甲状腺疾患=「妊娠しにくい・流産しやすい」って本当? 不妊や流産リスクを医師が解説

甲状腺疾患は女性に多く、全体の約8~9割を占めるとも言われていますが、軽い段階では自覚症状がないため、見過ごされやすいそうです。また、甲状腺ホルモンは妊娠や出産にも深く関わると聞きますが、具体的にどういうことなのでしょうか? そこで、甲状腺疾患と妊娠・出産の関係について、内分泌代謝科専門医の川名部新先生(おばな内科クリニック院長)に解説してもらいました。

監修医師:
川名部 新(おばな内科クリニック)
甲状腺疾患ってどんな病気?

編集部
甲状腺について教えてください。
川名部先生
甲状腺とは、喉仏のすぐ下にある蝶の形をした小さな臓器で、女性ホルモン、男性ホルモン、副腎皮質ホルモンなど、さまざまなホルモンが作られています。甲状腺で作られるホルモンは「甲状腺ホルモン」と呼ばれ、代謝などの役割を担っています。
編集部
では、甲状腺の疾患にはどのようなものがありますか?
川名部先生
大きく分けると、甲状腺の機能が亢進する「甲状腺機能亢進症」と、逆に機能が低下する「甲状腺機能低下症」があります。ほかには、甲状腺に腫瘍ができる「甲状腺腫瘍」もありますが、多くの場合、無症状で良性です。
編集部
甲状腺機能亢進症について、もう少し詳しく教えていただけますか?
川名部先生
甲状腺ホルモンの分泌が過剰になることで、代謝が活発になりさまざまな症状が現れます。代表的な疾患にバセドウ病がありますが、亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎のように、一時的にホルモンが大量に放出されるケースもあります。暑がりや多汗、動悸、体重減少、手の震え、疲れやすさ、下痢などがよく見られる症状です。さらに、眼球が突出することで目が閉じにくくなる場合もあります。
編集部
甲状腺機能低下症についても教えてください。
川名部先生
甲状腺機能低下症の代表的な疾患に「慢性甲状腺炎(橋本病)」があります。免疫異常による炎症で甲状腺が徐々に破壊されます。首が腫れたように感じることがあり、全身の代謝が低下するため、寒がり、体重増加、疲労感、体温低下、脂質異常症、便秘などの症状が現れます。さらに、気分の落ち込みや不安感が強くなることもあり、うつ病や更年期障害と間違われるケースもあるようです。
甲状腺疾患と妊娠の関係とは? 医師が解説

編集部
甲状腺疾患があると、妊娠しにくくなると聞いたことがあります。
川名部先生
関係性はあります。甲状腺ホルモンは体全体の代謝をコントロールする重要な役割を果たしており、そのバランスが乱れると、卵巣の働きにも影響を与えることがあります。甲状腺疾患は妊娠しにくさの一因となることがあるため、不妊の原因を調べる際には甲状腺の検査も重要です。
編集部
妊娠後も甲状腺疾患が流産リスクを高めるって本当ですか?
川名部先生
甲状腺ホルモンが不足している場合、胎児の体や脳の発育に必要なホルモン量が不足し、流産や早産のリスクが高まることはあります。また、甲状腺機能が過剰な場合もホルモンバランスの乱れが影響し、妊娠継続が難しくなるケースもあります。
編集部
では、甲状腺疾患のある人は、妊娠・出産の際に注意が必要ということでしょうか?
川名部先生
そうですね。甲状腺機能に問題があったとしても、症状があまりなく、気づいていない場合もあります。妊娠をきっかけに甲状腺の働きが変化することがあり、その影響が赤ちゃんの発育に関わる場合もあります。ですから、現時点で甲状腺疾患と診断されている人も、そうではない人も、妊娠を考え始めた段階で一度甲状腺機能を検査することをお勧めします。
編集部
本人が気付いていない場合もあるのですね。
川名部先生
まったく症状がないまま、不妊治療を進める中で甲状腺の異常が見つかるケースも珍しくありません。逆に言うと、不妊に悩んでいた人が、甲状腺疾患が適切に治療されることで妊娠しやすくなる場合もあります。
甲状腺疾患があると出産は難しいの? 産後は?

編集部
妊娠前からの検査がよいのですね。
川名部先生
そうですね。脳や神経の形成が始まるのは妊娠4週頃からと言われています。この時期はまだ妊娠に気がついていない方がほとんどなので、妊娠に気づいてから検査したのでは遅い場合があるのです。
編集部
甲状腺疾患を持っている場合、安全な妊娠・出産は難しいのでしょうか?
川名部先生
そんなことはありません。甲状腺疾患があっても、適切に治療や管理をおこなえば、妊娠・出産は可能です。医師の指導を受けながら甲状腺ホルモンのバランスを整えることで、母体と赤ちゃんの健康を守ることができます。もし不安なことがあれば、早めに専門医に相談してください。
編集部
甲状腺疾患は出産後にも影響を及ぼしますか?
川名部先生
出産後はホルモンバランスが大きく変化するため、甲状腺の機能に異常が出ることがあります。産後の疲れや不調が甲状腺疾患によるものだったという例もあるため、気になる場合は医師に相談するとよいでしょう。特に、産後3カ月くらいの時期は慢性甲状腺炎を発症しやすいので注意しましょう。
編集部
最後に読者へのメッセージをお願いします。
川名部先生
甲状腺疾患は、軽症であれば自覚症状はほとんどないのにもかかわらず、妊娠・出産に影響を及ぼすリスクがあります。妊娠を検討している方や、不妊、流産を経験している方などは、一度甲状腺の検査をすることをお勧めします。もし不妊が甲状腺疾患によるものであれば、ホルモン補充療法など適切な治療をすることで妊娠が望めます。実際に、3年くらい不妊に悩んでいた方が、甲状腺の治療をして妊娠したケースもありました。また、甲状腺疾患とヨードの過剰摂取との関係もわかっています。海藻を過剰に摂取している方や、イソジンなどのヨード入りのうがい薬を頻繁に使用している方なども、甲状腺の検査をしてみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
甲状腺の異常は、不妊や流産のリスクを高める可能性があるのだそうです。しかし、甲状腺疾患は軽度であれば自覚症状がほとんどなく、気づかないまま過ごしていることも少なくありません。特に、妊娠を考えている方や、不妊治療中の方、過去に流産を経験したことがある方は、一度甲状腺の検査を受けることをお勧めします。早期に異常を発見し、適切な治療をおこなうことで、妊娠や出産に向けての体調管理をより万全にすることができます。
医院情報
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診療科目 | 内科、糖尿病内科、内分泌内科 |