【医師解説】救急車を「呼ぶ・呼ばない」の判断はどうすればいい? 他の重傷者に迷惑?
緊急時には救急車の利用が必要な場合もありますが、よほどの事態でない限り、すぐに救急車を呼ぶのはためらってしまうのではないでしょうか? 救急車の必要性を見極める方法はあるのでしょうか? 救急車の必要性の判断方法などについて、高輪みつるクリニックの髙橋充先生に解説してもらいました。
監修医師:
髙橋 充(高輪みつるクリニック)
そもそも「救急科」とは? 専門医が解説
編集部
「救急科」について教えてください。
髙橋先生
救急科とは主に急な発熱や痛み、怪我などのいわゆる「急性疾患」の対応と全身管理を専門とする診療科です。ほかにも心肺停止や中毒、多発外傷、熱傷などの重症な病態も含まれます。「救急外来」「救急医療」などの言葉もよく耳にすると思いますが、これらも同様に「急性疾患」を対象とした医療や専門のことを指します。
編集部
どんな症状が「急性疾患」なのでしょうか?
髙橋先生
基本的には突然発症、あるいは速い経過で症状が悪くなっていく症状であれば救急科で対応します。軽症から重症まで、内科や外科といった診療科にとらわれず、幅広く全身の症状に対応することができます。
編集部
例えばどんなものがありますか?
髙橋先生
いわゆる「心臓発作」などと呼ばれている急性の心筋梗塞や重度の狭心症などは、速やかに「救急」の対応が必要になります。このような場合は、心臓の「冠状動脈」という血管がどこかで細くなったり詰まったりすることで、締め付けられるような胸の痛みが生じています。
編集部
ほかにはどんなケースがありますか?
髙橋先生
あとは、「脳卒中」ですね。脳の血管が詰まったり破れたりすることによって脳が障害を受ける疾患は、発症してから医療機関に到着するまでの時間、治療を開始するまでの時間が、その後の生命予後や後遺症を大きく左右します。「突然意識がなくなる」「今まで経験したことのないような突然の強い頭痛」「どちらかの手足が動かなくなる」「言葉が出なくなる」などの症状が出た場合は、早急に救急科や救急外来にかかりましょう。
救急車はどんな時に呼んだら良い?
編集部
家族が運転する車やタクシーで行っても良いのでしょうか?
髙橋先生
救急車でないと救急外来にかかれないということは基本的にありません。かかりつけの医療機関があって、そこで救急外来も対応しているようであれば、自家用車やタクシーで行っても良いと思います。医療機関が比較的近ければ、救急車の到着を待つより早く到着できるでしょう。
編集部
そうなのですね。
髙橋先生
しかし、救急車を呼ぶメリットとして、119番に電話をした時点で、通信指令員が救急車の到着前に応急手当ての必要があるかを判断し、必要に応じて適切な手当の方法を指導してくれる場合もあります。救急車内である程度の応急処置や検査もできます。ご家族や付き添いの方がどうしていいかわからなかったり、動揺していたりする場合は、無理をせず救急車を呼びましょう。
編集部
それでも「救急車を呼ぶべきか」の判断は難しいですよね。
髙橋先生
そうですよね。そんなケースのために、消防庁では「救急安心センター事業」を行っています。救急車を呼んだ方がいいかの判断に迷った時、専門家からアドバイスを受けることができる電話相談窓口で、7119番に電話すると、医師、看護師、相談員から「救急車を呼んだ方がいいか」「ご家族や付き添いの方とともに急いで病院を受診した方がいいか」などのアドバイスをもらえます。
編集部
なるほど。ほかにも何か見極め方はありますか?
髙橋先生
「救急」という言葉に則って言えば、突発的になんらかの症状が出現した場合は救急車を呼ぶことを考えましょう。先に述べた「心臓発作」や「脳卒中」も突然起こることが特徴です。「○○の番組を見ていたときに胸が痛くなった」「○時○分に突然しゃべれなくなった」といった具合に、数分以内に急激に症状が最大級に到達する場合は、救急車を呼ぶべきと言えるでしょう。子どもや高齢者はとくにですが、普段と様子がおかしく反応が乏しい場合や食事や睡眠などができないくらいに苦しそうだったり、痛がったりしている場合も緊急性が高い可能性があります。
「この程度で救急外来?」医師やほかの重症者に迷惑がかからない?
編集部
「こんなことで救急外来?」と、病院の人に迷惑がかからないか心配です。
髙橋先生
患者さんが、自分の症状をどれほど重症なのか判断することは難しいと思います。いわゆる「風邪(ウイルス性上気道炎)」も、医師からすれば正直軽症の病態と言えるかもしれません。しかし、実際に自分や自分の子どもが風邪をひいて高熱を出して辛い時、手元に解熱剤などの薬がない場合などは救急外来を受診したくなることもあると思いますし、実際に、「この程度で受診したらダメだ」と様子を見ることで、症状が悪化し、重症となって取り返しのつかない状態で搬送されてしまう人もいます。同じ症状や病態に対しても、医学知識のある医師と医学知識がほとんどない患者さんの持つ感じ方には差が生まれます。そのような差を埋めて、患者さんに安心と安全を提供するのも救急外来の役割なのです。
編集部
「ほかの重症者の対応が遅くなってしまったら……」と思うと不安になります。
髙橋先生
多くの救急外来には「トリアージ」と呼ばれる業務があります。もともとは災害発生時などに多数の傷病者がいた場合、疾患の緊急度や重症度に応じて治療の優先度を決定することですが、非災害時でも多くの救急外来でそういったことは行われており、決して先着順ではありません。自分や目の前の人が救急車を呼んだ方が良さそうな状況である場合は、周りの心配をするよりも、早急に医療機関にかかることを考えてあげてください。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージをお願いします。
髙橋先生
「こんなことで救急車を呼んでいいのかな」「夜にこんなことで受診して迷惑じゃないかな」といった不安を感じたことがある人もいると思います。救急医療に従事していた私としては、そんな風に医療者や周りの方のことを少しでも考えてくださるだけで、本当にありがたく思います。そのような状況を少しでも改善させるための一つの提案として、地域のかかりつけの先生とよく話をすることをお勧めします。自分や家族が、どのような時には救急車を呼ぶべきなのか、救急外来を受診すべきなのかを前もって聞いておくと良いでしょう。かかりつけの先生は患者さんと長く接してきて、様々なことを知っています。想定されるリスクなどもわかると思いますので、受診したときに相談しておきましょう。
編集部まとめ
緊急時に冷静に判断することは難しいですが、救急搬送の必要性を見極める知識を持つことはとても有用です。普段から緊急時の対応方法をかかりつけ医や家族などと話し合っておくといざという時に役立ちます。この記事で紹介した見極めのポイントを活用し、必要なときにはためらわずに救急車を呼びましょう。迅速な対応が大切な人の命を守る鍵となります。
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