【闘病】「乳がん」 2度目の手術は取り残しだったのか? 全摘を希望していたのに…
毎年乳がん検診を行っていた猪狩恵里さん(仮称)は、乳がんで2度の手術とその後の抗がん剤治療を経験しました。治療においては医療従事者との意見の食い違いから、様々な葛藤を感じていたそうです。猪狩さんのお話から、乳がん治療における患者の苦悩や向き合い方についての理解を深める機会にしてください。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年6月取材。
体験者プロフィール:
猪狩 恵里(仮称)
50代女性。毎年恒例の乳がん検診を受けたところ、再検査通知が届いた。精密検査で乳がんと判明し、治療を開始した。2度のがん手術と抗がん剤治療を経て、現在は3か月に1度の通院で経過観察を続けている。時短勤務で働きながら、自身の体験をより多くの人に知ってもらうために啓発活動を行っている。
記事監修医師:
寺田 満雄(名古屋市立大学病院乳腺外科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
病院での対応が不信感を強めることに
編集部
はじめに猪狩さんの闘病体験を通して、最も伝えたいことは何ですか?
猪狩さん
病気に罹患した人にしかわからない苦労、苦悩があるということです。だからこそ、この記事を読んだ方には、ぜひ周囲の方へ定期的な検診を促し、万が一の病気がないか、あるとしても早期発見・治療をしてほしいです。ほとんどの人が「その方がいい」ことはわかっていても、実践はできていません。中には検診にも長年行っていないという人もいます。検診は健康を確認する場であるということを理解して、きちんと検診に通う習慣を作ってほしいです。
編集部
では、まず病気が判明した経緯を教えていただけますか?
猪狩さん
私は毎年乳がん検診を受けており、判明したのも検診がきっかけでした。検診で「左胸に異常あり」とのことで、再度検査を行いました。すると、今度は左胸には異常なしで、「右胸がおかしい」と言われ、細胞診を受けた結果「悪性腫瘍」と判明しました。
編集部
そこから治療はどうされたのですか?
猪狩さん
医師からは「部分切除で大丈夫」と言われたのですが、私は既に子育ても半分程度終わっていたため、乳房の全摘術を希望しました。たとえ、がん細胞がミクロ程度の小さなものでも、不安を残したくなかったからです。しかし、若い医師からは「予後も考えて、部分切除で大丈夫」と念を押され、承諾しました。
編集部
希望通りの治療方針ではなかったのですね。
猪狩さん
念押しもされたので、その先生が執刀医なのだろうと思っていたところ、違っていました。予定通り入院して検査を終え、手術前日にまた別の先生が執刀医だと知らされました。ベテランの医師から指導を受けながらという形だったため、自分の病気のことに加え、手術にも大きな不安を感じました。
編集部
たしかに、不安になる人がいるのも理解はできます。
猪狩さん
結局、手術自体は無事に終わったのですが、切除部分の断端(だんたん)からがん細胞が見つかりました。私は初めから全摘出を望んでいたので、その結果を聞いたときは悔しい気持ちと絶望でしかありませんでした。当時、2か月後には子どもの大学受験も控えており、私も同伴する予定でした。「また手術? 受験が終わってからにできないの?」と思いましたが、早く手術したほうがいいと勧められました。
編集部
その後、治療はどうなったのでしょうか?
猪狩さん
医師に大きな不満もありましたが、再手術を決めました。手術後は働きながら抗がん剤を4回、分子標的薬17回の投与も行いました。しかし、どうしても医師への不満は強く、病院には意見書も提出しました。
とにかくストレスを減らすことが病と闘っていく上で大切
編集部
治療中に猪狩さんが大切だと感じたこと、意識していたことはどんなことでしょうか?
猪狩さん
病気の発症直後は誰しも感じると思いますが、何気ない1日が大切ということです。1日は何もしなくても過ぎていきます。そうした1日1日を生きていることに感謝し、自分の周囲にいる人々に感謝し、自分らしく生きていくことが大切だと思います。また、現実では簡単なことではありませんが、やりたいことをやり、ストレスを回避するよう意識していました。私自身も自覚はあるのですが、ストレスを感じやすい性格で、ストレスが治療に悪影響を与える可能性も考えられると聞いたことがあったからです。
編集部
なるほど。いろいろと溜め込まないようにされていたのですね。
猪狩さん
もともと神経質なタイプです。ですから細かなところにもストレスを感じやすく、闘病中はイライラすることも多かったと思います。
編集部
闘病の体験を経て、病気になる前の自分にアドバイスするなら何と伝えますか?
猪狩さん
「年1回の検診を今まで通り続けること」です。早期発見できれば完治の可能性は十分にあります。
編集部
現在の治療状況や生活の様子も教えていただけますか?
猪狩さん
現在は3か月に1度の通院を続けています。年齢的に更年期ということもあり、元気な日々を過ごせてはいません。しかし、職場の理解もあって時短勤務を受け入れてくれているので、何とか日々を送れています。
身近な人に自分の病気を伝え、理解してもらうことで助けてもらいやすくなる
編集部
猪狩さんが病気と闘っていくうえで、大事だと思うことは何でしょうか?
猪狩さん
私の罹患した乳がんは、若い方でも発症する可能性は十分にあります。しかし、この病気は実際になった人にしか苦しみや大変さが分からず、健康な人にとっては理解しにくいものだと思います。だからこそ、すべての人に理解してもらおうとするのはむずかしいとしても、身近な人に自分の体験を語っていくことが大切です。現に私と同じ病気に罹患した友達がおり、相談やアドバイスをしたこともあり、私の経験が役に立ったと感じています。
編集部
医療従事者の方に伝えたいこと、期待することはありますか?
猪狩さん
医療とは大変な仕事だと思います。昼夜を問わず働く医師に対して、食事や睡眠の時間も削って患者のために働いており、入院中の私も気をかけるほどで、尊敬と感謝の気持ちしかありませんでした。ただ、こちらも生身の人間で、精神的に弱っています。患者に向けての言葉遣い1つとっても、気を付けていただけると救われる人も多いはずです。また、看護師の方も待合室で、大声で病状を言うのは避けてほしいです。周りへの配慮、対等な立場に立ってくれる医師・看護師のほうが、治療にも前向きに臨めます。
編集部
最後に読者へのメッセージをお願いできますか?
猪狩さん
私自身も別の人から言われた言葉ですが、「自分の体は自分だけのものです。今日中にあなた1人で必ずやらなければならない仕事なんて、この世にはないからね」ということは意識してほしいです。「自分の代わりはいくらでもいる」と考え、後悔しないためにも検診で今の自分を知ってください。「検診に行くと、レントゲンやCTで被ばくするから病気になる」とSNSで書き込んでいる人も見ましたが、私はそうは思いません。検査での被ばく線量なんてごくわずかです。どうか恐れず、毎年検診を受けて早期発見してほしいです。
編集部まとめ
乳がんを発症する大多数は女性で、40~60代に多いとされています。しかし、30代以下の若い女性にも発症しやすく、年齢を問わず乳がん検診を受けることが大切です。「乳がんだと診断されるのが怖い」「マンモグラフィは痛いから嫌だ」と思い、検診を受けたがらない方もいます。猪狩さんの言葉通り、自分の体を守れるのは自分だけです。早期発見・早期治療を行い、健やかな日々を過ごしましょう。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。