【闘病】謎の体重増加は「卵巣がん」… 抗がん治療や人工肛門の苦労を乗り越えて
自覚症状がほとんどない中、ある日婦人科を受診したら「卵巣がん」と診断され、緊急入院と緊急手術を経験した遠藤 智子さん。初めてのがん治療に戸惑いながらも、「病気に勝つと考えるのではなく、受け入れる」ことで日々を過ごしているそうです。そこで、遠藤さんに詳しい病気の発症経緯や治療方法についてお聞きしました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年2月取材。
体験者プロフィール:
遠藤 智子
40代女性。2022年3月頃、下腹部の重さを感じてかかりつけの婦人科を受診。婦人科で精密検査を行い、すぐに緊急入院と病理検査目的の緊急手術を行う。検査の途中から痛みが出始めるとともに、医師からは腹水の貯留が指摘され、検査結果で「右卵巣がんのステージ3C」との告知を受ける。
記事監修医師:
鈴木 幸雄(産婦人科専門医・婦人科腫瘍専門医)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
初めてのがんの経験、辛い日々に泣いて暮らしていた
編集部
はじめに、遠藤さんの卵巣がんが判明したきっかけを教えてください。
遠藤さん
2021年頃から食事内容が特に変わっていないにも関わらず、毎朝下痢をしていました。それに、食生活が変わらないのにどんどん体重が増えていました。少し時間が経って2022年3月頃になると下腹部に重さを感じたため、かかりつけの婦人科を受診しました。すると、すぐに検査が始まり、その後現在も通院治療をしている病院に緊急入院、そして診断目的の緊急手術になりました。病理検査の結果、「右卵巣がん」が判明しました。
編集部
突然のことで驚かれたと思います。
遠藤さん
そうですね。手術後に抗がん剤治療についての説明を受けたときに最終的な診断を聞き、「右卵巣原発の漿液性がんステージ3C」と言われました。それまでは何ともなかったのに、緊急入院して検査が始まった頃から痛みが出始めたのをよく覚えています。それから半年ほどは医療用麻薬のオキシコドンを1日2回服用、痛い時の頓用(レスキュー)としてオキノームも使用しました。私自身がお腹の出やすい体質だったこともあり、お腹の出っ張りがまさか腹水とは思いませんでした。
編集部
緊急入院から手術まではどのくらいの期間で進んだのでしょうか?
遠藤さん
最初に近くの婦人科から連絡があり、紹介状をもらいました。4日後に現在の病院を受診し、検査を進めていく中で腹痛が出始めたのですぐ緊急入院になりました。医師から手術をすすめられ、約2週間後には手術を行いました。
編集部
医師からは治療についてどのような説明がありましたか?
遠藤さん
※標準治療とは今医学的に考えられている最も最善な根拠のある治療のこと
編集部
そこから、抗がん剤治療が進んでいったのですね。
遠藤さん
はい。6回の抗がん剤治療のうち、前半の3回はTC(パクリタキセル+カルボプラチン)療法の予定でした。しかし、初回投与の際にパクリタキセルでアナフィラキシーを起こしたため、カルボプラチンのみになりました。点滴の抗がん剤治療を3回した後に、2回目の手術に進んでいきました。
編集部
2回目の手術の前はどのような説明があったのでしょうか?
遠藤さん
はい。医師から「人工肛門になるかもしれない」とのお話があり、ショックを受けました。ですが、妹から聞いた話によると実は最初の手術のときも同じお話はあったそうです。当時の私は痛みを我慢するので精一杯で聞き逃していました。それから、2回目の手術までの約1か月間は泣いて過ごしました。
編集部
辛かったと思います。では、2回目の手術の詳細を教えていただけますか?
遠藤さん
2回目の手術では、開腹子宮全摘術で両側付属器切除、大網切除、直腸切除、脾臓摘出、横隔膜切除、肝部分切除で12時間を超える手術でした。その際、人工肛門造設を行い、小腸ストーマとなり、自己導尿も必要になりました。その後、化学療法を3回行い、その後は内服薬のゼジューラという薬物治療を現在も継続しています。
大手術と抗がん剤治療の甲斐もあって現在は元気に
編集部
2回の手術を経験し、生活面にどのような変化があったのかも教えていただけますか?
遠藤さん
手術の翌日、医師から「よく頑張りましたね、悪いところは全部取りましたよ」と言われたとき、痛みに苦しみながらもホッとしたのを覚えています。生活の面では、人工肛門の処置に加えて自己導尿もありました。退院してからも最初のうちは毎日排泄処理に追われ、あっという間に1日が過ぎていたように思います。毎日人工肛門と自己導尿の処置、便と尿の量を計測、ストーマの洗浄、2日に一度は人工肛門のパウチ交換をしました。パウチ交換には慣れていなかったため、交換だけでも1時間近くかかり、それが終わると疲れ切っていました。あと、ウィッグのお手入れも大変でしたね。
編集部
肉体的にも精神的にもかなり疲労感があったと思います。
遠藤さん
2回目の手術は12時間を超える大手術でしたので、回復にも時間がかかりました。1回目のときに比べると身体は楽でしたが、毎日の処置が大変でした。「本当に良くなっているのだろうか」「こんなにしんどいのか」と思い、しばらくは泣きながら暮らしていました。それでもパウチ交換などをしているうちに、ストーマが一緒に治療を続ける同志のような存在になりました。
編集部
現在の体調や検査の結果はどうですか?
