「痔」は命に関わらないから放置しても平気? 手術すべき重症度・治療の注意点を医師が解説!

男女問わず、悩んでいる人は意外と多い「痔」。しかし「根治するなら手術が近道」とはいえ、命に関わる問題ではないので、手術を躊躇している人もいるでしょう。痔には手術をしなくても治るケースと治らないケースがあるそうですが、一体どのような違いがあるのでしょうか。「しらはた胃腸肛門クリニック横浜」の白畑先生に解説していただきました。

監修医師:
白畑 敦(しらはた胃腸肛門クリニック横浜)
痔のタイプにはどのようなものがあるのか?

編集部
「痔を発症すると手術することもある」と聞きました。本当ですか?
白畑先生
痔は良性の疾患であるため、必ずしも手術が必要なわけではありません。ただ、日常生活に支障が出ている場合には手術が必要なケースもあります。
編集部
どのようなときに手術が必要なのですか?
白畑先生
痔にはいくつか種類があり、それによって症状が異なります。手術が必要かどうかも、痔の種類に応じて判断します。
編集部
痔にはどのような種類があるのでしょうか?
白畑先生
大きく分けて「痔核」「裂肛」「痔ろう」の3タイプがあります。痔核は、いぼのような腫れ物ができるタイプで、「いぼ痔」とも言います。痔の中で最も患者数が多い疾患です。裂肛とは、文字通り肛門の皮膚が切れたり裂けたりするタイプの痔で、「切れ痔」や「さけ痔」とも呼ばれています。他方、肛門や直腸周辺が細菌に感染して膿がたまり、直腸と肛門周りの皮膚をつなぐトンネルができるタイプの痔を痔ろうと言います。痔ろうは「あな痔」とも呼ばれます。
編集部
それぞれの種類によって治療法が異なるのですか?
白畑先生
はい、痔は種類によって症状がまったく異なります。痛みなどの症状がないタイプもあれば、出血や痛みがひどいタイプもあり、場合によっては救急車を呼ぶ必要があるタイプの痔もあります。そのため、治療法を検討する際には、痔のタイプと重症度を合わせて考慮する必要があります。
痔の重症度の見分け方

編集部
痔の重症度は、どのように見分けるのでしょうか?
白畑先生
痔の種類によって異なります。例えば、最も一般的な痔核は、肛門と直腸の境目である歯状線を挟んで肛門の内側にできる「内痔核」と、外側にできる「外痔核」があります。内痔核は、さらに進行状況によって第Ⅰ~Ⅳ度に分類され、通常はⅡ度以上が手術の適応となります。Ⅱ度は「排便時に痔が飛び出すが、自然に戻る」という状態を指します。ただし、Ⅱ度に至らなくても、一度でも出血を繰り返した場合は手術を検討します。
編集部
外痔核の場合にはどうするのですか?
白畑先生
外痔核の場合には基本的に手術をせずに治すことができますが、痔の大きさによっては摘出手術をすることがあります。
編集部
内痔核の手術は、どのようにしておこなわれるのですか?
白畑先生
以前、最も一般的なのは「結紮切除術」でした。結紮切除術は痔核を切除する手術で根治性が高く、再発率が低いことから内痔核・外痔核ともに多くおこなわれていました。しかし、現在では治療技術の進化が目覚ましく、「痔核硬化療法」というメスを使わず注射をするだけの手術を選択するのが一般的です。痔核硬化療法は「ALTA療法(ジオン注射)」とも呼ばれています。
編集部
注射で治るのはありがたいですね。
白畑先生
ただし、多くの症例は内痔核と外痔核が合併した形態をとっています。そのため、根治を求める場合には、外痔核は切除、内痔核は注射で治療をする「ALTA併用療法」が多くおこなわれています。
編集部
裂肛で手術が必要になることもあるのですか?
白畑先生
基本的に、裂肛は保存療法で治療が見込める疾患です。ただし、裂肛が慢性化すると肛門に瘢痕ができて狭くなってしまいます。そのような場合には、何度も裂肛を繰り返すようになるので手術が適応となります。
編集部
裂肛の手術について教えてください。
白畑先生
裂肛の場合にも様々な術式がありますが、当院では、最も低侵襲である「用手肛門拡張」をはじめに推奨しています。用手肛門拡張は、手を使って裂肛による肛門狭窄を改善する方法です。瘢痕、潰瘍、傷、ポリープなどが狭窄の起点となるため、そこを炭酸ガスレーザーで蒸散させ、肛門を拡張する非常に低侵襲な手術です。これでも改善が見られなければ、肛門括約筋をメスで切開する「側方内括約筋切開術」や、瘢痕化した裂肛部分を取り除いた後に肛門の皮膚を肛門管内へ移動させる「皮膚弁移動術」をおこないます。
痔の手術を受ける際の注意点

編集部
最後に、痔ろうはどのようなとき、手術が必要になるのですか?
白畑先生
痔核や裂肛と違って、基本的に痔ろうは手術が必要になることが多い疾患です。しかし、自然治癒するケースもあるので、すぐに手術を決断せず、通常は経過を見ながら判断します。とはいえ、痔ろうを放置するとますます膿がたまり、腫れや痛みがひどくなりますし、肛門の機能に影響を及ぼす可能性もあるため、手術は適切なタイミングで判断することが必要です。
編集部
痔ろうは、どのようにして手術するのですか?
白畑先生
「切開開放術」「瘻管くりぬき術」「シートン法」などの方法があります。切開開放術は縫合する必要がないため比較的低侵襲という特徴がありますが、痔ろうが浅い、肛門の後ろの方に痔があるなど症例が限定されます。重症度が高い場合などは症例に応じて術式を決定します。
編集部
手術を受ける際の注意点はありますか?
白畑先生
基本的に手術は日帰りで可能です。手術日は安静にする必要がありますが、翌日以降、日常生活に復帰できます。ただし、手術によっては術後に痛みや出血がみられることもあるので、術後も指示された通りに受診することが必要です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
白畑先生
基本的に良性疾患であり、生死に関わるものではないため、羞恥心や恐怖などのために受診をためらう人も多く見受けられます。たしかに、痔は命に関わる疾患ではありませんが、その一方で生活の質を著しく低下させる疾患でもあります。もし何か困っていることがあれば、ぜひ医療機関を受診してみてください。
編集部まとめ
痔を治したいと思ったら手術をするしかないと考えて、受診を躊躇している人もいるかもしれません。しかし、必ずしも手術をする必要はありませんし、手術といってもメスを使わず注射で終わるものもあります。困っていることがあれば、まずは医師に相談してみましょう。
医院情報
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アクセス | 東急田園都市線・JR横浜線「長津田駅」 徒歩3分 |
診療科目 | 内視鏡内科、肛門外科、胃腸内科、漢方内科 |