恥ずかしがらず、我慢できなくなる前に! 『尿漏れ・尿失禁』の原因と治療法を医師が解説

年齢を重ねるとともに、ふとした動作で「尿が漏れてしまった……」という経験をする人は少なくないようです。しかし、尿漏れや尿失禁は、適切な診断と治療で改善できる可能性がある症状です。そこで、泌尿器科の専門医である矢野仁先生(よつかいどう泌尿器科クリニック)に、詳しく解説してもらいました。

監修医師:
矢野 仁(よつかいどう泌尿器科クリニック)
尿漏れはどうして起こる? 医師が解説!

編集部
尿漏れとは、どのような状態を指すのでしょうか?
矢野先生
尿漏れとは、自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまう状態で、医学的には「尿失禁」と呼ばれます。くしゃみや咳、笑ったときなどに起こる場合もあれば、急に強い尿意を感じてトイレに間に合わないこともあります。いずれも日常生活の質を下げる大きな要因となるため、適切な対応が求められています。
編集部
どんな人に多く見られる症状なのでしょうか?
矢野先生
尿漏れは特に女性に多く、出産や加齢、閉経後のホルモン変化などが影響します。男性では前立腺肥大症やその手術後に起こることもあります。若い人でもストレスなどが原因で生じることがあり、「高齢者の病気」と決めつけず、悩みがあれば早めに相談することが大切です。
編集部
尿漏れにはいくつか種類があると聞きますが、どのように分類されているのでしょうか?
矢野先生
尿漏れは大きく「腹圧性尿失禁」「切迫性尿失禁」に分けられます。咳や運動時などに漏れてしまうのが腹圧性尿失禁、突然尿意をもよおし、トイレに間に合わないのが切迫性尿失禁です。ただし、複数のタイプが混在していることもあり、症状の違いを把握することが治療方針を決めるうえで重要です。また、脊髄損傷や糖尿病による神経障害などで起こる尿失禁で、過剰な尿が膀胱内にたまって溢れ出してしまう「溢流性尿失禁」などもあります。
尿漏れの原因やその治療についても知りたい

編集部
腹圧性尿失禁は、なぜ起こるのですか?
矢野先生
要因として膀胱の出口を締める力が弱くなってしまう「内因性括約筋不全」と、膀胱と尿道の位置関係が不安定になってしまう「尿道過可動」があります。少し前までは、尿道過可動がおもな要因と考えられていましたが、現在ではこれら2つが併存しているとされ、個々に応じた治療方針が検討されるようになっています。
編集部
治療についても教えてください。
矢野先生
治療には行動療法、薬物療法、手術療法があります。行動療法は、たとえば減量や禁煙、重いものを持たない、刺激物(カフェインなど)の制限、骨盤底筋訓練などです。薬物療法ではβ2作動薬で、尿道を締める力を上昇させます。
編集部
骨盤底筋訓練とはどのような訓練ですか?
矢野先生
基本姿勢は仰向けに寝て足を肩幅くらいに開き、膝を立ててリラックスします。肛門と腟をキュッと締め、そのまま5秒数えてから、ゆるめます 。具体的には、1回8〜12回の収縮を1セットとし、1日3セット、最低でも2日に1回の頻度で4〜5カ月以上の継続が必要とされています。治療効果はおよそ50%とされており、腹圧性尿失禁だけでなく切迫性尿失禁や両者が混合しているタイプにも有効とされています。
編集部
手術になってしまう場合もあるのですか?
矢野先生
TVTは短期・長期ともに安定した治療効果が期待でき、長期治療成績はTOTに比べやや優れているとの報告もあります。TOTは膀胱穿孔や血管損傷のリスクが低い一方で、術後に鼠径部から大腿部にかけての疼痛が生じやすいと報告されています。
間に合わずに漏れてしまう… 切迫性尿失禁の治療

編集部
切迫性尿失禁についても教えてください。
矢野先生
切迫性尿失禁は、トイレまで間に合わずに漏らしてしまう症状のことで、「過活動膀胱」という病名がついています。原因はさまざまですが、年齢が上がるにつれて過活動膀胱の発症率が高くなることがわかっています。ある調査では、40歳以上の12.4%、80歳以上では36.8%の人に過活動膀胱が見られたと報告されていました。
編集部
どのように治療するのですか?
矢野先生
治療は、まず生活習慣の見直しや骨盤底筋訓練などの行動療法、そして薬による治療です。薬は、膀胱の緊張を和らげて尿意を抑える抗コリン薬やβ3作動薬が一般的に使われます。症状に応じて、複数の薬を組み合わせて使用することもあります。男性では、前立腺肥大症が原因になっていることもあるため、そちらの治療も検討されます。
編集部
それでも改善しないこともあるのですか?
矢野先生
薬を使っても症状がよくならない「難治性の過活動膀胱」の人には、神経に刺激を与える治療(磁気刺激や電気刺激)や、膀胱にボツリヌス毒素を注射する治療などが検討されます。ただし、治療によって尿が出しにくくなったり(尿閉)、思うように効果が出なかったりする場合もあるため、一人ひとりの状態をしっかり見極めながら慎重に判断する必要があります。
編集部
最後に、メディカルドック読者へのメッセージがあればお願いします。
矢野先生
尿失禁は患者さん自身にとって非常にストレスが大きい症状です。恥ずかしさから受診をためらい、市販のナプキンやパッドで対応しながら経過をみてしまう方も少なくありません。そのため、症状が進行して我慢できなくなってから受診されるケースも多く見受けられます。早期に診させてもらえれば、適切な治療によって速やかに症状が改善し、生活の質(QOL)が大きく向上する可能性がありますので、お困りの際には、どうぞ遠慮なく泌尿器科にご相談ください。
編集部まとめ
尿漏れや尿失禁は、年齢や性別にかかわらず起こりうる身近な症状です。しかし、その原因やタイプによって対処法は異なり、自己流で対応するのは難しい場合もあります。少しでも気になる症状があれば、早めに専門医に相談することが、安心して日常生活を送る第一歩となります。
医院情報

| 所在地 | 〒284-0001 千葉県四街道市大日371-1 |
| アクセス | 総武本線「四街道」駅より徒歩20分 |
| 診療科目 | 泌尿器科、内科 |




