『難聴』で「認知症」になる可能性があるってホント? 予防するための“補聴器の活用”とは?

加齢とともに進行する難聴は、単に「耳が遠くなる」という問題にとどまりません。コミュニケーションの障害から孤立や気分の落ち込みを招き、認知症のリスクを高めることもわかってきました。そこで難聴と認知症の関係、そして補聴器の上手な活用法について、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医であり、補聴器適合判定医でもある小川先生(オトクリニック東京院長)に解説してもらいました。
※2025年10月取材。

監修医師:
小川 郁(オトクリニック東京)
難聴で認知症になる!? 医師が解説

編集部
難聴とはどのような病気ですか?
小川先生
難聴とは「聞こえが低下した状態」を指します。原因はさまざまで、大きく分けると音がうまく伝わらない「伝音難聴」と、音を感じる神経が障害される「感音難聴」があります。前者は耳垢や中耳炎などで生じる難聴が多く、早期の治療で完治する可能性が高い難聴です。一方、感音難聴には早期であれば改善の可能性がある突発性難聴やメニエール病などの急性感音難聴と、加齢や騒音、遺伝などによる改善が期待できない慢性感音難聴があります。
編集部
「歳とともに耳が聞こえにくくなってきた」というのは、「感音難聴」に含まれるのですね?
小川先生
そうです。加齢によって耳が聞こえにくくなる「老人性難聴」は、感音難聴の一つに分類され、高い音から徐々に聞き取りにくくなるのが特徴です。年齢を重ねると体のさまざまな機能が衰えるのと同じように、耳の奥にある「内耳」の神経細胞や、そこから脳に音を伝える経路、さらに音を理解する脳の働きまで全般的に少しずつ弱っていきます。
編集部
難聴と認知症には関係があるというのは本当ですか?
小川先生
はい、その通りです。「聞こえ」は単に音を受け取るだけでなく、言葉を理解し、感情を交えて相手に言葉を返すという複雑な脳の働きと結びついています。難聴で会話が聞き取れないと、人間関係に誤解や孤立を招きやすく、認知機能の低下やうつにもつながることがわかってきています。聞き取りにくさを感じた人は、最初は聞き返していても、その回数が多くなると、聞き返さずに流してしまうことが増えていきます。そのため難聴は、放置していると認知症のリスクを高めると考えられています。
編集部
難聴の人は、どのような症状を自覚することが多いですか?
小川先生
「相手の声がこもって聞こえる」「早口が聞き取れない」「複数人の会話に入れない」などが典型的です。ほかには、耳鳴りや耳閉感で気がつくこともあります。また、本人が気づかないうちにテレビの音量が大きくなったり、会話中に曖昧に笑ってごまかしたりすることもあります。これらがきっかけで社会的に孤立し、認知症のリスクが上がってしまうことがあるのです。
難聴による認知症を防ぐ! 補聴器の役割と選び方

編集部
難聴の進行を防ぐ方法はあるのでしょうか?
小川先生
突発性難聴やメニエール病など一部の難聴は早期治療で改善が見込めますが、加齢による難聴は根本的に防ぐことはできません。ただし、騒音を避けたり生活習慣を改善したりすることで、進行を緩やかにすることは可能です。また、定期的に耳鼻咽喉科で聴力をチェックし、早い段階で適切なケアを始めることが大切です。
編集部
早い段階での適切なケアとは、具体的にどのようなものですか?
小川先生
補聴器の装用を検討します。難聴を放置すると脳の音を処理する力が衰えるため、軽度のうちから対応することが大事です。軽度のうちから補聴器を取り入れることで、脳が音を処理する力を保ちやすくなり、将来の生活への影響を減らすことができます。
編集部
補聴器を使うメリットを教えてください。
小川先生
補聴器を装用すると会話がスムーズになり、人との関わりが自然に戻ります。聞き取りにくさから感じていた孤独やストレスが軽減され、毎日の生活に安心感が生まれます。補聴器は単に音を増幅するだけでなく、脳の活動を活発にし、趣味や仕事、家族との会話を楽しむ力を取り戻すための大切なツールです。
編集部
補聴器を選ぶときのポイントはありますか?
小川先生
「価格」だけで選ばないことです。「聞こえの状態」や生活スタイルによって必要な機能は異なります。必ず専門医の診察と聴力検査を受け、自分に合った補聴器を選ぶことが重要です。自宅で家族と会話することが多い人なのか、大人数が発言する会議に参加する人なのか、音楽鑑賞や観劇を楽しみたい人なのかといったことで、適した補聴器や設定が異なります。また、購入後の調整やアフターケアも大切で、専門的なサポートがある施設を選ぶと安心です。
難聴と上手につきあうために

編集部
専門的なサポートとはどのようなものですか?
小川先生
単に補聴器を装用するだけではなく、補聴器装用による聴覚トレーニングが重要です。難聴による認知機能低下を防ぐためには三位一体の対応が必要とされています。それは第一に、難聴の的確な診断、次に、補聴器装用が必要とされたらすぐに補聴器適合をおこなうこと、そして第三がこの聴覚トレーニングです。最初は7割程度の音量からスタートし、おおむね3カ月を目安にして、言葉の聞き取りを最大限活かせるようにしていきます。
編集部
では、補聴器以外にできる工夫はありますか?
小川先生
会話の際に相手の口元を見たり、静かな環境で会話したりするだけでも聞き取りやすさは変わります。また、耳の健康を保つために定期的に耳鼻咽喉科を受診し、耳垢の除去や中耳の状態をチェックしておくことも大切です。一度受診して「今はまだ補聴器は必要ない」と言われた場合でも、定期的な検査は続けることをおすすめします。
編集部
ほかに、聞こえにくさに悩む人やその家族が知っておいたほうがよいことはありますか?
小川先生
聞こえにくさを感じている人に話しかけるときは、正面から声をかけたり、少しゆっくりめに話したり、口をしっかり開けて発音したりといった工夫が大切です。補聴器を装用した後は「だいぶ聞こえるようになったね」と声をかけるなど、前向きな言葉でサポートしてあげるとよいと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
小川先生
団塊の世代が「後期高齢者」となり、数年後には100歳以上が10万人、さらに25年後には40万人に達すると言われており、まさに「人生100年時代」です。年齢を重ねても、自分の目で見たり、耳で聞いたり、足で歩いたりして、豊かに過ごしていけることが大切です。補聴器は、導入後のリハビリテーションも欠かせません。自宅でできるリハビリテーションとして、私がおすすめしているのが「音読」です。補聴器を装用した状態で声を出して文章を読むことで、耳と脳を一緒にトレーニングできます。一人暮らしの人でも日常的に実践できる方法です。
編集部まとめ
難聴は「年のせい」と放置しがちですが、認知症やうつのリスクを高める重大な要因です。補聴器をはじめとする適切なサポートを取り入れることで、生活の質や人とのつながりを守ることができます。聞こえに不安を感じたら、早めに専門医に相談してみてください。
参考文献
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
KOMPAS – 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
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