ただの寝不足を“才能”と勘違いしていませんか? 医師が明かす「ショートスリーパーの真実」とは

睡眠時間が短くても健康上の問題がない体質の人を「ショートスリーパー」と言います。睡眠時間が短くても日中生き生きと活動することができるなら、“得”のようにも思いますが、本当にショートスリーパーは健康上の問題がないのでしょうか? 「ゆうココロのクリニック」の竹内先生に解説していただきました。

監修医師:
竹内 悠(ゆうココロのクリニック)
ショートスリーパーとは?

編集部
ショートスリーパーとは、どのような人を指すのでしょうか?
竹内先生
医学的には「6時間未満の睡眠でも十分に健康を維持できる、短時間睡眠体質の人」をショートスリーパーと呼んでいます。目覚まし時計を使わなくても毎朝、6時間程度の睡眠で目が覚めますし、休日でも睡眠時間は変わりません。本人の努力で睡眠時間を短くしているのではなく、自然とそうした生活ができて、日中に眠気を感じたり、昼寝をしたりすることがなくても、仕事や勉強のパフォーマンスが落ちない人をショートスリーパーと言います。
編集部
なぜ、睡眠時間が短くても日中に影響がないのですか?
竹内先生
ショートスリーパーの人たちの睡眠を調べると、レム睡眠が短く、ノンレム睡眠が長いことがわかっています。ノンレム睡眠とは深い眠りのことで、脳の休息や疲労回復を促したり、成長ホルモンを分泌したりする働きがあります。ショートスリーパーの人は、睡眠時間は短くてもぐっすりと眠っているので、日中の活動量が低下しないとされています。
編集部
どうしたらショートスリーパーになれるのですか?
竹内先生
「ショートスリーパーは遺伝的な要因が大きく、ショートスリーパーになろうと思ってなれるものではない」ということが研究で判明しています。つまり、生まれつきショートスリーパーかそうでないかが決まっているのです。
編集部
ショートスリーパーになれる確率はどれくらいなのでしょうか?
竹内先生
2019年にカリフォルニア大学の研究グループが発表した論文によると、ショートスリーパーの発生頻度は10万人に約4人ということがわかっています。わずか約0.004%しかいないのです。
編集部
かなり少ないのですね。
竹内先生
はい。その一方、日本には慢性的な睡眠不足に陥っている人が一定数、存在することもわかっています。疫学研究によると、日本人の女性4.3%、男性3.6%が、睡眠時間が5時間以下であるとされています。
編集部
真のショートスリーパーではなく、じつは「ただの睡眠不足だった」ということもあるのでしょうね。
竹内先生
本当はショートスリーパーではないのに「自分はショートスリーパーだ」と勝手に思い込んだり、「ショートスリーパーになりたい」と思って睡眠時間を短くしたりすることは大変危険です。健康に害をもたらすこともあります。
睡眠不足の人は健康にどのような害があるのか?

編集部
ショートスリーパーは、健康に悪影響を与えるのでしょうか?
竹内先生
ショートスリーパーの遺伝子を持つ天性のショートスリーパーであれば、健康被害はほとんどないと考えられます。ショートスリーパーの人は普段から睡眠の質が高く、脳や内臓に影響を及ぼさないからです。しかし、ショートスリーパーでない人がショートスリーパーを目指そうとしてわざと睡眠時間を短くするのはとても危険です。例えば、肥満や高血圧、糖尿病、心臓病などのリスクが高まります。
編集部
なぜ、睡眠不足がそうした疾患のリスクを高めるのですか?
竹内先生
睡眠不足が慢性化すると、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きが悪くなります。そのため、血糖値が常に高い状態となり糖尿病を発症しやすくなるのです。また、睡眠不足と肥満の関係性も強く指摘されています。睡眠時間が短くなると、レプチンという食欲を抑制するホルモンの分泌量が減り、反対に、グレリンという食欲を増進させるホルモンが増加します。そのため、睡眠不足は肥満につながりやすいのです。
編集部
睡眠不足は肥満につながりやすいのですね。
竹内先生
それから、睡眠不足が続くと自律神経のバランスが乱れ、心臓に負担がかかって心臓病を発症しやすくなります。そのほかにも、免疫力が低下したり、認知機能が低下して認知症を発症しやすくなったりなど、様々な悪影響があります。
編集部
本来ショートスリーパーでない人が、わざと睡眠時間を短くするのは危険なのですね。
竹内先生
睡眠不足はこれらの疾患リスクを増大させるだけでなく、集中力や意欲を低下させたり、ストレス耐性を低くしたりすることがわかっています。また、睡眠不足が続くとストレスホルモンの分泌が増加し、うつ病を引き起こしやすくなります。無理に睡眠時間を削るのは避けましょう。
睡眠時間が短いときに、注意したいポイント

編集部
病気が原因で睡眠時間が短くなることもあるのですか?
竹内先生
はい。例えば、気づかないうちに不眠症を発症している場合、睡眠時間が短くなることがあります。不眠症には入眠障害(寝つきが悪い)、中途覚醒(眠りが浅く途中で何度も目が覚める)、早朝覚醒(早朝に目覚めて二度寝ができない)などの種類があり、これらを発症すると自然と睡眠時間が短くなります。不眠症を放置すると認知機能や集中力が低下したり、高血圧や糖尿病、心疾患など生活習慣病のリスクが高まったりすることがあります。
編集部
そのほか、どのような疾患の可能性があるのでしょうか?
竹内先生
もしかしたら、現在服用している薬剤の影響で、睡眠時間が短くなっているのかもしれませんし、場合によっては躁病など心の問題が起きていることもあります。「睡眠時間は短いけれど、日中は元気に過ごしている」という場合には、躁病の可能性が考えられます。
編集部
睡眠に関して異常がみられたら、早めに医師に相談した方がいいのですね。
竹内先生
そうですね。そのほかにも「足がむずむずして眠れない」「睡眠中にいびきがひどかったり、無呼吸になったりすることがある」という場合には、なんらかの病気が隠れているかもしれません。早めにかかりつけの医師やメンタルクリニック、睡眠外来などにご相談いただければと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
竹内先生
睡眠時間が短いことも問題ですが、場合によっては長すぎることにも注意を向ける必要があります。一般的に、健康な人の睡眠時間は7〜8時間とされています。もし、今までよりも睡眠時間が極端に短くなったり長くなったりする場合には、なんらかの病気が隠れているかもしれません。その場合には、早めにメンタルクリニックや睡眠外来を受診してほしいと思います。
編集部まとめ
日中のパフォーマンスをアップするためにも、人生の質を高めるためにも睡眠は重要です。適切な睡眠時間を確保し、健康的な生活を送ることを意識しましょう。
医院情報

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| 診療科目 | 心療内科、精神科 |




