がん患者の家族が知っておくべき“心構え”とは? 診断時の受け止め方や注意点を医師が伝授
家族ががんと診断されると、誰もが大きなショックを受け、不安や戸惑いを感じるでしょう。このような状況に直面したとき、どのような心構えで、どのように行動したらいいのかは知っておきたいところです。支える側もつらくなってしまったら、どうしたらいいのでしょうか。今回は、がん患者の家族が大切な人を守るために必要なことについて、「こころサポートクリニック」の平山先生に、解説していただきました。
監修医師:
平山 貴敏(こころサポートクリニック)
家族ががんと診断されたときの対処法・受け止め方
編集部
家族ががんと診断されて、現実を受け入れられません……。
平山先生
とても大きなショックを受けると思います。まずは冷静に状況を把握し、主治医としっかりと話し合って診断内容や治療方針を理解するよう努めましょう。がんと言ってもその病態は様々で、適切に治療することで完治が期待できるものも多くあります。パニックにならずに、まずは冷静に説明を聞きましょう。とはいえ、やはり冷静に説明を聞くのは難しいこともあるので、複数名で聞いたり、メモを取ったりすることも有効です。
編集部
どのように患者さんを支えたらいいのでしょうか?
平山先生
まずは患者さんの気持ちに寄り添い、話をよく聞いてあげることが大切です。その上で無理に励ますのでもなく、変な特別扱いもせず、なるべくこれまで通りと変わらない態度でコミュニケーションを取ることを心がけましょう。特別扱いすると、かえって患者さんの孤立感を深めてしまう場合があります。患者さんができること・したいことを無理のない範囲で尊重し、どんなサポートが必要か、本人に確認しながら進めてください。「本人は何も言ってくれないし、どう関わっていいかわからない」ということもあるかもしれませんが、ご家族がそばにいるだけでも患者さんは心強いと思います。
編集部
がんになった家族を支えるにあたって、注意すべき点はありますか?
平山先生
大事なのは、患者さん本人を含めてご家族でコミュニケーションを密に取ること、そして不明点があれば主治医などに相談することです。どう接していいのかわからなくなるあまり、患者さんとご家族のコミュニケーションが希薄になるケースもありがちです。そうなるとお互いにぎくしゃくしてしまいます。だからこそ、これまで以上に話し合う時間をたくさん取ってほしいと思います。
がんになった家族のサポート、頼れる人はいる?
編集部
支える側も不安になってしまいます。
平山先生
そうですね。「家族は第2の患者」という言葉もあるくらい、大切なご家族の病気に伴う心理的苦痛は、患者さん本人と同じくらいか、それ以上と言われています。ご家族は「一番つらいのは本人だから」と自分自身の思いや感情を心の中にしまい込みがちなため、ご家族も心身ともに大きなストレスを抱えやすくなり、心身に不調をきたしてしまうことも少なくありません。
編集部
そんなときは、どのように対処したらいいですか?
平山先生
がん患者さんのご家族を対象にした「家族ケア外来」や「家族相談」といった専門機関に相談することをおすすめします。気持ちの整理をお手伝いしたり、困りごとに対して一緒に解決策を考えたりすることで、つらさを和らげて患者さんに寄り添いながら自分らしい日々を過ごせるようサポートしてくれます。
編集部
専門機関があるのですね。
平山先生
「がん治療で家族が大変な時期に、自分が病院に行くなんて」「自分のことは後回しでいい」と、自分自身をケアすることに抵抗を感じたり、後ろめたい気持ちになったりする人もいるかもしれません。しかし、患者さん本人を継続的にサポートするためにも、ご家族自身の心の状態をケアすることは大切です。ご家族それぞれが、自分をケアしてより良い状態でいることが、患者さん自身のケアにもつながります。
編集部
具体的に、どのようなことをするのですか?
平山先生
まずは、心のつらさや心配事、患者さん本人には相談しにくいことなどを伺い、それぞれの希望に沿った方針を決めていきます。治療方法としては、主にカウンセリングと薬物療法があります。特に看病や通院の付き添いなどで、疲労や睡眠不足が続くと、心身に様々な不調が生じやすくなるので、そうした場合には適切な薬を処方してサポートしていきます。
サポートする側の心にも気遣いを
編集部
患者さんをサポートする上で、自分自身に対して気をつけることはありますか?
平山先生
患者さんのことを大切に思う気持ちと同じように、ご自身のことも大切にしてほしいと思います。患者さんをサポートするためには、ご自身の心身が満たされていることが重要です。患者さんをサポートしている間もご自身がリラックスしたり楽しんだり、休息できる時間を持つことを心がけてみましょう。
編集部
それでもつらいときは、どうしたらいいでしょうか?
平山先生
2つの対処法があります。1つは「人に話す」のが大事です。専門用語で「カタルシス効果」と言うのですが、専門家でなくても、身近な知人などにご自身の思いを言葉で外に出すことによって、不安やつらさなどを軽減することができます。もう1つは、「自分のやりがいや生きがいにつながる行動をする」ということです。ご家族をサポートするために、仕事や趣味などを中断してしまう人もいますが、そうすると却ってつらさが増してしまうこともあります。ぜひ仕事や趣味などは続けていただきたいと思います。繰り返しになりますが、ご自身が楽しんだりリラックスしたりして休息することは、最終的に患者さんのためになります。決して後ろめたい気持ちになる必要はありません。
編集部
どのくらい気分の落ち込みが続いたら受診すべきですか?
平山先生
気分の落ち込みや不眠など心身の不調が2週間以上続いている場合は、一度受診することをおすすめします。ただし、明らかに重度な不調が急に出た場合や、生活に支障が出ている場合は、2週間未満でも早めに受診しましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
平山先生
ご家族が病気になると、つい自分自身をないがしろにしてしまいがちですが、ご自身が身体的・精神的につぶれてしまっては本末転倒です。心身の健康を保つためにも、ぜひご自身の楽しみややりがい、生きがいを大切にしてください。つらくなってしまったときは、家族ケア外来や家族相談といった専門機関もあるので、1人で抱え込まずにぜひ活用してみてください。
編集部まとめ
家族ががんと診断されたときのサポートなどについて解説していただきました。がんは患者本人だけでなく、その家族にも大きな影響を与えます。家族は第2の患者とも言われており、患者さん本人と同じくらいか、それ以上の精神的苦痛を抱えてしまうのだそうです。継続して患者さんをケアするためにも、そうした感情を抑え込まず、必要なときには周囲に頼ることが大切です。身近な人に話すのも大事ですが、必要に応じて家族ケア外来や家族相談といった専門機関も上手に活用してみましょう。
医院情報
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診療科目 | 心療内科、精神科、精神腫瘍科 |