「心の健康」が身体的機能の低下に影響する? フレイル予防とメンタルヘルスの関係とは
40〜50代で心の健康が保たれている人は、加齢に伴い生じる心身の虚弱状態である「フレイル」のリスクが低下するようです。日々の満足度を高めて、快活に過ごすことは、認知機能と身体機能の両方の維持に効果的である可能性が報告されています。いったい、心とフレイルにどのような関係があるのでしょうか。セルフチェックの方法や心の健康維持の方法について、鹿児島大学特任研究員で作業療法士の赤井田将真さんに詳しく解説していただきました。
著者:
赤井田 将真(鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻 特任研究員)
共著者:
牧迫 飛雄馬(理学療法士)
精神・心理的フレイルについて知る
編集部
精神・心理的フレイルという言葉がありますが、どのような意味なのでしょうか?
赤井田さん
様々な概念がありますが、「加齢による身体的な衰えに併存する精神的な落ち込み」という意味があります。歳を重ねてから、「今の生活に不満がある」「仕事を辞めてから閉じこもるようになってきた」「身なりを整えるのが億劫である」など、日常生活において精神的な活動性が低くなってきている状況は精神・心理的フレイルといわれる状況にあるかもしれません。
編集部
心の健康とフレイルの関係について教えてください。
赤井田さん
フレイルは病気ではないですが、加齢に伴い筋力や心身の活力が低下している状態のことを指します。フレイルの背景には様々な要素がありますが、そのうちの心の健康は非常に重要な要素です。例えば、抑うつ症状は「気持ちが落ち込んでいて何もしたくない」「色々と考えることが億劫である」などの精神的な活動性の低さが持続的に続いている状態のことをいいます。精神的な活動性が低くなると、身体的にも認知的にも活動性が低くなり、フレイルに繋がる可能性があります。ただし、精神と身体と認知の健康は、それぞれが複雑に絡み合って成り立つものであり、どれかひとつでも活動性が低くなると、フレイルのリスクが高まると考えられています。
編集部
精神・心理的フレイルの発症要因について教えてください。
赤井田さん
多くの要因が考えられますが、「人との関わりが少なくなること」がひとつとして挙げられます。高齢期に入ると様々な喪失を経験するといわれています。そのひとつに社会的な役割の喪失というものがあります。これまでは仕事に家庭に様々な役割をもって生活していた人が仕事を辞め、子どもが独立し何も社会から求められていることがないと感じて、閉じこもりになってしまうことがあります。このような状況が続くと精神的な活発さがみられなくなり、精神・心理的フレイルの発症に繋がるリスクがあります。
心の健康を維持するとフレイルも予防できる?
編集部
40代や50代の心の健康もフレイルの発症リスクを高める可能性はあるのでしょうか?
赤井田さん
40代や50代(中年期)の好ましくない心の健康状況は、フレイルの発症リスクを高める可能性があると考えられます。中年期に心の健康が保たれている人は、心の健康が保たれていない人に比べ、活動的な生活を送っている可能性があり、身体的・認知的にも良好状態であると推察されます。中年期に心の健康を維持し、活動的な生活を送ることで、機能的に衰えが少ない状態で60代を迎えることが出来ます。このことは、将来的なフレイルの発症予防に効果的であると考えられます。
編集部
自分の心の健康をチェックする簡単な方法はありますか?
赤井田さん
①毎日の生活に満足していない
②毎日が退屈だと思うことが多い
③自分が無力だと思うことが多い
④外出したり何か新しいことをしたりするよりも家にいたいと思う
⑤生きていても仕方がないと思うことがある
編集部
心の健康を維持することでフレイル予防にはどのような効果があるのでしょうか?
赤井田さん
心の健康を維持することは、脳の働きを活性化させ、日々を快活に過ごすことにもつながります。心の健康が損なわれている状態だと脳の働きが鈍くなり、脳の記憶を司る部位(海馬)が小さくなって認知機能が低下するリスクがあるといわれています。そうすると、フレイル予防に効果的な運動やコミュニケーション、社会的な関わりなどに取り組む意欲が低下してしまうことも考えられます。心の健康を維持することで日常的な活動性が維持され、フレイルに保護的に働くことが期待されます。
心の健康を維持する方法とは
編集部
心の健康を維持するためにはどのような方法がありますか?
赤井田さん
心の健康を維持するためには、自分自身が興味のある活動や価値を感じる活動に積極的に取り組み、満足度を高めることが重要であるといわれています。具体的には温泉に入ることや本を読むこと、運動をすること、友達と食事をすること、料理をすることなどが挙げられます。自分自身が興味のある活動への取り組みを継続することが心の健康を維持するために重要な取り組みのひとつだと考えられます。
編集部
運動とメンタルヘルスの関係について教えてください。
赤井田さん
運動をすることで、ストレスを軽減するためのホルモン(セロトニン)が分泌され、心の健康を保ってくれます。また、適度な運動は全身の血流の改善にもつながり、からだの気だるい感じの解消や、頭がすっきりする効果が期待できます。運動をすることによる疲労感はより良い睡眠に繋がり、心の健康を保つうえでも重要な要素となっています。
編集部
その他、心の健康を維持するにあたってアドバイスはありますか?
赤井田さん
まずは、自身の体調について目を向けることが重要になってきます。疲れやすい、身近な人に心配されるような声掛け、体重の変化、飲酒が増えているなど、自分ではまだまだ大丈夫と思っていても心の健康が損なわれている場合は多くあります。自身の体調や心に向き合って、些細な不調がみられた時は、自身の生活を振り返り、まずは運動や自分の興味のあることに打ち込む、適切な休憩をとるなど生活習慣を整えることが大切です。また、不調を感じた時は、然るべき人や病院などに相談にいくことも心の健康を維持するうえでは重要です。
編集部まとめ
自身の心の健康に目を向ける機会は多くないでしょう。しかし、身体の健康と同様に心の健康は大変重要であるとのことでした。心の健康を維持することは脳を活性化させ、日々を快活に過ごすことに繋がります。ひいては、身体的・認知的フレイルの予防にも有効であると教えていただきました。読者の皆様もまずは、自身の体調に目を向けセルフチェックしてみてはいかがでしょうか。