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家族の“心身の異変サイン”、見逃してない? 「精神疾患」の前兆・受診の目安を医師が解説

 公開日:2025/07/19

家族内で「この行動、ちょっとおかしいかも?」と思うことはありませんか? もしかしたら、それは精神疾患の初期症状かもしれません。一体、どのような症状に注意すればいいのか、心身の異常サインについて「こどもとおとなのクリニックパウルーム」の黒木先生に教えていただきました。

黒木 春郎

監修医師
黒木 春郎(こどもとおとなのクリニックパウルーム)

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千葉大学医学部卒業。千葉大学医学部文部教官などを経た後の2008年に「医療法人嗣業の会」理事長に就任。2023年、東京都港区に位置する「こどもとおとなのクリニックパウルーム」の院長に就任。医学博士。日本小児科学会専門医・指導医・出生前コンサルト小児科医、日本感染症学会専門医・指導医・評議員。千葉大学医学部臨床教授、公認心理師、臨床発達心理士、子どもの心相談医、医師少数区域経験認定医師。

体の症状や心のサインに気づく

体の症状や心のサインに気づく

編集部編集部

精神疾患の症状には、どのようなものがありますか?

黒木 春郎先生黒木先生

精神疾患の種類にもよりますが、兆候や症状は体と心の両面にみられます。体の面では「不眠」「朝早く目が覚める」「夜中に何度も起きる」といった行動のほかにも、「食欲がない」「体重が減る」「疲れやすくなる」「朝からぐったりしている」「頭痛や腹痛を訴えることが多い」といった症状も挙げられます。

編集部編集部

心の面ではどうでしょうか?

黒木 春郎先生黒木先生

心の面では「憂鬱感」「焦り」「不安感」などを覚えるようになります。また、「やる気がなくなる」「イライラする」といった症状がみられることもあります。

編集部編集部

心身に症状が出るのですね。

黒木 春郎先生黒木先生

そのほかにも、行動面の変化として「遅刻や欠勤、欠席などが増えた」「学校や職場に行きたがらない」「外に出たがらない」「口数が減る」「人と会いたがらない」といった行動が目立つようになります。

編集部編集部

行動まで変わってしまうのですね。

黒木 春郎先生黒木先生

はい。例えば、ずっと部屋に引きこもるようになることは少なくありません。さらに、食事や入浴を嫌がったり、人と会ったり話をしたりするなど、これまで当たり前にできていたことが嫌になる場合もあります。こうした兆候に気づくことが、家族の精神疾患を早期に見つけるための第一歩です。精神疾患は本人ではなかなか気づきにくい場合もあるため、家族が見つけてあげることは大切です。

心身の異変がみられたときの受診の目安

心身の異変がみられたときの受診の目安

編集部編集部

心身の異変に気づいたら、どのようにすればいいのでしょうか?

黒木 春郎先生黒木先生

「おかしいな」と感じたら、まずは専門家に相談しましょう。会社に勤めている人であれば、産業医や社内の相談窓口を利用し、子どもであればかかりつけの小児科や内科医を受診してみましょう。ときどき「しばらく様子を見よう」と言って待ってしまう人もいるのですが、待っている間にどんどん症状が深刻化することもあります。けっして待つ必要はありません。

編集部編集部

特に緊急性が高いのは、どのようなケースですか?

黒木 春郎先生黒木先生

特に急いで対応しなければならないのは、「死にたい」という言葉を漏らしたときです。さりげなく自殺をするようなそぶりを見せていないかを確認し、「それほどつらいなら一緒に病院へ行こう」と誘ってみましょう。

編集部編集部

子どもが「死にたい」と言ったときにも、同じように対処する必要がありますか?

黒木 春郎先生黒木先生

思春期の子どもであれば、薬物の過剰投与やリストカットに走る恐れがあります。その場合、すぐに小児科や精神科に相談しましょう。

編集部編集部

思春期よりもっと前の、小さな子どもが「死にたい」と言った場合には?

黒木 春郎先生黒木先生

5~6歳の子どもが「死にたい」と言うのと、大人が言うのとでは意味合いが違います。深刻の度合いで言えば、大人の方が重症です。しかし、子どもが「死にたい」と口にするということは、精神的に不安定な状態にあるということです。早めにかかりつけの小児科を受診して、医師に相談してください。

編集部編集部

「疲れやすい」「イライラしている」といった症状は珍しくないと思います。そのようなときには、どうしたらいいのでしょうか?

黒木 春郎先生黒木先生

うつ状態が考えられるので、早期発見・早期治療がカギを握ります。「様子を見よう」といって放置すると、最悪の場合は自殺するといった重篤化の恐れもあります。早めの対応が必要です。

編集部編集部

受診をする際には、本人も一緒に行った方がいいのでしょうか?

