「眼科医なのにメガネってどういうこと?」 信用して大丈夫なのか直接聞いてみた
眼科医が眼鏡をかけていると、「えっ、プロなのに!?」と思ってしまう人もいるのではないでしょうか? 眼科医で眼鏡を愛用する栗原大智先生いわく、「眼鏡を選ぶかどうかは個人の好みであり、専門知識や能力には一切関係ありません」とのことなので、その理由とともに、そのほかのコンタクトレンズなどの選択肢との比較解説をしてもらいました。
監修医師:
栗原 大智(医師)
その道のプロでも目が悪くなるのはなぜ?
編集部
「眼科医なのになんで眼鏡を掛けているの?」と聞かれることはありませんか?
栗原先生
……はい、実際によく聞かれます(笑)。眼科医として「目のプロ」なのに眼鏡をかけていると、少し矛盾を感じる方もいるようです。特に、目の手術をしている眼科医が眼鏡を掛けていると、その治療は安全なのかと疑ってしまう方もいるようです。でも、眼科医が眼鏡を掛けていることには意外と深い理由があるんです。
編集部
やはりたくさん勉強をしすぎて、視力が落ちたということでしょうか?
栗原先生
学生時代に長時間の勉強をする中で視力が低下することはありますが、必ずしも「勉強しすぎ=目が悪くなる」というわけではありません。目が悪くなるのは、近視(遠くが見えにくい状態)を指すことが多いですよね。たしかに、近くを見る時間が長くなれば、近視にはなりやすくなります。実際、最近の子どもたちには近視が増えていますが、それは勉強のしすぎだけではなく、スマホやポータブルゲーム機の影響が主な原因と考えられています。
編集部
たしかに近年はそういう傾向がありそうです。
栗原先生
近視は、近くを見る時間が長いだけではなく、遺伝的な要因が関係することも知られています。両親が近視であれば近視になりやすいですし、そもそもアジア人であるというだけで、近視になりやすいのです。私は、もともと遺伝的に近視になりやすい体質だったのに加えて、勉強だけでなく、家庭用ゲーム機でも長時間遊んでいたので近視が進行したのだと思います。
編集部
目の専門家であっても目が悪くなるのはどうしてなのでしょうか?
栗原先生
「目が悪い」と一言で言っても、いくつかのケースがあります。「目が悪い=近視」と思っている人も多いと思いますが、この近視は遺伝や近くを見る作業の時間が影響します。医師は学生時代に勉強を長い時間していた人が多いので、どうしても眼鏡を掛けている人が多いのかもしれません。また、年齢とともに老眼の症状が出てきます。高齢になればなるほど、手元を見るのが難しくなるので、老眼用の眼鏡を掛けている眼科医もいます。
眼鏡の先生から眼鏡以外の治療を受けても大丈夫?
編集部
眼鏡の眼科医は、コンタクトレンズやそのほかの視力矯正や治療などよりも眼鏡を推奨しがちなのでしょうか?
栗原先生
眼科医が眼鏡を選ぶ理由は、必ずしも推奨する治療や矯正方法とは関係ありません。私だけでなく眼科医は、患者さんの目の状態やライフスタイルによって、視力矯正方法を選んでいます。もちろん、眼鏡は管理がほかと比べれば簡単ですし、破損以外で起こる合併症は基本的にありませんので、眼鏡で良ければそれに越したことはありません。しかし、中には強い乱視があり、ハードコンタクトレンズでなければ矯正が難しい方もいます。また、どうしても眼鏡が嫌で、裸眼での生活を希望される場合はコンタクトレンズやレーシックや目の中にレンズをいれICLなどが良いと思います。
編集部
人によって選択が変わってくるのですね。
栗原先生
はい。コンタクトレンズなら簡単に取り外しできますが、管理を適切に行わないと合併症が起こる恐れがあります。そのため、コンタクトレンズを希望される場合は管理が行えることが重要です。そういった管理がめんどうで、費用的に問題なければレーシックやICLをお勧めしています。ただし、どちらにもメリット・デメリットがあり、そもそも適した目というのもあります。例えば、私のような強度近視はレーシックではなく、ICLの方が良い適応となります。しかし、私は眼鏡で困っていないので眼鏡を使っています。
編集部
先生が眼鏡なのは「眼鏡が一番安全だから」ということではないですよね?
