【アップデート】AGA治療の今 事実と異なる定説や推奨されない治療も明確に
AGA(男性型脱毛症)は多くの男性が悩んでいる問題です。最近では医療技術が進化したことにより、これまでは治療法がなかった症状でも改善が期待できるようになりました。AGA治療の“いま”について、東京メモリアルクリニックの栁澤先生に教えてもらいました。
監修医師:
栁澤 正之(東京メモリアルクリニック)
AGAとは?
編集部
AGAとはなんですか?
栁澤先生
医学的に、男性型脱毛症と呼ばれる症状のことをいいます。これは進行性であるため、治療をせずに放置するとどんどん脱毛が進むという特徴があります。
編集部
そのほか、AGAの特徴は?
栁澤先生
髪の毛が薄くなる部位が限定されているということです。髪の毛の生え際(いわゆるM字部分)とつむじが特徴的に薄くなり、側頭部と後頭部は髪の毛が残る、という傾向があります。
編集部
AGAの原因はなんですか?
栁澤先生
AGAの主な原因は男性ホルモンだと思われていますが、実際には男性ホルモンから作られる別の物質「DHT(ジヒドロテストステロン)」です。毛髪は一定のサイクルに沿って抜け落ち、また生えてくるという活動を繰り返しています。このサイクルを毛周期といいますが、これが健康的に保たれていれば、抜け落ちてもまた新しい髪の毛が生えてくるので薄毛になることはありません。しかし、男性ホルモンから作られるDHTという物質が毛乳頭細胞にある受容体と結びつくと、髪の毛の正常なサイクルが乱れてしまいます。これがAGAの原因です。
編集部
DHTが受容体と結びつくと、どうなるのですか?
栁澤先生
健康的な髪の毛は、だいたい2〜6年の周期で生え変わります。しかし、AGAにより、髪の毛の寿命が短くなってしまいます。また髪の毛が正しく成長せず、細く短くなってしまいます。それにより、どんどん薄毛が進行してしまうのです。
編集部
そのほかにもAGAの原因になることはありますか?
栁澤先生
遺伝を含め、体質がAGAの原因になることがあります。いずれにしてもDHTの感受性には個人差があり、DHTが効きやすいとAGAになりやすいことがわかっています。
AGAの治療法にはどのようなものがあるのか?
編集部
AGAは治療することができるのですか?
栁澤先生
はい。AGAは医療機関において治療をすることができます。AGAは進行性の脱毛症であるため、できるだけ早期に治療を開始した方が、治りが良いことがわかっています。
編集部
どのような治療法がありますか?
栁澤先生
まずはAGAの進行を抑制し、髪の毛を増やす治療法として内服薬があります。たとえば日本の厚生労働省やアメリカのFDA(医薬品管理局)にも認められている薬剤に、フィナステリドというものがあります。これはAGAの原因となるDHTが作られるのを抑制し、薄毛を改善する働きがあります。
編集部
フィナステリドは薄毛の進行を止めるだけでなく、薄毛を改善する効果もあるのですか?
栁澤先生
はい。進行を止めるだけでなく、太くしっかりとした髪の毛を増やし、薄毛を改善する効果が期待できます。
編集部
そのほかにはどのような治療薬がありますか?
栁澤先生
同じく、DHTの生成を抑制する薬にデュタステリドがあります。一般に、フィナステリドよりもデュタステリドの方が、効果の持続期間が長く、発毛効果も高いとされており、研究によりデュタステリドの方がフィナステリドの1.6倍効果が高いことがわかっています。しかしその分、薬価も高額であるため、予算を含めて検討する必要があります。
編集部
副作用として男性機能の低下を心配する方も多いのですが、実際はどうなのですか?
栁澤先生
患者さんでもそのように心配されている方も大勢いらっしゃいます。しかし、さまざまな研究が行われており、現在では「男性機能の低下は薬の影響ではない」と考えられています。男性機能の低下は、思い込みと老化によるものではないかと考えるのが定説です。
編集部
内服薬のほかには、どのような治療法がありますか?