遠藤さん
毎月腫瘍マーカーなどの血液検査を受けていますが異常はなく、元気に過ごしています。副作用はかかとの痺れと多少の体調変化程度です。一度だけヘモグロビンの値が下がって2回ほど輸血もしましたが、今は回復しました。また、人工肛門は元々一時的なものと言われていて、経過が順調だったこともあって閉鎖しました。ただ、現在も再発を予防するための薬を服用しています。また、膀胱炎や感染症のリスクはあるので自己導尿は継続しています。
編集部
遠藤さんの病気が判明したとき、お仕事はどうされましたか?
遠藤さん
医師から「悪性の可能性があります」と説明されても、当時の私はあまり実感が湧かなかったように思います。その日も仕事だったので「悪性かもしれない」と言われても、そのまま車を運転して仕事へ行きました。職場へは診断書を提出して、休みが多くなるかもしれないと伝えました。以前、ダブルワークをしていたこともあり、体力には自信があったので、仕事を休むとは想像していませんでした。
病気に勝つのではなく、受け入れることを悟った
編集部
治療中、特に不安だったことや印象に残っていることはありますか?
遠藤さん
医師からは「人工肛門でも入浴は可能」と言われていましたが、入浴後に人工肛門から漏れるのではないかと不安でした。ですから、人工肛門になっている間はずっとシャワー生活でした。人工肛門を閉鎖し、1年振りくらいにお風呂に入った時は、本当に嬉しかったです。
編集部
治療中に遠藤さんの心の支えになったものは何でしょうか?
遠藤さん
治療当初、ネットで腎臓がんに関するインタビュー記事で「闘うのではなく、受け入れる」という言葉を読み、「楽しく治療しよう」と思うようになりました。そして「悪いことばかりを探すのではなく、落ちて泣いて悲しんで、愚痴を言ってもよい。でも、その中から何か良かったものを探そう」という陽転思考を一層意識するようになりましたね。そして何より、実家に帰った時に普段は口数の少ない父から「病気はお前が悪いわけじゃないからな」と言われ、あたたかい気持ちになったことを覚えています。
編集部
現在の生活の様子についても教えていただけますか?
遠藤さん
退院して間もない頃は、10分で歩ける距離を40分かけて歩くほどの状態でした。今では元気に昔と同じような暮らしができています。感染症に注意して過ごしていても、たまに風邪をひくことはありますが、よく食べ、よく寝て、よく動いています。病状が重かったため、産業医さんの管轄で負担のかかる仕事は減らしてもらっていますが、少しずつ重い物を持つことはしていて、仕事がリハビリになっている状況です。
編集部
卵巣がんという病気を普段意識していない人、病気を知らない人にメッセージをお願いできますか?
遠藤さん
子宮の病気はよく見聞きしますが、卵巣の病気はあまり知られていないと思います。女性の場合は、卵巣がんの初期症状について、知っておいて欲しいですね。一方で、検査結果が出るまでの数週間を不安な気持ちで過ごすことになるので、ネットの情報ばかり信じないでほしいとも思います。こうして卵巣がんを体験した私が感じたこと、実際の経験を伝えていくことが、これから多くの方の早期受診や早期発見につながると信じています。
編集部
遠藤さんの体験を通して、医療従事者に伝えたいことや期待することはありますか?
遠藤さん
私の発症時期はコロナ禍で感染症対策も非常に大変だったと思いますが、本当にとても良くしていただいたので感謝しかありません。夜間に泣いている私の背中をさすってくださった看護師さん、術後にわざわざ様子を見に来てくれた看護師さん、先生も本当に良い方ばかりでした。お身体とお気持ちを大事に、これからも患者さんの治療を続けてくれれば嬉しいです。
編集部
最後に読者向けにメッセージをお願いします。
遠藤さん
体に何かの不調が現れたら、怖いと思いますが必ず病院を受診してください。そして健康診断を欠かさず受けてほしいです。また、女性は婦人科系の項目も検査してほしいです。また「今元気だから大丈夫」と思って医療保険に入らないと、万が一自分の身に何か起きた時に後悔します。私の場合は抗がん剤治療だけで、限度額認定も使って月に約4万円かかっています。そのほかの治療費も合わせると毎月6~8万円が医療費として出ていきます。医療保険の見直しと、女性は女性特約もつけておくと安心して治療に臨めるはずです。「あの時入っておけば」と後悔しないよう、毎月安心のためにお金を納めていると思って加入を考えてほしいです。
編集部まとめ
卵巣がんのステージ3Cと診断され、大きな手術を経験しながらも精力的に過ごしている遠藤さん。卵巣はがん検診の対象にはない臓器であり、膵臓と同じくサイレントキラーと呼ばれています。遠藤さんは手術と抗がん剤治療の成果で元気に過ごしていますが、発見が遅れて手遅れになるケースもあります。初期症状に気づきにくいという特徴はありますが、わずかな異変も見逃さず、遠慮せずに医療機関を受診して欲しいと思います。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。