“目の負担が少ない”緑内障手術はご存じですか? 「トラベクロトミー」のメリット・デメリットを医師が解説!

視野が徐々に狭くなる「緑内障」。その進行を抑える治療法の1つが「トラベクロトミー」です。トラベクロトミーは、従来の手術と比べて目への負担が少ないとされる一方、全ての患者さんに適しているわけではありません。今回は、トラベクロトミーの仕組みやメリット・デメリット、適応となるケースを「みたに眼科クリニック」の三谷先生に解説していただきました。

監修医師:
三谷 貴一郎(みたに眼科クリニック)
トラベクロトミーとは

編集部
まず、トラベクロトミーについて教えてください。
三谷先生
トラベクロトミーは、眼内の房水の出口にある線維柱帯(せんいちゅうたい)という組織を切開し、房水の流れを改善する手術です。これにより眼圧を下げ、緑内障の進行を抑える効果が期待できます。日本語では「線維柱帯切開術」と言います。
編集部
一般的におこなわれている手術なのでしょうか?
三谷先生
緑内障の患者数増加に伴い、ここ5年くらいで手術件数が増えています。じつは、以前からトラベクロトミーの術式は存在していましたが、非常に難易度が高く、実施できる医師が限られていました。しかし近年、新たな術式が開発されたことによって、比較的短時間で簡単におこなえるようになりました。それにより、トラベクロトミーを受ける患者数が増加したのです。
編集部
緑内障に対しておこなわれる治療なのですね。
三谷先生
緑内障の治療は、まず目薬による薬物療法から始まり、十分な効果が得られない場合にはレーザー治療が検討されます。それでも眼圧のコントロールが不十分な場合には、観血的手術が選択されます。観血的手術にはいくつか種類があり、トラベクロトミー、トラベクレクトミー、チューブシャント手術などが代表的です。このうち、トラベクロトミーは眼圧を下げる効果が比較的弱いものの、合併症のリスクが少ないという特徴があります。
編集部
トラベクロトミーは、どのようなタイプの緑内障におこなわれることが多いのでしょうか?
三谷先生
トラベクロトミーはその特性から、視野障害が進行する前、つまり「このままでは視野が悪くなってしまう」と予測される時点で、早めにおこなうことが大切です。
編集部
トラベクロトミーとトラベクレクトミーは名前が似ていますが、別の手術なのですか?
三谷先生
名前は似ていますが別の手術です。トラベクロトミーは簡単に言うと、目詰まりを起こしているフィルターを切開して目の中の水の流れを改善する治療法です。一方、トラベクレクトミーは目玉の壁に穴をあけ、新たな排出口(バイパス)を作る方法です。後者はより大きな眼圧低下が期待できますが、合併症リスクも高いため、トラベクロトミーの方が低侵襲で安全性が高いとされています。
編集部
緑内障には様々なタイプがあると聞きますが、トラベクロトミーはどのタイプに有効なのですか?
三谷先生
緑内障にはいくつかの種類がありますが、なかでも「原発開放隅角緑内障」に適応されやすい手術です。このタイプは、房水の出口が開いているのに眼圧が高くなるのが特徴で、トラベクロトミーによって線維柱帯の流れを改善することが有効とされています。ただし、別のタイプでも適応になることはあるので、眼科での評価が必要です。
トラベクロトミーのメリット