栗原先生
たしかに、私が眼鏡をしているのは安全性が一番高いという理由もありますが、それだけではありません。年齢とともに度数が変化したり、老眼などの症状が出たりします。眼鏡であればその変化に合わせて、レンズの度数を調整できるからです。もちろん、コンタクトレンズやレーシック、ICLなどの治療も安全性は高い視力矯正ですが、合併症が出ないとは言えません。眼鏡も合わなくなることはありますが、コンタクトレンズやレーシック、ICLなどをした後にトラブルになる患者さんもゼロではありません。稀にそういった患者さんを診ていると、“私は”眼鏡で良いかなという消去法的な選択になりました。
編集部
眼鏡やコンタクトレンズ、ICLなど、それぞれのメリット・デメリットを教えてください。
栗原先生
まず眼鏡についてですが、メリットは合併症がないことです。また、度数が変わったり、老眼の症状が出たりしても、眼鏡のレンズを変えれば良いこともメリットとして挙げられます。デメリットは破損と交換する手間です。子どもに踏まれたり、叩かれたりするとすぐに曲がってしまうので、調整のために眼鏡店に来店する手間はあります。また、度数が変更になれば交換する必要がありますし、その間は過去に作成した眼鏡などを使う必要があります。
編集部
コンタクトレンズの場合は?
栗原先生
コンタクトレンズのメリットは、目に直接乗せて視力を矯正するため、見え方が自然になることです。眼鏡はフレームが曲がると、見え方が悪くなる場合もありますが、コンタクトレンズはその心配がありません。デメリットは目の感染症やドライアイなどの症状が出ること、管理が面倒なことが挙げられます。特に、コンタクトレンズは使用後の管理が重要です。それを怠ると目の感染症やドライアイが出やすくなります。
編集部
レーシックはどうでしょう?
栗原先生
レーシックのメリットは、合併症として目の感染症が起こりにくいこと、裸眼で見えることです。レーシックは角膜を薄く削る治療のため、基本的には合併症は起こりにくいです。そして、裸眼で見えることが何よりの魅力でしょう。デメリットはドライアイが起こりやすく、元に戻せないことです。レーシックでは黒目を削るため、そこにある神経も併せて取り除くことになります。その結果、ドライアイが起こりやすくなるとされています。また、元の状態に戻すことはできないので、ドライアイが起こってしまっても元通りにすることができないのが課題です。
編集部
ICLについては?
栗原先生
ICLのメリットは、ドライアイが起こりにくいことと、再手術が可能なことです。ICLはもともと白内障手術で行われている方法と似ており、安全性が確立された手術方法を用いています。また、ICLは角膜を削ることはほとんどないので、ドライアイも起こりにくいとされています。そして、ICLは目にレンズを入れているので、それを交換することで見え方の調整が可能です。もちろん、何度も再手術をすると合併症の頻度が増えるので、基本的には手術は1回しかしません。ICLのデメリットは白内障の進行と目の感染症です。水晶体の近くにICLを置くため、その接触により白内障が進行するのではないかと懸念されています。また、目の中で手術をするため、眼内炎という感染症のリスクがあり、大きく視力を下げてしまう恐れがあることもデメリットとして挙げさせてもらいます。
結局、眼鏡の眼科医は信用しても大丈夫?
編集部
その上で、先生が眼鏡を選んでいる理由はなんですか?
栗原先生
私が眼鏡を選んでいる理由は、度数の変更が簡単なことです。たしかに、眼鏡も破損のリスクはありますし、眼鏡交換する間はその眼鏡が使えなくなります。しかし、そこは予備の眼鏡を準備していれば問題ありません。また、私は手術をするときに、どうしても目が乾いてしまいます。そのため、コンタクトレンズやレーシックに関してはドライアイの可能性があるので使用していません。また、老眼のため、レーシックやICLの場合、結局眼鏡を使うことになることがほとんどです。そういったことを考えて、眼鏡を選択しています。
編集部
眼鏡をかけている眼科医のことは「信頼していい」のでしょうか?
栗原先生
もちろんです。眼鏡を選ぶかどうかは個人の好みであり、専門知識や能力には一切関係ありません。むしろ、そういう先生に眼鏡をしている理由を聞いてみても良いと思います。その理由も踏まえて選択するのもいいと思います。
編集部
最後に読者へメッセージをお願いします。
栗原先生
眼鏡をかけているからといって、信用ができないような眼科の先生はいないと思います。たとえ眼鏡の先生の医院であっても、安心して受診してください。その上で、目に関する悩みは人それぞれですが、現在は多くの治療法や矯正法があり、あなたに最適な選択肢が見つかるはずです。ぜひ一度、眼科を訪れて眼科医に相談してみてください。“目が悪くなった”とき、どんな解決法を選ぶかは、決して周りの評判だけを聞いて決めず、大切な目だからこそ慎重に判断するようお願いします。
編集部まとめ
『眼科医が眼鏡だと信用できない』というのは、やや邪推が過ぎるようです。安心して受診し、それぞれのメリット・デメリットを踏まえた上で、悪くなった見え方を相談してもらえればと思います。