“タイト目な服”ばかり着ていると「不妊症」につながる!? 衣服と不妊症リスクの関連性を医師が解説

「タイトな服ばかり着ていると不妊になりやすい」という説を聞いたことはありませんか? もし心当たりがあれば、ドキッとしたかもしれません。果たして、このウワサは真実なのでしょうか。今回は、衣服と不妊症リスクの関連性について、「藤沢IVFクリニック」の佐藤卓先生に解説していただきました。

監修医師:
佐藤 卓(藤沢IVFクリニック)
タイトな服装と不妊症の関連性

編集部
タイトな服装ばかりしていると、不妊症につながると聞いたことがあります。
佐藤卓先生
慶應義塾大学の名誉教授である故・飯塚理八先生は、まだ理解が十分に得られていなかった70~80年代の当時に、「男性不妊」という概念を一般にもクローズアップさせました。飯塚先生が「男性の精子の所見が悪くなりつつある原因の1つは、タイトな下着を着る習慣が広まったことだ」と指摘されていた話を、私もうかがったことがあります。
編集部
それはどういうことでしょうか?
佐藤卓先生
「タイトな下着は精巣を緊迫し、血流を妨げるので悪影響である」ということを、その当時から指摘されていたのです。もはや欧米式のライフスタイルが当たり前になった現代において、精子の所見の悪化の理由は下着の変化だけではないかもしれません。現時点で利用可能な科学的根拠に基づいて、「果たしてタイトな下着は有害なのか」「タイトな下着の何が問題なのか」「我々はふんどしの生活に戻るべきなのか」「男性のみならず女性にも同様のことが言えるのか」「どこまで生活習慣の改善の提案が可能なのか」について考えてみたいと思います。
編集部
まず、なぜタイトな下着が有害だと考えられているのかについて教えてください。
佐藤卓先生
思いつくことは、精巣に対する熱の影響です。精巣にはライディッヒ細胞とセルトリ細胞という精子を作る働きに関わる2つの細胞があり、この2つの細胞が熱上昇によるネガティブな影響を受けやすいと言われています。
編集部
熱上昇が精子の働きを阻害するということですか?
佐藤卓先生
生まれつきの病気で、陰嚢がぶら下がる位置まで降りてこられない「停留精巣」や、血液の流れの渋滞を起こす「精索静脈瘤」のケースでは、ともに陰嚢の温度が上昇することと、さらに精子の所見が不良となりやすいことが知られています。この事実からも、陰嚢の温度が上昇すると、妊活にはネガティブな影響がありそうだと考えます。
タイトな下着+タイトなズボン=不妊症のリスク2.5倍アップ?

編集部
下着の種類によって、陰嚢の温度が上昇することはあるのですか?
佐藤卓先生
陰嚢の温度と下着の種類の影響を調べたドイツの報告では、50名の被験者にズボンを着用させ、さらに「タイトな下着」「ゆるい下着」「下着なし」の3群に分けて陰嚢の温度を測定しました。その結果、タイトな下着群の陰嚢温度(平均35.8℃)は、ゆるい下着の場合(平均35.5℃)と比べて高く、下着なし群(平均35.2℃)が最も低かったと結論づけています(※1)。つまり、タイトな下着と陰嚢の温度の上昇には関連があるかもしれません。
編集部
タイトな下着が不妊の原因になると言っても良さそうな気がします。
佐藤卓先生
いいえ、この研究では精子の検査所見や、被験者が不妊症カップルであったかなどは検討されていません。そこで、イタリアの研究では、精子が少ない「乏精子症」の男性97名と、精子の所見が正常な121名の男性を調査・比較したところ、タイトな下着とタイトなズボンの両方を着用する男性では、不妊症と診断されるリスクが2.5倍も高いという結果を報告しました(※2)。
編集部
タイトな下着とタイトなズボンの両方を着用すると、不妊症と診断されるリスクが高くなるのですね。
佐藤卓先生
ただし、タイトな下着またはタイトなズボンのどちらかのみを着用している場合では、衣類による明白な差は認められませんでした。これを証明するためには、研究の規模がこれでもまだまだ小さ過ぎるのかもしれません。
編集部
様々な研究がおこなわれているのですね。
佐藤卓先生
そのほかにも、不妊治療を受けるカップルの男性パートナー656名に対して、下着の種類と精子の検査やホルモン検査値のほか、精子DNAの断片化(DNAのキズ)の程度などを比較した報告もあります(※3)。
編集部
どのような研究結果だったのでしょうか?
佐藤卓先生
主に、トランクス型を着用すると回答した男性(345人・53%)では、そのほかの下着(ブリーフやビキニ、ボクサーブリーフ)を着用する男性と比較し、精子濃度も精子の数も高いことを報告しました。一方、精子DNAにおける影響の指標などには、関連はみられなかったそうです。陰嚢に対する熱の影響は、精子の質よりも量が関わっている可能性は考えられます。
月3回以上の入浴も妊娠出産の可能性を低減?