黒木 春郎先生黒木先生

もちろん、可能であれば本人も一緒に受診した方が望ましいでしょう。しかし、受診を嫌がるかもしれないので、そのような場合には家族だけで相談に行っても構いません。

編集部編集部

まずは、早めに受診をすることが大事なのですね。

黒木 春郎先生黒木先生

そのとおりです。医師に相談をすることのメリットは、患者さんの症状の重篤化を防ぐほかにもう1つあります。それは、家族の疲労を軽減することです。家族の誰かが精神疾患を発症すれば、ほかの家族も精神的な疲労が溜まってイライラしはじめます。体調を崩すこともあるかもしれません。ほかの家族が疲れないようにするには、家族以外のサポートを見つけることが大切です。自分たちだけで抱え込まず、適切な援助を求めることが必要なのです。

家族の精神疾患で周囲ができることは?

家族の精神疾患で周囲ができることは?

編集部編集部

家族が精神疾患を発症したら、周囲はどんなことに気をつければいいのでしょうか?

黒木 春郎先生黒木先生

まずは「傾聴すること」、つまり相手の立場に立って、気持ちに共感しながら理解しようとすることが重要です。「そういう考えはよくない」「〜をすべき」などと指示をしたり責めたりするのではなく、ただ「そうだね」「つらかったね」と共感しながら話を聞いてあげましょう。本人が話したくなさそうであれば、無理に聞こうとしないことも大事です。そっと見守るという姿勢でサポートしてあげましょう。

編集部編集部

そのほかに気をつけることはありますか?

黒木 春郎先生黒木先生

家事などの家のことはできるだけ代わってあげて、本人の負担を減らすことも大切です。例えば、奥さんが産後うつになったら、ご主人が家事を全ておこなってあげましょう。そして、奥さんが相談できる人を誰か、見つけてあげてください。うつなどの精神疾患は、脳という臓器の病気です。胃が疲れて体調が悪いときには極力、飲食しないようにしたり、負担に良いものを食べたりして胃を休ませますよね。脳もこれと同じで、具合が悪いときには脳を休ませることが大切なのです。

編集部編集部

本人が「死にたい」という言葉を漏らしたときには、周囲の人はどうしたらいいのでしょうか?

黒木 春郎先生黒木先生

「そんなことを言ってはいけない」と説教をするのではなく、否定も肯定もせずに「そうか、大変だったね」と気持ちを受け止めてあげましょう。それから一息おいて、「相談に行こうか」と誘ってあげましょう。ときどき「死にたい」と漏らしたり、実際にリストカットしたりするのは「こんなにつらい、というアピールだ」と言う人がいますが、その解釈は間違いです。そのように捉えて放置してしまうと、いずれ本当に自殺してしまうリスクもあります。信頼できる医師に相談する、すぐに受診できないなら医療機関によっては電話相談をおこなっているので、こうしたサービスを活用してもいいでしょう。

編集部編集部

とにかく、医療者を間に入れることが必要なのですね。

黒木 春郎先生黒木先生

はい。うつ症状を示したり、「死にたい」と漏らしたりすることには、必ず背景があります。そのようなとき、「あれが原因だ」「こうするべきだ」などと、家族同士で話しても解決を期待することはできません。そのため、第三者である医師に入ってもらい、医療的な介入を求める必要があります。そうすることで家族の疲労も軽減されますし、スムーズに治療を進めることができるのです。

編集部編集部

そのほか、家族が気をつけることはありますか?

黒木 春郎先生黒木先生

うつ症状を示している人や精神疾患の気配が感じられる人に、お酒を勧めるのは控えましょう。お酒を飲むと気分が高揚して、これまでできないと思っていたことができるような気がすることがあります。そのため、自殺願望のある人が、お酒を飲んだはずみで本当に自殺してしまうことも多いのです。「つらいことはお酒を飲んで忘れよう」といった考えで、安易にお酒を勧めるのは極めて危険です。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

黒木 春郎先生黒木先生

精神疾患は誰でも発症し得るので、もし家族が変だと思ったら早めに信頼できる医療者に相談することが大切です。また、家族の誰かが精神疾患を発症すると、ほかの家族もイライラしたり、相手を責めたりしがちですが、そうならないようにすることも重要です。本人がつらい気持ちを吐き出しているときには相手の気持ちに寄り添い、共感しながら受け止めてあげましょう。加えて、本人が「つらい」「死にたい」などを口にせず、1人で悩みを抱え込んでいるときもあると思います。そのようなときには、家族が一緒に楽しめることに誘ってあげましょう。家族は人類にとって本質的なもの家族の誰かが心の調子を崩したとき、その不調にいち早く気づくことができるのは家族です。医療や公共サービスなどを上手に活用しながら、家族全員の負担を減らす方法を探してみるようにしましょう。

編集部まとめ

家族は最も身近な存在であるため、誰かが精神疾患を発症すれば、ほかの家族も影響を受けやすいものです。しかし、いち早くその異変に気づくことができるのも家族ならではの特徴です。みんなが健康で健やかな人生を歩めるよう、家族全員が協力し合えるといいですね。

医院情報

こどもとおとなのクリニックパウルーム

こどもとおとなのクリニックパウルーム
所在地 〒107-0061 東京都港区北青山2-13-4青山MYビル6階
アクセス 東京メトロ「外苑前駅」 徒歩1分 東京メトロ「表参道駅」 徒歩9分 東京メトロ「青山一丁目駅」 徒歩10分
診療科目 内科、小児科、心療内科

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