「捻挫」を甘く見るのはNG! 膝や股関節への深刻なリスクを医師が解説
整形外科の疾患のなかでも、馴染み深いものの1つが「捻挫」。捻挫をした場合、「しばらくすれば治る」と思って、放置してしまっている人も多いのではないでしょうか。しかし、捻挫は膝や股関節にリスクを及ぼすことがあるのです。今回は、捻挫に隠れた思わぬリスクについて、「まつど西口整形クリニック」の後藤先生に解説していただきました。
監修医師:
後藤 達広(まつど西口整形クリニック)
捻挫とは?
編集部
足首をひねることがあります。これは捻挫なのでしょうか?
後藤先生
骨折の可能性もありますが、外部から不自然な力が関節に加わって起きるケガのうち、レントゲン検査で異常がなければ足首の捻挫かもしれません。例えば、骨折や脱臼をすればレントゲン検査で異常を指摘できます。しかし、捻挫はレントゲン検査では写りません。こうした関節の外傷を総称して、捻挫と呼んでいます。
編集部
捻挫は骨の異常ですか?
後藤先生
いいえ、基本的には骨以外の靭帯を含めた軟部組織の損傷が捻挫です。靭帯は主にコラーゲンでできた弾力性のある組織で、骨同士をつなぐ役割を担っています。ただし、レントゲンで異常がなくても小中学生くらい年齢の子どもをエコーで見ると、それなりの頻度で骨端線損傷や裂離骨折が認められます。
編集部
なぜ、捻挫が起きるのですか?
後藤先生
捻挫は足首や手首、肩、膝など全身の関節で起こり得ますが、そのうち最も頻度が高いのは足首です。なぜ、足首を捻挫しやすいのかというと、足首は構造上内側に捻りやすい、かつ足首の外側の靱帯は内側の靱帯より構造的に脆弱だからです。ジャンプの着地、あるいは段差でつまずいたときなどに、足首に大きな力が無理な方向にかかると内側に捻りやすく捻挫してしまうのです。
編集部
捻挫をすると、どのような症状がみられますか?
後藤先生
軽度の捻挫であれば、靭帯は伸びていても断裂はしていないので、痛みなどはそれほどひどくありません。しかし、ひどい場合には靭帯に部分的な断裂が起こり、さらに重度の場合は完全に靭帯が切れることもあります。こうなると激しい痛みや腫れのほか、皮下出血が大量にみられることもあります。
編集部
軽症の場合には症状がないのですか?
後藤先生
いいえ。実際には損傷が軽度であっても、複数箇所の靭帯にダメージを受けていると痛みが強く出て、回復に時間がかかることがあります。
捻挫は医療機関を受診した方がいい?
編集部
捻挫は日常的な疾患なので、そのまま放置してしまう人も多いと思います。それでも、医療機関を受診した方がいいのでしょうか?
後藤先生
自分では症状が軽いと思っても、靭帯が部分的に切れていて後々足首の可動域制限や不安定性を残してしまうこともあります。将来的に膝や股関節などにも悪影響を与えてしまう動きになりやすくなるため、症状によっては受診した方がいいでしょう。
編集部
受診の目安は?
後藤先生
簡単なのは、「普通に歩けるかどうか」という判断基準です。歩いてみて、片足を引きずっていたり、ケンケンでしか歩けなかったりする場合には、早めに病院を受診しましょう。また、日常的にスポーツをする人は、「普通にスポーツができるかどうか」も受診の目安となります。
編集部
目安によって、受診するかどうか判断するのがいいのですね。
後藤先生
はい。痛みや腫れがひどく、体重をかけて歩くことができないという場合も、早めに整形外科を受診しましょう。重度の捻挫では、捻挫だけでなく骨折も併発していることがあります。また、腫れや内出血がひどい場合も受診した方がいいでしょう。
編集部
医療機関では、どのような治療がおこなわれるのですか?
後藤先生
受傷直後はまだ炎症が続いているので、冷湿布や氷などで炎症を抑えます。その後、サポーターやテーピングをして患部を固定します。
編集部
重度の場合、どのような治療がおこなわれるのですか?
後藤先生
患部が安定するまで松葉杖を使ったり、理学療法士とのリハビリをおこなったりします。そうすることで段階的に日常生活やスポーツへの復帰を目指します。特にスポーツをする人であれば、リハビリを受けることで足首の悪い動きを改善し復帰時期が早めることもできます。
編集部
スポーツに復帰するまで、どれくらいかかりますか?
後藤先生
軽症の捻挫なら2、3週間程度、中等度の捻挫の場合には6~8週間が目安でしょう。
捻挫を放置することのリスク
編集部
捻挫を放置するとどうなるのですか?
後藤先生
捻挫の痛みはしばらくすると和らぐことが多いため、医療機関を受診せず、そのまま放置してしまう人も多いと思います。しかし、治療をせずにそのままにすると、足首が不安定で動きの制限が残ったまま日常生活やスポーツをおこなうことになり、痛みが長引いたり再受傷してしまったりするリスクが高まります。
編集部
ほかには、どのようなリスクがありますか?
後藤先生
繰り返しになりますが、足首を捻挫したときに靭帯が伸び切ってしまった場合、治療をせずに放置すると靭帯が伸びたままになってしまったり、可動域制限が残ったりすることもあります。また、靱帯が伸びた影響で、足首の関節が傾いて固定してしまうこともあります。そうなると、長年悪い歩き方が定着し、おのずと股関節や膝関節などに負担がかかるようになります。
編集部
足首の捻挫が股関節や膝関節などにも影響を及ぼすのですね。
後藤先生
ただでさえ股関節や膝関節は体重の負荷を受けやすく、加齢とともに痛みなどの症状が出やすい部位です。捻挫を放置したことにより、それらにますます負荷がかかれば、将来的に股関節痛や膝痛が出たり、ひどい場合には「足が痛くて歩けない」といった症状がみられるようになったりします。そのほか、腰に影響が及ぶこともあるので、捻挫と軽く見ることなく、気になることがあれば早めに医師の診察を受けるようにしましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
後藤先生
捻挫は非常に一般的な疾患ですが、必要に応じて医師の診察を受けましょう。そのまま放置すると関節の動きが悪くなったり、不安定なままになったり、関節が歪んだまま固定されたりしてしまいます。捻挫は繰り返しやすい疾患ですが、きちんと治療をして予防法を医療機関で教わることで、再発を防ぐ可能性を高められます。捻挫をしたらそのまま放置することなく、適切に対処することが必要です。
編集部まとめ
捻挫を何度も繰り返すと、可動域制限や不安定性が悪化していき、捻ってもいないのに症状を繰り返してしまうこともあります。ひどい場合にはほかの関節に悪影響を与えることもあるため、「捻挫は湿布を貼っておけば大丈夫」などと油断せず、きちんと治療を受けるようにしましょう。
医院情報
所在地 | 〒271-0091 千葉県松戸市本町19-16 松戸ウエストビル2F |
アクセス | JR「松戸駅」 徒歩1分 |
診療科目 | 整形外科、リハビリテーション科 |