ダイアモンドユカイ男性不妊の絶望乗り越え3児の命を授かった不妊治療とは
子どもを望んでいても授からない「不妊」の約半数は、男性側に要因があるそうです。
今回は、それまで語られることの少なかった「男性不妊」を10年以上前に公表したダイアモンド☆ユカイさんと、生殖医療専門医の柏崎祐士先生に男性不妊やその原因、治療などについて語っていただきました。
ダイアモンド☆ユカイさん
ミュージシャン、シンガーソングライター、俳優。
2010年、47歳で長女が誕生し父親になる。翌年、自身が無精子症であり不妊治療を経て子どもを授かったことなどを公表した『タネナシ。』(講談社)を出版。その後、双子の男児が生まれ、現在は3児の父。
監修医師:
柏崎 祐士(医師)
かしわざき産婦人科 院長、医療法人かしわ会 理事長。
京都府立医科大学医学部卒業後、米国Yale大学医学部産婦人科留学などを経て現職。
医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。
突然の“精子ゼロ宣告”で頭が真っ白に。男として自信を失いかけた当時を振り返る
柏崎先生
ダイアモンド☆ユカイさんが無精子症と不妊治療の経験を公表されたきっかけを教えてください。
ダイアモンド☆ユカイさん
自分はずっと世間知らずのロックンローラーでしたが、いざ子どもを持とうとした時に無精子症と診断されました。ショックでしたが、これはやはり世の中の人たちに知ってもらわないといけないと思い公表を決意しました。もう10年以上前になりますが『タネナシ。』という本も出版しています。4組に1組が不妊で、その48%が男性側に原因があるとも言われており、不妊治療は決して女性だけのものではないと色々な人に知ってほしいと思っています。
柏崎先生
男性不妊を公表するのはなかなか勇気がいることですよね。一般男性はなかなか公表したがらないと思います。
ダイアモンド☆ユカイさん
恥ずかしいですからね。とくに自分が経験したのは10年以上前なので、男性不妊なんて親にも理解されない時代でした。でも公表して世間の男性に知ってもらわないと、困る女性が大勢いると思いました。
柏崎先生
そうですね。不妊の相談は、今でこそ夫婦で来る方もいますが、10年前は女性が1人で来るものでした。
ダイアモンド☆ユカイさん
もともとは自分も妻に付き添って行ったのが始まりでした。30歳を過ぎての結婚で不安があったようで、妻が自分なりに調べて不妊の検査をしたいと言ったのです。
当時の自分は男性不妊どころか女性の不妊についてもよくわかっていなかったのですが、クリニックに行ったら自分以外は全員女性で驚きました。順番が来るまでの間、隠れるように待っていましたね。
柏崎先生
そこからどうやって精液検査をすることになったのですか?
ダイアモンド☆ユカイさん
妻の検査結果に問題がなく「ご主人も検査してみませんか?」と言われたのです。最初は「なんで俺が!?」と驚きましたが、自分は妻より10歳年上で40歳を過ぎていたこともあり、検査をしてみようと思いました。
柏崎先生
結果はどのように伝えられたのですか?
ダイアモンド☆ユカイさん
先生は淡々と「精子、ゼロです」と言っていました。最初は意味が分からず、頭が真っ白になりましたね。先生は今後の治療について説明してくれていましたが、全く頭に入りませんでした。妻が泣いていたことは覚えています。
柏崎先生
本人以上に、奥様がショックを受けて泣いてしまうケースは多いです。
ダイアモンド☆ユカイさん
男を否定されたような感じで、その後2日くらいは言葉が出なかったですね。
先生、不妊の定義について改めて教えてください。
柏崎先生
30年前は健康な男女が週に1回のペースで性行為をしているにもかかわらず、2年妊娠しないものとされていましたが、今は結婚年齢も妊娠を希望される年齢も上がってきていますので、受診を2年待つ必要はないとされています。ここからが不妊という明確な定義はなく、妊娠を希望した時点で一度検査を受けていただいても良いくらいです。
ダイアモンド☆ユカイさん
時代とともに変わっていくのですね。勇気を持って治療に進まないと、あっという間に時が過ぎてしまいますよね。35歳を過ぎると流産の確率が上がると聞きました。
柏崎先生
はい。35歳になると妊娠率もグッと下がります。
ダイアモンド☆ユカイさん
とくに男性不妊は世間にあまり知られていないと思うのですが、もう少し詳しく教えてください。
柏崎先生
不妊の約5割は男性側が原因です。よく質問されるのですが、男性不妊=ED(Erectile Dysfunction:勃起不全)や無精子症ではありません。男性不妊の原因として、EDや乏精子症、精子無力症、ユカイさんが診断された無精子症などがあります。
ダイアモンド☆ユカイさん
治療法も異なるのですか?
