「1型糖尿病」になったときの対処法とは? ライフステージごとの注意点を医師が解説!

糖尿病のタイプには、「1型」と「2型」があります。そのうち、ライフスタイルと関係なく、主に自己免疫の異常により発症するのが「1型糖尿病」です。1型糖尿病の治療には、インスリン製剤による血糖コントロールが生涯に渡って必要になりますが、ライフステージによって治療の内容や注意点は変わるのでしょうか。「いんざい糖尿病・甲状腺クリニック」の髙橋先生に解説していただきました。

監修医師:
髙橋 紘(いんざい糖尿病・甲状腺クリニック)
1型糖尿病の血糖コントロールとは?

編集部
そもそも、1型糖尿病の治療では、どのように血糖をコントロールするのでしょうか?
髙橋先生
1型糖尿病になると、自己免疫によって膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンが分泌されなくなるため、インスリンによる治療が必要となります。インスリンの投与方法としては、頻回注射療法やインスリンポンプなどの持続皮下インスリン注入があり、それらで血糖値を管理します。血糖値は食事、運動、ストレス、成長などの影響を受けるので、ライフスタイルを細かく把握しながら、ライフステージごとに治療目標を変えつつ、日々調整する必要があります。
編集部
なぜ、年齢やライフステージごとに治療目標を変える必要があるのでしょうか?
髙橋先生
そもそも糖尿病治療の目標は、合併症の発症や進展を抑制して、糖尿病でない人と変わらない生活の質と健康寿命を確保することです。血糖値を厳密に管理することは重要である一方、インスリン治療をおこなうため、低血糖のリスクも考慮する必要があります。個々の患者さんによりライフスタイルは異なるため、自ずと治療内容も変わりますし、ライフステージによって治療スタイルを相談することも必要になります。
編集部
具体的には、どのようなことでしょうか?
髙橋先生
例えば、小児期や妊娠期、高齢期などは身体の代謝や生活スタイルが変化します。そのため、それぞれに応じた柔軟な治療方針が求められます。
編集部
治療目標の柔軟性とは?
髙橋先生
年齢や既往症、認知機能の状態に応じて、目標HbA1cの数値や血糖値の上限・下限を個々に設定することです。例えば、小児や高齢者では低血糖を避けるために少し目標を高めの設定にすることがあります。一方、妊娠を希望するケースでは、胎児への影響を考慮して目標を厳しく設定します。さらに、体調や生活環境に応じて個々に目標を調整する姿勢も必要です。
編集部
そのためには、患者自身も治療に対して積極的に関わる姿勢が大事ですね。
髙橋先生
はい。患者さん自身が自分の状態を把握し、医療者と相談しながら目標を決めることが理想です。ライフステージが変わると生活も変わるため、治療では常に「医師と患者さんが一緒に相談しながら調整していく」という姿勢を大事にしましょう。
1型糖尿病を発症したとき、小児期と成人期で気をつけること

編集部
小児期の血糖管理では、どのような点に注意が必要ですか?
髙橋先生
成長ホルモンの影響や活動量の多さで血糖変動が激しくなりやすいことに加え、自分で管理が難しい年齢なので、保護者の関与が欠かせません。また、過度な低血糖は脳の発達に影響を与えることもあり、慎重な対応が必要になります。
編集部
学校生活での注意点はありますか?
髙橋先生
学校では、運動後やストレスを受けたときなどに血糖が乱れやすくなります。教職員に病状を共有し、低血糖時の対応方法を事前に相談しておくと安心です。また、おやつやブドウ糖を携帯する習慣も大切にしましょう。
編集部
この時期特有の治療の難しさはありますか?
髙橋先生
例えば、「友達に病気のことを打ち明けられない」という悩みを抱える子どもがいます。そのような場合には、1型糖尿病の子どもが集まるグループ(サマーキャンプなど)に参加してみるといいかもしれません。同じ治療に取り組む子どもたちが集まっているので、自然と仲間意識が生まれ治療にも前向きになりやすいかと思います。
編集部
続いて、成人期になると血糖コントロールの課題は変わりますか?
髙橋先生
はい。自己管理の責任が増える一方で、仕事や生活のストレス、飲酒、夜更かしなどが血糖に影響を及ぼすようになります。極力、安定した生活リズムを保ち、血糖変動を見ながらインスリン量を調整する力が求められます。
編集部
成人期で特に見逃されがちなリスクはありますか?
髙橋先生
成人期は仕事やプライベートも忙しくなりやすいため、血糖コントロールを疎かにしがちな時期です。無症候性の低血糖や合併症の進行に気づきにくくなることがあります。医師と相談しながらライフスタイルに応じた血糖コントロールをおこない、定期的に外来受診をすることが大切です。
1型糖尿病を発症したとき、高齢期と妊娠期で気をつけること

編集部
高齢者の1型糖尿病管理では、どのようなことに気をつけるべきですか?
髙橋先生
高齢の糖尿病患者は、食後の血糖が高くなる傾向にあります。その一方、加齢によって認知機能が衰えたり、手指の操作能力が低下したりすることにより、インスリン注射や血糖測定が難しくなることがあります。また、高齢になると腎機能が低下することでインスリンの効果が遷延しやすくなります。そのため、低血糖が重篤化することもあるので、やや緩やかな血糖管理目標を立て、患者さんによっては血糖を下げすぎないように管理することが大切です。
編集部
高齢期にありがちな生活上の注意点はありますか?
髙橋先生
食欲や体力の低下、独居による食事の偏りなどが血糖に影響します。また、低血糖による転倒や意識障害は命に関わるリスクになりますし、インスリン注射の打ち忘れも大きな危険を伴います。身近な人のサポートや、必要に応じて訪問看護などの在宅医療の活用が有効です。
編集部
「妊娠中の1型糖尿病管理は難しい」と聞きますが、なぜですか?
髙橋先生
妊娠中は胎盤からのホルモンの影響を受けてインスリン抵抗性が高まり、血糖値が不安定になりやすくなります。また、血糖の乱れは、胎児の発育異常や早産、母体の合併症リスクを高めるため、通常よりも厳密な血糖管理が求められます。妊娠期は豊富な知識と経験をもつ糖尿病専門医の指導が不可欠と言えるでしょう。
編集部
妊娠期における安全な血糖管理のポイントは?
髙橋先生
近年では、リアルタイムに血糖値の動き(血糖変動)を把握できる「持続血糖モニター(CGM)」や、インスリンを自動的に注入する装置「インスリンポンプ」の活用が効果的です。また、バランスのとれた食事を取り、過不足ない栄養の摂取を心がけましょう。妊娠前からの血糖コントロールが、母子の健康にとって非常に重要です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
髙橋先生
1型糖尿病は、患者さんのライフステージによって血糖コントロールの目標が異なります。また、生涯に渡りインスリン治療と付き合っていく必要があり、日々のライフスタイルにも影響を受けるため、よく担当の先生と相談しながら治療をおこなっていくことが大切です。近年では持続血糖モニターやインスリンポンプなどデバイスの進歩もあり、以前よりも血糖コントロールがしやすくなっていますが、その一方で患者さんにとっては医療費負担が増えるといった問題もあります。1型糖尿病の患者さんがより安心して生活を送れるようになることが望まれます。
編集部まとめ
2型糖尿病と比べて1型糖尿病の患者数は少ないものの、治療が難しく、治療動機の維持が難しいことがあります。治療の継続に悩んだら、早めに医師に相談を。また、同世代の治療仲間を作るのも役立つかもしれませんね。
医院情報

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| 診療科目 | 内科、糖尿病内科、内分泌内科 |




