糖尿病は肥満・やせ・普通体型によって治療法が異なるってホント?【医師解説】
すべての病気に言えることですが、糖尿病治療においても、それぞれの病状に合わせて治療計画が立てられます。では、体型によっても治療は変わるのでしょうか? 糖尿病とその治療法について、乾小児科内科医院院長の乾恵輔先生に解説してもらいました。
監修医師:
乾 恵輔(乾小児科内科医院)
糖尿病はどんな病気? 糖尿病専門医が徹底解説
編集部
「糖尿病」とはどんな病気ですか?
乾先生
糖尿病は、「インスリン」というホルモンがうまく分泌されない、もしくは十分に働かないなどの理由で、血液中を流れるブドウ糖という糖(血糖)が増えてしまう病気です。インスリンはすい臓から出るホルモンで、血糖を一定の範囲におさめる働きがあります。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
乾先生
私たちが食事をすると、栄養素の一部は糖となって腸から吸収されます。糖は血液の流れに乗って、体のあらゆる臓器や組織へめぐります。そして、血液中をめぐった糖が細胞に取り込まれる時、血液中のインスリンの助けを借ります。そうやって取り込まれた糖は、私たちの体が活動するためのエネルギーの源となるのです。インスリンの働きがなければ、血中の糖はいつまでもエネルギーになることができません。
編集部
どうしてインスリンが機能しなくなるのですか?
乾先生
原因は2つに分けられます。1つはすい臓の機能の低下により、十分なインスリンを作れなくなってしまう「インスリン分泌低下」、そしてもう1つは、インスリンは十分な量が作られているものの、効き具合が悪くなるという「インスリン抵抗性」です。これは運動不足、食べ過ぎや肥満、ストレスなどが要因と言われています。
糖尿病になるとどんな症状が出る? 治療法も教えて
編集部
糖尿病になるとどんな症状が出ますか?
乾先生
糖尿病の初期は、自覚症状がほとんどありません。中等度以上に進行してはじめてわずかな症状が現れますが、それも「なんとなくだるい」「喉が渇く」など、すぐに病気とはわからなさそうな症状であることが多いのです。そのため、病気の自覚が無いまま長く放置されやすく、気づかないうちに合併症が進行している危険性があります。
編集部
糖尿病が進行するとどんな合併症が出てくるのですか?
乾先生
血糖値が何年間も高いままでいると、血管が傷つき、神経にもダメージを与えます。放置しておくと将来的に手足の神経障害や失明、腎不全、心臓病や足の切断などにつながる恐れがあります。糖尿病は、健康診断などで早期に発見し、早期に治療を開始するのがとても大事です。
編集部
糖尿病の治療について教えてください。
乾先生
糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法です。食事内容の再確認と毎日の総エネルギー摂取量を調整する食事療法と、適度な運動療法を行い、それでもなお血糖コントロールが不十分な場合には、お薬を使った治療を開始します。
糖尿病は体型によって治療法が異なるの?
編集部
糖尿病は普通、やせ、肥満など体型によって治療法が異なるというのは本当ですか?
乾先生
本当です。先ほどインスリンがうまく働かなくなる原因に「インスリン分泌低下」と「インスリン抵抗性」があると説明しましたが、肥満がある方はインスリン抵抗性が高い方が多いので、まずはインスリン抵抗性を下げるタイプの薬で治療をはじめていきます。逆にやせ型の方はインスリン分泌が低下している方が多いため、インスリン分泌を促進するタイプの薬で治療をはじめていきます。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
乾先生
編集部
お薬も違ってくるのですか?
乾先生
生活習慣や年齢などにもよりますが、一般的にはやせ型でインスリン分泌低下が主体の方にはインスリン分泌促進系薬を、肥満がありインスリン抵抗性が高い方にはインスリン分泌非促進系薬を、そして食後高血糖が主体の方にはα-GI薬を選択していきます。特に肥満が強い方には、体重減少効果が期待できるGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬を選択するケースもあります。
編集部
糖尿病というと肥満というイメージがありますが、やせ型のケースもあるのですね。
乾先生
アメリカの糖尿病患者さんは、BMIが平均30を超えていてかなりの肥満です。一方、日本の糖尿病患者さんのBMIは平均25前後で、肥満の一歩手前くらいでも糖尿病になる方がたくさんいます。これは、日本人が欧米人よりもインスリン分泌能が低いことや内臓脂肪がつきやすいことが原因だと考えられています。さらに高血圧や脂質異常症といった生活習慣病のある方は骨格筋のインスリン抵抗性が高いという報告もあり、肥満がなくても潜在的な糖尿病のリスクとなるため注意が必要です。
編集部
体型に関わらず気をつけるべきことがあれば教えてください。
乾先生
肥満・非肥満の方に共通して言えることですが、「体力のなさ」「日常的な活動量の少なさ」「脂肪摂取量の多さ」などはインスリン抵抗性に悪影響をもたらします。食生活では、「甘いものや炭水化物を摂りすぎない」「油っぽい食事は控える」などの工夫が重要で、運動面ではウォーキングやジョギングの習慣がおすすめです。有酸素運動により筋肉への血流が増えると、血液中の糖がどんどん細胞の中に取り込まれ、血糖値が低下します。また筋力トレーニングで筋肉が増えることで、インスリン抵抗性が改善して血糖が下がりやすくなります。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあればお願いします。
乾先生
運動が苦手な方や、忙しくて時間が取れない方は、通勤で1駅分だけ歩いたり、極力エレベーターではなく階段を利用したり、生活の中でこまめに動くことを心がけましょう。座りがちな生活をしている人は、こまめな動きをしている人に比べ糖尿病の発症リスクがおよそ2倍に高まるとの報告もあります。ちょっとした生活習慣の見直しで糖尿病に悩まされる方が一人でも減ることを願っています。
編集部まとめ
糖尿病の原因は大きく2つに分けられ、治療薬にもさまざまなメカニズムがあるようです。治療の戦略を決めるのに、体型が1つの目安になることと、肥満でなくても糖尿病のリスクはあることを忘れずに、今から生活習慣を見直していきましょう。また、ご家族に糖尿病の人がいるとか、若い頃と比べて太ってしまったという人は、症状がなくてもまずは一度、専門医に相談することをお勧めします。
医院情報
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診療科目 | 小児科、内科、循環器内科、アレルギー科、糖尿病内科 |