編集部
トラベクロトミーのメリットはなんですか?
三谷先生
眼球の自然な構造を大きく変えずに、眼圧を下げられる点が最大の強みです。外から見てもほとんど変化がなく、合併症のリスクも比較的少ないため、患者さんにとって身体への負担が少ない治療法と言えるでしょう。
編集部
手術後の回復も早いのでしょうか?
三谷先生
手術は比較的短時間で済み、傷口も小さいため、術後の炎症や回復までの時間が短い傾向にあります。また、眼圧が安定するまでの期間も早く、術後の生活制限も比較的少ないことから、日常生活への復帰がスムーズです。
編集部
手術後、すぐに見えやすくなるのでしょうか?
三谷先生
切開した部分から目の中に出血することがあります。出血の程度には個人差があり、ほとんど出血しない人もいれば、血液が眼の中に沈殿して見えにくさが出る人もいます。もし多めに出血した場合には、血液が吸収されるまで視界がかすんでしまい、見えにくさを感じることがあります。ただし、多くの場合は一時的なもので、2〜3日から1週間程度で次第に改善していきます。
編集部
合併症のリスクがあれば教えてください。
三谷先生
トラベクロトミーのメリットは、ほかの手術法と比べて合併症が少ない点にあります。特に術後の感染症(眼内炎)や低眼圧によるトラブルが少なく、安全性が高いとされています。とはいえ、リスクがゼロではないので、術後の診察はしっかり受けていただく必要があります。
編集部
白内障手術と一緒に受けることはできるのでしょうか?
三谷先生
トラベクロトミーは、白内障手術と同時におこなうことも可能です。実際に、同時手術は多くおこなわれており、白内障による視力回復と緑内障の眼圧コントロールを一度に達成できる利点があります。手術回数が減ることで、身体的・経済的な負担も軽減されるでしょう。
トラベクロトミーのデメリットや注意点

編集部
トラベクロトミーのデメリットはありますか?
三谷先生
緑内障の進行具合によって、適した手術方法は変わります。そのため、病気がかなり進行している場合には、トラベクロトミーでは十分な効果が得られず、より強力に眼圧を下げられるトラベクレクトミーが必要になります。
編集部
進行が初期なら、トラベクロトミーでも対応できるということですね。
三谷先生
はい。トラベクロトミーをおこなって眼圧が下がれば、これまで2種類使っていた点眼薬を1種類に減らせるなど、治療の負担を軽くできる可能性もあります。
編集部
再手術になることもありますか?
三谷先生
治療を受けてから数年後、房水の流れが再び悪くなった場合は、切開の場所を変えてトラベクロトミーを再度おこなうこともあります。この場合、3回くらいまでは繰り返すことができます。また、トラベクロトミーに限らず、期待した眼圧まで下がらなかった場合には別の術式への切り替えが必要になることもあります。手術効果の持続性は個人差があるので、定期検診を通じて経過を観察していくことが大切です。
編集部
術後の注意点はありますか?
三谷先生
術後1~2週間は不潔な手で目をこすらない、激しい運動を控えるといった配慮が必要です。また、炎症予防のための点眼薬を指示通りに使うことも重要です。感染予防と傷の回復を妨げないように、指導された生活習慣を守ることが治療の成功につながります。必ず医師の指示を守りましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
三谷先生
緑内障は、自分では気づきにくい病気です。実際に、40歳以上の15人に1人が緑内障と言われていますが、多くの人はそのことに気づかず、眼科を受診しないまま生活を続けています。また、健診などで緑内障を指摘され、視野検査で診断がついて目薬による治療を開始しても、「面倒だから」「治療の効果を感じないから」という理由で中断してしまう人は少なくありません。その結果、緑内障は日本人の失明原因の第1位となっています。緑内障治療の第一歩は目薬ですが毎日おこなう必要があり、複数種類を使う場合は5分程度間隔をあけなければならず、生涯継続するのは大変です。その点、トラベクロトミーは目の中のフィルター部分の詰まりを取り除くことで、眼圧を下げる効果が期待できます。もちろん保険が適用される治療です。ぜひ早期に緑内障を発見し、トラベクロトミーを検討してほしいと思います。
編集部まとめ
「自分だけは大丈夫」という油断が視野の狭窄を招き、やがては失明につながることもあります。目は多くの情報を取り入れる大事な器官です。定期的に検診を受け、異常を見つけたら早めに対処しましょう。
医院情報

| 所在地 | 〒243-0401 神奈川県海老名市東柏ケ谷5-18-19 |
| アクセス | 相鉄線「さがみ野駅」徒歩5分 |
| 診療科目 | 眼科 |




