【闘病】『一側多発乳がん』 マンモグラフィで「異常なし」だったのに半年後の発覚
乳がんを経験したアプリコットさん(仮称)は、手術・抗がん剤治療・ホルモン療法を受け、現在は年1回の定期健診を継続しているがんサバイバーです。女性が患うことの多いがんである乳がんについて、アプリコットさんの話から、病気ならではの苦労や気を付けるべきことを知っていきましょう。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年7月取材。
体験者プロフィール:
アプリコット(仮称)
60代女性。2009年8月、市の集団検診でマンモグラフィを受け、そのときは異常なしと診断を受けた。半年後の2010年2月、入浴時に左胸にしこりが触れ、検査の結果「一側多発乳がん」と診断された。手術や抗がん剤治療、ホルモン療法で再発は起こっていないが、その後子宮体がんやぶどう膜炎、慢性心不全などを発症。現在は年1回の乳がんの定期検診と、病気の治療を続けながら元気に暮らしている。
記事監修医師:
寺田 満雄(名古屋市立大学病院乳腺外科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
覚悟していた分、受け入れるまでが早かった
編集部
はじめにアプリコットさんがご自身の闘病体験を通して、最も伝えたいことは何でしょうか?
アプリコットさん
「自分の体は自分で守ってほしい」ということです。自分の体に耳を澄まして、少しの異変にも敏感になり、病院に行くことを怠らないでほしいです。私も乳がんを経験してからというもの、そのほかにも様々な病気を経験してきましたが、それを大事にしているおかげで、今でも元気に暮らせています。
編集部
ありがとうございます。それでは、アプリコットさんの乳がんが判明した経緯について教えてもらえますか?
アプリコットさん
2009年8月頃、自治体の集団検診でマンモグラフィを受けて、そのときは異常なしと診断を受けました。しかし、半年後の2010年2月頃、入浴中に左胸にゴロっとしたしこりに触れた感じがしたので不安になり、病院であらためて検査を受けました。そして、検査の結果「一側多発乳がん」と診断されました。その後は手術や抗がん剤治療、ホルモン療法などを行い、再発はありませんでした。現在は年1回の定期健診で経過を観察し、再発や転移が起こらないかチェックしています。
編集部
病気が判明したとき、医師からはどのような説明があったのでしょうか?
アプリコットさん
受診したその日に医師から検査結果を説明され、「おそらく乳がんでしょう」と言われました。薄々そんな気はしていたため、「そうなんだ。やっぱりか」とあっさり受け入れられました。医師からは術前検査やがんの進行具合、予後について詳しく説明されました。「がんが2個あるため乳房温存はできない。全摘が望ましい」「術後抗がん剤治療を約半年間、ホルモン療法を5~10年受けることが望ましい」といった説明もありました。
編集部
がんが判明した時の気持ちも聞かせてもらえますか?
アプリコットさん
10人に1人ががんになると言われていたため、「10分の1に入ったな」とか「5年後生きていても10年後はわからない」など、比較的冷静に受け止めていたと思います。幸い子育ては終えていたため、そのあたりの心配はなく、治療に集中しやすい状況だったのは助かりました。
編集部
乳がんの診断と治療について説明を受けてから、生活に変化はありましたか?
アプリコットさん
ありがたいことに、仕事は約半年間休職し、治療に専念させてもらえました。予定されていた夫の転勤(単身赴任)も一年先延ばしにしてもらうことができ、家族みんなから多くの手助けをしてもらいました。その分、私も家族への感謝の気持ちを料理で示そうと思い、励む日々でした。
新たな命や大切な仲間の存在が心の支えに
編集部
家族の助けが大きかったことがわかります。治療中に心の支えになったものは何でしょうか。
アプリコットさん
乳がんの手術直後に娘の妊娠がわかり、私の治療期間と娘の妊娠期間が重なったことです。無事に出産できるように娘を支えることと、孫の誕生が何よりも心の支えになりました。また、同じように病気と闘う患者仲間も私の心を救ってくれました。例えば、それまでの友人は傘を差し出してくれる人でしたが、患者仲間は一緒に打たれてくれる人だったことがそのときは心強く、印象に残っています。
編集部
アプリコットさんは乳がん手術や抗がん剤治療以降も様々な病気を体験されてきたそうですね。
アプリコットさん
乳がんだけでなく、子宮体がんやアイザックス症候群、突発性難聴、ぶどう膜炎など色々な病気を経験しました。今でも治療中のものはいくつもありますが、わりと元気に暮らせているので幸せです。
編集部
たくさんの病気を経験しても今も元気なのは素晴らしいです。健康のために日々取り組んでいることはありますか?
アプリコットさん
私の場合、基礎疾患を抱えていることに加えて、年齢的にもこれから色々な病気との付き合いになりそうです。だからこそ、ちょっとした異変に気付くことと、すぐ対応することを心がけています。週2~3日の事務のパートでお小遣いを貯めて、糖尿病の夫の食事に気を付けて料理をして、体力作りのために3000歩のウォーキングをして暮らしています。やることがあると生きることに張り合いが出ます。何より、日常の幸せを大切にすることも健康の秘訣ではないでしょうか。
自分を労わり、乗り越えられると信じて闘ってほしい
編集部
もしも乳がんと判明する前の自分にアドバイスするなら何と伝えたいですか?
アプリコットさん
当時は義父母の病気入院も重なり、毎日別々の病院にも通院し、頑張りすぎていたと思います。家族はもちろん大事ですが、もっと自分の体も労わってあげるよう伝えたいです。
編集部
乳がんは若年層から中高年まで、幅広い女性にリスクのある疾患です。乳がんについて普段意識していない人にアプリコットさんが伝えたいことはありますか?
アプリコットさん
健康な細胞もがん細胞も、元々は自分の体の一部です。日々変化している細胞たちが、ずっと健康な細胞だと過信してはいけません。ちょっとしたきっかけでがん細胞になることがあります。ですから、常にがんは自分と背中合わせの状態だと知っておいてほしいです。
編集部
アプリコットさんがこれまでの体験を通して、医療従事者に伝えたいことは何でしょうか?
アプリコットさん
私がこうして元気に過ごせているのは医療スタッフの方々のおかげであり、常々医療スタッフには感謝しています。私たち患者はいざ病気になっても、病気に対する知識がないため、未熟で不安なことも多々あります。しかし、プロの方々のちょっとした声掛けや、不安な気持ちの話し相手になってくれることで、患者は心から救われます。これからも多くの人を病気だけでなく、心も一緒に救ってほしいです。
編集部
最後に読者の方へのメッセージをお願いします。
アプリコットさん
私の闘病の思い出として、ゆずの「栄光の架橋」の歌詞が今も胸に刻まれています。「誰にも見せない涙があった、人知れず流した涙があった」「いくつもの夜を越えて辿り着いた今がある」。闘病中の自分が生き続けることができるのか、不安で一人涙を流す日もありました。そういう日々を乗り越えて、歌詞の通り元気になって今があります。今、闘病中の方がいらしたら、きっと病を乗り越えて平穏な日々が来ると信じ、頑張ってほしいです。
編集部まとめ
アプリコットさんが乳がんを経験した2010年頃は、10人に1人が乳がんになる時代とされていました。しかし、2021年には全がん種の中で乳がんの罹患者が最も多くなり、9人に1人が乳がんになる時代となっています。年齢を問わず女性に多い乳がんは、常に発症のリスクを警戒すべき疾患といえるでしょう。日頃のセルフチェックを怠らず、異変の早期発見と医療機関への相談が命を守る最善と選択肢であることを知っておきましょう。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。