子宮頸がん予防だけじゃない! 男性も「HPVワクチン」接種がおすすめな理由【医師解説】
子宮頸がんはワクチンで予防できる唯一のがんであることは広く知られていますが、「子宮頸がんワクチン」とも呼ばれるHPVワクチンの接種が男性にもメリットがあることは、あまり知られていないかもしれません。そこで今回は、子宮頸がんとそのワクチンの有効性、男性にも接種を推奨する理由について産婦人科医であり、日本性感染症学会の認定医でもある佐藤 歩美先生(あゆみレディースクリニック高田馬場 院長)にお聞きました。
監修医師:
佐藤 歩美(あゆみレディースクリニック高田馬場)
目次 -INDEX-
子宮頸がんを予防する子宮頸がんワクチン・HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンとは?
編集部
子宮頸がんについて教えてください。
佐藤先生
子宮の下部、腟に向かって細長くのびている「子宮頸部」という部分にできるがんが子宮頸がんです。年間約1万人の女性が発症し、約3000人の方が子宮頸がんで亡くなっているとも言われています。とくに20~30歳代の若い女性に増えてきています。
編集部
子宮頸がんの原因は?
佐藤先生
ほとんどの場合「ヒトパピローマウイルス(HPV)」というウイルスが原因と考えられています。ごく稀に、HPVの感染とは無関係に発生する子宮頸がんもがありますが、基本的にはHPVが子宮頸がんの原因であるといって良いでしょう。
編集部
HPVはどんなウイルスなのですか?
佐藤先生
HPVは、皮膚や粘膜に感染するウイルスです。分類すると100種類以上あるのですが、このうち13種類が「高リスク型HPV」と呼ばれ、子宮頸がんの患者さんから多く検出されています。
編集部
だからHPVワクチンがあるのですね。
佐藤先生
はい。HPVに感染しても、約90%の方は2年以内に自然に排除されるのですが、長期にわたり感染が続くと子宮頸がんのリスクが高くなります。これを防ぐのがHPVワクチンです。
子宮頸がんワクチンは女性だけでなく男性も接種すべきなのはなぜ? 理由を産婦人科医が解説
編集部
HPVワクチンは女性だけでなく男性も接種すべきなのはなぜですか?
佐藤先生
高リスク型HPVが主に性交渉で感染するからです。男性がHPVワクチンを受けることで、パートナーの女性への感染を防ぐことが期待できます。また、男性自身のがんの予防効果もあります。
編集部
どういうことですか?
佐藤先生
HPVワクチンは決して子宮頸がんだけを予防するわけではありません。先ほどの「高リスク型HPV」は子宮頸がんだけでなく、中咽頭がん、肛門がん、腟がん、外陰がん、陰茎がんなどにも関わっている可能性があります。男性がHPVワクチンを接種することで、咽頭がん、肛門がん、陰茎がんや尖圭コンジローマの予防になります。特に中咽頭がんは、世界的に罹患者が男女ともに増加しています。中咽頭がんのリスク因子である喫煙をする人が減っているのに罹患者が増えているということは、HPVウイルスの感染が関係している可能性が高いため、HPVワクチンの接種はかなり重要と考えています。
編集部
男女ともにワクチン接種したほうが良いのですね。
佐藤先生
そうですね。人口の約半分は男性なので、男性もHPVワクチンを接種することで感染の広がりを抑えられます。そうなると集団全体の感染率も下がっていく「集団免疫」の効果も期待できます。すでにアメリカやイギリス、オーストラリアなどでは、HPVワクチンは男子も定期接種の対象となっており、それに伴う罹患率の減少についても各国から報告されています。
子宮頸がんワクチン・HPVワクチン接種の注意点とは? 費用は何歳まで無料?
編集部
ワクチンを接種するにあたり、注意点はありますか?
佐藤先生
HPVワクチンは新しい感染を予防するものであり、すでに感染したHPVを排除する効果や発症してしまった子宮頸がんの進行を止める効果はありません。 したがって、性交渉未経験のうちに接種を終えておくことが大事です。また、接種した場合でも、100%子宮頸がんを予防できるわけではないため、定期的な子宮頸がん検診を怠らないようにしましょう。
編集部
ワクチンの副反応も気になります。
佐藤先生
HPVワクチンに特化というより多くのワクチンに共通する副反応として、接種部位の痛みや腫れ・かゆみのほか、筋肉痛・関節痛、頭痛、発熱などが出る場合があります。これらはしばらく安静にしていれば改善するケースがほとんどですが、心配な場合は接種を行った医療機関や都道府県ごとに定められている協力医療機関に相談することもできます。
編集部
費用についても教えてください。
佐藤先生
2価 | 4価 | 9価 | |
定期接種の対象 | 小学校6年~高校1年相当の女子 | 小学校6年~高校1年相当の女子・男子 | 9歳以上の女性 |
費用 | 約1万5千~2万円×3回 | 約1万5千~2万円×3回 | 約2万5千~3万円×3回 |
(※15歳未満に9価ワクチンの初回を打った場合、接種回数は2回で良い。対象者は公費で無料接種)
編集部
無料接種になる場合もあるのですね。
佐藤先生
はい。現時点では女子だけですが、例えば中野区は2023年8月から、小6~高1の男性向けに助成を始めています。さらに、それをうけて東京都が費用の負担を検討すると発表しました(2024年1月現在)。また、先ほども述べたようにキャッチアップ接種の対象者の方はぜひ厚生労働省のホームページなどを確認しましょう。ここで注意していただきたいのは、現時点でキャッチアップ接種の期限は2025年3月までとなっています。それまでに3回の接種を終えるためには、2024年の9月までに1回目を打つ必要がありますので、対象となっている方はぜひ早めの接種を検討していただけたらと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
佐藤先生
子宮頸がんは若い世代での発症が多いがんです。子宮頸がんで亡くなった方は、子どもがまだ幼いことが多いため、マザーキラーと呼ばれるほどです。早期発見できれば治療も可能ですが、子宮を摘出しなければならなかったり、定期的な通院を強いられたりなど、日常生活に大きな影響を与えます。やはり予防が重要なので、ワクチン接種がとても大事です。しかしながら、例えばオーストラリアのワクチン接種率は8割を超えているのに、日本は1割程度で、罹患率も増えています。特に男性は「どこで接種すればいいか分からない」という人も多いかと思いますが、レディースクリニックや耳鼻咽喉科などでも対応していますので、近くのクリニックに尋ねてみてください。
編集部まとめ
HPVワクチンについて、医師に解説していただきました。子宮頸がんはワクチンで予防できるがんであり、男性もワクチン接種が推奨されていることに加えて助成制度が徐々に拡大されています。特にキャッチアップ接種の対象となる方は、早めの接種開始をおすすめします。分からないことがあれば、ぜひお近くの医療機関へ相談してみましょう。そして、ワクチンだけでなく、定期的な検診も忘れずに受けてください。
医院情報
所在地 | 〒169-0075 東京都新宿区高田馬場2丁目17-6 ゆう文ビル8F |
アクセス | JR山手線、東京メトロ東西線、西武新宿線「高田馬場」駅すぐ |
診療科目 | 産科・婦人科 |