編集部
研究規模の問題などにより、まだ結論が出ていないのですね。
佐藤卓先生
はい。こうした観察研究の報告は非常に多いのですが、その因果関係を証明することは、これらの小さい規模の報告では難しいのです。しかし一方で、複数の研究で関連性が繰り返し確認されれば、それは有益な情報となるのかもしれません。
編集部
これからの研究報告を待ちたいですね。
佐藤卓先生
近年の比較的大きな規模の報告によれば、北米3041人の妊活中の男性のデータを解析したところ、「月3回以上の入浴をすると、妊娠・出産に至る可能性が13%減少する」という結果が出ました。その一方で、タイトな下着を着用することや、同じく精巣の温度上昇を招くと考えられるサウナの利用やラップトップパソコンを膝に置いて作業することについては、関連が認められませんでした。
編集部
様々な観点から研究が進められているのですね。
佐藤卓先生
そうですね。以上の研究結果より「タイトな下着の着用は、男性の陰嚢の温度の上昇を介して精子の量を減少させる可能性があるが、不妊症の原因となる明快な根拠はない」と考えます。ただし、タイトな下着と共に、タイトなズボンの着用は控えた方が無難と言えるでしょう。
編集部
女性の不妊症についてはいかがでしょうか?
佐藤卓先生
女性側のタイトな衣類や下着による卵巣への熱の影響を調べた文献は、現在までのところなさそうです。ただし、タイトな服装がデリケートゾーンにおける通気性を低下させ、湿度や温度の上昇を招くことで、間接的に腟内や子宮内の環境に悪影響を及ぼす可能性は考えられます。タイトな服を避けるだけでなく、通気性の良い素材の衣類を選ぶことにも注意を払うといいのかもしれませんね。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
佐藤卓先生
妊活において「これをすれば必ず上手くいく」「これをしたからダメだった」と言い切れることは、実際のところあまり多くありません。しかし、体を締めつけない服を選んだり、通気性の良い素材を選んだりと、少しの気遣いが心地良さや安心感につながることもあるのだと思います。生活の中で無理のない範囲で見直せることがあれば、できるところから取り入れてみてもよいかもしれません。ご自身やパートナーの体調や気持ちに、そっと目を向けるきっかけになれば嬉しく思います。
編集部まとめ
「こうすれば必ず妊娠できる」という魔法のような方法はなく、「結果的に妊娠できた」という結果論に過ぎないのかもしれません。しかし、無理せず取り入れられることがあればチャレンジしてみるのもいいと思います。パートナーと相談しながら、ぜひ参考にしてみてください。
参考文献:
(1)Jung, A., Leonhardt, F., Schill, W. B. & Schuppe, H. C. Influence of the type of undertrousers and physical activity on scrotal temperature. Hum Reprod 20, 1022-1027, doi:10.1093/humrep/deh697 (2005).
(2)Parazzini, F. et al. Tight underpants and trousers and risk of dyspermia. Int J Androl 18, 137-140, doi:10.1111/j.1365-2605.1995.tb00400.x(1995).
(3)Minguez-Alarcon, L. et al. Type of underwear worn and markers of testicular function among men attending a fertility center. Hum Reprod 33, 1749-1756, doi:10.1093/humrep/dey259 (2018).
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