乳幼児虐待を起こさせないための「親のメンタルケア」とは?【医師解説】
子育てのストレスなどが原因となり、乳幼児虐待に走ってしまう親の話がたびたびニュースで報じられます。そういった事態を起こさないためには、一体、どのようにすればよかったのでしょうか? 今まさに子育てのストレスにさらされている親に向けたアドバイスなど、あおきメンタルクリニックの青木先生に教えてもらいました。
監修医師:
青木 豊(あおきメンタルクリニック)
なぜ、乳幼児虐待が起きるのか?
編集部
ときどきニュースで乳幼児虐待の事件を耳にします。一体なぜ、こうしたことが起きるのですか?
青木先生
家庭環境や時代背景など、さまざまな要因が複雑に絡み合って生じています。また母親の育児困難が引き金となる場合もあります。
編集部
具体的に教えてください。
青木先生
たとえば夫婦関係の不和や経済的な問題などの要因が重なると生じやすくなります。また、「誰も育児をサポートしてくれず、地域でも孤立を感じている」「子どもが思ったように育たなくて、育児にストレスを感じている」「親御さんご本人が虐待されて育った」といった場合も、そうでない場合と比べると乳幼児虐待は起きやすくなります。
編集部
具体的に乳幼児虐待とはどのようなもののことを言うのですか?
青木先生
具体的には身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待、性的虐待の4つがあります。虐待というと怪我をさせる・暴行する、といったイメージがありますが、「食事を与えない」「無視する」「長時間放置する」といったネグレクトも養育の放棄、「夫婦間の暴力の目撃」も心理的虐待として大きな問題になっています。
乳幼児虐待を起こさないようにするには?
編集部
そういった虐待の加害者にならないために、どうしたら良いのでしょうか?
青木先生
簡単なことではないかもしれませんが、先述の要因を1つでも減らすことが、ご家族と社会に求められます。
編集部
ご家族にできることはなんですか?
青木先生
まずは育児が孤独にならないよう、社会との繋がりを作ることです。育児の主体はあくまで親御さんですが、現在では家族外の人々や育児支援機関(保育所・保健所など)もその役割を一部担っています。実際には両親ともに働いておられる方、シングルマザーやシングルファザーの方、核家族などが多数を占めていますし、お勤めをされていない主婦の方でも育児は大変です。そのような状況で、親御さんのみでより完全な育児をしようとすることは、必ずしも現実的ではありません。
編集部
確かに孤独を感じそうです。
青木先生
そのため、まずはご親族、ママ友、保育所などと手を携えて、子育てしようと思ってくださると良いでしょう。そういった方々との関係をつくるのが苦手な方こそ、よりそのように意識してくださると良いと思います。
編集部
そのほかにできることは何ですか?
青木先生
先述のように、お住まいの自治体が提供している子育て支援サービスを利用することで、育児がより安心したものになることもあります。地域の情報を調べてみましょう。地域によっては自治体でそうしたサービスを展開しているところもありますし、民間のサービスも利用できます。
編集部
周囲に相談することが大事なのですね。
青木先生
より問題が深刻である場合、困り感が強い場合は、メンタルクリニックなどに相談してみるのも良いでしょう。「乳幼児―親治療」といって、育児の困難さに焦点を当て、さらに親御さんの心の葛藤の改善を目指す治療を行っている機関もあります。また親御さん個人に、認知行動療法などの心理療法が役立つこともあります。
子育てのストレスを減らすためにはどうしたらいい?
編集部
虐待まではいかなくても、子育てによるストレスで悩んでいる人は多いと思います。
青木先生
現在、子どもへの虐待事件は非常に増えています。その背景としては乳幼児や児童への虐待が広く認知されるようになったこともありますが、社会の変化も大きく関係しています。
編集部
それはどういうことですか?
青木先生
地域社会とのつながりが薄れたり、核家族化が進んだりすることで、誰にも相談できずに悩んでいるお母さんは少なくありません。育児から得られる深い喜びとともに育児不安や困難も
増しています。
編集部
本来であれば、虐待にいたる前に救うことができればいいのですが……。
青木先生
育児をしていて、不安、焦燥感、不眠、食欲減退、抑うつなどの症状を抱えて苦しんでいる人も多くいらっしゃいます。そのような場合にはぜひ、メンタルクリニックなどを専門とする医院を利用すると良いでしょう。子育てに関する悩みを専門的に診ている医師もいますし、たとえば当院では乳幼児家族外来といって、就学前の乳幼児とそのご家族に対する外来も行っています。そういった医療機関などもありますので、地域の公的な子育て支援機関に問い合わせたり、ネットで調べたりして、自分にあったクリニックを選択されることをお勧めします。
編集部
乳幼児家族外来はどのようなことをするのですか?
青木先生
精神科医・臨床心理士・精神保健福祉士がチームを組んで、乳幼児のお子さんとご家族が安らかで幸せな生活を送れるように支援・治療をします。そのように家族関係、特に親子関係の改善を目指す治療を行う医療機関もありますから、頼ってみると良いのではないかと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
青木先生
これまでに虐待に至る前の育児困難に苦悩されている親御さんを多く診てきました。また軽症の虐待をされている親御さんにも多くお会いしてきています。乳幼児期はとくに人生で最も濃密な人間関係が親子のなかで展開されます。それだけに多くの困難が生じることがありますが、それを乗り越えることは可能ですし、そうなれば親として人間として過去の葛藤からより自由になり、子どもとともに大きな成長を果たすこともできます。苦難のなかにチャンスもあります。その苦難は大きく、また、苦難の頻度が高い場合は、すでにお話しした親族から専門機関までの何かを利用されれば、その前進がより可能になると思います。
編集部まとめ
乳幼児虐待にはさまざまな要因が関係しています。そのため、自分一人で解決しようとするのは困難。自治体や専門機関、民間サービスなどにも頼りながら解決をめざすことが大切です。また、周囲で苦しんでいる人がいた場合には、周囲がみずから手を差し伸べてあげることも必要です。
医院情報
所在地 | 〒252-0804 神奈川県藤沢市湘南台1-1-6 湘南台駅前クリニックビル4F |
アクセス | 小田急江ノ島線、相鉄いずみ野線、横浜市営地下鉄ブルーライン「湘南台」駅より東口徒歩3分 |
診療科目 | 心療内科、精神科 |