下げるわけではありませんが、体重管理を通じて血糖コントロールを助ける効果があります。ただし、心臓や腎臓に病気があり水分制限がある方は、主治医に相談してからおこなってください。
「お茶やコーヒーで水分補給」は間違い? 医師が教える正しい水分補給

編集部
水分を摂取する際は、コーヒーやお茶で水分補給してもいいのでしょうか?
舛森先生
水分補給の基本は「水」です。お茶ならカフェインを含まない麦茶やルイボスティーが良いですね。コーヒーや緑茶、紅茶などに含まれるカフェインは利尿作用があり、摂った水分を排出しやすくしてしまうため、補給目的には向きません。
編集部
水は常温と冷水、どちらが良いのでしょうか?
舛森先生
お好みで構いません。「常温の方が体に良い」というエビデンスはありません。運動後や暑い季節には5〜15℃程度の冷たい水の方が吸収が早く、深部体温を下げる効果があります。これは日本の環境省が発表している熱中症対策マニュアルでも明記されています。熱中症対策という観点で言えば、冷たい水のほうが適しています。
編集部まとめ
私たちはつい「たくさん水を飲めば健康に良い」と思いがちですが、大切なのは“量”ではなく“質”と“タイミング”だということがわかりました。「砂糖入り飲料を水やお茶に置き換える」「食事は野菜から順番を意識して食べる」。この2つの実践から始めましょう。日常の飲み方や食べ方を少し意識するだけで、体のコンディションは大きく変わります。水分補給を「ただの習慣」ではなく、「体を整える行為」として見直してみてください。
【動画でさらに詳しく解説!】
YouTubeチャンネル「YouTube医療大学」では、この記事の内容をさらに深掘りしています。
「食べる順番を実践するための、具体的な外食・コンビニでのメニュー選び」「話題の人工情報甘味料の飲み物は、結局どうなのか?」など、あなたの疑問にさらに詳しくお答えしています。
文字だけでは伝わりにくいニュアンスも、図解やアニメーションを交えて分かりやすく解説していますので、ぜひチャンネル登録をしてご覧ください。
参考文献
- Valtin H. “Drink at least eight glasses of water a day.” Really? Is there scientific evidence for “8 × 8”? Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2002;283(5):R993–R1004.
- Ma L, Chung M, Yuan C, et al. Beverage consumption and mortality among adults with type 2 diabetes: prospective cohort study. BMJ. 2023;381:e073406.
- Shukla AP, Iliescu RG, Thomas CE, Aronne LJ. Food Order Has a Significant Impact on Postprandial Glucose and Insulin Levels. Diabetes Care. 2015;38(7):e98–e99.
- Kuwata H, Iwasaki M, Shimizu S, et al. Meal sequence and glucose excursion, gastric emptying and incretin secretion in type 2 diabetes: a randomised, controlled crossover, exploratory trial. Diabetologia. 2016;59(3):453–461.
- Dennis EA, Dengo AL, Comber DL, et al. Water consumption increases weight loss during a hypocaloric diet intervention in middle-aged and older adults. Obesity (Silver Spring). 2010;18(2):300–307.
- 環境省. 熱中症環境保健マニュアル2018. 2018. 2025年10月9日閲覧.