柏崎先生
異なります。EDは精液中の精子は正常であることが多いため、人工授精等で妊娠する可能性があります。精液内に精子が少ない乏精子症や、精子数はあっても運動率が低い精子無力症も同様に人工授精や顕微受精で妊娠できる可能性があります。
ダイアモンド☆ユカイさん
無精子症についても教えてください。
柏崎先生
精液内に精子が全くいない病態が無精子症です。睾丸で精子が産生されているものの精子の通り道である精管が閉塞している閉塞性無精子症と、そもそも精子が全く産生されない非閉塞性無精子症に分けられます。
ダイアモンド☆ユカイさん
自分は閉塞性無精子症と言われました。
柏崎先生
閉塞性か非閉塞性かは、血液検査で判別することができます。前者の場合は、精巣内精子採取術といって、陰嚢を切開して睾丸から直接精子を採取し顕微授精する方法で妊娠できる可能性があります。後者も精巣内から精子を採取することで妊娠の可能性はありますが、特殊な顕微鏡を使って精子を見つける必要があります。
ダイアモンド☆ユカイさん
そもそも、なぜそのような病態になるのですか?
柏崎先生
染色体異常や遺伝によるケースもあると言われていますが、実際には原因が分からないものがほとんどです。ただし閉塞性無精子症については、幼少期の鼠径ヘルニア手術との関連が報告されています。
ダイアモンド☆ユカイさん
自分も鼠径ヘルニアの手術をしていました。手術で腸を縛った時、精管も一緒に縛ってしまうのですよね?
柏崎先生
昔の手術はそうでした。今の手術ではそのような可能性はないと考えて良いと思います。
ダイアモンド☆ユカイさん
子どもの頃に鼠径ヘルニアの手術をした人は閉塞性無精子症の可能性があるのですね。
“大事な部分”にメスを入れる恐怖と夫婦の危機を乗り越え、今伝えたいこと
柏崎先生
ユカイさんは告知された後、どのように進まれたのですか?
ダイアモンド☆ユカイさん
告知を受けて最初しばらくは本当にお手上げというか「じゃあダメじゃん」という感じでしたが、調べてみると妊娠の可能性はあるとわかりました。妻が30代半ばに差し掛かっており、ラストチャンスという感覚があったので、じゃあやってみようと決断しました。
柏崎先生
実際にどんなことをされたのですか?
ダイアモンド☆ユカイさん
睾丸の触診や血液検査で閉塞性無精子症と診断がつき、次のステップとして陰嚢の中に精子がいるかを確認すると言われました。もし精子があればそのまま顕微受精に進められると聞いたのでその方針でお願いしました。
柏崎先生
陰嚢にメスを入れるのは怖くなかったですか?
ダイアモンド☆ユカイさん
それはもう恐ろしかったですね。麻酔があるとはいえ、針をさすのが怖かったです。
柏崎先生
奥様の反応はどうでした?
ダイアモンド☆ユカイさん
妻は割と普通でした。女性って男性よりも強いですよね。男性の方がビビりなんだと感じました。
柏崎先生
実際はそこまで痛くなかったですよね?
ダイアモンド☆ユカイさん
はい。針を刺す瞬間だけは恐怖でしたが……終わってみれば、外科手術の軽いバージョンのような感じで術後すぐに帰宅できました。
柏崎先生
精子は凍結しましたか?
ダイアモンド☆ユカイさん
はい。そこから顕微受精に進みました。
柏崎先生
奥様は卵子を採取されたのですよね?
ダイアモンド☆ユカイさん
そうです。妻の不妊治療の方が大変そうでした。
柏崎先生
採卵も排卵誘発剤の注射も大変だったと思います。当時は注射のために毎日通院しなければいけなかったので、さらに大変だったのではないでしょうか。不妊治療中は男性に原因がある場合だとご主人が引け目を感じてしまったり、奥様の方が不満を募らせたりと色々なご夫婦がいらっしゃいますが、その辺りはどうでしたか?