栁澤先生
頭皮へ直接塗布する治療法もあります。たとえばミノキシジルは液状の塗り薬で、病院で処方される薬のほか、市販薬もあるのでなじみのある人も多いのではと思います。もともと高血圧の患者さんが血圧を下げるために使用していた薬ですが、臨床実験を行っているとき、多毛症の副作用が報告されたことにより、現在ではAGA治療にも用いられています。
AGA治療の注意点
編集部
そのほかにはどのような治療法がありますか?
栁澤先生
医療機関ではさまざまな治療法が行われています。しかし、日本皮膚科学会が作成している「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」では、治療別に推奨度が記載されていますが、そのなかで「推奨度A(強く勧める)」とされているのはフィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルの3つだけです。また、「推奨度B(行うよう勧める)」として植毛術とアデノシンの外用が記載されています。治療を行う上ではこうしたガイドラインに準拠したものかどうか、確認することが必要です。
編集部
ガイドラインで推奨されていないのに、治療が行われていることもあるのですか?
栁澤先生
はい、残念ながら非常に多く見受けられます。ガイドラインでは推奨度をAからDまでのランクで示していますが、推奨度c2の治療法は行わない方がよい、推奨度Dは行うべきではない、と学会が定めるものです。こうした治療を行う医療機関も少なくないため、治療を開始する際には、その治療法が安全なものであるかどうか、患者さん自身、ガイドラインに照らし合わせて確認することが大切です。
編集部
そのほか、AGA治療で気をつけることはありますか?
栁澤先生
最近ではオンライン診療も普及しており、非常に便利になっています。しかしその一方で、医師による説明が不足していたり、あるいは無診療で薬を処方していたりするケースも少なくありません。医師による説明が不足したまま不適切な治療が行われていることは、厚生労働省も問題視しています。
編集部
それはとても怖いことですね。健康被害も出ているのですか?
栁澤先生
場合によってはそのようなケースもあるでしょうし、不適切な治療を行っても効果が期待できないので、治療期間が長引けば長引くほど薄毛がどんどん進行してしまうというケースもあります。そもそもAGAの治療は年単位の時間をかけて、ようやく効果が実感できるというもの。治療を継続する上では、医師と患者の信頼関係が重要なのです。そのためにも、患者に治療法のメリットやデメリットについてしっかり説明し、常に二人三脚で治療に取り組んでくれる医師を探すことが大切です。
編集部
医師選びのポイントは?
栁澤先生
AGAに限った話ではないですが、医療の大前提として患者さんと医師の信頼関係が非常に大事です。信頼できる医師のわかりやすい見分け方としては、よく話を聞いてくれる、丁寧にゆっくりわかりやすく説明してくれる、というのがポイントだと思います。「説明は医師ではなくカウンセラーが行う」「医師の診察が無い、またはあっても挨拶程度」というのは好ましくなく、厚生労働省でも大問題になっている無診療治療という、明確な医師法違反にあたります。AGA治療は命に関わらないとはいえ、れっきとした医療行為です。短い診察時間ですがしっかりコミュニケーションを取り、信頼できる医師から適切な医療を受けることをお勧めします。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
栁澤先生
AGAや薄毛の情報はインターネットでたくさん公開されていますが、残念なことにそうした情報は玉石混交であり、間違った情報が多く氾濫しています。正しい情報に行き着くのは困難であるため、正確な知識を得たいと思ったら医師に相談することを強くおすすめします。ただし、医療機関によってはガイドラインに準拠せず、推奨されていない治療を行っているところもあるので、患者さん自身もガイドラインに目を通し、治療法についてある程度、知識を得ることが大切だと思います。
編集部まとめ
AGAは多くの人が悩む問題。しかし適切な治療を行えば改善が期待できます。そのためにも、信頼できる医師を見つけ、根気良く治療を続けることが必要。まずはガイドラインを確認し、治療法についての基礎知識を得ることから始めてみましょう。
医院情報
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診療科目 | 形成外科、美容外科 |