「糖尿病予備軍」がプロテインを飲むべき理由はご存じですか? 飲む際の注意点も医師が解説!
「糖尿病」の治療や予防には、運動が不可欠です。そして、筋肉をつけることはインスリンの効きをよく良くする効果があるため、糖尿病対策にはとても大切です。そのため、「筋トレ後にプロテインを飲んでいる」という人も多いと思います。しかし、その一方で「プロテインは体に悪い」という声も耳にします。一体、どちらの説が正しいのか、「小暮医院」の小暮先生に聞いてみました。
監修医師:
小暮 晃一郎(小暮医院)
糖尿病予備軍でも筋トレ後のプロテインは飲んでOK?
編集部
糖尿病予備軍と診断されたのですが、筋トレ後にプロテインを飲んでも問題ないですか?
小暮先生
結論から言うと、特に問題はありません。ホエイプロテインを摂ると、食後の血糖値が上がりにくくなるということがわかっており、糖尿病予備軍の人には最適と言えます。なお、ホエイプロテインのホエイとは乳清とも呼ばれ、牛乳由来のタンパク質のことです。ヨーグルトの上澄み液がホエイです。
編集部
なぜ、ホエイプロテインを摂ると食後の血糖値が上がりにくくなるのですか?
小暮先生
ホエイプロテインが「インクレチン」という物質の分泌を刺激するからです。インクレチンは食後に小腸から分泌されるホルモンで、インスリンの分泌を増やす働きがあります。そのため、ホエイプロテインを摂取するとインスリンの分泌が促され、血糖値が上がりにくくなるのです。「食事の前にホエイプロテインを摂取することで、食後の血糖値が上がりにくくなる」ということも、研究によって明らかになっています。
プロテインは腎臓や肝臓に負担がかかる?
編集部
一方で「糖尿病の人がプロテインを摂取するのは良くない」という意見を耳にすることもあります。これはなぜですか?
小暮先生
たしかに、プロテインは手軽にタンパク質を摂取できて便利です。しかし、その一方で肉など天然の食品とは異なり、人工的に作られたタンパク質であるため、過剰に摂取すると内臓に負担になるという考え方もあります。
編集部
具体的に、どのようなことですか?
小暮先生
例えば、大量にプロテインを摂ると、腎臓に大きな負担がかかることもあります。プロテインは体内でアミノ酸→アンモニアへと分解され、最終的に尿素と窒素になります。腎臓は尿素窒素などの老廃物を濾過し、取り除く働きをしています。そのため、プロテインを過剰に取って尿素窒素が増えると、腎臓に大きな負担となるのです。
編集部
ほかにも過剰にプロテインを摂取することで、どのような影響がありますか?
小暮先生
プロテインを過剰に摂取すると、体内では大量のアミノ酸が作られます。しかし、使いきれなかったアミノ酸は最終的に糖(グルコース)や脂肪の合成に使われ、肝臓に貯蔵されてしまいます。現在は「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」の人が増えていますが、この背景の1つとして「プロテインの過剰摂取が関連しているのではないか」ということも指摘されています。ちなみに、最近ではNASHを「MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)」と呼ぶようになっています。
編集部
肝臓にも影響を及ぼすのですね。
小暮先生
そのほか、プロテインは体内で分解される過程でアンモニアに変わります。アンモニアは体内にとって有害な物質であるため、それを無毒化して尿素に変え、体の外へ排出する必要があります。その際、無毒化の働きを担っているのは肝臓です。たくさんプロテインを摂ると肝臓に負担がかかると言われているのはそのためです。
糖尿病予備軍の人がプロテインと上手に付き合うためには?
編集部
糖尿病予備軍ではなく、糖尿病と診断された場合でも、プロテインを飲んでもいいのですか?
小暮先生
糖尿病の合併症として腎症を起こしている人は、腎臓への負担を考えるとプロテインを飲まない方がいいと思います。また、糖尿病の患者さんで、肝機能の数値が悪い人も飲まない方がいいでしょう。
編集部
糖尿病予備軍の人が、プロテインを飲む際の注意点はありますか?
小暮先生
筋肉を作るために利用できるタンパク質の量には限界があることを覚えておきましょう。製品によって異なりますが、プロテインの1回量の目安は20~30g前後とされています。多く摂り過ぎても体づくりには活かされず、むしろ肥満につながることすらあります。
編集部
プロテインの摂り過ぎが肥満につながることもあるのですか?
小暮先生
はい。タンパク質のカロリーは、1gあたり4kcalです。体づくりに使われなかったタンパク質は、結局体脂肪として体に蓄えられることになってしまいます。そのため、プロテインをたくさん飲めば飲むほど、太りやすくなることも覚えておきましょう。
編集部
そのほか、糖尿病予備軍の人がプロテインを飲むときの注意点はありますか?
小暮先生
ホエイプロテインを飲むと食後の血糖値が上がりにくくなるのは間違いないのですが、全く上昇しないわけではありません。そのため、血糖値のコントロールがあまり良くない人は、ホエイプロテインの飲み過ぎに注意です。現在、治療や予防のために通院しているのであれば、病院の管理栄養士に相談してみるといいと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
小暮先生
血糖値を下げるために、筋肉が重要な働きをしているのは事実です。筋肉をつけたり、維持したりするうえで、筋力トレーニングはとても有効です。そのために必要なタンパク質を摂取することももちろん大切ですが、人工の合成タンパク質であるプロテインを大量に飲み過ぎれば健康に被害が生じることもあります。プロテインを飲むときは、あくまでも適量を守ることが大事です。どれくらい飲んでいいのかわからない人は、医師や管理栄養士に相談してみてください。
編集部まとめ
最近ではプロテインの味の改良が進み、飲みやすくなっています。たしかに、筋肉を増やすのに役立ちますが、飲み過ぎが腎臓や肝臓に負担をかけたり、肥満につながったりするのも事実です。プロテインはあくまでも補助食品として捉え、飲み過ぎに注意しましょう。
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