「レプリコンワクチン」は本当に安全なのか 科学的根拠をもとに医師が解説
最近、新たに注目されている新型コロナウイルス感染症予防の「レプリコンワクチン」をご存じですか? レプリコンワクチンは、効率よく免疫を高める可能性があり副反応が軽減することも期待されています。一方で、従来のワクチンと比べて本当に安全なのか、課題はないのかという声もあるようです。一部で話題になっている「シェディング」の懸念も含め、その仕組みや期待される効果、課題について、マウントサイナイ医科大学の山田悠史先生に詳しく解説していただきました。
監修医師:
山田 悠史(医師)
目次 -INDEX-
レプリコンワクチンについて知る
編集部
はじめにレプリコンワクチンについて教えてください。
山田先生
レプリコンワクチンが従来のmRNAワクチンと異なるのは、抗体のもとになるスパイクタンパク質の設計図を自ら増やす機能を持つ点です。スパイクタンパク質とは、コロナウイルス表面のトゲトゲの部分で、ウイルス本体がヒトの細胞に侵入する際の鍵の役割を果たします。
編集部
従来のmRNAワクチンはどのような仕組みで効果を発揮するのでしょうか?
山田先生
ワクチン接種により、mRNAを体内に届けます。このmRNAがタンパク質をつくるためのレシピとなり、体内でスパイクタンパク質が作られます。その後、作られたタンパク質を認識して免疫が反応し、トレーニングがおこなわれます。その結果、実際にウイルスが侵入した際に、すぐ攻撃できるようになる仕組みです。天災における防災訓練のようなものだと理解してください。
編集部
レプリコンワクチンが注目されている理由について教えてください。
山田先生
レプリコンワクチンは、mRNAを体内で自ら増やすことができるため、より多く長い期間スパイクタンパク質を作れるのではないかと考えられています。つまり、少量の接種で十分なタンパク質を作り出し、効果的な免疫を獲得できる可能性が注目されています。
編集部
具体的に、接種した人にはどのようなメリットがありますか?
山田先生
例えば、これまでのワクチンでは初回接種の際に2回、その後数カ月おきに追加接種が必要な場合もありましたが、レプリコンワクチンでは接種回数を減らすことができる可能性があります。また、効果が長続きすることも期待されています。さらに、少量の接種で済めば、副反応が軽減される可能性もあると考えられます。
レプリコンワクチンの科学的根拠 海外で承認されていない理由とは
編集部
実際の臨床試験のエビデンスは示されているのですか?
山田先生
1万6000人を対象とした試験では、新型コロナウイルスの発症予防効果が約56%、重症化予防効果が約95%であると、Nature Communicationsという学術誌に報告されています。また、ファイザーのmRNAワクチンと比較した試験では、少なくともワクチンでできる抗体の量は劣っていないことが証明され、一部の変異株に対しては優れている可能性もあると報告されています。
編集部
海外でのレプリコンワクチンに対する動きについて教えてください。
山田先生
つい最近、欧州医薬品庁(EMA)に欧州医薬品委員会(CHMP)が販売承認の勧告を出し、承認される見通しであることが発表されました。ほかにも、現在承認に向けてのプロセスを踏んでいる国は複数あります。日本は世界に先駆けて承認されており、欧州での承認は科学的な有効性と安全性を追認した形となります。さらに、新型コロナウイルスだけでなく、インフルエンザやがんの領域におけるレプリコンワクチンの研究もされており、様々な分野で活発に研究がおこなわれている画期的な技術と言えると思います。
編集部
レプリコンワクチン以外の選択肢もあるのでしょうか?
山田先生
現在のところ、レプリコンワクチンは十分その承認に値するワクチンであることが証明されていますが、このような話を受けても、不安に感じる方はいらっしゃると思います。必ずしもレプリコンワクチンの接種を受けなければならないというわけではなく、既存のmRNAワクチンや組換えタンパクワクチンという選択肢もあるので、自分の考えに合ったものを選んでいただければと思います。
「シェディング」は本当に起こる? 気になるレプリコンワクチンの副反応について
編集部
副反応についてわかっていることを教えてください。
山田先生
副反応については、重篤なものの発症率は1%未満とされています。また、多くの方が懸念する発熱に関しても、重度の発熱は1%未満で、軽度の発熱を含めても6%程度の発生率と比較的少ない頻度であると報告されています。追加接種時の副反応についても、これまでのワクチンと同程度の発生頻度であるとの報告がされています。
編集部
一部で「シェディング」を心配する声が上がっていますが、本当に起こるのでしょうか?
山田先生
シェディングとは、ウイルスが体外に排出されることを表す言葉で、これがほかの人に感染させる懸念となります。しかし、レプリコンワクチンの場合、体内で作られているものは、ウイルスではなくその一部であるスパイクタンパク質のみです。そのため、ウイルスが体の外に出て、他人に感染するような懸念はないと言ってよいでしょう。
編集部
レプリコンワクチンの懸念点をあげるとするとどのような点ですか?
山田先生
臨床試験によって1万人単位で評価がおこなわれたとはいえ、数十万、数百万人規模で接種を進めた場合、非常に稀な副反応が見つかる可能性はあります。ただし、最終的に体内で生成されるものはこれまでのワクチンと同様であるため、そのような稀な副反応はこれまでのワクチンで観察された範囲内のものではないかと考えられます。
編集部
ほかに懸念されていることは何かありますか?
山田先生
例えば、免疫抑制剤などを使用している方では、mRNAの自己増殖期間が通常より長くなるのではないかという懸念があります。また、妊婦への接種による胎児への影響については、今後さらなるデータの蓄積が必要だと思われます。
編集部まとめ
レプリコンワクチンは、遺伝子への影響やシェディングといった心配が話題になることもありますが、そのような懸念を科学界でされているわけではなく、少量で効率的な免疫を引き出せる可能性があるとして非常に注目されています。副反応も従来のワクチンと大きな差はないと考えられており、今後、別疾患のワクチンへの応用も期待されています。医療に関する情報は日々変化しており、正確な理解と冷静な取捨選択が欠かせません。本稿が読者の皆様にとって、新しいワクチン技術を正しく知る一助となれば幸いです。