【最終手段】膝の痛みで手術が必要な人とはどんな人? 重症度別に治療法を医師が解説
変形性膝関節症は、治療をせずに放置するとどんどん症状が進行していきます。症状が進むにつれ、治療法も変わっていき、最終的には手術が必要になることも。重症度別の治療法について、増本整形外科クリニックの増本先生に教えてもらいました。
監修医師:
増本 項(増本整形外科クリニック)
変形性膝関節症の症状はどのように進むのか?
編集部
変形性膝関節症を発症すると、どのような症状が見られますか?
増本先生
初期で見られる代表的な症状は、起き上がるときや歩き出すときなど、動き始めに膝のこわばりや痛みを感じることです。動き始めてしばらくすると、それらの症状は消えるという特徴があります。
編集部
その後、症状はどのように進みますか?
増本先生
痛みが慢性化するようになり、日常生活に影響が及び始めます。特に、階段を上り下りしたり、正座をしたり、立ち上がったりするときに膝が痛むことが多くなります。また、膝が腫れたり、熱を持ったりすることもありますし、人によっては膝に水が溜まったりすることもあります。
編集部
なぜ、膝に水が溜まるのですか?
増本先生
変形性膝関節症になると関節軟骨がすり減り、剥がれ落ちた破片が炎症を惹起する炎症性タンパク質(サイトカイン)を作ります。それによって関節を覆っている関節包の内側(滑膜)に炎症が起こります。すると関節液が多量に分泌されることになり、膝に水が溜まってしまうのです。このように、膝に水が溜まることを膝関節水腫といいます。
編集部
末期になると、どのような症状が見られるのですか?
増本先生
安静にしていても痛みが取れず、夜も痛みのために眠れないことがあります。また、膝の変形も目立ち、膝をまっすぐ伸ばすことができなくなるため、歩行が困難になります。そのほか、しゃがんだり、階段を上り下りしたりする動作もますます難しくなり、日常生活に大きな影響を及ぼします。
重症度はどのようにして決定するのか?
編集部
変形性膝関節症の重症度は、どのようにして決まるのですか?
増本先生
自覚症状で判別する方法のほか、レントゲン写真によって重症度を判断する方法もあります。これはKellgren-Lawrence(ケルグレンローレンス/KL)分類と呼ばれ、重症度別にグレード0~4に分類します。
編集部
どのようにして分類するのですか?
増本先生
狭義では、大腿骨と脛骨(脛の骨)が接している部分を膝関節といいますが、変形性膝関節症を発症すると、この関節においてクッションの役割を果たしている軟骨がすり減ってきます。さらに症状が進むと骨と骨が直接ぶつかり合うようになり、骨の変形も見られます。KL分類ではレントゲン検査を行うことで、膝関節の様子を観察します。それにより、重症度を決定するのです。
編集部
各ステージについて簡単に教えてください。
増本先生
まずグレード0は、大腿骨と脛骨の関節の隙間が十分に保たれている状態。いわゆる、正常な状態です。しかし、グレード1になると骨棘(こっきょく)といって、骨の端が棘(とげ)状になっている様子が観察されたり、関節軟骨の下にある骨が硬くなっている様子が見られたりします。これは、変形性膝関節症と診断される状態です。
編集部
進行するとどうなるのですか?
増本先生
グレード2では関節の隙間が狭くなりますが、正常の1/2以上は残っている状態。グレード3では関節の隙間がさらに狭くなり、正常の1/2以下になります。さらにグレード4になると関節の隙間がなくなり、大腿骨と脛骨が直接ぶつかり合うようになって、大腿骨が内側に傾くなど、骨の変形が見られるようになります。医学的には、グレード1以降を変形性膝関節症と診断します。
重症度別の治療法
編集部
KL分類のステージと、自覚症状で診察する「初期」「中期」「末期」は対応しているのですか?
増本先生
一般に、グレード1~2が初期、3が進行期、4が末期と対応しているとされています。しかし自覚症状の出現には個人差がありますから、KL分類のステージと自覚症状が必ずしも一致するわけではありません。KL分類はあくまでもレントゲン画像上でのステージ分類であり、臨床上、重症度を分類するものではないことに注意が必要です。
編集部
そうなると、どのようにして重症度を見分けるのですか?
増本先生
画像診断によるKL分類も参考の一つにしますが、それだけでなくWOMACといって、各症状のスコアリングも重要視します。WOMACとは痛みや機能障害などの臨床症状を患者さん自身が点数化したものです。治療法を決めるときにはKL分類やWOMACの結果などを掛け合わせ、総合的に判断することが必要です。
編集部
重症度別の治療法について教えてください。
増本先生
まず初期(グレード1)では保存療法を行います。消炎鎮痛薬やヒアルロン酸注射で痛みなどの症状を軽減するほか、運動療法を行い、膝関節の可動域を維持します。また、PRP療法やAPS療法などの再生医療も、膝軟骨が完全にすり減る前の初期や中期(グレード2・3)に行うことが推奨されています。変形が進行していないうちにPRP療法やAPS療法を行うことで炎症の改善が期待でき、症状が軽減されたり、膝に水が溜まりにくくなったりします。
編集部
保存療法で効果が期待できない場合は、どのような治療を行うのですか?
増本先生
一般的には手術を検討します。手術には主に骨切り術と人工関節置換術があり、膝関節の状態や症状、患者さんの年齢などを考慮して決定します。
編集部
それぞれどのような手術ですか?
増本先生
骨切り術とは軟骨がすり減らずに残っている部分に体重の負荷がかかるよう、骨の一部分を切ってO脚やX脚の変形を矯正する手術のことです。人工関節置換術とは、傷んだ関節を人工のインプラントに置換する手術のことです。どちらにもメリット・デメリットはありますが、一般的には年齢が比較的若くて骨の変形が少ない場合には骨切り術、そうでない場合には人工関節置換術を行います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
増本先生
手術はあくまでも最終手段。一度手術をしたら後戻りができないということを覚えておいていただきたいと思います。「痛みをなんとかしたい」といってすぐ手術に飛びつくのではなく、まずはいろいろな保存療法にチャレンジすることが重要です。2023年版のガイドラインでは、推奨度1(強く勧める)とされるものは運動療法、消炎鎮痛薬、日常的な教育プログラムの3つです。これらのなかでも特に大事なのは理学療法士による運動指導。理学療法士によるしっかりとしたマンツーマンの運動指導は、変形性膝関節症の治療や進行予防においてとても重要です。よく「リハビリをやっています」と言っても、実は患部に電気を当てているだけという方も見受けられます。変形性膝関節症の治療を受ける際には、必ず質の良い理学療法士が在籍している医療機関で、マンツーマンの運動指導が受けられるかどうかを確認することをおすすめします。
編集部まとめ
変形性膝関節症の治療法にはさまざまなものがありますが、重要なのは運動指導。膝周辺の筋肉をつけて膝にかかる負担を軽減するほか、膝の可動域を回復させる働きがあります。まずは自力で症状の改善を目指し、どうしてもそれでは回復が期待できない場合には手術を検討してみると良いのではないでしょうか。
医院情報
所在地 | 〒167-0051 東京都杉並区荻窪5-30-17 |
アクセス | JR「荻窪」駅南口より徒歩1分 |
診療科目 | 整形外科、スポーツ整形外科 |