「パニック障害」が起きるキッカケや初期症状はご存知ですか? 薬物療法・精神療法も医師が解説

突如、動悸などの症状を引き起こす「パニック障害」は、決して珍しい疾患ではありません。重症化を防ぐには早期の治療が必要で、治療法は大きく分けて薬物療法と精神療法があります。パニック障害の症状や原因、どのようにして治療を進めるのかについて、「シモキタよあけ心療内科」の副島先生に解説していただきました。

監修医師:
副島 正紀(シモキタよあけ心療内科)
目次 -INDEX-
パニック障害とは

編集部
まず、パニック障害について教えてください。
副島先生
パニック障害とは、特になんのきっかけもなく、突然激しい不安や恐怖に襲われる疾患のことを指します。多くの場合、動悸や息苦しさ、めまいなどを伴いますが、発作は短時間で自然におさまることがほとんどです。しかし、こうしたパニック発作が1カ月に数回繰り返し発生するので、「また発作が起きたらどうしよう」と不安がますます強くなり、外出できない、仕事に行けないなど日常生活が困難になることがあります。
編集部
パニック発作は、どんなときに起きるのですか?
副島先生
パニック発作は、どんなシチュエーションでも起き得るという特徴があります。例えば、電車に乗っているときや会議をしているときなど、突然強い不安感や恐怖に囚われることもあります。また、人混みのなかや乗り物のなか、狭い空間のなかにいる時などに起きやすいとされています。
編集部
パニック発作が起きているときには、どのような症状がみられるのですか?
副島先生
人によって様々です。例えば、動悸や息苦しさ、めまいなどが強くなることもありますし、ダラダラと汗をかく、体が震えるほど寒い、息ができないといった症状がみられることもあります。そのほか、「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖を感じることもあります。
編集部
パニック発作を放置するとどうなりますか?
副島先生
「またパニック発作を起こしたらどうしよう」という考えが強くなり、やがて外出が困難になります。また、万が一発作が起きても逃げられない状況へ行くことに強い恐怖を感じ、1人で外出できなくなったり家に閉じこもりがちになったりして社会生活が乏しくなる「広場恐怖症」にもなり得ます。
パニック障害の治療法

編集部
突然、何の前触れもなくパニック発作が起きるのは怖いですね。
副島先生
パニック障害は決して珍しい疾患ではなく、2005年におこなわれたアメリカの調査によると、生涯有病率は4.7%と言われています。つまり、100人中4〜5人は生涯において一度はパニック障害を発症するということです。そのため、パニック障害になったときのために、治療法や対処法を知っておくことはとても役立つと思います。
編集部
パニック障害を発症する原因について教えてください。
副島先生
現時点では解明されていませんが、遺伝子の問題や脳内伝達物質の誤作動が関わっていると考えられています。発症には精神的・身体的ストレスが引き金となることが多く、カフェインや喫煙が関係しているという説もあります。
編集部
パニック障害は治すことができるのですか?
副島先生
パニック障害は、薬物療法と精神療法を組み合わせて治療するのが一般的です。薬物療法では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やベンゾジアゼピン系抗不安薬などを用います。SSRIは抗うつ薬として開発された薬剤で、「セロトニン」といういわゆる“幸せホルモン”を脳内で増やし、不安感を和らげる効果が期待できます。一方、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は抗不安薬の一種であり、脳内の神経伝達物質である「GABA」の働きを強めて不安や筋肉の緊張を和らげる効果があります。
編集部
薬を飲み始めたらずっと続けなければいけないのですか?
副島先生
パニック障害の治療で用いるSSRIは、効果が出現するまで3週間程度かかります。その間、発作が起きなくても必ず医師の指示に従って飲み続けましょう。また、パニック障害は再発しやすい疾患なので、症状が落ち着いてきたといっても、半年くらいは服用を継続することが必要とされています。
パニック障害の精神療法

編集部
パニック障害でおこなう精神療法とはなんですか?
副島先生
認知行動療法や曝露療法などの総称を精神療法と言います。薬物療法は体に対して直接働きかける治療法ですが、精神療法は医師や治療者が心と体の両方に働きかけるという特徴があります。精神療法をおこなうことで誤ったものの見方が改善されたり、行動の癖が修正されたりすることで、薬に頼らなくても症状が良くなる効果が期待できます。
編集部
認知行動療法や暴露療法について、もう少し詳しく教えてください。
副島先生
認知行動療法は、ストレスで凝り固まった思考の癖を修正し、気持ちを楽にして自由に行動できるようにする治療法です。一方、暴露療法は簡単に言うと不安に慣れる治療法のことです。パニック発作が起きやすい場所をリストアップし、少しずつ難易度を上げながら苦手なものに慣れていきます。例えば、電車に乗っている時にパニック発作が起きやすいなら、まずは駅まで行ってみる、次は電車の近くまで行く、それから電車の中に入ってみるというように、段階を追って少しずつ身体を慣らしていくのです。
編集部
そういう治療を繰り返すことで、パニック発作が起きなくなるのですか?
副島先生
症状に応じて2つを組み合わせて治療していきます。実際、完治までには時間がかかりますが、根気よく治療を続けることでパニック発作が起きないようになっていきます。
編集部
再発を予防するために、何をしたらいいのでしょうか?
副島先生
パニック障害は一進一退を繰り返しながら、少しずつ改善していく病気です。そのため、発作が起きなくなった、病気が治ったと思っても、必ず医師の指示に従って治療を継続することが大切で、それが再発予防にもつながります。
編集部
そのほか、予防のために気をつけるべきことはありますか?
副島先生
発作が起きたときに、どうして発作が起きたのかを冷静に考えられると恐怖感が減ると思います。例えば「今、動悸がしているのは昨日遅くまで残業してしまったからだ」「昨晩、お風呂に入らずリラックスする時間を取れなかったからだ」など、振り返ってみるのです。そうすれば「今日はあまり残業をせず、早く帰ろう」「今夜はお風呂に入ってリラックスしよう」など、対策を講じることができます。このようにして、自分を俯瞰的に捉えるトレーニングが予防には有効だと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
副島先生
パニック障害は動悸などの症状がみられるため、「まずは内科で体に異常がないか診察してもらう」という人が多く見受けられますが、内科で「異常がありません」と診断され、そこで受診をやめてしまう人が多いのも事実です。「内科で問題がなければ、心療内科や精神科を受診してみよう」という考えに至る人はそれほど多くありません。しかし、内科で異常が見つからなければ原因は心にあるのかもしれません。もし、動悸などの症状に悩んでいて、内科で異常がないと言われた場合には、ぜひ心療内科や精神科を受診して、本当の原因を確認してほしいと思います。
編集部まとめ
パニック障害を発症すると、外出が億劫になったり引きこもりがちになったりして、他者とのコミュニケーションが絶たれることもあります。もし、突然の動悸や息苦しさを感じていたら重症化しないうちに、早めに心療内科や精神科を受診しましょう。
医院情報
所在地 | 〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-12-14 Medicus KITAZAWA6階A |
アクセス | 小田急線・京王井の頭線「下北沢駅」 徒歩1分 |
診療科目 | 心療内科、精神科 |