ダイアモンド☆ユカイさん
妻は何も言わなかったのですが、こっちは自分のせいで子どもを授かることができない引け目がありました。妻は健康体なのにと。治療も思い通りには進みませんでした。顕微受精してもすぐに授かるわけではないですよね。
柏崎先生
その通りです。顕微受精は夢の治療と思われているところもあるのですが、実際に妊娠する確率は約3割と言われています。
ダイアモンド☆ユカイさん
私たちも何回か着床に失敗しました。女性は受精卵を自分のお腹に戻した時点で母性が芽生えるようで、ダメだったと聞いた時の妻はものすごいショックを受けていましたね。さらに当時は助成金もなくお金がかかりましたし、仕事をしながらでしたので精神的にもつらく、肉体的にも大変でした。それで着床しなかったら、すべてが水の泡になるわけです。
柏崎先生
出口の見えないトンネルとよく言われますよね。
ダイアモンド☆ユカイさん
わかります。人生がもう不妊治療のために生きているような感覚でした。頭の中が不妊治療一色になっていました。あの経験は忘れられないですね。経済的にも、なんだかんだで100万円くらいかかったと思います。
柏崎先生
そうですね。今は男性不妊の治療にも保険が適用されるようになり、経済的負担も若干減ったとは思いますが、それでも100万円の3割負担だと30万円ですからね。決して安い金額ではありません。ユカイさんはどのくらいの期間治療をしていたのですか?
ダイアモンド☆ユカイさん
不妊治療は2年くらいでしたが、体感としては10年くらいの感覚です。実は一度、諦めようとしました。夫婦がギクシャクし、なんでもないことでも喧嘩するようになって、離婚の話も出るようになってしまって……。それで諦めました。「授からなくても、縁があって一緒になった夫婦だし、人生を楽しもうよ」と2人で旅行をしたり映画を見に行ったりして楽しんでいました。ところがある日、妻の方から「あと1回だけ頑張りたい。悔いを残したくない」と言われ、自分はすでに諦めていたのですが、旅行がてら……と軽い気持ちで不妊治療の第一人者である北九州の先生の所にセカンドピニオンで行ったら授かりました。
柏崎先生
そういうのが良かったのかも知れませんね。治療を休むことで精神的に落ち着いて、良い結果につながることがあると言われています。
ダイアモンド☆ユカイさん
病院を変えるのも良いと言いますよね。
柏崎先生
そうですね。医学的な根拠はありませんが、それで子どもを授かる方も多いようです。ユカイさんは妊娠したとわかった時や子どもを初めて抱いた時、どんなお気持ちでしたか?
ダイアモンド☆ユカイさん
まさか自分がパパになるなんて想像もしていなかったので、妊娠を告げられた時は、じわじわとこれで自分も父親になるんだという喜びの気持ちでいっぱいになりました。不妊治療を経験したことで乗り越えられたこともあると思いますが、すごく感慨深かったですね。子どもには、親にしてくれてありがとうという気持ちに尽きますね。
柏崎先生
不妊治療の相談で来院される方のほとんどが女性だけですが、不妊の約半数は男性が原因です。女性だけでなくパートナーも早めの検査を心掛けてほしいと思います。まずは検査で自分を知ること、そこからの手段はたくさんありますので、決して諦めないでください。
ダイアモンド☆ユカイさん
働く女性が増えて、素晴らしい才能のある女性たちが社会で活躍できる時代になりました。
女性たちが大学を出て仕事をして、1人前になるのがだいたい30歳なのだそうです。東京都における初婚の平均年齢もそのくらいです。そして、個人差はありますが、35歳を過ぎると妊娠率がグッと下がると言われています。仮にパートナーが私と同じように男性不妊だった場合、何も知らずにいると5年はあっという間に過ぎ、取り戻すことはできません。私は男女問わず、男性不妊について知っていただきたいと思っています。男性不妊の検査は簡単にできます。人生、悔いのないように!
編集後記
ご自身の検査結果を聞いた時や治療がうまくいかなかった時、ユカイさんも何度か諦めようと思ったそうですが、諦めなかったからこそ今があるのだと思います。妊娠・出産には、残念ながらタイムリミットがあります。現在は保険が適用される治療も増えてきているので、気になる方や不安がありながらも行動できずにいる方は、先延ばしにせず、まずは検査で自分を知ってみてはいかがでしょうか。