「糖尿病予備軍」のまま放置するリスクはご存じですか? 対処法や診断基準も医師が解説!
健康診断などで「糖尿病予備軍です」と指摘されたら、誰しもドキッとするでしょう。病気を進行させないためには今すぐ手を打つ必要がありますが、一体何をすべきなのでしょうか。「レイクタウン内科大宮駅前院」の藤本先生に解説していただきました。
監修医師:
藤本 まどか(レイクタウン内科大宮駅前院)
糖尿病予備軍とは?
編集部
まず、糖尿病予備軍について教えてください。
藤本先生
高血糖を指摘されているものの糖尿病と診断されるに至らない糖尿病の手前の状態で、正式には「境界型糖尿病」「耐糖能障害」と言います。「糖尿病の気がある」と説明されることもあります。
編集部
具体的に、検査でどのような数値が出たら糖尿病予備軍にあたるのですか?
藤本先生
- 糖尿病型血糖値(空腹時126mg/dL以上、随時・糖負荷試験2時間値200mg/dL以上)を2回以上確認
- 糖尿病型血糖値及びHbA1c6.5%以上を確認
- 典型的な糖尿病症状又は糖尿病性網膜症があり、糖尿病型血糖値を認める
編集部
糖尿病にもタイプがあると聞きました。
藤本先生
糖尿病には「1型糖尿病」「2型糖尿病」「その他の糖尿病(遺伝性、薬剤性、膵性など)」があります。1型糖尿病は、自己免疫により膵β細胞が壊れてしまい、インスリン分泌がなくなってしまうタイプで、インスリン注射が必要となります。突然、高血糖をきたして重篤な症状で発症するのが一般的ですが、最初は2型糖尿病と同じような経過を辿り、徐々にインスリン分泌が低下していく「緩徐進行1型糖尿病」というタイプもあります。
編集部
2型糖尿病とはなんですか?
藤本先生
遺伝的要因(体質)に加齢変化や不適切な食生活、運動不足、肥満、ストレスなどが加わって発症します。2型糖尿病は、日本人の糖尿病のほとんどを占めています。一般的に、2型糖尿病や緩徐進行1型糖尿病は、突然高血糖状態に陥るのではなく、糖尿病予備軍を経て発症します。
糖尿病予備軍の診断基準
編集部
糖尿病予備軍は、どのような基準で診断されるのですか?
藤本先生
糖尿病診断のための検査として、空腹時血糖値、随時血糖値、HbA1c、75gブドウ糖負荷試験があります。
編集部
それぞれ説明をお願いします。
藤本先生
まず空腹時血糖値は、理想値100mg/dL未満、正常値110mg/dL未満(100~109は正常高値)、糖尿病型126mg/dL以上(110~125は境界型)です。
編集部
随時血糖値は?
藤本先生
食事と採血時間との時間関係を問わないで測定した血糖値のことを随時血糖値と言います。随時血糖は、200mg/dL以上で糖尿病型と判断されます。
編集部
HbA1cとは?
藤本先生
HbA1cは、赤血球に含まれる赤い色素「Hb(ヘモグロビン)」がブドウ糖の影響を受けて変性したものの割合を示す数値です。ただし、Hb異常や貧血などがあると正確に測れないことがあるため、この検査のみで糖尿病の診断はおこなわないことになっています。HbA1cは直近1~2カ月の血糖の平均レベルを示すため全体的な状況が把握でき、糖尿病治療において重視されている数値です。理想値5.5%以下、正常値6.2%以下(5.6~6.2は正常高値)、糖尿病型6.5%以上(6.3~6.4%は境界型)です。
編集部
75gブドウ糖負荷試験についても教えてください。
藤本先生
空腹状態でブドウ糖の入ったサイダーのような検査薬を飲んでいただき、内服前、30分後、60分後、必要に応じて90分後、それから120分後の血糖値やインスリンを測定するものです。正常型なのか、境界型なのか、糖尿病型なのかを診断できるだけでなく、インスリン分泌の特徴もわかるので、どこを重点的に気をつければ今後の糖尿病発症や悪化を防ぎやすくなるか知ることができます。
編集部
糖尿病予備軍になったら、必ず糖尿病になるのですか?
藤本先生
必ずというわけではありませんが、糖尿病発症リスクは高いため、最低でも年1回の健康診断を受けてください。特に糖負荷試験で経過中200mg/dLを超える数値が出た人、糖尿病診断基準に近い人、HbA1cが6.5%以上の人は、3カ月ごとに医療機関で採血を受けましょう。
糖尿病予備軍と診断されたら何をすべき?
編集部
糖尿病予備軍と診断されたら、一体何をしたらいいのでしょうか?
藤本先生
糖尿病の食事療法や運動療法は、健康長寿の秘訣そのものでもあります。これを機に糖尿病に準じた食事や運動習慣に切り替えていきましょう。
編集部
具体的に、何をしたらいいのでしょうか?
藤本先生
食事は、適正なカロリーを3食に分けて食べることが基本です。1食がランチョンマットにすっきり載せられる程度で、主食・主菜・副菜1~2品(+汁物・果物)が目安です。「腹八分」を意識しましょう。
編集部
運動療法では何をしたらいいのでしょうか?
藤本先生
運動習慣をつけることも大事なのですが、大げさに考える必要はありません。ジムに行かなくても、自宅でスクワットなどをおこなうことで筋トレができます。また、外出時は「車より公共交通機関」「エスカレーターより階段」など、少しでも体を動かす選択肢を身につけていきましょう。
編集部
まずは食事と運動ですね。
藤本先生
はい。特に気をつけたいのは、糖尿病の発症と密接に関わっている「肥満」です。体重を3~5%落とすだけで、体内の代謝状況は見違えるほど改善します。肥満も一緒に指摘されたら体重を落とすことを目安に、食事と運動の改善に取り組んでみてください。
編集部
食事と運動以外で気をつけることはありますか?
藤本先生
ストレスや睡眠不足も大敵です。睡眠を重要なスケジュールとして確保したうえで、ほかの予定を立てるようにしましょう。また、糖尿病予備軍の時期にも糖尿病合併症は静かに始まっていることがわかっています。喫煙は合併症の進行を促進するため、喫煙者はこれを機にぜひ禁煙に取り組んでください。
編集部
生活習慣を改善することが必要なのですね。
藤本先生
はい。世界的におこなわれた調査で「食事や運動習慣を見直したり、減量をしたりした人は、しなかった人と比べて2型糖尿病の発症リスクが29~67%下がった」という報告もあります。もし糖尿病予備軍と診断されたら、すぐに生活を見直しましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
藤本先生
糖尿病予備軍と指摘されたら、ショックを受ける人は多いと思います。しかし、今その結果を知ったことはラッキーと捉えましょう。糖尿病合併症はまだ始まったばかりで自覚症状はなく、元気な状況なので、すぐに食事・運動などの生活習慣の改善を心がければ、糖尿病発症予防のみならず、脂質異常症や高血圧症、脂肪肝などのリスクも軽減できます。「元気で長生きするための生活にシフトするチャンスをもらった」と考えて取り組んでみてください。1人で抱え込まず、気軽に糖尿病内科までご相談ください。
編集部まとめ
糖尿病の予備軍と診断されたら、誰でも落ち込むものです。しかし、生活を立て直すチャンスと捉え、主体的に生活習慣の改善に取り組むことが大事な心構えとのことでした。こうした意識を高く持つことが、糖尿病への進行を防いでくれるでしょう。
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