吸入薬の効果引き出す3つのポイント&吸入薬でよくある間違い3選【喘息治療】

喘息の治療で多く用いられるのが吸入薬。子どもでも簡単に使用できるとして、多くの患者に処方されていますが、実は吸入薬の効果を発揮するには正しい使い方が重要です。一体どのような使い方が正しいのか、よくある間違った使い方などについて、ふかさわ呼吸器・消化器内科クリニック院長の蛸井(たこい)先生に聞きました。

監修医師:
蛸井 浩行(ふかさわ呼吸器・消化器内科クリニック)
喘息の吸入薬とは? どんな薬?

編集部
吸入薬とはなんですか?
蛸井先生
さまざまなタイプの吸入器を使って口から薬剤を吸い込み、気管支や肺へ直接的に作用させる薬のことをいいます。主に気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療に用いられます。
編集部
吸入薬にはどのような特徴があるのですか?
蛸井先生
吸入薬はほとんどが肺のみに届くため、飲み薬と違って全身に影響する副作用が少ないというメリットがあります。一方で、服薬するにはある程度コツが必要で、誤った使い方をしていたために効果が減少してしまった、ということも少なくありません。
編集部
吸入薬にはどのような種類があるのですか?
蛸井先生
一般的には、エアゾールタイプとパウダータイプがあります。エアゾールタイプは薬を霧状に噴霧させ、それを吸入するもの。一方のパウダータイプは粉末を自分で吸い込む形の薬剤のことをいいます。どちらも、ポケットに入るくらいの大きさの吸入器を使います。
編集部
どちらが良いのですか?
蛸井先生
どちらのタイプにも長所と短所があります。たとえばパウダータイプは自分のタイミングで薬剤を吸える、という長所があります。一般には「蕎麦をすすれる力があれば吸える」とされていますが、かなりご高齢な方には難しい可能性があります。一方、エアゾールタイプは自分で吸い込むタイミングを薬の噴霧に合わせなければならないという難しさはありますが、吸う力が弱くても吸入できるのは長所と言えます。
編集部
長所と短所を検討することが大切ですね。
蛸井先生
はい。基本的に喘息治療で用いる吸入薬は、長ければ年単位で継続使用することが必要です。そのため、自分が使いやすいと思うものを選ぶことが大切。エアゾールタイプにしろ、パウダータイプにしろ、医師と相談して無理なく使えるものを選ぶことが重要です。
正しく吸入するためのコツとは?

編集部
正しく吸入するには、どのようなことに気をつけたら良いのでしょうか?
蛸井先生
まずは舌の位置が大切です。舌の位置によっては、せっかく薬剤を吸入しても、舌に薬剤がくっついてしまって、気管に届かないことがあるからです。そこでお勧めしたいのが、「ホー吸入」というものです。これは「ホー」と発音する口の形で薬剤を吸入するというもの。これにより舌の中央が下がり、薬剤の通り道が作られるのです。
編集部
ほかに気をつけることはありますか?
蛸井先生
吸入するときには顔を上に向けることも大切です。上を向くと薬剤が噴射される方向と気管の方向が一致するため、的確に届けることができます。
編集部
いろいろなコツがあるのですね。
蛸井先生
はい。それから、吸入したあとすぐに息を吐き出すとせっかく吸った薬剤が排出されてしまいます。そのため吸入したらなるべく5秒、「息ごらえ」をすることも大切です。薬剤が肺の奥まで届くには意外と時間がかかりますから、その間は息を吐かないようにしましょう。
吸入薬を使う際よくある間違いは?

編集部
吸入薬を使う際、どんな間違いが多いのでしょうか?
蛸井先生
たとえば、吸入器を操作し、カチッと音が鳴ったら吸入口に薬がセットされるタイプの場合、カチッと音が鳴っていないのに吸入してしまうケースがあります。その場合は正しく薬が吸えていないことになります。吸入器は、説明などをよく読み正しく使用するようにしましょう。
編集部
ほかにもよくあるミスはありますか?
蛸井先生
薬剤の残量がメーターで表示されるタイプで、残量がゼロとなっていても吸入器を振るとシャカシャカ音がするものもあります。そのため、「まだ薬が残っている」と勘違いして、使い続ける方もいらっしゃるのですが、それは乾燥剤の音がしているだけです。残量がゼロとなったらもう使うことはできないので、必ず新しい薬剤を使うようにしてください。
編集部
いろいろなミスが起きているのですね。
蛸井先生
はい。それからカプセルを潰してから吸入するタイプの薬がありますが、稀にカプセルごと飲んでしまう患者さんもいらっしゃいます。特にご高齢の方や認知症の方に多いミスです。このような場合には、できるだけご家族が付き添って、吸入薬の使用をサポートしてあげるなど、配慮することをお勧めします。また、1日1回の使用で良い薬剤もありますから、ご家族の負担を考え、服用回数の少ない薬剤に変更することも良いでしょう。
編集部
吸入薬を使う際の注意点はありますか?
蛸井先生
ステロイドの入った薬剤を使う場合、吸入後は必ずうがいをして、のどや口に残った薬剤を洗い流してください。薬剤が残ると声がれ、まれにのどや口にカビが生えるなどの原因になることがあります。
編集部
吸入薬を正しく使うにはコツが必要なのですね。
蛸井先生
編集部
喘息は、誰でも発症する可能性があるのですか?
蛸井先生
「喘息は子どもの病気」というイメージを持っている方もいらっしゃるかと思いますが、実際は大人になって発症することも多いですし、70~80代で発症する方もいます。喘息を発症したら吸入薬を正しく使って症状を抑えることも必要ですが、たとえば「風邪をひかない」「禁煙をする」「ハウスダスト対策をする」といったことで悪化を予防することもできます。こうしたことに気をつけながら、上手に喘息をコントロールしてほしいと思います。
編集部
最後に読者へのメッセージがあれば。
蛸井先生
よく患者さんに「喘息は山火事、吸入薬は消火剤」とお話しています。山火事は鎮火したように見えても、少しでもくすぶっている火があると、再び火の勢いが強くなり、あっという間に大火になってしまいます。喘息もこれと同じです。「症状が良くなったので、もう吸入薬は不要」と思っても、気道ではまだ炎症が続いているかもしれません。そのタイミングで服薬を中断すると、徐々に炎症がひどくなり、症状が悪化してしまうこともあります。ですから、症状がなくなっても医師の指示があれば通院を継続すること。症状がしばらく安定していれば医師と相談しながら少しずつ減薬し、服薬を終了するタイミングを見定めてもらうこともできます。
編集部まとめ
喘息治療の基本は吸入薬です。正しく使用することで効果を発揮することができますから、「この使い方で合っているのかな」と不安になったら、必ず医師に確認してもらうようにしましょう。
医院情報
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アクセス | 湘南モノレール「湘南深沢」駅より徒歩3分 |
診療科目 | 内科・呼吸器内科・消化器内科・内視鏡内科 |